All Chapters of 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Chapter 481 - Chapter 490

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6-25 集まった3人 1

 水曜日午前11時半―― 3人は赤坂にある和風料亭『江戸』に来ていた。二階堂の向かい側の席には翔、そしてその隣には姫宮が座っている。テーブルには豪華な懐石料理が並んでいた。「「「……」」」3人は無言で座っていたが、痺れを切らした翔が尋ねた。「どういうことですか? 二階堂社長?」「どういうこととは?」二階堂は落ち着き払った声で答える。「何故そちらは秘書の方が同席していないのですか? しかも料理も3人前しかありあせんけど?」二階堂の隣の空席に目をやる翔。「ああ、実は私の秘書の向井君だが、突然お子さんが風邪を引いてしまって今日は出社することが出来なくなってしまったんだよ。そういう訳ですまないが今日の昼食会は3人でやろう。さて、それでは料理が冷めないうちに皆で食べましょう」言いながら二階堂は早速エビの天ぷらに箸を伸ばし、口に入れた。「うん、美味い! この衣のサクサク感がいい」二階堂が美味しそうに食べている姿を見て姫宮もシイタケの天ぷらに箸を伸ばして口に入れる。「確かにとても美味しい天ぷらですね」翔も2人にならってレンコンの天ぷらを食べてみた。(うん。確かに衣の歯ごたえがいい……そうだ、今度朱莉さんに天ぷら料理を振舞ってみるか……)「ところで先程お話されていた、向井さんと言う方は女性なのですか?」料理を食べながら姫宮が二階堂に尋ねた。「ええそうですよ。7歳になる女の子のお母さんですよ」「まあ。小学生のお母さんだったのですか。子育て中の忙しい中でも秘書という仕事をされている方なのですね。素晴らしい」「ええ、我が社はまだ設立して間もない若い会社ですが既婚女性も多く働いています。フレックスタイム制も導入していますし、希望があれば在宅ワークも出来ます。既に女性社員の何割かは在宅勤務をしていますよ。勿論男性も在宅勤務を希望すればいつでも切り替え出来るようにしてあります」(成程……うちの会社ももっと在宅勤務を奨励するべきかもしれないな)翔は二階堂の手腕に心の中で頷いた。「既婚者で子供のいる女性が社会で活躍できるのは素晴らしいですね」姫宮の言葉に二階堂は尋ねた。「もしかして、姫宮さんは結婚しても仕事を続けたいと思っているんですか?」「ええ、そうですね。仕事は好きですから。あ、でもだからと言って家事の手抜きは考えてはいません。仕事と家庭の
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-26 集まった3人 2

「は? 今……何て言ったんですか?」料亭の中庭で翔は二階堂に詰め寄っていた。「何だ? 聞こえなかったのか? お前、部屋に戻ったらすぐに帰れって言ってんだよ」二階堂は壁に寄りかかりながら翔を見た。「ふざけないで下さいよ! まだ料理だって半分は口を付けていないし、大体何て言い訳して帰るんですか! て言うか何故帰らなくてはいけないんです?」「そんなの決まってるだろう? お前の秘書に直接問い詰めるからだよ。京極との関係を。お前がいる前でそんな話出来るはずが無いだろう?」「まさか……いきなり今日聞くつもりだったんですか?」「ああ、そうだ。何せお前達の引っ越し迄後一月しかないからな」「それと何か関係があるんですか?」「あるかもしれないし……無いかもしれない」「何ですか、それ……」翔は頭を押さえた。「とにかくあまり遅くなるとお前の秘書に疑われるだろう? 帰る理由適当に考えろよ」二階堂の無茶ぶりに翔は反論した。「いきなりそんな無茶言わないで下さいよ。理由なんか考え付きません!」「そうか……なら朱莉さんが高熱を出したとか適当に理由考えろ、きっとそれを伝えれば了承するだろう? 俺を信じろ。な?」二階堂は翔の肩をバンバン叩いた。「わ、分かりましたよ……ダメもとで言ってみますよ」果たしてその結果は――「ええっ!? 朱莉さんが高熱を出したのですか!?」姫宮は驚いて翔を見た。「あ、ああ。さっき外にいたら突然メッセージが入ってきて……だから今日は……」「ええ、すぐに朱莉さんの元へ行ってあげてください。高熱なんて赤ちゃんがいるのに大変でしょうから。幸い、本日は会議等はありませんので後の事はお任せください。頼まれていた資料は作成して副社長のアドレスにファイルを添付して送らせていただきますので」そんな姫宮を見ながら二階堂は思った。(ふ〜ん。やはりな……。この間の式典で朱莉さんと姫宮さんのやり取りを見ていてまさかとは思っていたが、ここまで献身的に朱莉さんのことを思っているとはな。やはり姫宮さんと朱莉さんの間には何かある。それが分かればおのずと京極との関係も明らかになりそうだ)「それでは、2人供……申し訳ないけれどもお先に帰らせて貰います」荷物を持って、上着を着ると翔は2人に声をかけた。「ええ、朱莉さんによろしく伝えて下さい」「お大事にと伝えてあげ
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-27 二階堂の追求 1

