「どうしたの?」 キルシュが訊くが、ファオルはすぐに答えず、静謐が訪れる。「本当にどうしちゃったの? ファオル今日は変よ?」 ──昨晩の事をもしかして気遣っているの? キルシュが近付いて屈んで訊く。ファオルは首を振りキルシュを見上げた。 『ねぇ。キルシュはさ……何があっても、どんな風になったとしても、ケルンをずっと愛し続ける?』 訊かれた言葉にキルシュは硬直した。「何を言っているの……それは勿論。きっと。自分の気持ちに素直になったけど、私は彼の事が好きよ。ずっと一緒にいたいって思っているわ」 ありのままの本心を言うが、途端にキルシュの心に靄がかかった。 ……ずっと一緒にいたい。その気持ちだって偽りは無いが、彼は人ではない。ずっとなんて、永遠なんてありえるのだろうかと。無いだろうと。分かりきっていた答えが散る。 ふと昨日の言葉が頭に過る。 いつかは恋人ではなく、それ以上に。永遠を意味するような言葉を言おうとして……唇を塞がれ〝それは……いつか男の俺から、はっきりと言えたらいいな〟と。 決して断定ではない、いつも堂々とした彼にしては曖昧な答えだった。 それを、まじまじと思い出したキルシュの心は緩やかに熱を失い始めた。 まるで〝甘く幸せな魔法〟が解けてしまうかのよう。 靄を広げるように、不安が広がり始めてしまった。(これ以上、何も言わないで。私は何も知りたくない) 心が酷くズキズキと痛み始める。自然と視界が歪み、ファオルが霞んで見える。 キルシュは胸元を押さえて、今にも泣きそうな面輪でファオルを呆然と見下ろした。 『キルシュはさ、失われた記憶を全部取り戻して、全部受け入れる覚悟ってある? ケルンがどんなになったとしても愛する事ができる? それができないなら──』 ──ケルンをまた忘れる覚悟はある? 続けて
Huling Na-update : 2025-06-19 Magbasa pa