All Chapters of 元夫、ナニが終わった日: Chapter 961 - Chapter 970

真司「乗れ、送っていく」佳子はまだ断ろうとしている。「自分で帰るわ」だが真司はそのまま彼女の手首をつかみ、高級車の助手席のドアを開け、彼女を押し込んだ。佳子「……」……三十分後、佳子と真司は別荘に戻った。使用人が慌てて迎えに来た。「葉月さん、旦那様、お帰りなさいませ」佳子はうなずきながら言った。「先にお風呂に入ってくるわ」そう言って彼女は真司を置き去りにし、そのまま階段を上がっていった。部屋に入った彼女はゆっくりと湯に浸かり、出てくると医者から渡された妊娠用のオイルを取り出し、体に塗り始めた。天美は自分より若い。佳子は自分に自信があるが、それでも妊娠のせいで体型が崩れたり、妊娠線ができたりするのは嫌だ。たとえ妊娠中であっても、美しくありたい。手の届くところまでは塗り終えたが、背中だけが届かない。彼女は腕を伸ばしたが、どうしても塗れなかった。その時、「カチャッ」と音を立ててドアが突然開き、誰かが入ってきた。佳子は慌ててうつ伏せになった。赤ちゃんを圧迫するのが怖く、枕を自分の身の下に敷いた。「美和（みわ）、ちょっと来て。オイルを背中に塗ってくれる？」ドア口で真司は固まった。入ってきたのは使用人ではなく、自分なのだ。彼はずっと離れず、今入ってきたところで、横たわる佳子を目にした。出て行こうと思った矢先、彼女に呼び止められてしまった。真司は後ろを振り返ったが、美和の姿はない。音がしないので、佳子はもう一度呼んだ。「美和、手伝ってよ。背中には手が届かないの」真司は長い脚を踏み出し、中へ入った。佳子は風呂上がりで、寝間着を身に着けている。後ろの腰ひもは結ばれておらず、白く細い背中が大きく露わになっている。真司の喉仏がごくりと動いた。その寝間着は短く、下から白い脚がすらりと伸びている。部屋の中は彼女の甘いバスの香りで満たされ、惑わせるようだ。彼女は相手が真司だと知らず、オイルを差し出した。「美和、これを背中に塗って」そして再びうつ伏せになった。真司はオイルを手に取り、不器用に掌に絞り出してこすり合わせると、大きな手を彼女の背中に置いた。佳子の背は美しく、肌はなめらかだ。触れた瞬間、彼の手いっぱいに滑らかさが広がり、その切れ長の目に熱が宿った。真司はオイルを塗り広げ、ゆっくりと下へと

真司は突然、鼻血を流した。佳子は指を指しながら叫んだ。「藤村社長、鼻血が出てる！」まだ何も気づいていない真司だが、佳子に指さされると、ようやく彼は気づいた。指で鼻先を触ると、指先に血がついている。自分が鼻血を！真司は動きを止め、すぐさまシャワールームへ駆け込んだ。その鼻血を水で洗い流そうとしているのだ。ぷっ。佳子は思わずうつむいて笑ってしまった。あれほど「感じない」と言っていたのに、結局は鼻血を流している。こんな恥ずかしい出来事、何年も笑い続けられるだろう。彼女は寝間着を整えてからベッドを降り、シャワールームの扉へと歩み寄った。洗面台の前では、真司は冷水で顔を洗っている。佳子は艶やかに戸口へ寄りかかり、にやりと笑った。「あら、藤村社長、なんで鼻血なんか出したの？空気が乾燥してるから、社長も暑いと感じたのかしらね？」彼女が自分をからかっていることは真司にも分かっている。だが、反論できる言葉はない。口ではごまかせても、身体は正直だ。鼻血という形で証明してしまったのだから。佳子がまだ彼をからかっている。「藤村社長の体で一番強いのは口だけじゃない？」真司は水を止め、振り向いて彼女の前へ進み出た。その美しい笑顔を見つめ、彼は低く言った。「俺の体で一番強いのがどこか、君、知ってるだろ？」佳子「……」その言葉の意味を理解するのに数秒かかり、佳子の笑みは引きつった。真司はさらに一歩近づき、彼女を追い詰めた。「そんなに可笑しいか？じゃあ俺の一番強いところ、見せてやろうか？」空気は一気に濃厚に染まり、艶めいた雰囲気が広がっている。佳子のまつげが震えているが、後退はしなかった。彼女はむしろ一歩前へ踏み出し、二人の体は薄布を隔ててぴたりと重なり合った。男性と女性の硬さと柔らかさが絡み合い、空気は一気に熱を帯びてきた。佳子は挑発的に眉を上げた。「いいわ。藤村社長の一番強いところ、ぜひ見てみたい」真司の表情が変わった。彼女の白い小さな手が彼の胸に触れた。下に滑らせるたび、緊張した筋肉が次々と硬くなり、欲望を必死に抑えているのが伝わってくる。佳子は手をさらに下へと滑らせている。「藤村社長の一番強いところって……ここかしら？」その手は腰元へと下り、皮のベルトを指先で引っかけている。彼

