12時半―― 朱莉はソワソワしながらマンションの前で幼稚園のスクールバスが到着するのを待っていた。やがて、園児たちを乗せ、猫のデザインをした可愛らしいスクールバスがこちらへ向かってきた。バスは朱莉の待つマンションの入口で止まるとドアが開き、若い女の先生と手を繋いだ蓮が降りてきた。「ただいま! お母さん!」蓮が朱莉の足に抱きついてくる。「お帰りなさい、蓮ちゃん」朱莉は笑顔で蓮の頭を撫でると、先生に礼を述べた。「先生、どうもありがとうございました」「いいえ。蓮君、とてもいい子でしたよ。それにとっても優しくて思いやりがありますね」「本当ですか? ありがとうございます。」朱莉は蓮が褒められて嬉しさのあまり、頬が赤くなる。「先生、さようなら!」蓮は元気よく手を振ると先生も手を振り、お辞儀をするとバスに乗り込んだ。先生が乗り込むとバスはドアを閉め、走り去って行く。その姿を朱莉と蓮は見えなくなるまで見送った。「お母さん、僕お腹空いちゃった。今日のお昼なーに?」「フフフ……。今日のお昼は蓮ちゃんの好きなフレンチトーストです!」「やったー! 早く帰ろう? 僕、お昼食べたらネイビーと遊ぶんだ!」「そうね、帰りましょう?」蓮の手を握りしめると、2人はマンションの中へと入って行った。朱莉は今、とても幸せだった。幸せ過ぎて、これが夢では無いかと思う程に。(夢なら覚めなければいいのに……)小さな手で朱莉の手を握りしめている蓮。そして朱莉の視線に気づくと、ニッコリと微笑む。その姿が愛らしくてたまらない。(翔先輩……。蓮ちゃん、とってもいい子に育っていますよ)先週、翔からのメールが朱莉の元に届いた。予定では来年の蓮の誕生日を迎える10月には日本に戻って来る事が出来るらしい。そして……その時を迎えれば2人の契約婚は終了し、蓮の母親代わりも終わりを告げる――朱莉はそう考えていたのである。3年前のあの日、空港で翔と別れを告げる際に朱莉は翔に抱きしめられてキスをされた。しかし、それはきっと翔に取っては挨拶代わりだったのだろう。朱莉はそう捉えていたのだ。実は翔が自分のことを愛しているとは思いもしていなかったのだ……。「ただいま〜」蓮は玄関のドアを開けた。「あらあら、蓮ちゃん。誰にただいまを言ってるの?」朱莉はクスクス笑いながら尋ねる。「あのね、
Last Updated : 2025-06-08 Read more