Semua Bab キミはまぼろしの婚約者: Bab 21 - Bab 30

47 Bab

神様、願いを叶えて 2

 律の謎は深まるばかり。けれど、どうにもできない日々が続く。 いつの間にか期末試験も迫っていて、彼のことばかり考えてもいられなくなっていた。 そんな六月下旬、教室でミキマキコンビとお弁当を食べていると、海姫ちゃんが突然核心を突いてくる。「ところでさぁ、ふたりは逢坂くんとその後どうなったの?」 私とありさは目をぱちくりさせる。先に口を開いたのはありさだ。「へ……なんで?」「前から真木にいろいろ調べてもらってたじゃん。皆で遊びにも行ったみたいだし。どっちかが彼のこと好きなんだとしか思えないでしょ」 そうだった、海姫ちゃんたちには打ち明けていなかった。そりゃあ気づくよね……内緒にしていたわけじゃなく、あえて自分からは言わなかっただけなのだけど。「そろそろ教えてよ〜」と口を尖らせる彼女に、ありさが意味ありげに口角を上げて言う。「あたしが彼のこと好きなように見える?」「見えない。つか、恋してるオーラがない」「自分から聞いといてちょっとヘコむけど、その通り」 カクリとうなだれるありさに構わず、海姫ちゃんは目を輝かせて机に身を乗り出す。「じゃあ小夜ちゃんなんだ!」「旦那様……かわいそうに」「旦那じゃないっつーの!」 淡々と箸をすすめる真木ちゃん、まだそれを言うか。 一方、海姫ちゃんはニンマリとしながら見てくるから恥ずかしくなって、大口を開けて卵焼きを放り込んだ。「でも逢坂くんと遊べたなんて、貴重な体験をしましたね」「貴重?」 真木ちゃんの言葉を聞いて、ありさが首をかしげた。私もごくりと卵焼きを飲み込んで、彼女の話に耳を傾ける。「彼、女子の誘いは全部断ってるらしいですよ。放課後もまっすぐ家に帰っちゃって、本当に仲のいい男子とごくたまにしか遊ばないって話です」 そうなの? あんなに女子と楽しそうにしているのに……。男子とだって昔はしょっちゅう遊んでいたのに、そんなに消極的になってしまったのか。「意外と人見知りなのかな。そうは見えないけど」 海姫ちゃんに同意して、私とありさも頷いた。 意外な事実を知って眉根を寄せていると、真木ちゃんが思い出したように言う。「あ、あと腰痛持ちらしくて、整体に通ってるんだとか。部活をしていなかったり、すぐ帰っちゃうのはそのせいですかね」 その話も初めて聞いた。そして、ただ漠然と思う。もしかして律が隠している事情には、そのことも絡んでいたりして……と。 皆は
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-23
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神様、願いを叶えて 3

 お昼休みの後、美術の授業でスケッチをしに中庭に出ることになった。 梅雨の中休みで爽やかな青空が広がっている今日は、その分蒸し暑さが肌にまとわりつく。 ありさと一緒に日陰に座り、目の前の花壇を眺めるだけで、筆はあまり進まない。「そういえば、律のお母さんは花が好きだったなー……」 そよ風に揺れるマリーゴールドを見つめて呟いた。 あの頃、律はマンションに住んでいて、ベランダにはいろいろな花のプランターが置かれていたのを思い出す。 スケッチブックにさらさらと鉛筆を走らせながら、ありさがなにげなく問いかけてくる。「逢坂くんって、家族全員で引っ越してきたんだよね?」「そう……だと思うけど」 そういえば、どうなんだろう。勝手に皆で引っ越してきたものと思っていて、はっきり聞いていないことに気づいた。 ありさは質問を続ける。「お兄ちゃんいるんだっけ?」「うん。でも社会人のはずだから、もう家は出てるかも」 えっちゃんにも会いたいな。さすが兄弟、当時から律に負けず劣らず綺麗な顔立ちをしていて、きっとモテモテなんだろうなぁと思っていた。 えっちゃんは、私のことを覚えてくれているのかな。もし会ったら、昔と同じように接してくれるんだろうか……。「まーた律の話か」 ふいに頭上から声がしたかと思うと、キョウが私の隣にどかっと腰を下ろしてきた。 いつもの無愛想な顔で、私の真っ白なスケッチブックを覗き込む。「全然描けてねーじゃん」「そう言うキョウはもう終わったの?」「俺の芸術センスがあれば十分で終わる」「あ、そう」 なにしに来たんだ。と思いつつ、のっそりとマリーゴールドの線を描き始める私。 キョウはけだるげに膝の上で頬杖をつき、おもむろに口を開く。「もうさ……いいんじゃねーの? あいつに固執しなくても」 せっかく動き出した手が、またぴたりと止まってしまった。そして、えっちゃんの声に変換されたあの文章が頭の中に流れる。 〝律のことは、忘れてほしいんだ〟というひと言が。 昔のことにこだわっているのは私だけ。私だけ、なんだよなぁ……。 考え込んで黙る私に、ありさが優しく微笑みかける。「男は逢坂くんだけじゃないしね。ほら、ここにもいるじゃん、アホな男が」「アホは余計だろ、アホ」 私を挟んで言い合いを始めるふたりを止めもせず、ぼんやりしたまま考えを巡らせる。 キョウもありさも軽い調子だけれど、きっと私にすごく
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神様、願いを叶えて 4

