雪の民のテントの中で、俺たちは楽しく過ごしていた。 料理は肉と魚が中心で食べごたえがある。「これらの肉料理は、我らが狩った獲物のもの。雪の民は狩りに長けているのだ」「魚は北の海で獲れたものです。北の寒い海を泳ぐ魚は、脂がよく乗っていておいしいのですよ」 イーヴァルと妻が交互に言う。 肉は野生動物や魔物、それに飼っているトナカイのものなどもあった。 他にも鳥(海鳥か? 割合に大きな鳥だ)もある。 ほとんどがきちんと調理されたものなのだが、ときどき生肉がある。 さらに魚は独特で、なんていうか、発酵食品? みたいなニオイがする。なかなか強烈だ。 魚が生なのは前世日本人の俺としては馴染みがある。 凍っているのはさすが北の土地だな。冷凍庫がなくても屋外に出しておけば冬は凍る。 雪が残ってれば保冷剤にもなるんだろう。 で、クマ吾郎は喜んで食べているけれど、俺とイザクは手が止まってしまった。 俺達の様子を見てイーヴァルが言う。「ふむ。やはり客人は、生肉が嫌いか。魚の発酵料理も」「嫌いというか、今まで肉を生で食べる機会がなかったので、戸惑っています。あと発酵料理は、ニオイがちょっと慣れなくて」 俺は相手を刺激しないよう、当たり障りのない言い方をした。 正直言えば生肉にはいい思い出がない。 一番最初に森の民ルードに助けられたとき、いきなり生肉を食わせられて吐いたからな。 イーヴァルは苦笑した。「無理に食えとは言わぬよ。ずっと昔にパルティア人と交流した際も、彼らは生肉や発酵料理を食べなかったと聞いている。だが、我らにとっては必須の食物なのだ。食べなければ体を壊す」 無理強いされなくてほっとする。そしてふと気づいた。 食卓には生野菜がほとんどない。 これ、たぶんビタミン不足なんじゃないかな。 ビタミンの多くは加熱で壊れてしまう。 だからビタミンを補うために生肉を食べる。肉にもビタ
Last Updated : 2025-05-07 Read more