Semua Bab 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Bab 541 - Bab 550

736 Bab

9-7 緊急入院 1

 翌朝——「おはよう、翔」早目に出社していた修也はオフィスに入って来た翔に笑顔で挨拶した。「あ、ああ……おはよう。修也」翔は何となくばつが悪そうに修也をチラリと見ると椅子に座りPCの電源を入れてメールのチェックをしていたとき。突然デスクの上にトンと紙コップに入ったコーヒーが置かれた。顔を上げるとそこには笑顔の修也が立っていた。「はい、翔。朝のコーヒーだよ」「あ、ああ……ありがとう。修也」「うん。どういたしまして。あれ? 翔。何だか顔色が悪くない?」翔の顔を見て修也は表情が曇った。「実は昨日から少し吐き気が合って……吐き気は収まったんだが今朝から少し腹痛があってね……」「え? 腹痛があるのに出社してきて大丈夫なのかい?」「馬鹿言え、腹痛くらいで休むわけにはいかないだろう? 俺のことは大丈夫だからもう構うな。お前は自分の仕事をしろ」シッシッとまるで手で追い払われるような仕草迄されては、修也は引き下がざるを得なかった。「うん分かったよ。翔、でも苦しかったら我慢しないで言ってくれるかい? 僕は翔の秘書なんだから」「ああ、分かってる」そしてそれから約1時間後——「ウウ……ッ」翔が呻き、突然デスクの上に突っ伏してしまった。「え? 翔!?」修也は慌てて立ち上がり、翔の元へ駆け寄った。「翔! 翔!?」 必死に修也は呼びかけるも、翔は返事が出来ない。額には脂汗が浮いており、顔色は紙の様に白くなっていた。「た、大変だ!」これはただ事ではないと感じた修也は急いで電話に手を伸ばした——****——その頃。家事を全て終わらせた朱莉は蓮と一緒に部屋で遊んでいた。「はーい、レンちゃーん。ボール転がすよ~」朱莉はに鈴が入っている布製ボールを転がして蓮にキャッチさせる遊びをさせていた。その様子をサークルの外に出したウサギのネイビーが鼻をヒクヒクさせながら見ている。「キャッキャッ」蓮は楽しそうに笑い声をあげながら、転がってきたボールをキャッチして楽しそうに笑っている。「フフ……楽しい? レンちゃん」その時——リビングテーブルの上に乗った朱莉のスマホに電話の着信が入ってきた。「あ、ちょっと待っててね。レンちゃん、電話が鳴っているから」朱莉はスマホを手に取るとそれは翔からだった。「え……? 翔先輩? 何かあったのかな?」朱莉はスマ
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9-8 緊急入院 2

「レンちゃん。少しだけ待っていてね」朱莉は蓮をリビングの床に座らせると病院へ行く準備を始めた。翔からは保険証の場所は聞いている。朱莉は翔の寝室に入ると、備え付けのクローゼットの一番右上の引き出しを開けると、そこには以前教えて貰った通りに保険証が入っていた。「あったわ……」次は衣類の準備だ。「翔先輩、すみません。留守中に勝手な真似をすること許してください」朱莉小さく呟くと、クローゼットのなかから下着とパジャマを探し出すと、持って来ていた旅行鞄に入れた。「後は……洗面用具とかは病院でも買えるものね。急がないと」そして蓮を連れて再び自分のマンションへ戻ると、ママバックを用意してネイビーをサークルの中に戻した。「行きましょう、レンちゃん」「ダーッ」朱莉の呼びかけに反応するかのように蓮が返事を返した。「フフフ……レンちゃんは本当におりこうさんね」そして朱莉はベビーカーに蓮を乗せて、荷物を持つと駐車場へと向かった——**** 翔が運び込まれた病院は偶然にも朱莉の母が入院している病院と同じだった。車から降り立つと朱莉は呟いた。「まさか、こんな偶然があるなんて……」(でもここなら翔先輩の面会のついでにお母さんの面会も出来そうだしね)ただ、今回だけは緊急入院と言う事で、蓮を連れての面会は病院から許可を貰っているが次回からは蓮を病院へ連れて来ることは出来ない。「何処かでレンちゃんを預かって貰わないといけないな」朱莉は病院の入口に着くと、スマホを取り出し翔の電話番号をタップした。『もしもし?』すると3コール目で電話口から修也の声が聞こえてきた。途端に朱莉の心臓がどきんと大きくなる。(まただ……どうして私、各務さんの声を聞くだけで……ううん。そんなことよりも今は翔先輩の話に集中しないと)「あの、各務さんですか? 朱莉です」『朱莉さんですね。もう病院に到着したのですか?』「はい、今正面玄関にいます」『分かりました、すぐそちらへ伺いますね。それでは一旦電話を切らせていただきます』そこで修也からの電話は一度消えた。「朱莉さん!」朱莉が病院の待合室で待っていると、スーツ姿の修也がやって来た。「各務さん! あ、あの……翔さんは?」朱莉は椅子から立ち上がった。「はい、副社長は先ほど手術が終わって、今病室に運ばれた所なんです。僕もこれか
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9-9 病室での3人 1