 七月に入り、期末試験をなんとかこなした後、私はすぐに四組に向かった。 ドアから中を覗こうとすると、ちょうど廊下に出ようとしていた女子ふたりと鉢合わせしてしまい、お互いに息を呑む。 このふたり……前、私の悪口を言っていた子たちだ。「……なにか用?」 怪訝な顔で聞いてくる、メイクが濃いめの女子に一瞬ひるむ。が、逃げないでちゃんと用件を伝えないと! 息を吸い込み、彼女をまっすぐ見据えて口を開く。「律を呼んでほしいんですけど」 それを聞いた彼女たちは、半ば予想していたように驚きもせず、呆れた笑いをこぼした。「懲りないねぇ」「相手にされてないっていうのに、まだめげないんだ。メンタル強すぎ」 バカにしたような言い方も笑いも、むくむくと怒りが湧いてくるものの、ぐっと堪える。「逢坂くんはあなたのこと興味ないでしょ。帰ったほうがいいんじゃない?」 むっかつくー。私はあなたたちと話しに来たわけじゃないのよ。「いいから、律を──!」「呼んだ? 小夜ちゃん」 ムカムカしながら言おうとした言葉は、私と女子たちの間に入ってきた律によって遮られた。 律のほうから来てくれるとは……。驚いた私は微笑む彼を見上げ、口を開けたまま固まる。「ちゃんと取り次いでくれないと困るな」 優しい口調だけれど少々圧を感じる律に、女子たちはバツが悪そうに目を逸らして肩をすくめた。 彼女たちを見下ろす彼は、「あと」と話を続ける。「俺がこの子に興味ないって、勝手に決めつけないでくれる?」 そんな言葉と共に、ぽんと肩に手を置かれ、心臓が軽く跳ねた。 裏を返せば、興味を持ってくれているということだと解釈していいのかな……。 ときめいている間に、律は「行こう」と言って、私の手を引く。この展開は予想と違っていたのか、女子ふたりは唖然としている。 彼女たちを置いて、私は律に手を引かれるがまま、ドキドキしながら階段のほうへと向かった。「律、どこまで行くの?」 三階のさらに上まで上る彼に声をかけると、立入禁止の屋上に繋がる階段の踊り場で足を止めた。「ここなら人来ないし静かだろ」 そう言って私と向き合う律は、腕を組んでひとつ息を吐き出す。「あんなに突き放したのにまだ俺に構うなんて、小夜ちゃんってM?」 意地悪な笑みを浮かべて言われ、私はかぁっと顔を熱くする。「んなっ! ちがっ……や、違わない気もするけど!」「ははっ、正直」 律はおかしそ
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神様、願いを叶えて 5

