All Chapters of 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Chapter 471 - Chapter 478

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6-15 引っ越す理由 1

 翌日――オフィスで昼食を食べながら翔は不動産のHPを見ていた。目的は新しい住まいを探す為である。(やっぱり会社から近い物件がいいな……。朱莉さんや蓮の為に、セキュリティもしっかりしていないと……)翔が見ているのは六本木周辺のマンションである。希望の部屋の間取りは2LDK〜3LDK。明日香が戻って来ない今となっては、はっきり言ってしまえばあの億ションに住む意味は無くなってしまった。元々は明日香の強い希望で今の場所に住んでいたのだが、1人で住んでいる翔に取ってはあまりにも広すぎて無用の長物となっていた。何より朱莉自身が贅沢を好まない。実際朱莉が使用していない部屋は2つもあるのだ。(それに、あそこには京極も住んでいる。朱莉さんを守る為にも、引っ越しをしなければ……)そこで改めて翔は思った。朱莉に引っ越しを提言された時、話を聞いて希望を受け入れてあげるべきだった。そうしていればこのような事態にはなっていなかったかもしれない。「俺は……本当に何て自分勝手な男だったんだ……」今更ながら激しい後悔が込み上げ、思わず翔はポツリと呟いた。そこへ昼食を終わらせた姫宮がオフィスに戻ってきた。「ただいま戻りました」「ああ、お帰り。姫宮さん」翔はPCから顔を上げると姫宮を見た。「翔さん、お食事には行かれなかったのですか?」「うん。少し調べたいことがあってね」「調べたいこと……ですか?」「実は引っ越しを考えているんだ」「引っ越しですか?」姫宮は首を傾げた。「昨日朱莉さん宛てに明日香からもうすぐ出版される絵本が届いたんだ。それと一緒に手紙も添えられていて……俺とはもう修復は不可能だと書いてあったんだよ」自嘲気味に翔は言った。「まあ……」眉を顰める姫宮。「おまけに今は長野で恋人と暮しているそうだ。つまり、明日香と俺はもう終わったってことさ」「それで引っ越しを考えておられるのですか? 朱莉さんと蓮君の3人で?」「ああ。元々今住んでいる億ションは明日香の希望だったんだ。でも俺としてはあんなに沢山の設備が完備している必要は無いと思っていた」「そうですね。確かに今お住いの物件はかなり設備が整っていますね。フィットネスジムやスパ、サウナや図書室……それにラウンジバー迄ありますし」「それだよ、もう引っ越しして2年が過ぎたのにまだ一度も使ったことが無いん
last updateLast Updated : 2025-05-23
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6-16 引っ越す理由 2

——昨夜のこと。「朱莉さん……引っ越しをしないか?」「え……?」朱莉は突然の申し出に目を見開いた。「ど、どうしたんですか? 突然引っ越しだなんて」「い、いや。朱莉さんも一時引っ越しを考えた事があるだろう? 蓮が生まれて沖縄から東京へ戻って来る時に京極のことを考えて……」「ええ、そうでしたね」「あの時は本当にごめん」「翔さん、もういいですよ」朱莉は優しい声で言った。「それで……今更かもしれないけど朱莉さん。ここを出よう。別の物件を探して、そこで暮そう。京極だってこの億ションにいるんだ。……あいつから離れるにはまずは引っ越しをした方がいい。怖いだろう?京極が」「……」朱莉は黙って頷いた。「で、でも……いきなり引っ越しなんて……」「もともとこの億ションは明日香が気に入って決めたんだよ。だけどもう明日香がここに戻って来ないなら住み続ける意味も無いし」「確かにそうですね。私にとってもここは贅沢過ぎる場所だと思っていました。私には不釣り合いだとずっと感じていたんです」「本当かい? それじゃ早速マンションを探そう」「同じマンションで隣同士が空いているといいですね」「え?」朱莉の言葉に翔は固まった。「翔さん? どうかしましたか?」「あ……い、いや。そうだね。部屋は隣同士か、上下の方が確かにいいね」「私の部屋の間取りは1LDKで大丈夫ですよ。蓮君と2人だけですから」「蓮と2人……」翔は小さく呟いた。その言葉で、朱莉は自分と一緒に暮らす意思は全く無いのだということが十分すぎるくらい伝わってしまった。(やはり朱莉さんは俺のことを蓮の父親としてしかみていないのか……。俺と家族になるのを考えてもいないってことなんだろうな……)空しさを覚えながら、翔は朱莉を見た。「朱莉さんはこの契約婚が終わった後は……どうするつもりなんだい?」「え……?」朱莉は改めて翔を見上げた。今迄一度も翔からそのような質問をされた事が無かったので、戸惑ってしまった。「朱莉さん。答えてくれ」真剣な瞳で朱莉を見つめる翔。「え……と……そうですね。翔さんから頂いたお金で2LDKのマンションを買おうかと思っています。母も体調が回復すればいずれ一緒に暮らせるかもしれませし」「そうか、そうだったね。お母さんが元気になれば当然朱莉さんと緒に暮らすことになるしね」言い
last updateLast Updated : 2025-05-23
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6-9 彼女の事情