「全く、急性虫垂炎だったなんて……参ったな」ベッドに寝かされたままの翔は天井を眺め、呟いた。そして頭を動かして改めて自分が運ばれた病室を見渡す。カーペットの敷かれた広々とした部屋。奥には応接室もあり、部屋のテレビは50インチもある。さらに扉を隔てた奥にはキッチンがあり、冷蔵庫もオーブレンジも備え付けられ、バスルームはミストサウナにジェットバス付き。当然PCやプリンターも設置してあるし、Wi-Fiだって使用できる。しかし……。(この部屋、豪華すぎるだろ? 1日個室使用料金18万円とかいってたし。たかが入院であまりにもばかげた金額だ。金がない訳じゃないが入院の個室代だけで、こんなに費用が掛かるなんて……)「くそっ! 修也の奴……一体何を考えているんだよ」その時。ーーコンコンドアがノックされる音がした。「はい、どちら様ですか?」翔が寝ながら応答すると、ドアの外で声がきこえてきた。『翔、僕だよ。修也だよ。入っていい?』「ああ、入れよ。丁度お前に話があったんだ」『え? 話?」』するとドアが開けられ、修也が姿を現した。「おい! 修也、お前なあ……一体何考えているんだよ! ウッ!」その瞬間、手術をした部位がズキリと痛んだ。「ああ、ほら。手術が終わったばかりなのに大声を出すから……」修也が慌てて駆けつけてきた。「う、うるさい……誰のせいで大声を出したと思ってるんだ……」翔は痛みに耐えながら修也をみて、目を見開いた。修也の背後には蓮を抱いている朱莉が立っていた。「あ、朱莉さん……何故ここに?」朱莉は修也の背後から現れると翔のベッドの傍に歩み寄ってきた。「各務さんから電話を頂いたんです。翔さんが急性虫垂炎で入院したと……あの、大丈夫ですか?」朱莉は心配する表情を浮かべて尋ねた。「あ、ああ大丈夫……と言いたいところだけど……ごめん。正直に言うと痛い。どうやら麻酔が切れたようだ」翔は青白い顔で朱莉を見た。「た、大変! すぐに先生を……!」朱莉がナースコールのボタンを押そうとした所を翔が止めた。「あーっ! だ、大丈夫! そこまでの事じゃないから!」翔は慌てて止めると、朱莉の腕の中にいる蓮を見つめた。「それにしても、よく病棟に蓮を連れて来れたね。普通なら子供の面会は禁止している所が多いのに……」すると朱莉が笑顔になる。「ええ。
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9-10 病室での3人 2

