Semua Bab 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Bab 641 - Bab 650

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3-14 美由紀の救世主? 2

 怪我の治療を終え、美由紀は自分のマンションへ向かって歩いていた。その道すがら美由紀は溜息をついた。頭の中で琢磨に言われた言葉が頭の中でこだましている。『悪いことは言わない。ああいう男とはすぐに別れた方がいいな』「そんな……別れられるものなら……もうとっくに別れているよ……」美由紀はポツリと呟いた。 遠藤が実はDV男だったと言うことが発覚したのは3回目のデートの時だった。この日、美由紀は達也と上野動物園に一緒に行く約束をしていた。10時に上野公園で待ち合わせをしていたのだが、電車に乗り過ごしてしまった美由紀は5分遅刻してしまった。(別に5分位の遅刻なら連絡入れなくても大丈夫だよね?)そう考えた美由紀は遠藤に遅刻する連絡を怠ってしまった。5分くらいの遅れ位は構わないだろうと考えたのだった。だが……それが間違いのもとだった――公園に着くと、すでに待ち合わせのベンチには遠藤が足を組んで座っていた。「ごめんね、達也さん。少し遅れちゃって……待った?」美由紀は笑顔で遠藤に声をかけた。すると遠藤はイライラした様子で美由紀を睨みつけるといきなり怒鳴りつけてきたのだ。「遅い!! 遅すぎる!!」「キャアッ!!」そのあまりの迫力に美由紀は思わず耳を押さえてしまった。「え……? た、達也……さん……?」美由紀は一瞬何が起こったのか理解できなかった。「おまえなあ……」遠藤はベンチからユラリと立ち上がると、再び激しく怒鳴りつけてきた。「約束の時間を5分もオーバーしやがって!! しかも、遅れるって連絡を一度も入れずに! ふざけるんじゃねえ!!」「ご、ごめんなさい!! 許してください!」美由紀は必至で頭を下げた。あまりの恐怖に目じりには涙が浮かんできた。一人っ子で両親から甘やかされて育ってきた美由紀は、誰かにこれほどまでに怒鳴られたのは生まれて初めての事であったのだ。「謝れば済むとでも思っているのかよ!!」美由紀が必死で謝っても遠藤の怒りは収まらない。「お願いです……達也さん。何でもしますのでどうか許してください……」美由紀は震えながら必死で頭を下げ続ける。すると少しだけ遠藤の声のトーンが落ち着いた。「ほ~う。何でもしてくれるのか?」「は? はい……」美由紀は恐る恐る顔を上げた。「そうか……なら、今日のデート代、すべてお前が払えよ」「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-22
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3-15 航とDV被害女性たち 1

 今を去ること1週間程前―― 航は父から聞いた遠藤達也のことについて調べていた。遠藤を調べるのは簡単なことだった。なぜなら彼は上野のドラッグストアに勤務していたからだ。上野と言えば航が拠点としている場所で、いわば庭同然のようなものだった。(一刻も早く美由紀を遠藤から救ってやらなければ……!)だがそう思う一方で、航はもう二度と美由紀とやり直す気にはなれなかった。冷たい人間と思われても構わない。航の中では朱莉と美由紀では天秤にかけるまでもなかった。朱莉に対する思いの方がはるかに勝っていたからである。(悪い、美由紀。お前は俺と別れて……それで深く考えずに、たまたまナンパしてきた男のことを深く知る前に安易な気持ちで付き合ってしまったんだろう?)そう考えると航は罪悪感で一杯になってしまう。だが、美由紀とよりを戻すかどうかと言えばそれはまた別問題であった。今の自分に出来ることはDV男と美由紀を別れさせることなのだと航は心に決めていた。**** 航は別の仕事の依頼も引き受けていて、その仕事と併用している為四六時中遠藤に張り付いているわけにはいかないが、時間の許す限り航は遠藤の様子を探っていた。そして調べれば調べるほどにこの遠藤という男がいかに最低な男なのかということを目の当たりにするようになった。普段の遠藤は温厚そうに見えるが、それは表の顔に過ぎなかった。ドラッグストアの店員ということもあり、接客業はたいして問題は無かったが、彼の態度が豹変する時は卸売業者や販促物設置業者が来た時だった。彼らに対しては自分の方が上の立場にいると遠藤は勘違いしているのか、とにかくつらく当たっていた。中には訪れた業者の中では女性が数人彼に怒鳴られて泣きながら帰って行く場合もあった。そのうえ、遠藤が付き合っている女性も美由紀一人ではなかった。他にも3人の女性と交際してるが、全員遠藤のDVに怯えていた事実も発覚した。(くそ! 何て男だ……! 美由紀以外にも被害者の女性がいたなんて! だが……逆にこれは好都合だな……)航は笑みを浮かべた―― そして航は動いた。まず、一番遠藤と交際期間が短い女性に会った。彼女は遠藤に対して酷く怯えていたが、まだ洗脳まではされていなかった。隙あれば逃げたい、別れたいと思っていたのだ。そこで彼女にボイスレコーダーを渡し、デート中の音声を録音して
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-22
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3-16 航とDV被害女性たち 2