 広尾にある筑3年の1LDKでロフト付きのお洒落なデザイナーズマンション、ここが姫宮が住んでいるマンションだった——シンプルだけど、豪華な家具が置かれた室内に姫宮の話し声が聞こえている。「ええ。そうなのよ。それじゃ、お願いね。うん、また一緒に飲みに行きましょう。じゃあね」姫宮は電話を切ると時計を見た。時刻は21時を回っている。「ふう……」溜息をつくとキッチンへ向かい、冷蔵庫から缶ビールを取り出すとPCの前の椅子に座った。プルタブを開けてクイッと飲むと、キーを叩いて検索を始める。「ここなんかどうかしら……六本木駅から徒歩5分……。隣同士か上下の階で空き部屋が無いかしら……」明日香は翔と朱莉の為の新居を探していた。「でも……真奈美に任せておけば安心よね」真奈美という人物は、先程まで姫宮が電話で話をしていた相手である。学生時代からの友人で不動産会社に勤務している。今姫宮が住んでいるこの部屋も彼女が自ら物件を探して紹介してくれたマンションである。 PCの画面を切り替えて、映画配信サービスに繋ぐと姫宮はビールを飲みながら映画鑑賞を始めた。兄の京極正人の住む億ションへは滅多なことでは行かないようにしていた。何故ならそこには翔も朱莉も住んでいるからだ。だから京極を訪ねるときは常に最新の注意を払っていた。「朱莉さん達が引っ越しをしてくれるのは願ったり叶ったりだわ……。でも絶対に正人には引っ越し先が知られないように注意しなくちゃ。朱莉さん達が引っ越しする日、正人にはどこかに行って貰おうかしら」姫宮は今回の引っ越しは京極には内緒にしておくつもりだった。最近の京極は過激になってきている。大胆になり、時には犯罪の一歩手前では無いだろうかと思われる行動に及んでいる。それが姫宮は気が気ではなかったのだ。仮にそんな真似をして京極に知れたらただでは済まないことは十分姫宮には分かっていた。けれど、姫宮はどうしても京極の言う事を聞かなければならない理由があった。それは子供の頃に自分だけが姫宮家に引き取られた理由だけでは無い。姫宮が大学3年の時に、義理の父は受け継いだ会社の経営を失敗し、巨額な負債を作ってしまい倒産寸前まで追い込まれてしまった。その危機を救ったのが京極だったのだ。その頃京極は起業した経営も軌道に乗っており、さらにデイトレーダーで巨万の富を築いていた。そこ
last updateLast Updated : 2025-05-24
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6-18 彼女の事情 2