「え? これは小型カメラ……?」姫宮は二階堂が突然出してきた小型カメラを見て戸惑った。何故、自分にこのような物を見せてくるのか理解が追い付かなかった。「あの……この小型カメラがどうかしたのですか?」何のことか分からず、二階堂に尋ねた。「え?」姫宮の反応に戸惑う二階堂。(何だ? この反応は……もしかして本当に何も知らないのか? それなら……)小型カメラを見せても姫宮の様子に何も変化が見られないので、二階堂はさらに話を続けた。「この小型カメラ……何処で見つけたと思う?」「さあ? いきなりそのような質問をされても私には何のことなのかさっぱり分かりませんが?」その姿に二階堂は思案した。(どうやらわざととぼけているような感じでは無いな。なら……仕方が無い)「実はこの小型カメラは鳴海社長の住む億ションで見つけたのさ。エントランスが良く見える場所に功名に隠してあったよ。水やりが殆ど必要無い観葉植物にね」「……」姫宮は黙って聞いている。「この日は丁度ひな祭りの日でね、初めて鳴海の家にお邪魔したんだ。駅までの迎えは朱莉さんが来てくれたよ」姫宮は朱莉の名前が出るとピクリと反応した。その様子を二階堂は満足げに見ると再び続けた。「そしてエントランスにやって来た時偶然見つけたんだよ。この小型カメラをね。驚いたよ。まさかあのセキュリティがしっかりしているはずの億ションで隠しカメラが見つかるとは思いもしなかった。それで俺は物騒なこの小型カメラを押収したのさ。……姫宮さんはどう思う?」「どう思う……とは?」「いや、どんな人間があの億ションにカメラを仕掛けたのかなと思ってね」「さあ、私は警察でも探偵でもありませんので想像できかねます」あくまで冷静に姫宮は対応しているが、内心はすごく焦っていた。(どういうことなの? 何故二階堂社長は私にカメラを見せてきたの? ひょっとして何か気付かれてしまったのかしら……)そんな様子の姫宮を二階堂は黙って見つめていた。(ふ〜ん……こういう状況でもまだ表情1つ崩さずに、ポーカーフェイスを装っていられるのか……なかなかやるな)そこで二階堂は再び会話を続けた。「実はこのカメラを押収した後、面白いことが起きたんだよ」「面白いことですか?」「ああ、ある男が現れたんだ。年齢は……そうだな俺と姫宮さんと大して変わらないんじゃ
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-28 二階堂の追求 2

