「私たちはこれから一方的に話をすると思う。君の質問には答えられない。なぜなら私たちは、ただの記憶の欠片でしかないのだから」 無明は言葉を失う。 あの時、狼煙が少しも迷うことなく間違いないと言った意味が、今更わかってしまった。だってこんなにも自分とそっくりなのだから。「私たちの前に君がいるということは、また繰り返されてしまったということだね。すべての記憶を消去して、真っ白な神子がこの世に生まれ落ちた。つまり君は、色んな意味で始まりの神子ということになる」「今までの神子とは違い、記憶を受け継いではいないし、生まれた環境によって性格も違うかもしれない。けれどもその魂は同一。四神との契約も可能。そしてその体質も同じもの」 前後で交互に会話が行われる。どちらも同じ声だが、前の方の神子は明るく楽しげな声音で、後ろの始まりの神子の方はどこか静かで落ち着いた印象があった。「国ができる時、神は神子の身体を使って四神と黄龍を生み出した。それはのちに土地を守護する聖獣となり、その地で一番霊力の強い者にそれぞれの血を飲ませたことで、今の五大一族が各地を統べることになる。直系だけが特殊な力を持つのはその名残とも言える」「陰と陽は隣り合わせ。神はもちろん光と闇を創った。晦冥の地を統べていたのは、闇神。黒曜という名の神だった」 晦冥を統べていたということは、烏哭の宗主は人ではなく黒曜という名の神だったということだろうか。「この身体は魂を宿して生まれたその時から、特殊な体質になる。神と名の付く存在のみが善でも悪でも子を宿せる。孕ませるにはその霊気を注ぐ必要があり、女でも男でも例外はない。善神であれば神子の眷属が生まれ、邪神であれば闇の化身が生まれる」「かつて始まりの神子であった私は、彼の、黒曜の傍にいることを望んだ。故にこの身と魂をふたつに分け、もうひとつの魂が神子として永遠に転生し、この地の穢れを浄化することになったのだ」 どういうことだろう? と無明は始まりの神子の言葉に眉を寄せる。しかしその答えはすぐに神子たちから語られる。「黒曜は本来、穢れをその身に移すのが役目だった。しかしこの地は延々と穢れを生み続けた。やがて、彼の中で溜まった穢れから生み出された邪神が彼を蝕んでいき、邪神は時折彼に成り代わって私に闇の化身を生ませた。それがのちに烏哭の四天となったのだ」「黒曜
Last Updated : 2025-08-25 Read more