「おはようございます。翔さん」姫宮は仕事の手を休めて出勤してきた翔に挨拶をした。「ああ、おはよう。姫宮さん」翔はコートを脱ぐと、ハンガーにかけ、早速デスクに向かうと姫宮はコーヒーを淹れて翔のデスクに置いた。「ありがとう」翔はコーヒーを口にした。「ん? 今朝のコーヒーはいつもとは違う気がするな?」「やはりお気づきになりましたか? こちらはマンデリンとブラジルのブレンドなんです。香りが通常より濃いそうですよ。如何でしょうか?」「うん、美味いよ」翔は満足げに頷く。「あの、翔さん。知り合いからとても良い物件の紹介が入ってきました。目を通していただけますか?」「本当かい? それは助かるな」翔は笑顔になった。「では今から翔さんのアドレスに物件の案内と画像を送らせていただきますね。HPのURLも併せて送信します」「ああ、ありがとう」ほどなくして翔のメールアドレスに姫宮からメッセージが入って来たので翔は早速中身を開いた。そのマンションは六本木駅から徒歩5分圏内にあるマンションであった。間取りは2LDKだが、可動式間仕切りが付いているので使い方によっては3LDKにする事も可能になっている。リビングダイニングキッチンの広さは15畳で、その他の2部屋はそれぞれ8畳間と10畳間になっている。そして都合の良いことに隣の部屋の物件は1LDKとなっている。「うん。なかなかいいかもしれないな」翔は満足して頷く。「それでは早速内覧に行かれた方がよろしいかと思います」「ああ、そうだね。丁度明日は土曜日だから朱莉さんと蓮の3人で行ってことことにするよ」「では私から連絡を入れておきますね」そして姫宮は真奈美にメッセージを送った。****11:50—— その頃朱莉は蓮に明日香が送って来た絵本を見せていた。この絵本は文字がかなり多く、大人向けの絵本のようにも思えた。はっきり言えば蓮にはまだ早すぎる絵本ではあったが、明日香の描いた美しいイラストを眺めるだけでも十分だった。朱莉は蓮にイラスを見せながら話しかけた。「ほら、レンちゃん。この絵はね、レンちゃんのママが描いたイラストなのよ? とても素敵でしょう?」ページいっぱいに広がるイラスト。満月の空に無数の星が描かれており、それは朱莉がモルディブで見た星空のように美しかった。朱莉は自分の膝の上に乗っている蓮を
last updateLast Updated : 2025-05-24
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6-19 即決 1

 翌朝――翔と朱莉は姫宮に紹介された不動産会社の応接室に来ていた。「翔さん、ここは応接室ですよね? 何故私たちはこの部屋に呼ばれたのでしょうか?」朱莉が蓮を抱きながら翔に尋ねた。「う~ん……姫宮さんの紹介だからかな……?」翔も訳が分からず首を捻る。するとドアをノックする音が聞こえて、50代くらいの男性社員と共に、女性社員が現れた。「失礼いたします。鳴海様、本日はお越しいただきまして誠にありがとうございます。私はここの支店長の早川と申します。そしてこちらが本日物件を紹介させて頂きます遠藤です」支店長の早川は丁寧に挨拶をしてきた。「姫宮の紹介に預かりました遠藤と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」遠藤は丁寧に頭を下げた。「こちらこそよろしくお願いいたします」翔も挨拶を返し、朱莉と2人で頭を下げた。(上玉のお客だから、絶対に逃さないようにしなくちゃ。それにしても……)遠藤は朱莉と翔をチラリと見た。(この夫婦……本当に美形カップルね。羨ましいわ。赤ちゃんも可愛いじゃないの)「それで先にご案内させていただきましたが、御覧になった物件はいかがだったでしょうか?」早川の問いに翔は答えた。「ええ、とても良い物件だと思いました。それで早速ですが内覧をさせていただけるのですよね?」「はい、勿論でございます。すぐにご案内させていただきます」そして翔と朱莉は遠藤の運転する車に乗った――六本木駅から徒歩5分。今翔と朱莉が済んでいる億ションとは駅を挟んで反対側にあるそのマンションは現在の住まいよりは多少グレードが落ちるものの、申し分のないマンションだった。コンシェルジュ付きでセキュリティは問題ない。何より翔が魅力的に感じたのは保育所がある点だった。24時間体制で、子供を預かってくれるので安心できる。部屋の作りは全室に広い造りつけの収納スペースがあり、空調も完備されているし、キッチンは最新型の食洗器とガスオーブンが備え付けられており、朱莉は興味深げに眺めていた。そして約1時間後――内覧を終了し、不動産会社に戻って来ると遠藤が翔と朱莉に尋ねてきた。「いかがだったでしょうか? お気に召されましたか?」「はい、そうですね。1Fに保育所があるところが特に気に入りました。入居者は誰もが利用できるのはいいですね」翔は返事をした。「マンション
last updateLast Updated : 2025-05-24
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6-20 即決 1