 二階堂は姫宮に言った。「そうか。なら話を続けるよ。それにしても俺がカメラを押収してすぐに京極が現れるなんて偶然にしては出来過ぎていると思わないか?」「さあ……大体私はその京極という方は存じませんので」「でも彼はあの式典に参加していただろう? 招待客リストに乗っていたなら京極という名前くらいは聞いているんじゃないのか?」「いいえ、出席者リストには京極と言う名前はありませんでした」「ふ〜ん……でも無くて当然じゃないか? 俺も式典に呼ばれていたから招待状を貰っていたけどね。出席者リストは名前ではなく企業名が書かれていたよね?」「!」「なぜ出席者リストには京極と言う名前は無かったと言ったんだ? 元々リストには参加する代表者の企業名しか書かれていなかったのに……。まるで最初から姫宮さんは京極の名前を知っていたような口ぶりに聞こえてしまったけど……それは俺の気のせいかな?」「そ、それは……」今の姫宮は誰が見ても狼狽えているのが分かった。恐らく翔が姫宮の姿を見たらさぞ、驚いたことだろう。「バレンタインの日、鳴海と女性記者のインタビューのセッティングをしたのは姫宮さんだろう? 何故そんな日にあんな場所で日時を組んだ? 普通に考えればあの日は避けるべきだった。鳴海からは君が優秀な秘書だと聞いているよ。何せ以前はあの会長の秘書をつとめていたそうじゃないか。そんな君がうっかりミスであんなことをしてしまうとは思えない。しかもご丁寧にその日のうちに鳴海のスマホにメールが入ってきた。写真付きでね。あんな写真を見たら……2人は恋人同士に見られても仕方が無い話だ」「……」姫宮の顔色は完全に色を失っているようにも見えた。(参ったな。これじゃまるで俺が虐めているみたいだ……。女性を追い詰めるのは俺の趣味じゃ無いのにな………)二階堂は心の中で溜息をついた。そして姫宮の様子を見守っていたが、もはや冷静さを完全に失っていた。(正人の馬鹿……! 監視カメラを仕掛けていたなんて聞いていないわ! しかもそのカメラは二階堂社長の手の中だし……どうしたらいいの……)そんな震えている姫宮に二階堂は言った。「だけど……君は京極とは違う」「え……?」「京極は朱莉さんを怖がらせてばかりいる。朱莉さんにとって京極はもはや恐怖の対象でしかない。だけど姫宮さん」二階堂は優しい口調で続ける
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-29 口に出せない言葉 1

 その頃、朱莉は蓮の為にベビー服を縫っていた。すると携帯に翔から着信が入ってきた。「え? 翔先輩?」時計を見ると午後1時を過ぎた処である。平日のこんな時間に電話なんて珍しいと思いつつ、朱莉は電話に出た。「はい、もしもし」『朱莉さん。実は今部屋に帰ってきているんだよ。今日は訳あって早退してきたんだ』「え? もしかして具合でも悪いのですか? 熱でも出ましたか?」『いや、そう言う訳ではないんだけど……もしかして心配してくれているのかい?』「当り前じゃないですか。でも具合が悪くて帰って来たのでないのならば安心しました」『朱莉さん、実は少し話したいことがあって……今、お邪魔してもいいかな?』朱莉はチラリとリビングに置かれたベビーベッドを見ると、蓮はベッドの中でぐっすりと眠っている。「はい、大丈夫ですよ。今レンちゃんはぐっすり眠っていますし。お待ちしていますね」『ありがとう。5分程で行くよ』そして電話は切れた。(翔先輩が来るならお茶の準備をしておかなくちゃね)朱莉はキッチンに向かうとお茶を出す準備を始めた。(確か以前に翔先輩にキリマンジャロのブレンドコーヒーを出したら美味しいって言ってくれたよね……)朱莉がコーヒーの準備を終えた頃、ドアのインターホンが鳴り響き、急いでドアを開けた。「こんにちは、朱莉さん」「こんにちは、翔さん。どうぞおあがりください」「ああ、ありがとう。それじゃお邪魔します」玄関で靴を脱ぎながら翔は思った。(いつになったら俺はお邪魔します、ではなく……ただいまと言える日がくるのだろう)そして朱莉を見ると、にこりと笑った。「……」朱莉はその笑顔に驚き、訊ねた。「翔さん? どうかしましたか?」「あ……い、」いや。何でもないよ」翔は部屋の中へ上がり込むとベビーベッドで眠っている蓮の様子を見に行った。蓮はバンザイをした格好で眠っている。「しかし、何故赤ちゃんと言うのはバンザイをして寝るのかな。不思議なものだ」翔は蓮の寝姿を見ながら首を傾げる。「バンザイして寝ていましたか? その寝姿可愛いですよね。バンザイして眠っているのはリラックスしている証拠らしいですよ。他には体温調整をする為もあるみたいですね」朱莉はコーヒーを入れながら説明した。「ふ~ん。成程……あ、そうだ。実は今日赤坂で食事会があったんだ。ただ俺は
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-30 口に出せない言葉 2