 七月七日、七夕の今日、律とふたりで会う。約束の時間は午後なのに、朝起きた瞬間から緊張してしまって、ご飯もあまり喉を通らない。 ダイニングテーブルの上の、私のお皿に残った料理を、お母さんが不思議そうに見る。「どうしたの? 珍しく少食じゃない」「たまには食欲ない時だってあるよ。残しちゃってごめん。ごちそうさま」 腰を上げようとすると、お母さんがなにかを思いついたように、「あっ」と声を発する。「わーかった。デートなんでしょ!?」「ぶほっ!」 デートという単語に反応したらしく、私の向かい側でお茶をすすっていたお父さんが噴き出して咳き込んだ。 お母さん、余計なこと言わないでよ!「デデデデート!? そんな相手がいたのか、小夜!?」「ち、違うよ!」「隠さなくてもいいのに」「本当にそんなんじゃないから!」 思いっきり動揺するお父さんと、ニヤニヤするお母さんに、私は顔を熱くしながら否定する。 一応ふたりで出かけるけれど、付き合ってるわけじゃない。ラブラブなデートだったらどんなにいいか。 お母さんは両手を腰にあて、本音をこぼす。「なんだ、違うの? いつ小夜が彼氏を連れてきてくれるのかなーって、私ずっと待ってるんだけど。できることならイケメンがいいわね」「お前……」 がっくりとうなだれるお父さん。ひとり娘の色恋沙汰で、朝から一喜一憂している両親はちょっと面白い。「そういえば、恭哉くんのお母さんから聞いたわよ。律くんこっちに戻ってきてるんだって?」 洗い物を始めるお母さんに急に律の名前を出されて、また私は席を立てなくなってしまった。 お父さんも驚いたようにこちらに目を向ける。「そうなのか?」「うん、実は……」 なんとなくふたりにも言っていなかったのだ。電話も手紙も内緒でしてたから、そのクセがついたせいもある。「また皆で遊べばいいじゃない。私も律くんのお母さんと会いたいわ。引っ越してから全然連絡取ってなかったから」 そっか……律の事情を探るなら、正攻法じゃないけどお母さんたちに聞くっていう手もあったか。でもこの感じからすると、お母さんもなにも知らなさそうだ。 考えを巡らせていると、お母さんが懐かしそうに笑って言う。「小夜ってば、律くんと結婚するー!ってよく言ってたじゃない? 本当に相手があの子なら、私はなんの心配もないんだけど」「ま、まあ律くんならいい子だし、百歩、いや千歩譲って嫁にやって
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-23
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神様、願いを叶えて 6

 待ち合わせは午後一時に、昔よく遊んだ公園にした。早めに着いてしまい、複雑な想いと緊張感を抱きながら木陰のベンチに座る。 たいして待たないうちに、正面の芝生を歩いてくる彼の姿が見えてきた。 細身のジーンズに、羽織った水色のシャツが爽やかで、今日の私服姿も文句なしにカッコいい。 私を見つけると、律は優しい笑みを浮かべて近づいてくる。一気に緊張が増して、太ももの上に置いていたバッグの持ち手を、両手でぐっと握りしめた。「ごめん、お待たせ」「ううん! 私もついさっき来たところだから」 木漏れ日を浴びる彼は、私の隣に腰を下ろした。 いまだにこれだけでドキッとするなんて。この間は自分から壁ドンしたくせに……。 あの時のことを思い出して今さらながら恥ずかしくなっていると、こちらにじっと向けられている視線に気づく。「今日、雰囲気違うね」 私の服や髪型を見ながら律がそう言うので、ちょっと照れてしまう。「そう?」「ん……ヤバい」 ぼそっと呟いた彼が目を逸らすものだから、私はキョトンとした。なにがヤバいのだろう。 首をかしげるも、もう一度こちらを向いた律は、特に今の発言には触れずに話を変える。「今日はどこかへ行くの?」「あ、うん……! 着くまでのお楽しみ」 今日のプランを任されている私は、にこりと意味深に笑って答えた。そんなに楽しい場所ではないけれど……私は緊張しまくっているし。 まったく予想がついていない様子の律は、「どこだ?」と首をひねっていた。 海までは、駅前から出ているバスを使ったほうが都合が良い。さっそくそこへ向かおうと、私たちは腰を上げた。 だいぶ夏らしくなった日差しの下、ふたりで並んで芝生の周りの道を歩く。暑いせいか、公園内にはあまり人がいない。「……この公園、懐かしいな」 昔から変わらない、古びた遊具を眺めて呟いた。ここで遊んだ幼い頃の記憶が、じわじわと蘇ってくる。 私を見下ろす律に、砂場の向こうにあるブランコを指差してみせる。「あのブランコで、キョウのマネして変な乗り方してたら、私が落ちてケガしちゃって。そしたら、律はすぐに家から絆創膏を持ってきて、手当てしてくれた」 当時、律が住んでいたマンションは、この公園のすぐ裏手にあって、私がケガしたのを見た彼はすぐに駆けていった。 そして、持ってきてくれたのは、可愛いカエルのイラストが描かれた絆創膏。 痛くて泣いていた私は、そ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-23
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神様、願いを叶えて 7