遠藤は昼休みに入ると、早速姫宮に電話を掛けた。「もしもし、静香?」『真奈美、どうしたの? 今日は仕事でしょう?』「うん、そうなんだけど……ねえねえ、聞いて! 静香が紹介してくれた鳴海社長、早速契約を交わしてくれたのよ!」『ええ!? 本当に? もう決めたの!?』「うん。即決よ! やっぱり流石鳴海グループの副社長よね。一応あの物件はマンションとして売り出しているけど、部屋のグレードによっては億を超えるからね?」『そうね。今住んでいる部屋も億ションだから』「でも不思議よね? 何故2部屋なのかしら? 1LDKの部屋は賃貸だし……」2人の事情を何も知らない真奈美は不思議でならなかった。『そうね。私も実はその辺りの事情は分からなくて』秘密を漏らすわけにはいかないので姫宮は知らないふりをした。「そうよね、いくら秘書でもそこまでプライベートな事は分からないものね。でも、そのおかげでこちらとしては助かったわ。だって億ションが売れて、さらに月の家賃が65万円の賃貸契約を結んでもらえたんだもの~。ほんと、静香には感謝するわ。今度何か食事奢らせて?」『そうね~ならフランス料理を奢って貰おうかしら?』姫宮が冗談めかして言う。「ええ~っ! いやだあ! せめてイタリアンで勘弁してよ」真奈美があからさまに嫌がる素振りを電話越しに聞いて姫宮はクスクスと笑った。『フフ、冗談よ。でもイタリアンね? 約束よ?』「うん、まかせて! 何所かいいお店探しておくからね」『ところで、引っ越しはいつ頃になるの?』「引っ越し日ね? 4月の24日に決まったわ。」『4月24日……』「え? 何? どうかしたの?」『ううん、何でも無いの。引っ越しまで1カ月先なのかって思っただけよ』「そうなの。もう今日すべての手続きを終わらせてくれたわ。前金も来週の月曜日に振り込んでくれるって。大口のマンションが決まって本当に良かったわ。これでまた出世に近付いたわ」フッフッフッと嬉しそうに笑う真奈美。『ねえ、出世もいいけど、結婚とかは考えないの?』「そうね~。私達ももう30歳だものね。て言うか、そういう静香こそどうなのよ? 今付き合っている人とかはいないの?」『ええ、いないわ。でも気になって目が離せない人はいるけどね』姫宮は朱莉のことを思い浮かべた。「ええ!? いつの間にそんな相手がい
last updateLast Updated : 2025-05-24
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6-21 温泉施設での2人の会話 1

