アレス帝国の使者を迎えて、パルティア王宮ではもてなしの宴が開かれていた。 帝国の第三皇子に嫁いだパルティア王女の懐妊が発表されてしばし。 パルティア側から贈った祝いの品の返礼として、使者がやって来たのだ。 ヴァリスは騎士団長として、警備の最高責任者の立場と貴族位を持つ者の両方で宴に出席していた。「皇子妃殿下は健やかにお過ごしでございます。どうぞご心配なさらぬよう」 宴席で帝国の使者が言う。彼はメイデスという名で、帝国の高官だった。 パルティア国王はうなずいた。「嫁いで手元を離れたとは言え、あれは我が愛娘。生まれてくる子は帝国の皇室と我がパルティア王家の両方の血を引く尊い存在である」「おっしゃるとおりでございます」 この話を聞いていたヴァリスは少し違和感を覚えた。 皇子と王女の結婚は当然ながら両国の利益を打算したもの。 けれど両国の血を引く子の存在はどういう立ち位置になるだろうか。 パルティアとアレスの友好の証だろうか? それとも。 宴はつつがなく進んでいく。 張り巡らされた警備網に穴はなく、不審者の報告も上がっていない。「ヴァリス殿。こちらはアレス帝国名産のワインです。ぜひご賞味を」 メイデスの部下がワイングラスを差し出したので、ヴァリスは受け取った。一口飲む。「香りが素晴らしい。色も鮮やかで」「そうでしょう。まるで血のような赤」 ふと。『ヴァリス、気をつけろ。何かがおかしい』 腰に吊るしていたヨミの剣から声がした。 いつもはヘラヘラとふざけているくせに、初めて聞くような切迫した口調だった。『なんだ、これ、は……!』 柄に嵌め込まれた宝玉がチカチカと明滅している。 いつもは真紅の色なのに、光が瞬くたびに色褪せていく。灰色になっていく。(ヨミ、どうした) ヴァリスは心の中で剣に話しかけた。 返事はない。『…………』 返事はな
Last Updated : 2025-06-18 Read more