Semua Bab 機械仕掛けの偶像と徒花の聖女: Bab 61 - Bab 69

69 Bab

60話 神堕ろし

 縄にかけられたキルシュとシュネは、渡り廊下を歩んでいた。 イグナーツとユーリ。そして、聖職者らしき老人に連れられ辿り着いた先は、屋敷奥の小さな礼拝堂だった。  臙脂色のカーペットに規則正しく並ぶ長椅子。祭壇中央には国教の象徴──機械仕掛けの偶像を象ったステンドグラスが嵌められている。  キルシュがここを訪れたのは、義父の葬儀のときただ一度。あのときと同じく、祭壇の上には白い棺が置かれ、清楚な白百合が飾られている。 まるでこれから誰かの葬儀が始まるかのように──。  キルシュは青ざめた唇を拉げて、イグナーツを睨み据える。 「器だ。お前たち贄の乙女は、その心臓を捧げるために存在する」 イグナーツの狂気じみた言葉に、キルシュは動じなかった。命に関わることなど、とっくに想定済みだった。  「器……」  訝しげに棺を覗き込んだその瞬間、キルシュは言葉を失った。 そこにいたのは、ケルンだった。 白百合に囲まれ、冷たく静かに眠るような顔。胸は上下せず、秒針のような音もしない。手は組まれ、肌は死人のように白く、微かに焦げた匂いすら漂っていた。  ──どうして? なぜ、こんなことに? 偶像の使徒である彼が倒されるはずがない。その圧倒的な火力は、能有りなど比ではないのに。「どうして……」 声は震え、心は砕けていく。 別れが来る事は、どこかで分かっていた。けれど──なぜ今なのか。 彼はこれを知っていたのか。しかし、道中を思い出しても、そんな風に見えなかった。きっと彼だって、こうなるだなんて想像していなかった筈。  脳は耐えがたい現実を全て拒絶した。 「嘘よ……そんな……ケルン」「ほぅ。この方の事を思い出していたのか。父が何度も〝不要な記憶〟として洗い流した筈なのだが──」 イグナーツの淡々とし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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61話 失意の夜明け

 ──明朝。 キルシュはユーリの御する馬車に揺られていた。  ……昨晩、ケルンは本物の神に成ってしまった。 だが、その悍ましい見た目と同様に、それは決して善なる神ではなかった。 ケルンは、あの直後──人を殺めた。「神堕ろしが成功した」と喜ぶ聖職者を、熱線で焼き払ったのだ。 ほんの一瞬の出来事だった。悲鳴もなく、骨すら残らず塵のように消え、影だけが焼き付いた。 イグナーツはそれを見て、卒倒した。  だが、なぜケルンだったものが、この聖職者を狙ったのかはキルシュには分かった。 なぜなら、《狂信者(ファナティカー)》たちのように、彼の本当の言葉が聞こえたからだ。〝こんな形で恨みを晴らしたって……今更、何が戻るというんだ〟 その言葉から、聖職者に深い因縁があったのだと思しい。 鐘の音とともに脳裏に火の粉が舞う。孤児院を焼かれたあの日の事だ。随分と歳を取ったが、あの聖職者がいた事をキルシュが鮮明に思い出した。 〝殺したいくらい恨んでいるが、本当にそうしたい訳じゃない!〟 ──俺はこんな事、望んでいない。 本当の彼自身は、人を殺めた事への自責の念に苛まれていた。  それでよく理解できた。こうなった彼は《狂信者》とほぼ同じ。自ら意志に関係無く、憎悪で動く生き物と化したのだ。 〝ごめん……ごめんな。俺、キルシュを守れてさえいなかった〟〝俺、無責任で最低だ……ごめん。約束守れなかった〟〝こんな醜い俺を見ないでくれ〟 ──早く消えるしかない。どうにかして、俺を止めないと。  その焦燥の言葉の後、禍々しい鳴き声とともに、慟哭が劈いた。 〝死にたくない、嫌だ! これ以上、手離したくない!〟〝こんな終わり方は聞いていない!〟〝キルシュといたかった……ずっと一緒にい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-02
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62話 亡国の聖女