 朱莉に礼を述べられ、翔は照れ隠しに言った。「い、いや……ほら。この間のバレンタインのお礼、うっかり忘れてしまっていたからホワイトデーのほんのお返しだよ」実は先週がホワイトーデーだったのだが、その頃仕事が立て込んでいたのでうっかり失念してしまっていたのだ。気付いたときにはもう遅く、今になってしまっていた。「そんな、ホワイトデーのお返しなんて気にしないで下さい。こんな立派なお部屋に住まわせて貰ってるだけで私は十分ですから」住まわせて貰ってる……。朱莉のその言葉を聞くと翔の胸は痛んだ。まるで自分と朱莉の間で一線を引かれてしまっているようで寂しく感じてしまう。翔の気持ちは朱莉と正式な家族になりたいという思いで一杯なのに、当の朱莉はいつまでたっても雇用主と雇用者の関係としか捉えていない事実を突きつけられているようなものだった。本来なら明日香との関係が終わってしまった時点で、朱莉との契約婚は終わりにするべきなのかもしれない。だが、今更になって今度は翔が朱莉を手放したくない気持ちで一杯になっていた。だからこそ朱莉から契約婚の終了を言い渡される前に、本当の家族になろうと伝えたいと思ってはいるのだが、いざ朱莉を前にすると何も言えなくなってしまう自分が不甲斐なかった。「どうかしましたか? 翔さん」不意に声をかけられて、翔は我に返った。目の前には入れたてのコーヒーが置かれている。「あ、ああ。コーヒー淹れてくれてたんだね。ありがとう。うん……いい香りだ」「このコーヒーはキリマンジャロのブレンドコーヒーなんです。以前美味しいと言っていましたよね?」「覚えていてくれてたのかい?」翔は目を丸くする。「はい、私もこのコーヒー好きですから」「そうか。俺達気が合うな」「……そうですね」少しの間を開け、朱莉は返事をした。(翔先輩……突然どうしちゃったんだろう? あんな台詞今迄一度も言ったこと無いから、驚いてなんて答えればいいか一瞬分からなくなっちゃった)一方の翔は朱莉の返事に間があったことが気になって仕方が無い。(何だ今の間は。ひょっとして気が合うと言われたことが嫌だったのだろうか? だけど、そうですねと答えてくれたし……いや、そもそもその返答が単なる社交辞令かもしれないしな……)翔の落ち着かない様子を朱莉は不思議そうに見つめていた。(そう言えば今日はどう
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-31 姫宮の頼み 1

 翔は朱莉の『期間限定』の言葉に自分でも驚くほどショックを受けてしまった。(どうする? 今、朱莉さんに俺の気持ちを告げるか? 蓮の本当の母親になって欲しいと……ずっと家族として、妻として傍にいて欲しいと……)翔は真剣な瞳で朱莉を見つめた。一方の朱莉は突然翔の顔色が変わったことに驚いて訊ねた。「どうしたんですか? 翔さん。顔が真っ青になっていますよ!? 何所か具合でも悪いんですか?」朱莉が自分を心配そうに見つめている……。今なら気持ちを打ち明けてもいいのではないだろうか……? そう思った翔は口を開いた。「あ、朱莉さん……実は……」その時、翔のスマホに着信が入ってきた。相手は姫宮からであった。「え? 姫宮さん?」翔の呟く声を朱莉は聞き逃さなかった。(姫宮さんから翔先輩に電話? 何か急用でも入ったのかな? 会社に戻るのならケーキは冷蔵庫にしまった方がいいかな?「はい、もしもし」翔は電話に出た。「え……? 何だって? ……うん。……ああ、分かったよ。それじゃ今夜19時に社長室で」翔は溜息をつくと電話を切った。その顔色はすぐれなかった。「あの、翔さん……?」朱莉はためらいがちに声をかけた。「あ、ああ。なんだい?」「ひょっとすると今夜社長室へ行くのですか?」「そうなんだ。今夜社長室で大事な話がしたいと言われて……」「大事な話……」朱莉はそれを聞いて何やら胸騒ぎを感じた。翔も同じ気持ちなのか押し黙っている。(一体何なんだろう? わざわざ社員が帰宅した後の社長室を指定してくるなんて……人に聞かれたくない話なんだろうか? やはり京極との関係が……?)すると、今度は二階堂から電話がかかってきた。「はい、もしもし。……え? 何ですって? 先輩も来るんですか!? い、いえ……別に駄目ってことでは……。はあ……分かりましたよ。もう好きにして下さい」そう言って電話を切ると、先ほどよりも大きなため息をついて朱莉を見た。「参ったよ……。二階堂先輩までやって来るってさ」「え? 姫宮さんと二階堂さんがですか? 食事会で翔さんが帰った後、お2人の間で何かあったのでしょうか?」「さあ……?」(もしかすると京極の件の話かもしれない。と言うことはやはり先輩の睨んだ通り姫宮さんと京極は関係があったのだろうか?)しかし、今の電話の件で翔は朱莉に自分の気持
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-32 姫宮の頼み 2