「もしもし……」航は美由紀から取り上げたスマホの電話に出た。『ああ? 何だ? てめえは。人の女の電話に勝手に出んじゃねえよ』受話器越しからは相手を威圧する遠藤の声が聞こえてくる。「俺はなあ……美由紀の知り合いだ」「はぁ? 知り合いだと? 何だそりゃ。あ……ひょっとして美由紀の前で別の女を抱きしめて傷つけたって言うのは……お前のことだろう!?』遠藤の声のトーンが大きく、航は耳から受話器を外して聞いていたので、遠藤の声は美由紀の耳にも届いていた。(美由紀……こいつに俺と朱莉のこと話していたのか……)航は美由紀の方をちらりと見ると、美由紀は項垂れて視線をそらせた。「ああ。確かにそうだ。だがな……お前は俺の元カノにDV行為をしているな? それで助けを求められたんだよ。美由紀にな」 『はあ? おい! お前……ふっざけるなよ! 出せ! 美由紀を今すぐ電話口に出せよ!』遠藤は大声でまくし立てた。しかし、航はそれに応じない。「はあ? 誰が電話に出させるかよ。とにかく一度話し合いしようぜ。お前の都合の良い時間に合わせてやるよ。ほら、言ってみろ」航はまるで遠藤を挑発するかのような口ぶりで言う。『くっそ……! ふざけやがって……! それじゃ……明日だ! 明日の19時に西郷隆盛の銅像前で待ってろ!』「ふん。よしいいぜ。それにしても西郷隆盛の銅像前なんて……お前、DV野郎のくせに随分可愛らしい待ち合わせ場所を指定してくるんだな?」どこまでも航は挑発的に話す。『な……! て……てめえ! 俺を馬鹿にするのかよ!!』「いや、別に。それじゃあ必ず来いよ。待ってるからな」航はそれだけ言うと有無を言わさず電話を切り、溜息をついた。「わ……航君……」美由紀は信じられない思いで涙を浮かべて航を見た。「美由紀……」航は美由紀の名を呼んだ。(来てくれた……航君が私を助けに来てくれた……!!)「わ、航君。あのね……」「ごめん」航は美由紀が言葉を言い終わる前に頭を下げてきた。「航……君?」「ごめん、美由紀。俺のせいだろう? 俺がお前を捨てたから……お前はあんな奴に捕まってしまったんだろう?」そして美由紀にスマホを手渡すした。「美由紀。もう今日と明日は絶対にあいつからの電話には出るな。それに今夜はもうマンションに帰るな。今夜はどこかビジネスホテルに一泊
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-22
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3-17 DV男、遠藤との対決 1