 それから、私はあえて昔のことには触れず、たわいもない話題ばかり口にしていた。海に行くまでは、ただただ楽しい時間にしたくて。 それを察知したのかはわからないが、律も明るく話に乗っていた。 バスの発車時刻までは、カフェに入ってひと息つくことに。 周りの女子たちは、ちらちらと律を見て頬を染めている。そして私の存在に気づくと、あからさまに落胆するのがわかった。 私は彼女みたいに見られているのか。本当は、私もあの子たちと立場は同じなんだよな……。「どうした?」 小さなテーブルに向かい合って座る、律の手元をなんとなく眺めていた私は、顔を覗き込まれてはっとした。 彼は自分のコーヒーのカップを差し出して、小悪魔な笑みを浮かべる。「間接キス、する?」 こっ、この人……サニーサイドの時みたいに、私が動揺するだろうと思っておもしろがっているんだ、絶対! 私はちょっぴりむくれて彼の手からカップを奪い、思いきって口をつけた。 ごくりと苦いブラックコーヒーを喉に流し込み、目を点にしている律にカップを返す。「ごちそうさま」 棒読みで言って、ふいっと顔を逸らした。 私だって、間接キスくらいなんてことないんだから! ……って、よくわからない意地を張ってどうする。 自分ちっちゃいなーと呆れていると、今度は私のカップに彼の手が伸びてくる。 キャラメルラテが入ったそれは、彼の口へ。二度目の間接キスにドキッとする。「これでおあいこ」 カップを返した彼は、頬杖をついてにこりと可愛らしく微笑んだ。 そ、その可愛さは反則でしょ……! 私はきっと赤くなっているだろう顔を俯かせて、縮こまった。 ……こうやって、キュンとさせられるたびに切なさも募る。もうすぐこの時間が終わってしまうかもしれないから。 胸が締めつけられるも、それは表に出さず、ひと時のデート気分を味わうのだった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-23
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神様、願いを叶えて 8

 時間になりバスに乗り込むと、窓の外の景色はどんどん街から遠ざかっていく。次第に海に近づいていることに、律ももう気がついているだろう。 自然と口数が少なくなり、海岸沿いの道路にあるバス停に着くと、ふたりで静かに降り立った。 すでに午後四時になろうかという海は、西に傾いた太陽の日差しを浴びてキラキラと輝いている。 潮風に髪をなびかせながら、引き寄せられるように海へ向かった。 まだ遊んでいる子供も結構いる中、ふたりでゆっくり砂浜を歩く。「覚えてる? この海」 私は自然に律に話しかけていた。穏やかな波の音を聞いていると、緊張も少しだけ和らいでくる。「律が引っ越す前、皆で来たの。バーベキューやって、砂浜でちょっと遊んで……」 サンダルから覗く足の指に、温かい砂がつく。そのざらつく感覚も懐かしく思いながら、私はあるところで立ち止まった。 律がプロポーズしてくれた、あの場所だ。「あの時言ってくれた言葉、私の中では今も消えてないよ」 隣を見上げると、彼の瞳も海から私へと焦点を移した。その綺麗で儚げな表情を、まっすぐ見つめる。「律のこと……あの頃からずっと、ずっと大好きだから」 ──揺らがない、この想い。もっといい伝え方があるはずなのに、大好きという言葉しか見つからない。 まぶたも、胸の中も熱くて、抑えていたモノが今にも溢れそう。 どうか届いてほしいと、ほんのわずかな希望に懸けて、律を見つめ続ける。 すると、彼の目線はゆっくり砂浜へと落ちていった。「……どうして、俺なんかをそんなに想えるんだ」 ぽつりと、独り言のように力ない声がこぼれた。彼の顔は、どんどん苦しそうに歪んでいく。「君を傷つけて、失望させてばっかりで……いいところなんてひとつもない。昔の俺は、こんなんじゃなかっただろ?」 自嘲するように吐き出された言葉を聞いて、私は目を見開いた。だって、今の言い方……!「律……やっぱり覚えてたの? 忘れたなんて嘘だったの?」 責めるわけじゃなく、真実を知りたい一心で、思わず詰め寄る。 腕を掴み、正面から彼の顔を覗き込んだ。「ねえ、本当のこと教えて? どんな理由でも、私ちゃんと受け入れるから──」「俺は、欠陥品なんだよ」 私の言葉を遮って、ぬくもりを感じない声色で言い放たれた。そのひと言がズシンと胸に落ち、息を呑む。「……欠陥、品?」「この先、俺に誰かを守ることはできない。そんな自信がな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-23
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神様、願いを叶えて 9