 ──亡国ツァイト。 その国の政(まつりごと)はツァイト聖教が取り仕切っていた。 国の最高機関は、帝都にある現在のファルカ大聖堂。 そこには十二人の聖者が暮らしていたという。  十二人の聖者は時計の盤面で考えれば分かりやすい。 十二……頂点に君臨するのは〝結実の聖女〟と呼ばれるうら若い娘だったそう。  結実の聖女に選ばれるのは、命を芽吹かせる唯一の権能──キルシュと同じ草花の芽吹かせる力を持つ《聖痕保有者(スティグマ)》の娘が選ばれたそうだ。 この権能を持つものはそうそう生まれない。決まって女性。 命を芽吹かせ、〝再生〟を象徴する──尊い力。『時代こそ違うけど、キルシュは今代の聖女。その器なんだ』 ファオルは涙で濡れた声で静かに語る。 そして──『大好きな友達だった』と。 ──唯一、命を生み出す事ができる権能。木の属性。草花の権能は最も美しく、最も醜い。 内陣(チャンドル)の中の隠し部屋で読んだ、書物の内容をキルシュは思い出した。『先代の聖女はアプフェル。キルシュと同じ茜髪にペリドットみたいな瞳の女の子だった。顔立ち背丈、声まで瓜二つ。それに名前だって二人とも実を結ぶ花の名前だもん』 ──林檎(アプフェル)と桜桃(キルシュ)何もかもが、そっくり。 懐かしむように言うファオルだが、その声は今にも泣きそうに震えていた。  そんな国の頂点、アプフェルの仕事は、刻の偶像から神託を受け取る事と祈りを捧げる事。実際には国の運営に関わる事は無かったらしい。 謂わば、頂点は表面上。〝お飾りの聖女様〟だったそうだ。  それは当の本人も自覚し、飾りの立場に嫌気が差していたそうである。 だが、同じような爪弾きはもう一人。 十二と対局にある六の聖者──聖女の侍従である聖騎士も然り。二人でよく文句を垂れていたそうだ。  ましてや、第六聖者は彼女よりも幾らか年下。 騎士とはいえ、まだあどけない少年だ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-04
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63話 大聖堂に佇む影

 ※    同日の夕刻。  宵の帳が落ちた帝都ファルカの中心地に聳える大聖堂の鐘楼にケルンだったもの──機械仕掛けの偶像、デウス・エクス・マキナは佇んでいた。    大都会のファルカは夜も明るい。  ましてや今の季節は雪明かりもある所為で、昼同様にその姿はしっかりと見える。行き交う人の群れは悍ましい神の姿に気付いていた。    パトリオーヌ女学院の寮。そこでも大聖堂の頂点に佇む機械仕掛けの怪鳥の姿は、はっきりと確認できて、女子生徒達は窓辺でその姿を眺めていた。   「機械仕掛けの偶像?」 麗しき令嬢ブリギッタは神妙な面持ちでその影を見つめていた。   「そんなまさか……」  ──馬鹿馬鹿しい、ありえもしない。と、彼女が鼻で笑った須臾だった。    その影は突然煌々と光る黄金の粒子を巻き上げたのである。  黄金に光る粒子──それは瞬く間に幾重もの幾何学模様が火輪の紋様を描く。    一拍も立たぬうちだった。轟音を巻き上げ火柱が立ち上がる。  咄嗟にブリギッタは窓から 遠ざかり床に伏せた。瞬く間に襲い来るものは強い振動と窓硝子のバラバラと鋭い音を上げて割れる音──間髪入れずに、窓の外からは次々に爆破音や人の悲鳴が劈いた。   「嘘でしょ……何が起きているの……どういう、こと?」    揺れがおさまり、伏せたブリギッタが怖々と外を見る。  砕け散った窓の外の景色──見慣れた筈の都会の夜景は、一瞬にして変わり果てた。  それはまさに終末。赤々とした業火が揺れる、終わりの世界に変わり果てていた。 ※ 馬車の中、膝を抱えていたキルシュは延々と黙考に耽ていた。  と、いうのも……あまりのショックのせいか、これまですぐに忘れてしまった記憶が戻ってしまったのだ。まるで呪いが覚めたよう。  義父に行われた洗脳や、幼少期の記憶を思い出してしまっていた。『キルシュ……全部終わったら、怖かった時間の記憶、悲しかった記憶。僕が全部貰おうか?』 ファオルに訊かれるが、キルシュは何も応えられなかった。 『あのね。万が一にも最悪な事が起きた時、ケルンにキルシュの記憶を完全に消した方がいいのかなって話をした事があったんだ。僕ら〝使徒〟の事もね。辛い記憶になったら可哀想だって。ケルンは何も応えられな──』 「嫌だ」 キルシュは、ファオ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-07
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64話 予期せぬ再会