 航と美由紀は新宿駅に来ていた。新宿駅は美由紀の職場がある駅である。「美由紀、ここのビジネスホテル空いてるってよ。朝食付きで1泊7000円だってさ。お前、金持ってるか?」航は新宿駅前にあるビジネスホテルから出てくると、ホテルの外で待っていた美由紀に声をかけた。「ありがとう航君。うん。大丈夫、お金なら持ってきてるから」「そうか。後、中でも食事出来るってさ。お前まだ食事取っていないんだろう? ここで食べればいいんじゃないか?」「う、うん」美由紀は俯いていたが、顔を上げた。「ねえ、航君。航君もまだ夜ご飯食べていないんでしょう? だったら私とどこかのお店に食べに行かない? そうだ、久しぶりにラーメンはどうかな?」「ごめん。無理だ。明日の準備があるから」しかし、航の口から出た言葉は美由紀を失望させるものだった。「そう……そ、それじゃ明日の件が解決したら……」「美由紀」航は美由紀の言葉を遮った。「いいか? 明日……絶対に遠藤の前では俺に馴れ馴れしい態度を取ったら駄目だからな?」「え? 航君……どうして……?」「あの男は美由紀以外に3人の女と浮気していたんだ。彼女たち全員が遠藤のDV被害で苦しめられている。彼女たちを明日まとめて遠藤のDV被害から助けてやるんだ」「う、うん……」「遠藤を追い詰めるには美由紀も含めて全員が浮気されていたってことだ。それを使って奴を追い詰めるんだ。だからお前が俺に親しい態度を取っていたら変に思われるだろう? 何だ、お前だって浮気していたじゃないかと遠藤が言ってくる可能性がある」「確かに……そうだよね……」「それじゃ、そう言うことだから」航はそれだけ言うと美由紀に背を向け、そのまま振り返ることなく駅の方へと歩いて行った。(航君……)美由紀は雑踏に紛れて航の姿が見えなくなるまで見送っていた。その瞳には涙が滲んでいた――****  JR山手線に乗りながら、航は自己嫌悪に陥っていた。美由紀の自分にすがりついてくるような目が忘れられなかった。(美由紀……お前、たぶんまだ俺のことを思っているんだろうな……。だけど……すまない。俺はもうお前とは付き合えないんだ。ごめん……!)航は手すりを握り締めると窓の外を眺めた。窓ガラスに映る自分の顔。(駄目だ……こんな辛気臭い顔していたら……。相手になめられないようにしないと
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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3-18 DV男、遠藤との対決 2

「あれは嘘だな。美由紀にはボクシングを習っているって話はしていたけど、残りの3人にはそんな話はしたことが無いんだ。それに遠藤の言っていたボクシングジムって……あの界隈にはそんなものは無かった。念の為にそこから範囲を広げてジムを探してみたけど『遠藤達也』なんて人間誰も知らなかった」航は弘樹に説明した。「ふ~ん。つまりそれは……」「ああ、単なるはったりだろうな」「それで明日何時に決行するんだ?」「19時に決行だ。それじゃ、俺部屋に戻るわ。明日の準備が色々あるからな」航は立ち上がった。「ああ、分かった」弘樹の声を背中に聞きながら、航は事務所を出た。そして4Fの自分が済む部屋に向かった。真っ暗な部屋の外には明るいネオンが光り輝いている。航は部屋に上がると電気をつけてカーテンをしめた。ベッドの上に座ると、さっそくスマホを取り出した。明日の遠藤との決着の際には彼女たちの協力が必要だ。「まずは1人目に電話してみるか……」航はスマホをタップした――****  バスルームから出てきた美由紀はビジネスホテルの12Fの窓から外を眺めていた。窓の外には地上ではにぎやかな新宿の景色に、立ち並ぶ高層ビルが映し出されている。「ふう……」美由紀は部屋に入る前に自販機で購入しておいた缶ビールと缶チューハイを冷蔵庫に取りに行った。そして冷蔵庫の扉を開き、取り出すと窓際の小さなテーブルの前に運ぶと椅子に座ってプルタブを開けた。プシュッ!子気味の良い音を立てて栓が開かれ、美由紀は上を向くようにゴクゴクと缶ビールを飲むと、窓の外を眺めた。(航君……。今夜は一緒にいてくれると思ったのに……。2人でラーメン食べて、同じ部屋に泊って、航君の匂いに包まれてベッドで眠りたかったのに……)目を閉じれば、遠藤の怒鳴り声が頭の中に響いてくる。強くねじり上げられる腕。美由紀の部屋で暴れて物を壊されたりしたのは1度や2度では無い。そのことを思い出すだけで、今も恐怖がこみ上げてきて胸が苦しくなってくる。(明日……私、本当に達也さんと別れられるのかな……?)そして美由紀は両肩を抱きかかえた。「航君……怖いよ……」美由紀は思った。明日は仕事を休ませてもらおうと――****  そして時は流れ翌日の19時― 美由紀が西郷隆盛の銅像の前に着くと、すでに航がいた。航の傍には3人の女性
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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3-19 DV男、遠藤との対決 3