 そんな調子で自分の街に戻ってきた時には、空は薄紫色に染まってきていた。 すでに一番星が輝いている。今日は天気がいいから、夜は天の川が広がるかもしれない。 律も私の後のバスに乗ったかな……なんて妙に現実的なことを考えながら、とぼとぼと家に向かって歩く。 その最中、意外な人と出くわしてしまった。「あれ」「キョウ……!」 私を見て目を丸くするのは、自転車に乗ったキョウ。 Tシャツにジーンズというラフな私服姿でも、まったくダサく感じない彼は、私のすぐそばに来て止まった。 ほんの少しだけ気分が軽くなり、いつものように話しかける。「なにやってんの?」「部活やって、ダチと遊んでた。そっちは……」 私の全身を一度上から下まで眺めた彼は、思い出したように「あ」と声を漏らした。「そーいや、今日はデートだったか。どうだった?」 直球で聞かれて、あえて考えないようにしていた今日の出来事が、全部あっさり蘇る。胸のときめきと、痛みの両方が。 相変わらず無神経だなぁ、まったく……。「今日、告白するって知ってたくせに普通に聞いてくるなんて……ほんとデリカシーないんだから、キョウは」 いつもの言い合いをするような元気はなく、おかしくもないのに笑いながら俯いた。 すぐに笑顔は消えて、そのままぽつりと言う。「律……覚えてるみたいだったよ、昔のこと」「え?」 声に真剣さが加わるキョウへ目線を上げられないまま、私は話し続ける。「でも、なんで知らないフリしてたのかも、なにがあったのかも教えてくれなかった。……私の気持ちも、受け止めてもらえなかった」 口にすると一気に悲しみが襲ってきて、一度は止まった涙がまた溢れ出す。 それでもなんとか笑おうとするものだから、絶対変な顔になっているに違いない。「今日、七夕なのにね。願い事、叶わなかったなぁ……」 明るく言おうとしたものの、声が詰まってしまう。 そんな私の耳に、優しい声が届く。「無理すんな」 それと同時に、俯く私の頭にぽんと手が乗せられた。どこか安心する、あったかくて大きな手。「子供の頃からずっと持ってたもの捨てるなんて、つらいに決まってんだから。我慢する必要ねーよ」 ……キョウのくせに、私の気持ちに寄り添ってくれる。そんなふうに言われたら、心の堤防が壊れてしまう。 涙をいっぱい溜めた瞳で見上げると、頼もしく優しい彼の顔がある。「俺は、ここにいてやるから」 もう
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-23
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一歩を踏み出して、前へ〈律side〉 1