佳子は、逸人が次にどんな手を使ってくるのか知りたい。通話ボタンを押すと、すぐに逸人の声が伝わってきた。「もしもし、佳子、時間ある？一緒に食事に行こう」佳子「私たちの関係は食事に誘うほど親しいとは思えないわ。特に用がないなら切るわよ」佳子は電話を切ろうとした。しかし逸人が引き止めた。「佳子、待ってくれ、切らないで。会って話したいんだ、藤村のことについて」真司に関することを話したい？佳子は冷ややかに笑った。「いいわ。今から行く」カフェに着いた佳子は、すぐに自分を待っている逸人を見つけた。彼の前に座ると、佳子はまっすぐに見つめて言った。「話して。真司がどうしたの？」逸人は唇の端を持ち上げた。「焦るな。まずはコーヒーでも飲もう」佳子は目の前のカップを見つめた。「このコーヒーは飲めないわ。中に何か入ってるかもしれないじゃない」逸人は黙ったままだ。佳子は続けた。「私に薬を盛って、手術台に縛りつけた。あなたって本当に狂っている。何でもやるのね！三年前に真司を傷つけ、崖から落として顔を潰したのもあなたでしょ？しかもその罪を私に着せた！」逸人の顔色が少し変わったが、認めようとはしない。「何を言ってるのか分からないな。君たちの仲がうまくいかないからって、俺を責めるのはおかしいよ。俺は本当に何もしていない」佳子には、もはや逸人が昔の彼だとは思えない。どうして彼がこんな人間になってしまったのか、理解すらできない。当時、逸人に裏切られた時でさえ、佳子は彼を恨んではいなかった。それなのに、彼は何度も彼女と真司を傷つけ続けてきた。逸人はコーヒーをひと口飲み、口を開いた。「佳子、今藤村のそばにはもう新しい女がいる。その相手は林じゃないけど、木村天美という人だ。昨夜は彼女と一緒にショッピングモールを回って、ダイヤのブレスレットを買ってやったそうだよ」え？佳子は一瞬固まった。昨夜、真司は天美を連れて買い物に行き、ダイヤのブレスレットまで贈ったの？逸人は薄く笑った。「ほら、君と藤村の関係だって、大したもんじゃなかったじゃない？木村はもう彼の新しい恋人になってる。君はここで必死に子どもを産もうとしているのに、彼は外で楽しんでいるじゃないか」佳子は眉を寄せた。だが、逸人の言葉を本気で信じてはいない。「お腹の子は真司の子でもあるけ