「お前だな? 美由紀の電話に出た男は.」遠藤はじろりと航を睨みつけ、次に周りにいた美由紀たちを順番に見渡した。「お前……こいつら全員たぶらかしたのかよ?」すると航は不敵に笑った。「たぶらかす? それはこっちのセリフだ。お前が彼女たち全員をたぶらかしたんだろう?」「な、何だと!?」遠藤は凄みを利かせた。「まあ、落ち着け。ここは人目があって騒がしい。とりあえず上野公園にでも行かないか?」航が肩をすくめる。「ああ……そうだな。俺もちょうどそれを考えていたんだ。それじゃ行くぞ」こうして6人は無言で上野公園へと向かった――**** 弁天門をくぐり、6人は人気の無い場所までやってきた。「よし、この辺でいいだろう」航は足を止めた。「ああ……そうだな」遠藤は頷き、美由紀をジロリと見た。「おい、美由紀……てめえだな? 昔の男に泣きついたな?」美由紀はビクリとなって俯いた。すると航は首を振る。「いや、それは違うな。俺の家業は興信所だ。それで依頼してきただけだ。お前に酷いDVを振るわれているから別れたいってな」「!」遠藤は恐ろしい目つきで航を睨み、そして次にアキに目を向けた。「おい、アキ……。おまえ、どういうことだよ。何でこの男と一緒にいるんだよ」アキはビクリとなったが震え声で言った。「こ、この男の人が……と、突然訪ねてきたんです……。たっくんのことを聞きに……」「はああ!? おまえ! ふざけるなよ! 調子こきやがって! お前みたいなデブ、俺以外に誰が相手にしてくれるって言うんだよ!? それにな、カナ! サチ! お前らもだ! お前たちみたいな根暗な女、俺だから付き合ってやったんじゃねえか!」激しい罵声を浴びせる遠藤。彼女たちはすっかり怯えて震えている。「やめろ。これ以上彼女達を脅すな。お前が全員にDVを振るっていたのは事実だ。今すぐ全員とこの場で別れろ」航は一歩前に進み出た。「はあ!? 俺がDVをしていた証拠でもあるって言うのかよ? それになあ……あいつらは全員俺の金づるなんだよ! 誰が別れるか!」「ひ、酷い……」ついにアキが泣き出した。「うるせえ! すぐ泣きやがって……このデブが!」遠藤は近くにあった木を蹴りつけた。「おい、てめえ……」遠藤は再び航を睨みつける。「何だよ」「美由紀の男だったんなら聞いてるんだろ?
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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3-20 DV男、遠藤との対決 4

「お前は最低な男だ……。おとなしそうな女ばかりひっかけて、恐怖と暴力で支配して金を巻き上げて。しかも複数人とな。これは立派な犯罪だ。恐喝だぞ? 今すぐ彼女たちと別れて金を返せ。さもないとこれを警察に渡すぞ?」航はレコーダーを手に持ち、淡々と言った。「フン……いつまで強がっていられるかな……?」突然遠藤が不敵に笑った。「何だよ?」航は首を傾げた。「この俺が何の準備もせずに、ノコノコお前の前に現れたと思ってんのか?」「どういう……意味だよ……」すると茂みからガサガサと音が聞こえ、そこから2人のガラの悪そうな若い男が出てきた。「あ……」美由紀がそれを見て息を飲んだ。(そ、そんな……仲間がいたなんて……航君……!)美由紀は前に立つ航を身体を震わせながら見つめた。「へへへ……。どうだ? 驚いたか?」遠藤は勝ち誇ったように笑う。ほかの2名の男たちも下卑た笑いをした。それを黙って見ていた航は溜息をつく。「ほんっとに馬鹿だな……てめえらは……」「「「何だと!?」」」3人が同時に声を上げる。「準備不足なのはお前らの方だ……。おい、みんな」航が背後の茂みに声をかけた。すると、茂みや木の陰から10人前後の男たちが現れ、ゆっくりと進み出てきたのだ。全員屈強そうな身体の若い男たちばかりであった。中には指をポキポキ鳴らしている男もいる。そして航を中心に左右に並んだ。「ヒイ!」遠藤と2人の男の顔に恐怖が宿る。「俺がてめえのような卑怯な男相手に……1人で来ると思ってるんだ?」冷めた目で遠藤を見る航。そして一歩近づく男たち。「ヒイイッ!! わ、悪かった! わ、別れる! 別れます!」腰が抜けたのか、地面にドサリと座り込んだ遠藤が震えながら航に頭を下げる。「そうか? 別れるんだな? 今の言葉も録音させてもらったからな。金も返せよ?」航はボイスレコーダーを見せた。「あ、ああ……か、金も……必ず返すから……!」「よし、なら仲間を連れてさっさとここから立ち去れ!!」航が怒鳴ると遠藤たちは逃げるように公園を走り去っていった。「ふう…」3人が見えなくなると、航は溜息をついて男たちに声をかけた。「皆さん。ご苦労様でした。それじゃ全員にバイト代払うんで並んでください」「「「「え……?」」」」美由紀たちは間の抜けた声を出した。しかし、それをよそに
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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4-1 リモート会議 1