 夏休み目前のある日。昼休みにクラスの男友達と購買へ向かった俺は、ひとつ残っていたカレーパンを見つけて、思わず辺りを見回した。 今日は、あの子はいない。そのことに、安堵と寂しさを感じている自分に呆れる。 彼女を突き放そうと、ずっと前から決めていたというのに。この尋常じゃない胸の痛みも、覚悟していたはずなのに……。「逢坂、今日はちゃんと買えよ」 ぼうっとしている俺に、友達のひとりである窪田(くぼた)が、ぽんと肩を叩いてきた。それに乗っかって、小宮山(こみやま)がおかしそうに笑いながら言う。「間違って嫌いなあんバタサンド買うって、お前案外ボケてるよなー」 小夜とはち合わせして、咄嗟にカレーパンを譲った以前の失敗を覚えていたふたりに、「うるせ」と返して俺も笑った。 ……幼なじみのふたりと再会して、無理があると思いながらもずっとシラを切っていた。 本当は嬉しかった。ふたりとも俺のことを覚えていて、すぐに会いに来てくれたことが。 俺だって、ふたりのことを忘れた日なんて一日もなかった。 だけど、大切な人たちだからこそ、この先のことを考えると一緒にいるのがつらいんだ──。 パンを買って教室に向かう途中、隣を歩く窪田が、ぼんやり思いを巡らせる俺にふいに問いかけてくる。「逢坂、足いてぇの?」「え?」「なんかちょっと歩き方が変だからさ」 俺の右足を見下ろしながら言われ、ギクリとした。 意識しているつもりだったのに、もしかして引きずっていたか……? しまったと思いつつ、へらっと笑ってみせる。「そうそう。ただの筋肉痛なんだけどさ」 最近の俺は嘘をついてばっかりだな、と心の中で自嘲しながら言うと、窪田は呆れたような笑いを漏らした。「筋肉痛って、なにやったんだよ」「エロいことっすかー?」「中学生か、お前の発想は」 ニヤつく小宮山の頭を軽くはたく窪田。ゆるいやり取りがおかしくて、俺も声を出して笑った。 面倒見が良くて気配り上手な窪田と、お調子者のムードメーカーの小宮山は、俺が転入した直後から仲よくしてくれている。 いつも楽しいこのふたりのことも、俺は結構好きだ。「でも最近、具合悪そうにしてる時もあるじゃん?」「あ、俺も気になってた」 窪田のひと言に小宮山も同意し、俺は再びギクリとした。 それも気づかれないようにしていたつもりだったが、バレていたとわかると気まずさが襲ってくる。しかし、ふたりは楽し
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一歩を踏み出して、前へ〈律side〉 2

 軽く手を振って教室に入っていく彼らを見送ると、「ちょっと来い」と言ってキョウが歩き出す。複雑な心境になりつつ、俺も後に続いた。 小夜と話した時と同じ、屋上に繋がる階段の踊り場でキョウが足を止める。 いつものようにしらばっくれようと、壁にもたれかかった俺はふっと鼻で笑う。「本当に懲りないね、君たちは。俺なんかに構ってたら時間の無駄──」「もうやめろよ。そうやって逃げんの」 ぴしゃりと言い放たれ、俺は小さなため息を漏らして口を閉じた。彼のまっすぐな瞳から目を逸らす俺は、本当に逃げてばかりだ。「お前、俺たちのこと覚えてたんだろ? 最初からずっと怪しかったぞ。なんで忘れたフリしてたのかは、どうせ教えてくれないだろうから聞かねぇけどさ」 腕を組む彼にぶっきらぼうに言われ、目を伏せたまま再会した時のことを思い返す。 転校先に小夜たちがいるかもしれないということは一応想定していたが、まさか本当に同じ高校になるとは思わなかった。 そしてふたりが俺に会いに来た時、咄嗟に知らないフリをしようと決め込んだ。 でも、そりゃあバレるだろうな。俺は役者じゃないんだから。 久々に小夜を見た時、彼女は俺が想像していたよりずっと綺麗になっていて。思わず見惚れそうになったし、ものすごく緊張した。 軽い男を演じれば、自ずと離れていってくれるかもしれないと思ったが、あまり効果はなかったようだ。 そして、次に現れたのは今目の前にいるこの男。『どれだけ小夜のこと傷つけたと思ってんだよ』 キョウに言われたそのひと言は、自覚していたとはいえ直接言われるとかなりの威力だった。 胸に深く刺さったその痛みは、ずっと消えることはない。きっとこれからも、何度も自己嫌悪に襲われるだろう。「小夜の気持ち、どうして受け止めてやらないんだよ?」 眉を下げたキョウに、こうやって言われている今も、胸が痛くて仕方ない。「律だって、今でも小夜が好きなくせに」 しっかり見抜かれているものの、そう簡単に素直になれない俺は、渇いた笑いをこぼした。「わかったようなこと言うなよ」「わかるよ。俺もお前と同じ気持ちなんだから」 即座にきっぱりと返されて、今度はキョウに対しての罪悪感が湧き上がる。 キョウも、ずっと前から小夜のことが好きだったもんな。昔はそこまで気にすることもなく、俺が先に告白してしまったのだが。 こいつの気持ちを汲み取れる今となっては
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