書き物机に向かい、帳簿に向かうブリギッタは深いため息をつきながら、眉間を揉む。 帝都炎上からというもの、女貴族たちは皆、忙しない日々を送っていた。 本来、ツァールの女貴族の務めといえば──花を愛で、刺繍に親しみ、教会での慈善バザーに顔を出す事。特に何もせずとも聡くある事。これが仕事だ。 けれど、帝都が崩れて以来、領主である男性たちはみな帝都の復興の為に出向き、留守を預かるのは女たちとなった。 しかし、女手さえ足りていない領では、聖職者や名門家が代わりに政を担っているとも聞く。 ──それでも、やはり「学識こそ宝」と教えられてきたのは間違いではなかった。 計算ができる事が幸いし、数字に纏わる事務作業をそつなくこなせる事で、今の自分をどれほど助けているか。 だが、問題は量だった。 支援物資、避難民への義援金、それらに関する出納帳が山積みとなって、日が暮れても帳簿の終わりは見えなかった。 (……さすがに、くたびれるわね) ブリギッタは癖も無い青肌色の髪をくるくると指に絡めながら、暗算に集中していると──バタン、と扉が荒々しく開く音がして、思わず眉をひそめる。 見なくても誰が入って来たか分かる。 乱れた金髪に碧眼、息を切らしながら駆け込んできたのは──帝都からともに逃れてきた南部辺境地・ヴィーゼ伯爵家の使用人、ユーリだった。 「ブリギッタ嬢、大変だ!」 彼はまるで火急の知らせでもあるかのように声を張り上げる。 ──彼とは、帝都崩壊の最中に知り合った。学院で負傷したブリギッタを、キルシュの命を受けて、メーヴェの領地まで送り届けてくれた恩人だ。 その後、帰郷するように言ったものの、彼は「神堕ろしの証人」だと語り、南部への帰還をためらった。 恩義と恐れ。そのどちらもが彼の胸にあったのだろう。結果、彼は西部に留まり、屋敷の雑務を手伝ってくれていた。 まして、現在は、宗教改革が起きて、南部辺境地はまさに今騒動の渦中に置かれている。〝帰りた
Terakhir Diperbarui : 2025-07-24 Baca selengkapnya