「うわ、な、何? 翔」「おまえ、もう今日は会社に戻れ。いきなり副社長と秘書が会社から消えてしまえば社内が騒がしくなるだろう?」「え? だけど、もう秘書課の人達には連絡を入れてあるけど? それに今日は取引先との打ち合わせも何も無いし……」「いいから早く戻れ。それでまた夜に俺のPC を持って来てくれ」「ええ? 翔。もしかしてここで仕事をするつもりなのかい?」「ああ、当然だ。今は何処にいても仕事が出来る時代だからな」すると今迄黙っていた朱莉が会話に入ってきた。「駄目ですよ、翔さん。入院中は大人しくしていないと」「いや、そんなこといってられないんだよ。仕事は山積みなんだ。これが病気だろうと何だろうと、身体が動けるなら仕事をしないとならないんだよ」「翔さん……」(私には翔さんの仕事の事は何も分からないけれど、きっとそう言う物なのね……)「わ、分かったよ。翔。それじゃ会社に戻るよ。又退社後に病院に寄らせて貰うよ。それじゃ、朱莉さんもまたね」「はい。各務さん、今日は本当にありがとうございました」「いいんだよ、当然のことをしたまでだから」笑顔で見つめあう修也と朱莉を見て、翔の胸の内に苛立ちが募ってきた。「ほら、さっさと行け。修也」つい、乱暴な言い方をしてしまう。「ああ、ごめん。すぐ行くよ。それじゃあね」修也はカバンを持つと足早に病室を去って行った。「あの……翔さん。私もレンちゃんのお食事をさせに行ってもいいでしょうか? お腹を空かせているようなので」「あ、ああ。そうだったね。気付かなくてごめん。いいよ、行っておいで。ついでに朱莉さんも食事をしてくるといいよ」「はい、ありがとうございます。」朱莉は笑顔で翔に返事をすると、ママバックを持って病室を出て行った。「……」病室に1人残された翔は溜息をついた。「全く……俺は何をやっているんだ? 折角邪魔な修也を追いやったと言うのに……。いや、それ以前に、俺は何て心の狭い人間なんだ……」そして翔は目を閉じた――**** 朱莉が蓮を病院用のベビーカーに乗せて1Fの病院内にあるレストランへ行くと、そこに修也の姿があった。「え……? 各務さん?」見ると、修也はラーメンを食べている所だった。「各務さん!」朱莉が呼びかけると、修也は顔を上げて恥ずかしそうに手を振った。朱莉も笑顔になり、蓮を連
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9-11 面会時間終了後 1

 それから約1時間後。――コンコン朱莉は翔の病室をノックした。しかし、何も返事が反ってこない。「聞こえなかったのかな?」朱莉はもう一度、ドアをノックしたがやはり無反応である。「眠っているのかな? 翔さん……失礼しますね」朱莉はそっと病室のドアを開けると、やはり眠っていた。「起こさないようにしておかないとね。蓮ちゃん。ここで待っていてね」朱莉はベビーカーに蓮を乗せ、布のおもちゃを渡すとすぐに口に咥えて遊び始めた。「パパの荷物の整理をするから待っていてね」朱莉は蓮の頭を撫でると、早速持って来た荷物を取り出して応接室のテーブルに置いて、整理を始めた。病室には3段になっている引き出しが備え付けられていた。朱莉は一番上の引き出しにパジャマと着替えの下着を入れ、その下にバスタオルや予備のタオルを入れた。「あ、そうだ。歯磨きセットが必要だったかも」そうつぶやいた時、特別個室の入院案内のパンフレットがテーブルの上に置かれている事に気付き、中を開いてみた。「凄い…歯磨きセットや入浴セット…全て料金に含まれていたんだ。まるでホテルみたい。まさかお母さんが入院している病院でこんな特別個室があるなんて思いもしなかったな」朱莉はパンフレットを閉じると、サニタリールームを覗いてみた。洗面台には歯磨きセットに、ドライヤー、化粧品までが備え付けられている。試しにバスルームを覗いてみると、同様に高級ブランドのボディソープとシャンプーセットが置かれていた。「もう凄すぎて何て言ったらいいか分からないわ」朱莉は母が入院している個室を思い浮かべると改めて溜息をついた。(やっぱり私と翔先輩とでは住む世界が違い過ぎる。契約婚が終わったら、すぐに離婚をして明日香さんとやり直すか、もっと家柄が相応しい女性と翔先輩は一緒になるべきなんだろうな……)蓮とお別れををするのは本当に寂しいが、これはあらかじめ決められていたことなのだから、割り切らないといけない。「さて、荷物の整理の続きを始めないと」朱莉は気持ちを切り替えて、持って来た荷物の整理を始めた――****「う……ん」ふと、翔は目が覚めて一瞬自分が何処にいるのか分からなかった。「え……と……確か俺は……」独り言のように呟いた時、朱莉が声をかけてきた。腕の中には蓮が抱っこされている。「あ、翔さん。目が覚めたんですね
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9-12 面会時間終了後 2