「いえ、何だか焦っておられたようだったので。翔さん、ケーキ頂きます」朱莉はフォークでケーキを掬い取って口に運ぶと顔をほころばせた。「とっても美味しいです。お土産ありがとうございます」「良かった。口にあったようで」「翔さんも是非食べてみてください。」「ああ、そうだな」そして翔もバスクチーズケーキを口に入れた。チーズの酸味が翔の口によくあった。「うん、これは美味いな。癖になりそうな美味しさだ」「ですよね~。やっぱり話題になるだけありますよね?」朱莉はニコニコしながら美味しそうにケーキを食べている。「朱莉さん、今から話すこと……驚かないで聞いてくれるかい?」ケーキを食べ終えた朱莉に翔は声を掛けた。「はい、分かりました」居ずまいを正すと朱莉は真っすぐ翔を見つめた。「実は……今日二階堂先輩と……俺と姫宮さんの食事会、表向きは仕事の話として開いたんだけど、本当はそうじゃなかったんだ」「?」「二階堂先輩が話していたんだ。京極と姫宮さんはつながりがあるんじゃないかって」「!」朱莉の小さな肩がビクリとした。「その話……本当ですか……?」「本当だよ。朱莉さんを不安にさせるような話をしてしまっているのは分かっている。ただ、話し合いの途中で俺は退席させられたんだ。二階堂先輩が姫宮さんと2人きりで話をさせろって言われて」「……」朱莉は黙って話を聞いている。「その後の2人の話し合いがどうなったのか俺には分からない。けど姫宮さんと二階堂先輩の3人で今夜会うことになったと言うことは、やはり姫宮さんと京極は何か関係があるのかもしれない」「そうですか……」朱莉は顔色が青ざめている。「大丈夫かい? 朱莉さん」「はい。……私なら大丈夫です。翔さんは大丈夫ですか?」「まだ本当に確定しているかどうかは分からないけど……でも本当に繋がりがあるとしたら正直ショックだと思う。何せ彼女は会長の秘書でもあったからね」翔は溜息をついた。「翔さん。私、姫宮さんは本当に良い人だと思うんです。もし京極さんと何か関係があるとしたら深い事情があるのではないでしょうか?」「……」「だからお願いです。姫宮さんの話を冷静に聞いてあげて下さい。それがどんな話であろうとも私は姫宮さんに色々お世話になりました。悪い人だとは思えないんです」「分かったよ。朱莉さん」そして翔は再
last updateLast Updated : 2025-05-25
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6-33 姫宮の告白 1

