明日香が出て行ってから、1週間が経過しようとしていた。翔は結局明日香の件で何となく朱莉に連絡を入れにくくなってしまい、時間だけが過ぎ去ってしまった。 金曜21時―― 駐車場から降りて自宅へ戻るエレベーターの中で翔は思った。(明日は土曜日。朱莉さんはお母さんの面会に行きたいかもしれないな。この件をきっかけにまた以前のように話が出来るようになれれば……。直接会って話がしたいから、まずは電話を掛けてみるか)エレベーターの中でスマホを取り出し、電話を掛けようとしところ、男性が乗り込んできた。そこでスマホを上着のポケットにしまうと、突然男が声をかけてきた。「電話、掛けないのですか?」「え?」背後から声を掛けられ、驚いて振り向くと同年代とみられる若い男が立っている。(まあ……同じ億ションの住人だから見たことはあるかもしれないな。だがそれにしてはいきなり失礼じゃないか?)「あの……?」翔がいぶかしんで男を見た。「こんばんは。随分お久しぶりですね?」「え……?」翔は首を傾げながらその男を良く見た。(待てよ……この男、どこかで見たことがあるな……?)「僕のこと、お忘れですか? 京極ですよ。京極正人です」「京極……正人……?」翔はその名を口にし、ようやく目の前の男が何者か思い出した。「やっと思い出したようですね? 朱莉さんの飼い犬を引き取った京極ですよ。折角家族になった可愛らしい愛犬をあなた方2人に振り回されて、手放さなければならなくなってしまった可愛そうな朱莉さんを僕が救ってあげたんですよ」皮肉交じりな話し方で京極は翔を睨み付けた。「な……!」(一体何だって言うんだ? この男は……。初めて会った時から敵意のある目で俺を見て、そのくせ妙に朱莉さんには馴れ馴れしい態度を取っていたな……)その時、翔が住んでいる階でエレベーターのドアが開いた。「この階で降りるので……失礼します」翔が降りようとした時、京極が声をかけてくる。「何故この階で降りるのですか?」「え?」「朱莉さんが住んでいるのはこの上の階ですよね……」いつの間にか京極はエレベーターの開閉延長ボタンを押していた。「この階には一体何の用があるんですか?」京極の話し方は穏やかだったが、翔にとってその物言いは背筋が一瞬寒くなるような底知れぬ恐ろしさを感じた。(な、何なんだ?
Terakhir Diperbarui : 2025-05-13 Baca selengkapnya