帝都は、炎の群れが這うように広がり、いたるところから黒煙が噴き上がっていた。 時折、どこかで爆音が弾ける。そのたびに鼓動が跳ねたが、それでもキルシュは駆ける足を止めなかった。 小雪はいつしか、吹雪へと変わっていた。熱いのか寒いのか分からない。ただ、額から汗が伝っていた。 ──その最中、ふと、遠い記憶が蘇った。 発熱で意識が朧な中、子どもたちの悲鳴が響き渡る。 無骨な男の腕に抱えられ、強引に引きずられるように連れ出されたあの日。 寒いのに熱い、と感じたその瞼の向こう。 火の粉が降る空の下、教会が焼け落ち、悲鳴が咽び──血塗れの彼が倒れていた。(ケルン……) その情景をありありと脳裏に描きながら、キルシュは息を呑んで立ち尽くす。 視界に入る炎、火の粉──そして、大聖堂から鳴り響く鐘の音。 忘れない。いいえ、忘れてはいけない。 これは私の大切な記憶。もう、手放さない。 炎を映す若苗色の瞳に、涙の膜が薄く張る。だが、キルシュはすぐにそれを拭った。 『キルシュ?』 心配そうに呼びかけるファオルにキルシュは首を振る。「大丈夫よ。少し昔の事思い出しちゃったの……急ごう」 そうして再び駆け出した直後──女性の叫び声が、風に乗って耳に届いた。(逃げ遅れた人……?) そこは、かつての女学院寮の近く。姿を変えた帝都の中で、キルシュはその場所を思い出す。 人の気配は今の今までなかった。生徒たちもとっくに避難しているはず。 けれど、その声は確かに『生きている』声だった。 崩れかけた煉瓦造りの寮に向かい、風鳴りがひときわ強まった刹那──『助けて!』 少女の悲鳴が届いた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-10
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65話 愛してるとさよならを伝えに

