優花の言葉を聞き、言吾が一葉の目に視線を注ぐ。そこに、確かに彼女が言った通りの、完全な無感情が宿っているのを見て取ると、彼が手にしていたサインペンが、ギリ、と音を立てんばかりに握り締められた。言吾のその微かな変化を見逃さなかった優花は、内心でほくそ笑む。今回もまた、彼は自分の言葉を信じてくれたのだ、と。一葉もまた、言吾のその変化に気づいていた。思わず冷笑を浮かべ、何かを口にしようとした、その時だった。言吾は、自身の腕から優花の手を振り払い、冷え冷えとした視線を彼女に向けた。そして、フッと自嘲めいた笑みを漏らした。「優花……俺はお前を本当の妹だと思ってきたが……お前は俺を、ただの馬鹿だと思ってたのか?」優花が、虚を突かれたように固まる。予想外の言葉に、一葉も思わず息を呑んだ。まさか言吾が、そんなことを言うとは。我に返った優花は、見る間にその瞳を涙で潤ませた。「言吾さん、どうしてそんな酷いことを言うの?私は、すべてあなたの為を思って……!」必死に涙をこぼし、あくまで「あなたの為」を演じ続ける優花。だが、その悲痛な表情とは裏腹に、彼女の胸中は言吾への罵詈雑言で渦巻いていた。彼が馬鹿なのではない、本当に救いようのない馬鹿なのだ、と。普通の人間なら、離婚の際には財産を巡って泥沼の争いを繰り広げるのが当たり前だというのに、この男は自ら全財産を差し出そうとしている。世界中を探したって、これほどの愚か者は二人といないだろう!「……俺の為、だと?」言吾は、自分自身を嘲るように、乾いた笑い声を響かせた。「一葉が崖から落ちて入院していた時、お前はこう言ったな。『すぐにお見舞いに行って、謝ったら、彼女に気を失うほど殴られた』と」「あの時の彼女は、指一本動かせない状態だった。教えてくれ、どうやって彼女がお前を殴り倒したんだ?」優花は一瞬言葉に詰まり、次の瞬間、その顔からサッと血の気が引いていく。これまで言吾の前で、一葉を貶める嘘をあまりにも多く重ねてきた。その多くは彼女自身も忘却の彼方だったが、今、不意にその一つを暴かれ、どう反応していいのか、咄嗟に言葉が見つからなかった。長い沈黙の後、ようやく絞り出す。「あの時は……あの時は、お姉さんに薬を盛られたんだって思い込んでて……だから、つい……お姉さんのこ
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