「ちょ、ちょっと待ってくれないか? 何故急に 社を辞めるって言い出すんだい? 理由を教えてくれ。ひょっとして本当に姫宮さんは京極とつながりがあったのか? 君は今までずっと、この会社を……そして会長や俺……朱莉さんのことまで騙していたのか?」翔は信じられない気持ちで姫宮を見た。「それは…」姫宮が言いかけた時、二階堂が口を挟んできた。「まあ、落ち着けよ。鳴海。そんなに矢継ぎ早に質問をしても姫宮さんが話しにくくなるだけだ」それを聞いた翔はカチンとなり、相手が二階堂にも関わらず言い返した。「先輩は口を挟まないで下さい! これは……俺と会社と姫宮さんの話なんですから部外者は静かにして頂けませんか!?」「まあ、確かに俺には関係無い話かもしれないけどな」二階堂は肩をすくめた。そんな2人のやり取を見ていた姫宮は翔に頭を下げた。「副社長。こうなったからには私はもう隠し事は致しません。何もかも全てお話しいたします。まず私と京極との関係ですが、私は京極正人とは双子の兄妹になります。苗字が違うのは私が5歳の時に姫宮家に養女に出されたからです」「え……? な、何だって……?」翔はあまりの話に目がくらみそうになった。だが……言われてみれば確かに雰囲気が似ている。けれどまさか血の繋がった双子の兄妹だったとは思いもしなかった。「ま、まさか君がこの会社に就職したのも初めから京極とグルになっていたからだったのか?」翔は声を震わせながら尋ねた。「…‥はい。そうです」少しの間を開け、姫宮は返事をした。「何が狙いだったんだ? 君は……君と京極は産業スパイだったのか?」翔は左手で頭を押さえながら尋ねた。「産業スパイではありません」「だったら、何なんだよ!」「鳴海、落ち着け」二階堂は語気を強めた翔を宥める。「落ちつけ……? これが落ち着いていられますか? 今迄あった不可解な出来事……君と京極の仕業だろう?」翔は姫宮を指さした。「そうです。謝罪して済むこととは思っておりませんが、本当に申し訳ございませんでした」姫宮は頭を下げた。「産業スパイでなければ……一体目的は何だったんだ?」ため息をついた翔に姫宮は静かに言った。「はい。それを今から全て語ります」そして姫宮は今迄のことを全て話した。5歳の時に画家だった父が亡くなったこと。父の残した画廊が弟子たちによ
last updateLast Updated : 2025-05-26
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6-34 姫宮の告白 2

姫宮の語った話は翔にとってあまりにも衝撃的な話だった。まして朱莉までもが絡んでいる話だとは想像もつかなかった。だが鳴海グループ総合商社は世界に名だたる大企業である。そんな末端の出来事迄全てをコントロールするのも把握することも不可能だ。「確かに……姫宮さんと京極。それに朱莉さんの話は全て鳴海グループに関係ある話だとは思うけど……君達は逆恨みだとは思わないのか? 俺達トップにいる人間達が、そんな末端部分のことまで把握できるはず無いだろう? そこまでくると、もはや言いがかりとしか思えないレベルだ」「ええ。確かにおっしる通りだとは思いますが……」姫宮は頷く。「だったら、何故こんなことをしたんだ!?」再び翔が声を荒げると二階堂が再び口を挟んできた。「恐らく京極は誰かを恨まなければ生きてこれなかったんだろう? そして朱莉さんに執着したのも自分と同様、鳴海グループの被害者の1人だと思ったんじゃないのか? 親近感が湧いて異様なほど執着してしまったんだと俺は思うけどな。本人はその執着心を恋愛感情と勘違いしているかもしれないけどな」「そうかもしれません。私は自分1人が裕福な姫宮家に引き取られてしまった負い目があります。そして姫宮家の会社が危機に陥った時にピンチを救ってくれた京極の言いなりにならざるを得ませんでした。それにこの世でたった1人きりの兄ですから……」姫宮は目を伏せた。「だが君は俺達の情報を京極に流していたのは紛れもない事実だ。共犯者だろう? よくも平気で今迄俺達を騙してこれたな? どうせ新しいマンション探しを自分から申し出てきたのも京極に行き先を告げる為だろう?」吐き捨てるように言うと、姫宮は強く否定した。「いいえ! 信じて貰えないかもしれませんが……それは違います! 私は朱莉さんを京極の手から守りたかったから……自分から不動産物件探しを希望したのです!」「え……? それは一体どういうことなんだ?」「京極は……私の預かり知らぬところで、あの億ションに隠しカメラを取り付けてありました」「何!? そ、それは……本当の話か!?」「はい、それを見つけてくれたのが二階堂社長です」「え……?」翔は二階堂を見た。すると二階堂はポケットから押収した小型カメラを取り出した。「ほら、これだよ。安心しろ、もう電源は切ってあるさ」「え……? い、一体何処にこ
last updateLast Updated : 2025-05-26
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