 季節は7月になり、明日香が空き部屋となっている翔の部屋に越してきてから一月半が経過していた。そして蓮は1種間の内、半分は明日香と一緒に暮らすようになっていた。その申し出は明日香からの強い要望で、蓮もそのことについては何も口に出さなかった。何より朱莉にとっては拒絶することが出来るはずもなく、ただ素直に従うしかなかったのだ。(いずれ私は明日香さんに蓮ちゃんを返さなくてはならないのだから。これはその為の準備期間と割り切るしかないのよ……)朱莉は自分にそう言い聞かせることで納得するしかなかった――**** 「それじゃ、行ってくるわね」玄関先でTシャツにデニム、スニーカーを履いた明日香が体操着姿の蓮の手を握り締めていた。「お母さん。行ってくるね」蓮はニコニコと手を振っている。「はい、蓮ちゃん。行ってらっしゃい。それでは明日香さん。どうぞよろしくお願いします」朱莉は頭を下げた。「よし。それじゃ行くわよ、蓮」明日香は連を笑顔で見下ろす。「うん!」「行ってらっしゃい」朱莉が笑顔で手を振ると、バタンと玄関の扉は閉められた。すると先ほどまで賑やかだった部屋は途端にしんと静まり返る。朱莉は溜息をつくと、バスルームへ洗濯をしに向かった。洗濯物を回し始めると朱莉はキッチンへと向かい、食器洗いを始めた。今朝は明日香と蓮の為にお弁当を作ったので、朝の食器洗いがいつもより多い。このマンションには食洗器がついていたが、朱莉は一度も使ったことがない。何故ならいずれはこの快適なマンションを出て、普通のマンションに移り住むことになる。そこで朱莉はなるべく便利な生活に身を委ねないようにしていたのだった。「ふう……」洗い物をしながら、何度目かの溜息がつい朱莉の口から洩れてしまう。朱莉が今朝に限っていつも以上に憂鬱で溜息をついてしまうのには、大きな理由があった。実は今日は保護者同伴の遠足の日だったのだ。場所は上野動物園で、4月に蓮が幼稚園に入園した時にもらった年間行事案内のプリントを見た時から朱莉はずっと楽しみにしていた。しかし、幼稚園の遠足を知った明日香が是非自分に参加させて欲しいと訴えてきたので蓮に確認を取ったところ、付き添いは明日香でも構わないと言ったのである。そこで保護者代理として明日香が参加することになったのだ。ただ、参加できない代わりに朱莉はお弁当だ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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4-2 リモート会議 2

