縄にかけられたキルシュとシュネは、渡り廊下を歩んでいた。 イグナーツとユーリ。そして、聖職者らしき老人に連れられ辿り着いた先は、屋敷奥の小さな礼拝堂だった。 臙脂色のカーペットに規則正しく並ぶ長椅子。祭壇中央には国教の象徴──機械仕掛けの偶像を象ったステンドグラスが嵌められている。 キルシュがここを訪れたのは、義父の葬儀のときただ一度。あのときと同じく、祭壇の上には白い棺が置かれ、清楚な白百合が飾られている。 まるでこれから誰かの葬儀が始まるかのように──。 キルシュは青ざめた唇を拉げて、イグナーツを睨み据える。 「器だ。お前たち贄の乙女は、その心臓を捧げるために存在する」 イグナーツの狂気じみた言葉に、キルシュは動じなかった。命に関わることなど、とっくに想定済みだった。 「器……」 訝しげに棺を覗き込んだその瞬間、キルシュは言葉を失った。 そこにいたのは、ケルンだった。 白百合に囲まれ、冷たく静かに眠るような顔。胸は上下せず、秒針のような音もしない。手は組まれ、肌は死人のように白く、微かに焦げた匂いすら漂っていた。 ──どうして? なぜ、こんなことに? 偶像の使徒である彼が倒されるはずがない。その圧倒的な火力は、能有りなど比ではないのに。「どうして……」 声は震え、心は砕けていく。 別れが来る事は、どこかで分かっていた。けれど──なぜ今なのか。 彼はこれを知っていたのか。しかし、道中を思い出しても、そんな風に見えなかった。きっと彼だって、こうなるだなんて想像していなかった筈。 脳は耐えがたい現実を全て拒絶した。 「嘘よ……そんな……ケルン」「ほぅ。この方の事を思い出していたのか。父が何度も〝不要な記憶〟として洗い流した筈なのだが──」 イグナーツの淡々とし
Terakhir Diperbarui : 2025-06-30 Baca selengkapnya