 翌日の日曜日―— 翔は二階堂に誘われて都内の大型温泉施設に来ていた。横になって2人並んで岩盤浴で汗を流していると、二階堂が話しかけてきた。「悪かったな。折角の日曜日なのに呼び出してしまって」「いえ、いいんですよ。特に予定はありませんでしたから」タオルで汗を拭う翔。「何言ってるんだ。土日は朱莉さんとお前の子供と3人で過ごしているんだろう?」顔の上半分にタオルを乗せた二階堂が口元に笑みを浮かべた。「いえ……生憎それは無いですね。残念なことに」「何故だ? 土日位は3人で一緒に過ごそうと朱莉さんに声をかければいいじゃないか?」「それが出来れば苦労はしませんよ」翔は苦笑した。「……分からないな。何をそんなに気を使っているのか。書類上とはいえ、お前と朱莉さんは夫婦なんだろう? それに朱莉さんに気があるなら尚更声をかければいいのに」「ええ。だからこそ余計に声をかけることが出来ないんです」「どういう意味だ?」「いずれ本当の家族になりたいから警戒されたくないんですよ。もっと朱莉さんの信頼を得て、朱莉さんも俺と家族になってもいいと思う感情が湧いてこない限り無理ですよ」「ふ〜ん。余程朱莉さんのことを大切に思っているんだな?」二階堂は身体を起こした。「先輩、何処へ行くんですか?」翔はいきなり立ち上った二階堂に声をかけた。「少し露天風呂に入って来る。鳴海、お前はどうする?」「俺はもう少しここにいますよ」「そうか、なら時間を決めて待ち合わせをしよう。11時半にカウンター前に集合だ」「はい、分かりました」「じゃあまた後でな」二階堂は岩盤浴場を出て行った。1人残された翔は、今朝出掛ける前の出来事を思い返していた——**** 今から数時間前の午前8時― 翔は朱莉に電話で話をしていた。「朱莉さん。今日は何か予定はあるのかい?」『今日の予定ですか? そうですね。食料品の買い物もありませんし、ミルクやオムツも十分揃っているのでとくには無いですね。でも日差しが今日は暖かいのでレンちゃんを連れてお散歩に出も行ってみようかと思っています。今日は、母から面会も大丈夫と言われているので』「あ、ああ。そうなのかい」(朱莉さん……俺の予定は聞いてこないんだな。やはり俺には興味が無いってことか)思わず小さくため息をつくと、朱莉に聞かれてしまったのか、尋ね
last updateLast Updated : 2025-05-24
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6-22 温泉施設での2人の会話 2

合流した二階堂と翔は、温泉施設のレストランに来ていた。「ほら、鳴海。お前も車で来ていないんだから、酒飲めよ」お風呂上がりで赤ら顔の二階堂がテーブルに置かれたメニューを注文するタッチパネルを翔に手渡した。「分かりました。先輩は何を注文するんですか?」「俺か? それは当然ビールだろう?」「そうですね。なら俺もビールにします」「ついでに何か適当に料理も頼んでくれ」「ええ!? 俺が勝手に注文してもいいんですか?」翔の言葉に二階堂は少し考え……。「ああ、任せるよ。でも……そうだな。それじゃ取りあえず、だし巻き卵に鶏のから揚げ、ホッケの塩焼きにシーザーサラダ、焼きおにぎりに串揚げの盛り合わせを頼んで貰うかな」「……先輩」翔は二階堂を見た。「うん? 何だ?」「それだけ注文すれば十分ですよね? もうこれで頼むの終わりにしますよ?」「え? それで終わりにするのか? なら焼き鳥の盛り合わせと広島焼きを追加してくれ」「……」翔は思わず唖然として二階堂を見た。「どうした? 鳴海?」「い、いえ。昔から女性に大人気の先輩が何故未だに独身なのか分かりましたよ」「おい、何だ未だにって? 俺はまだ30歳だぞ?」「ええ、でもその調子では40を過ぎても独身になりそうですね。先輩の胃袋を満たせそうな女性は中々見つからないと思いますよ?」すると二階堂が冗談めかして言った。「なーに。それならいざとなったらお前の契約婚が切れて、朱莉さんに捨てられたらお前の所に転がり込んで食事の世話になるさ」「先輩……今のは冗談にしては質が悪いですよ……?」翔は恨めしそうな目で二階堂を見るのだった—— やがて料理とビールがテーブルに届き、2人は会話をしながら食事をしていた。「あ、そうだ。先輩、言い忘れていましたが、来月引っ越しすることにしたんですよ」「何? 引っ越し? それはまた随分突然の話だな?」二階堂はビールを飲みながら翔を見た。「ええ、やはり京極のことがありますからね。朱莉さんの為にも引っ越しすることにしたんです」「そうか、自分で物件を探したのか?」二階堂はさり気なく尋ねた。「いえ、違います。秘書の姫宮さんに頼みました。彼女の知合いの不動産会社に勤めている女性に頼んで探して貰ったそうですよ」「何!? お前……秘書に引っ越し先を探して貰ったのか!?」突然二
last updateLast Updated : 2025-05-24
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