厨房を後にした白冰は、別邸の方へと足を向ける。白家の別邸はいくつかあるが、その中の客人用の別邸は本邸の西側にある。渡り廊下で繋がっているため、行き来は比較的楽で外に出る必要がない。 渡り廊下の下は水で満たされていて、そこには白い蓮の花と青々とした葉が浮かんでいる。夏の頃は非常に涼しくて良いのだが、冬になると凍りはしないがかなり寒さを感じさせる造りだ。 碧水の都は湖の上に建てられた建物が多く、市井の方は運河を行きかう商人たちの舟が特徴的で、水と共存した生活を送っている。故に碧水は湖水の都と呼ばれているのだった。 西の別邸の扉を叩くと中から扉が開かれ、見下ろし見下ろされる形で翡翠の大きな瞳と目が合った。翡翠の瞳の彼は、へへっと顔を緩めて敵意をこれっぽっちも感じさせない無防備な表情で、こちらに笑みを見せた。「無明、竜虎殿、片付けは終わったかい?」「うん。ほとんど清婉がやってくれたおかげでもう済んだよ。白冰様たちも玄武の宝玉の封印終わったんだね」 白冰はこの数日の関わりで、無明が時々敬語を使わないことに対して少しも腹が立たなかった。むしろ新鮮で、それを許せる雰囲気が彼にはあり、自然すぎてそれを無礼だとかそんな風に思う事すらなかったのだ。「君たちも初めての長旅で色々と疲れただろう? 休ませてあげたいところだけど、母上がどうしても君たちのために宴を開きたいと言うものだから、もう少し付き合ってもらうと助かる。金虎と違って豪華なもてなしはできないが、食事会だと思って気軽に楽しんで欲しい」「お心遣いありがとうございます。まだ挨拶もできていないので、場を設けてもらってこちらも助かります」 きっちりと腕を囲って揖し、もうひとりの公子である竜虎は挨拶をする。 無明とはまた違い、公子らしいこの少年には道中きつい態度を取ってしまった。弟が絡むと大人気なくなってしまう自分の余裕のなさに、反省せざるを得なかった。「あと、俺のことも竜虎と呼んでください。明日からはこちらで修練も参加させてもらうつもりです。それに、白冰殿と違い俺はまだまだ修行の身なので、殿などと呼ばれる資格もないですし」「資格がないというのは違うと思うけど、師と弟子としての関係ならばこちらも気兼ねなく呼ばせてもらおう。でも私は君の師にはならないけどね」 え? と竜虎は首を傾げる。白冰は大扇を開き口元を隠すと
Terakhir Diperbarui : 2025-07-14 Baca selengkapnya