思わず翔が黙ってしまうと、朱莉が心配して尋ねてきた。「どうしましたか? 翔さん、もしかして傷が痛むのですか?」「い、いや。大丈夫、何でもないよ」「そうですか? ならいいのですけど」すると病室のドアがノックされた。「失礼致します、鳴海さん。御加減はいかかでしょうか?」ドアを開けて病室の中へ入って来たのは年若い看護師だった。「初めまして、鳴海さん。本日から明日迄お部屋の担当をさせていただく藤井と申します。よろしくお願いします」そして蓮を抱きかかえている朱莉の姿に気が付いた。「あ……もしかすると奥様でいらっしゃいますか?」「はい、そうです。どうぞよろしくお願いいたします」朱莉もお辞儀を返した。「あの、これから術後のチェックと問診と診察がありますので申し訳ございませんが奥様は外でお待ちいただけますか?」するとそれを聞いた翔が朱莉に声をかけた。「朱莉さん、今日はもう帰っても大丈夫だよ。蓮も疲れたんだろう。随分眠そうにしているし……」「でも……」朱莉は腕の中の蓮を見た。確かに眠そうにうつらうつらしている様子の蓮がいた。「そうですね。すみません、それではレンちゃんを連れて帰りますね」「ああ、そうしてくれ。それに別に謝ることじゃないよ」翔の言葉に朱莉は笑みを浮かべると藤井に挨拶をした。「それでは私はこれで失礼いたしますね。翔さん、また明日伺います。何か欲しいものがあれば連絡下さい」「ああ、ありがとう」するとそこへ看護師の藤井が話に割り込んできた。「面会時間は午後の3時からになりますからね。必ず守って下さいね」「はい、分かりました。それでは失礼いたします」朱莉は頭を下げ、ベビーカーに蓮を乗せると病室を後にした。――パタン病室のドアが閉じられると、藤井が声を話しかけてきた。「今の方が奥様ですか?」「え? ええ。そうです」「とっても綺麗な方でしたね」藤井は体温計を取り出すと、翔のシャツの中に手を入れてきた。「あ、あの! それ位自分で出来ますから!」焦った翔は体温計を奪うように藤井から取ると、自分で脇の下に入れた。「……」その様子をじっと見つめる藤井。「あの……何か?」あまりにもじっと自分を見つめてくる看護師に困惑して翔は尋ねた。「いえ。今迄この特別個室を使われた方は年配の方々ばかりで鳴海さんのようにお若い方は初
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9-13 気まずい個室 1

 19時半。――コンコン翔が入院している個室のドアがノックされた。「はい」ベッドを起こして、新聞を読んでいた翔が返事をすると、ドアが開けられた。「こんばんは、翔」修也が大きな紙袋を手に現れた。「修也、パソコン持って来てくれたのか?」「うん。持ってきたよ。他にUSB も念の為に持ってきたけど……でも会社の情報を扱うにはUSBを使うよりはクラウドサービスを使った方がいいかもね」「う~ん…‥まあいい。一応置いて行ってくれ。使うかもしれないからな」翔が手を伸ばしてきたので、修也はUEBを手渡した。「翔、本当に明日からここで仕事をするのかい?」「ああ、勿論だ。だから修也、お前はいつでも対応出来るようにPCの前にいろよ?」翔は半分冗談で言ったのだが、真面目な修也は頷いた。「うん、分ったよ。翔がそう言うなら、なるべく席を外さないようにしておくよ」「馬鹿だな修也。そこまで本気で受け取るなよ。それで会社の方はどうだった?」翔はPCを立ち上げながら尋ねた。「うん、大丈夫だったよ。たいして大きな混乱も無かったし、業務は滞りなく進んだよ」「そうか……」翔の顔が浮かないものになった。(何だよ、それ……つまり副社長の俺がいなくても会社は問題無くまわせるってことなのか?)モヤモヤした気分を抱えながら翔はPCのパスワードを入力する。「どうしたの? 翔?」修也は翔の様子が妙なことに気が付き、声をかけた。「いや、別に。修也、もうすぐ20時になるぞ。帰った方がいい」「あ、本当だ。もうこんな時間だったんだ。それじゃ帰るよ」修也は座る間もなく帰り支度を始めた。そんな修也の姿を見つめる翔。「修也……」「何?」カバンを持った修也は翔を見た。「おばさんに……よろしくな」「うん、分った。母さんにも伝えておくよ。今日、翔が虫垂炎で手術したこともね」「よせよ、余計な心配は掛けたくないから……言わなくていい」「それは駄目だよ、大体僕は母さんと一緒に住んでいるんだから翔のことを報告しないわけにはいかないよ」珍しく修也は引かない。「分ったよ、好きにしろ」翔は溜息をついた。「それじゃ、翔。僕はもう帰るけどあまり無理しない方がいいからね? 今日手術したばかりなんだから」「ああ、分ったよ。修也。じゃあな、気をつけて帰れよ」「また明日来るよ。それじゃあね
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9-14 気まずい個室 2