 大聖堂の壁面に彫られた聖者たちの像がはっきりと見えはじめ、もうすぐ目的地に辿り着く──そんな時、空気を震わせるような低い音がビリビリと響き渡る。  大砲だ。    向かう先には数々の怒号も聞こえた。  キルシュは走るスピードを落とし、歩んで間もなく。  火の粉と雪のベールの先、軍服の男たちの姿が見えてきた。(ツァール軍……? どうしよう)    見つかれば、問答無用で摘まみ出されるに違いない。キルシュが立ち止まった途端だった──。   「その制服……パトリオーヌ女学院か!」 「怪我はないか? 北は火の手がまだ遅い、今なら避難できる!」 数名の兵士が気付き、駆け寄ってくる。その顔は心からの心配を浮かべていた。避難者を守る者としての純朴な誠意。それがかえってキルシュの胸に、ずしりと罪悪感を残した。『見つかっちゃったね……』 肩に留まるファオルが、ばつが悪そうに囁く。 キルシュは困惑する。だが、この場を切り抜ける道は一つしかなかった。正攻法ではなく、強引にでも突破するしかない。  相手は男、それも軍人。正論は、力でしか通らない。「さあ、もう大丈夫だ。一緒に行こう」 優しげな笑みを浮かべた中年の兵士の手が、キルシュの背を軽く叩いた。その善意が痛い。どうして、こんな国の軍人が優しくあるのだろう。(お願い、少しだけ私に味方して……) キルシュは肩越しにファオルに目を遣る。ファオルは小さくため息をつき、囁いた。『二時の方向。彫刻の脇の空洞、見える? そこに向かって具象を放って。蔓を使って大聖堂に入るんだ。時間はないよ』 キルシュは、わずかに頷く。それを兵士たちは、避難の意思表示と受け取ったのか、安堵の表情を見せた。 その表情が、心のどこかに最後の迷いを生んだ。けれど、迷っている暇はない。   「……あれ、知ってますか? ツァールの信仰が造った、能無しの神――機械仕掛けの偶像です」 唐突な言葉に、兵士たちは怪訝そうに顔を見合わせる。「そうだろうなと、みんな噂してるよ。あれは天災の化身か、それとも……」 「違うわ」 キルシュはきっぱりと遮った。「あれは、犠牲者。ツァール聖教の罪が生んだ哀しき結末。私は古きツァイトの崇拝者にして頂点《聖痕保有者(スティグマ)》の徒花の聖女。どうか、どいて。聖域に入らなければならないの」 そ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-12
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66話 やっと会えた本当の〝あなた〟

 ──数秒前、大聖堂前。 ツァール軍は聖堂前の広場に数台の大砲を設置し、次々と砲弾を装填していた。  聖域に向かって砲撃を加えるなど、本来ならば神をも恐れぬ愚行だろう。  だがそれも、ツァール聖教と皇帝陛下直々の命により正式に許可された作戦である。  そのため、帝国軍は迷うことなく、機械仕掛けの怪鳥に向けて繰り返し砲弾を撃ち放っていた。 だが、命中しない。  否、確かに当たってはいる──しかし、怪鳥はそれを防御しているのだ。砲弾は奇妙な力に弾かれ、空中で火花を散らすばかり。 その最中だった。  双眼鏡を構えていた若い兵士が、突拍子もない声を上げる。「お、おい……あれ、女の子じゃないか?」 煙と雪と火の粉の帳の中──小柄な少女が、怪鳥の首元にしがみついて、何かを懸命に叫んでいた。  制服は、パトリオーヌ女学院のもの。焦げ茶色の外套が風に翻える。「ああ……さっきの子だ」    一人の中年兵士が、沈鬱な声音で呟く。   「能有りだった。あの怪鳥が恋人だったんだと……別れを告げに来たってさ。あれが機械仕掛けの偶像だと……そう言っていた」 その顔には憐れみと迷いが滲んでいた。  兵士は言葉を濁し、灰色の空を見上げる。「そんな。あれがあの子の彼氏と?」 「いや、目が〝本気〟だった。……俺の娘も、あのくらいの歳でな。能有りだろうが、やっぱり心配になるさ……」 そんな兵士たちのやりとりを黙って聞いていたのは、場を指揮する腕章を付けた壮年の軍人だった。  彼は口元に煙草をくわえ、煙をくゆらせながら、何かを閃いたように目を細める。「なるほど、能有りか。……ならばなおさら、巻き添えで死のうが構わん。どうせ被害は甚大だ。一人増えたところで何も変わらん」 そう吐き捨てたその顔には、冷笑が張り付いていた。「万が一、その話が本当で──あの怪鳥があの娘に反応する可能性もあるだろう」「ま、待ってください!」  少女を案じた兵士が慌てて抗議の声を上げたが、壮年の軍人は冷ややかに手を振った。「撃て。目標をあの娘に変更。砲身を少し右に振れ」 そうして顎で砲手に指示を出す。「ああ、どうか──恨んでくれるなよ。……我らが邁進なる発展のために」 砲手は無言で胸の前で十字を切り、短く祈ると、導火線に火をつけた。 ※ 何が起きたのか、キルシュにはすぐ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-15
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67話 六万五千の刻を超えて

