結果として、彼女はますます自分から遠ざかっていくに違いない。だから今は、耐えなければならないのだ。一葉の記憶が戻るのを。彼女が記憶を取り戻し、かつて抱いていた自分への愛を思い出すこと。それこそが、唯一の正しい道なのだと。それに、彼女が傷を負った時の写真を思い出すたび、自分は罰を受け、苦しむべきなのだと、彼は思うのだ。だからこそ、最終的に、彼の理性は心の獣に打ち勝った。「……俺は彼女を縛れない。そんなことをすれば、彼女が俺から離れていくだけだ」「一葉は……記憶を失っているから、俺にあれほど冷酷になれるんだ。記憶が戻って、俺をどれだけ愛していたか思い出せば……必ず、俺の元へ帰ってくる!」言吾の口から、一葉が「記憶を失くし」、彼への愛を忘れてしまったからこそ、あれほどまでに決然とした態度を取っているのだと聞かされ、隼人はそれまでの疑問が氷解したように、ポンと手を打った。「どうりで!どうりで、あんなに冷たくできたわけだ……記憶喪失だったのか!そりゃそうだ、あれだけ言吾さんにベタ惚れだった彼女が、急に心変わりして、あんたを愛さなくなるなんておかしいと思ってたんだよ!そういうことなら、もう心配いらねぇな!言吾さん、見てろよ。記憶が戻りゃ、彼女は死ぬほど後悔して、あんたに泣きついて復縁を頼み込んでくるに決まってる!」それまで、一葉が言吾から受け取った大金を持って他の男に走るのではないかと本気で心配していた隼人だったが、その理由を知った途端、懸念は綺麗さっぱり霧散した。かつてあれほど言吾を愛し、へつらうように彼のそばにいた一葉のことだ。記憶さえ戻れば、言吾が何もしなくても、また喜んで彼の元へ帰ってくるだろう。隼人はそう確信していた。「だよな。どうりで、言吾さんがこんな状況でも落ち着いていられるわけだ。そういうことかよ!」……今回の旅行には、一葉の祖母である紗江子の姿もあった。両手に大荷物を抱え、誰かに言われる前に率先して雑事をこなす旭の姿を目にして、紗江子は楽しそうに一葉の脇腹をつついた。「あの子、なかなかの好青年じゃないかい。ハンサムだし、気が利くし、きっと人を大事にするよ」「再婚するなら、あの子にしなさいよ!」その言葉に、一葉は内心でため息をつく。離婚証明書のインクも乾かぬうちに、もう再婚の話とは……黙
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