 その頃、翔は病室でPCを前に仕事をしていた。――コンコンそこへノックの音が聞こえた。「はい?」翔が返事をするとドアの外から声が聞こえた。『看護師の藤井です。中へ入ってもよろしいでしょうか?』「え?」途端に翔の顔が曇る。(参ったな……あの看護師苦手なのに……)翔は昨日の出来事を思い出した。いきなり翔のシャツの中に手を入れてきたこと。今回の入院とは全く関係無い話を根掘り葉掘り聞いてきたこと。例えば翔の趣味や、好きな食べ物。挙句に朱莉との馴れ初めを質問してきた時には何と答えれば良いか、答えに詰まる程だった。しかし、担当の看護師ともなれば無視をすることも出来ない。(全く、仕事中だって言うのに……)すると、翔が返事をしないうちにドアがガチャリと開けられた。「失礼しま~す。あら、返事が無いので眠っていらしたのかと思いました」藤井はカートをガラガラと押しながら病室へ入って来た。「いえ、起きていましたよ。仕事をしていたんです」翔がぶっきらぼうに言うも、藤井は全くお構いなしに近づいて来た。「な、何ですか? 一体」あまりにも至近距離に藤井がいるので、翔は視線を逸らせながら尋ねた。「はい、検温のお時間です。それに血圧も測らせて下さい」笑みを浮かべながら体温計を差し出した。「あ……どうも」翔は体温計を左の脇の下に入れると、突然藤井が翔の右腕に触れてきた。「うわっ!? 今度は何ですか!」「何って……血圧を測るんですけど?」首を傾げる藤井。(こ、この看護師は……わざとやってるのか? それとも……)その時、コンコンとドアのノックの音が聞こえた。(え? 今度は誰だ?)すると翔が返事をする間もなく、藤井が翔の右腕に触れながら返事をした。「はい、どうぞ」「な、何勝手に返事を……」翔が言いかけた時、ドアがガチャリと開かれた。「おはようございます、翔さん」中へ入って来たのはベビーカーに蓮を乗せた朱莉だった。「え!? あ、朱莉さん!?」途端に朱莉の顔に驚きの表情が浮かんだ。何故なら藤井は翔の枕元に座り、右腕に両手で触れてる状況だったからだ。「す、すみません!」何故か朱莉は咄嗟に頭を下げて蓮を連れて出て行こうとした。「待ってくれ! 朱莉さんっ!」翔は慌てて朱莉を引き留めながら思った。(何故朱莉さんが病室を出て行こうとするん
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9-15 噂話 1

