まだ試験も始まっていないというのに、これで豪華な食事が二回分も約束されてしまったな、と一葉は一人で苦笑した。食後、旭が一葉を試験会場まで送ると言って聞かない。どうせ家にいても手持ち無沙汰だろうと思い、一葉は彼の申し出を受け入れた。会場に着き車を降りると、一葉は旭に、近くのカフェで待っているように伝え、試験が終わったら電話すると言った。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、背後から甲高い声が飛んできた。「試験ぃ?嘘でしょ?一葉さん、あんたが大学院の試験受けるってわけ?あんたみたいなのが?」一葉は眉をひそめて振り返る。そこに立っていたのは、兄の恋人である浅井蛍の母親だった。以前、博士号持ちだという甥を一葉に紹介しようと、やたらとしつこくしてきた一件を思い出し、思わず口元がひきつった。「言わせてもらうけどね、一葉さん。あなた、もういくつ?三十路も間近じゃないの!それで今更、大学院受験だなんて!そもそもあんた、ただの主婦でしょ。何の取り柄もないんだから、受けたって時間の無駄に決まってるわ。仮に受かったとしてよ。卒業する頃には一体いくつになってると思ってんの?私が思うにね、そんなことより、若いうちにさっさと次の相手見つけて再婚した方が利口よ!親戚のよしみで言ってあげるけど、今からでも考え直して、うちの甥を紹介してくれって頭を下げるんなら、まだチャンスをあげなくもないわよ!言っとくけど、あなたみたいな三十過ぎのバツイチなんて、そう簡単には相手が見つからないんだから。高望みしないことね!」一葉は、返す言葉も見つからず、呆れて黙り込む。四捨五入と言えなくもないが、年齢にそれを適用するのはどうかと思う。まだ二十六歳で、女として一番華やかな時期だというのに、三十過ぎとは……「聞いてるの?うちの甥っ子は、引く手あまたなのよ!ほら見て、この子!なんて凛々しくて格好いいんでしょう、おまけに博士号を二つも持ってるのよ!あなたに、この子以上の相手が見つかるわけないじゃない!あなたのためを思って……いえ、親戚のよしみじゃなかったら、うちの甥をあなたなんかに紹介したりしないんだから!」この、兄の未来の義母となるであろう女性は、娘の蛍から、一葉が離婚でどれほどの財産を手にしたかを聞き及んでいるのだろう。口では一葉を貶めながらも、
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