 修也は父の犯した失態により、負い目を感じていた。(そうだ……僕は父さんの罪も背負っている。それに自分は社長になれる器の人間だとは思えない……)だが、一方の翔は野望に満ちていた。全ての始まりは絶対に自分が社長に任命されるに違いないと思った7年前から始まる。その為には猛にとって目の上のこぶのような明日香との……ましてや戸籍上の妹と恋仲というスキャンダルを隠す必要があった。そこで企てた偽装結婚だったのだ。それなのに翔の運命は大きく狂ってしまった。明日香に逃げられ、気づけば朱莉に恋をしてしまっていた。だが朱莉からはあくまでも蓮の父親としてしか見てもらえない。挙句の果てに10年間存在を消していた修也が現れ、あっという間に自分はアメリカに行かされた。今本社の副社長室の椅子に座っているのはモニター越しに映っている自分の顔によく似た修也なのだ。しかも朱莉が修也に惹かれていることも理解していた。翔はモニターに映る修也をじっと見つめる。(修也……お前には社長の座は渡さない。そして朱莉さんだって……今は俺の大事な女性なんだ……!) 翔と修也の思惑をよそに会長は口を開いた。『翔と修也……この2人のうち、どちらを次の社長にするかは9月に行われる役員会議で決めたいと思う。いいか? 2人とも。次期社長に選ばれる為にそれぞれ実績を積んでおけよ?』 猛は翔と修也を交互に見つめた。『はい、任せて下さい、会長』翔は自信たっぷりに返事をする。『はい、分かりました』修也は頭を下げた。『2人とも……頑張りなさい』竜一は笑顔で2人に声をかける。『では、私はこれで退席する。これから病院に行って検査を受けて来なければならないからな』そしてモニター画面から猛の姿が消えた。『私も失礼するよ。……久しぶりなんだ。2人で話をするといい』竜一も画面から消え、今修也のモニターに映るのは翔のみとなった。「こうして顔を見合わせて話をするのは久しぶりだね、翔」『ああ……そうだな』翔は不愛想に返事をする。「どうだい、そっちの方は? 軌道に乗ってるかな?」 『勿論だ。従業員も増えたし、支店も増えている。業績だって上がってきているだろう?』「うん、そうだね」修也は笑みを浮かべた。『11月には……たとえ俺が社長に選ばれようが、選ばれまいが、日本に帰国することが決まった。俺の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-23
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4-3 3年ぶりの電話 1

 その頃、朱莉はネイビーに餌をあげていた。ネイビーはゲージの中でボウルに開けたラビットフードを口をモグモグさせながら食べている。「フフ……美味しい? ネイビー」餌を食べているネイビーの背中をそっと撫でながら朱莉は掛け時計を見上げると、時刻はそろそろ12時になろうとしている。「そろそろお昼か……。蓮ちゃんと明日香さん、お昼ごはんもう食べ始めているのかな?」朱莉は立ち上がると自分の分の昼食を用意する為にキッチンへ向かったその時、スマホから着信を知らせるメロディーが流れ始めた。「誰だろう?」朱莉はスマホを手に取り、着信相手を見て衝撃を受けた。その相手は翔からだった。(うそ! 翔先輩……!? どうして突然に? 3年も連絡を取っていなかったのに……)もしかしてアメリカで何かあったのだろうか? 朱莉は急いでスマホをタップすると電話に出た。「はい、もしもし」『もしもし、朱莉さんかい?』受話器の向こうからは懐かしい翔の声が聞こえてきた。「はい。そうです」『元気だったかい? どこか身体の具合を悪くしたりはしていないかい?』「はい、私も蓮ちゃんも元気にしています」『そうか……なら良かった」電話の翔の声には安堵が混じっていた。「ところで翔さん。今そちらは何時なのですか?」朱莉は翔が無理をしている時間に電話を掛けてきたのではないかと思い、心配になった。『今? こっちは19時だよ』「そうですか。良かったです」『良かった? 何が?』「いえ、もしそちらの時間が真夜中だったりしたら、申し訳ないと思いましたので」『ハハ……そんな心配をしてくれたのかい? ありがとう。実はね、さっきまでパソコンの画面越しで会議を開いていたんだよ』「そうだったんですね」『朱莉さん……。修也に聞いたんだけど…』「え? 各務さんにですか?」突然翔の口から修也の名前が出てきたので、朱莉はドキリとした。『明日香が今俺の部屋に住んでいるんだって?』「は、はい」(各務さん……翔先輩に話したんだ)朱莉はアメリカで仕事をしている翔に余計な心配を掛けさせたくなくて、相談したいのをじっと我慢していた。それが思いもかけない形で翔に話が伝わるとは思いもしていなかった。『修也が話していた。明日香が蓮を引き取りたがっているらしいね』「そ、そうです……。でも、明日香さんには私の一存
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-24
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