「あ、あの……朱莉さん、あれは……その、何でもないんだ……」翔は何と言えばいいのか分からず、妙な言い方をしてしまった。「はあ……何でも……ですか…」朱莉は困り顔で返事をした。(どうしよう。何でもないないなんて言われ方をされれば、どんな返事をしたらいいのか分からないのに)「そ、そう言えば朱莉さん。一体どうしてここへ?」まさか朱莉が面会に来てくれるとは思わなかった翔は嬉しさがあり、理由を尋ねた。「はい、新しい着がえも必要かと思いましたし、それに何より入院手続きがありましたから。あ、そうだ。翔さん、こちらの書類なんですけど」朱莉は蓮を乗せたベビーカーを押して翔のベッドまで近付くと、カバンの中から封筒に入った書類を取り出し、テーブルに置いた。「こちら、私で記入しきれないので、書いていただけないでしょうか?」「あ、ああ。これは……うん、確かに朱莉さんじゃ難しいかもね。よし、分った。それじゃ今書くことにしよう」「翔さん、ボールペンは持っていますか?」「大丈夫だよ。持っているから」翔はベッドサイドの引き出しからペンを取り出した。「それじゃ書類を書くのに時間がかかりそうだから朱莉さんはここで休んでいてくれるかい? 奥にキッチンがあるからそこでお湯を沸かす事も出来るよ。お茶のセットもあるから自由に飲んでくれて構わないからね」「そうなんですね? さすがは特別個室ですね。それじゃキッチンお借りします。丁度レンちゃんのミルクも作る時間だったので」「蓮はこの部屋に置いておいていいよ」蓮は布で出来たガラガラを振って遊ぶのに夢中になっていた。「ダッダッ!」真剣な顔でガラガラを振って遊ぶ姿は見ていて飽きない。(可愛いもんだなあ……。本当なら3人で一緒に暮らしたいが、きっと朱莉さんはそれを望んでいないんだろうな。朱莉さん……君はこの先、一体どうしたいんだ……?)翔は深くため息をつくのだった――****「よし、書き終えた」翔は全ての用紙に記入をすると、ボールペンをテーブルの上に置いた。「あ? 書き終わりましたか?」蓮を膝の上に乗せて、ミルクを飲ませていた朱莉が顔を上げた。「ああ、終わったよ」「それではそこに置いておいておいて下さい。レンちゃんのミルクを飲ませ終わったら窓口に行って手続きをしてきますので」「ありがとう」翔はそれだけ言うと、再び
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9-16 噂話 1

「え? 始めるって何を……?」翔の顔に戸惑いが浮かぶ。「歩行訓練ですよ。術後、早く歩けるようになればそれだけ入院期間も短くなりますので。少しお待ちくださいね。今歩行器を取ってまいりますから」藤井はそれだけ言うと部屋を出て行った。(歩行訓練? まさかあの看護師と一緒にやるのか?)その時、ドアをノックする音が聞こえた。『翔さん、中へ入ってもよろしいですか?』それは朱莉の声だった。「ああ、大丈夫。入っていいよ」翔の呼びかけにドアがすぐに開かれ、朱莉が顔を覗かせた。「失礼します。翔さん、手続きが無事終わりました」ベビーカーを押しながら部屋へ朱莉が入って来ると、すぐに藤井も現れた。しかも今回はノックをせずに入室してきたのだ。これにはさすがに朱莉も驚いた。(え? この看護師さんは昨日の……? でもノックもせずにいきなり入って来るなんて……)すると藤井と朱莉の視線が合った。「こんにちは、奥様。鳴海様はこれからこれから歩行訓練を始めるんです」「こんにちは。歩行訓練ですか? 今から始めるんですか?」「はい、今からです」すると翔が口を挟んできた。「あの…折角妻が来てくれているので歩行訓練は後にさせていただけませんか?」「いいえ、それは出来ません。ドクターからの指示なのですから、ちゃんとスケジュール通りに行わなければなりません」「ですが……」すると、朱莉が翔に声をかけてきた。「翔さん、看護師さんの言う通りにされた方がいいと思いますよ。私はここで待っていますから」「朱莉さん……」朱莉にそこまで言われてしまえば、翔はこれ以上拒絶できなかった。「分りました」「はい、ではベッドから足を降ろして下さい。あ、そう言えば履物は……」藤井が言いかけた時、朱莉が返事をした。「あの、スリッパとカジュアルシューズを持ってきたのですが……どちらがよろしいでしょうか?」「あら、持ってきていただけたのですか? それでは今回はスリッパで歩きましょう。この病棟のフロア内を歩くだけですから」「分りました。朱莉さん、履物を持ってきてくれてありがとう」「いいえ。とんでもありません」翔がスリッパを履くと、藤井が翔の目の前に歩行器を持ってきた。「さあ、こちらに捕まって下さい」「くっ…」翔は痛む傷を我慢しながら、歩行器に捕まった。「大丈夫ですか?」咄嗟に藤
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