 直後、機械仕掛けの偶像は、花びらが舞うようにキラキラと光に還っていった。 残されたのは、彼──ケルン自身。 侵蝕はすでに深く進んでいたものの、人の姿を取り戻した彼は、釣り上がった黄金の瞳を細め、無骨な腕でそっとキルシュを抱き寄せる。 「キルシュに、最後のお願いがある。……俺の《心》を全部、貰ってくれないか。ひでぇ事、言ってるのは分かってる。これが最後の我が儘だ……その先、別の誰かと結ばれたっていい。でも俺、キルシュにだけは、忘れられたくない」 どこで息をしているのかも分からない、消え入りそうな声だった。 彼は、何度もキルシュに謝罪の言葉を繰り返した。 キルシュは、彼の手を強く握りしめ、何も言わずに頷いた。 拒む理由が見当たらなかった。 否、受け入れるべきだと、はっきりと思えた。 これが運命で、これが生きる意味なのだと……。 キルシュは、か細い息を上げる彼の唇に、そっと自分の唇を重ねた。 もう力が残っていないのだろう。彼はただ、やんわりとキルシュの唇を食む。 その瞬間──キルシュの脳裏には、夥しい彼の記憶が一気に流れ込んできた。 ──レルヒェの市場へ使いに出た少年時代。 盗みを疑われた彼を庇ってくれた、茜髪の小さな少女がいた。 子供たちの中で一番のチビ。強気なくせに、すぐ泣いてしまう。 その少女の名は、熟れた桜桃を思わせる茜色の髪にふさわしく、キルシュといった。『ケルンに意地悪しないで!』 稚い声で泣き叫んだあの日から、彼は彼女に惹かれていた── 素直で、純粋で、笑った顔が格別可愛い。そんなキルシュが初恋だった。 時を経て、礼拝堂のステンドグラスの下で、永遠の友情を誓い合い、未来では恋人として生き、必ず守ると誓った事。  運命に引き裂かれたあの日の、底知れぬ絶望と憎悪。 啓示として渡された未来の断片……自ら選んだ運命の事。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-17
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68話 永遠の夜に咲く火輪の花

片や、正面からナハトに対峙したキルシュは、うつむきながらも小さく笑い出した。 「ねぇ……頭が悪い私が言うのもなんだけど、憎悪の神って随分と知能が低いのね? 貴方、私の本当の願いをまるで見抜けてない。私は彼の教えてくれた《希望》だけは、絶対に忘れられない」 ──だから、私は貴方に《心》なんて渡さない。 強く言い放ち、顔を上げたキルシュは、瓦礫の上に倒れていたファオルに鋭い視線を投げる。 「いつまで寝たままでいるの! 甘えないで! あなたの目と耳は、今まで何を見て、何を聴いてきたの? 私とケルン、二人分の信仰と《心》じゃ、まだ足りないのかしら!」 ──目覚めなさい、クレプシドラ! キルシュの叫びに応えるよう。ファオルの身体がまばゆい金の光に包まれ、渦巻く粒子がひとつの人影を形づくっていく。 『我は未熟で、不甲斐ない神。だが、その声は確かに聞き届けた』 厳かだが、どこかファオルに似た子どもの声だった。 やがて光が晴れると、翠の髪と黄金の瞳を持つ、小さな人の姿が現れた。 白を基調とした短いローブには、繊細な金の幾何学模様が縫い込まれている。耳にはファオルの瞳に似た赤い飾りが揺れ、胸元には金の砂が詰まった砂時計──それが、刻を司る神・クレプシドラだった。 ──亡きツァイト王国で信仰されていた古の神。男とも女ともつかない、まるで人形のように愛らしい子どもの姿をしていた。 「この国なんてどうでもいい。でも、罪もない人たちが苦しむのはもう嫌。未来には希望がある筈。憎悪を、闇を、私は打ち砕きたい」 ──
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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