真司は冷ややかに言い放った。「誰と会おうと構わない。だが千代田だけは絶対に駄目だ！今後一切、彼とは会うな！」会社にいた真司だったが、家の使用人から「葉月さんが出かけました」と連絡を受け、進之介に調べさせたところ、逸人と会っていると分かったのだ。真司にとっては、佳子が誰とでも会っていい。ただし逸人だけは例外だ。佳子「藤村社長が私に千代田と会うなって言うなら、私からも条件を出す。私は木村天美が嫌い。だからあなたも彼女と会わないで！」真司は一瞬言葉を失った。それは明らかに彼の予想外の要求だ。「木村は俺の秘書で……」「だからこそ解雇して、今後も彼女を藤村グループに入れないで。できる？」彼は自分が逸人と合うのを禁じるなら、自分だって彼と天美の接触を禁じたい。彼はできるの？彼ができるなら、自分だってできる。真司の端正な顔には特別な感情が浮かんでいない。「俺は……」彼が何か言おうとした。そのとき、ある甘ったるい声が響いた。「藤村社長」佳子が顔を上げると、天美が来た。また？本当にどこにでも現れる。佳子は頭痛さえ覚えた。天美は笑顔で近づいてきた。「藤村社長、葉月さん、こんにちは」佳子は冷ややかに応じた。「木村さん、どうも」「藤村社長、これからは会社に行かれますか？」と、天美は真司に聞いた。真司は首を振った。「行かない」「藤村社長、さっき内村さんから電話があって、久しぶりに集まろうっておっしゃいました。今夜、バーで飲むそうです」真司は唇を引き結んだ。「分かった」「藤村社長、今夜は社長と内村さんたちのプライベートな集まりですよね。私もご一緒していいですか？ダンスもできますし、お酒も強いので、藤村社長の代わりに飲めますよ」真司を仰ぎ見るその小さな顔は甘美で、目には恋心が溢れている。しかも、わざと佳子の前でそんな言葉を繰り広げているのは明らかだ。佳子は冷たい目で彼女の下手な芝居を眺めている。結局は真司がどう出るか。彼が受け入れるかどうか、それだけのことだ。真司は佳子に一瞥を投げ、口を開いた。「今夜は君も一緒に来い」天美が同行を願ったのに、彼は逆に佳子を誘った。佳子は反論しようとした。しかし、真司は続けて天美にも目を向けた。「君も来ていい」結局、天美も許された。本当は断ろうと

天美は涙をにじませ、いかにも可哀そうそうに真司を見ている。普通の男なら、その姿に心が揺らがないはずがないだろう。だが、真司はむしろ機嫌が良さそうだ。さっきのすべてを見届けた彼はふいに薄い唇を持ち上げ、気怠そうに笑った。「相手が手強いって知っていながら、わざわざちょっかいを出すんじゃない。殴られても当然だろ？」天美は絶句した。この人、自分の言っていることが分かっているの？慰めも、心配も、佳子を諌めることもない。むしろ自分を責めるなんて？どうして……天美はさらにかわいそうに声を震わせた。「藤村社長……」真司はその話の途中で遮った。「乗るか？彼女と同じ車が嫌なら、自分でタクシーを拾ってバーまで来い」そう言い捨て、真司はさっさと運転席に座った。天美は風に吹かれながら呆然とした。怒りが彼女の胸を焼いているが、ここで爆発するわけにはいかない。絶対に佳子と真司を二人きりにはさせない。天美は後部座席のドアを開け、無理やり乗り込んだ。佳子はむしろその図々しさに感心している。ここまでの仕打ちを受けても、顔色ひとつ変えずに乗ってくるとは。真司がアクセルを踏むと、高級車は安定した滑らかさで一気に走り出した。佳子は黙ることにした。天美が自分を挑発しなければ、わざわざ手を出すつもりもない。だが、天美は口を開いた。「葉月さんって本当に乱暴ですね。そんなふうにすぐ手を出す人、周りは怖がりますよ」佳子は冷ややかに笑った。「悪いけど、ここまで私に手を出させたのはあなただけよ。人の粗探しする暇があるなら、なんで自分が人を怒らせるのか、反省したら？」言い返された天美は何も言えなかった。天美は唇を尖らせ、鼻を鳴らした。「葉月さん、そんなに気が短いなんて……でも分かります。お嬢様育ちですもの。でも、そんな性格じゃ、我慢できる男性なんているんですか？」我慢できる男性？林家のお嬢様として育てられてきた佳子にとっては、そんなのはもともと、彼女が気を遣うべきところではないのだ。佳子は隣の真司に顔を向けた。「真司、木村さんはあなたのことを言ってるの。あなた、我慢できる？」真司も佳子を見やり、その怒った顔ときらきらと光る大きな瞳を見つめ、不意に笑みをこぼした。佳子「何がおかしいの？」天美はすかさず口を挟んだ。「葉月さん、藤村社長が