深水言吾という男は、理不尽なほどに整った顔立ちをしている。旭や彼の叔父のような、人間離れした美貌の男たちを目の当たりにした後でさえ、改めて見惚れてしまうほどに。特に、こうして入念に身なりを整えた彼の前では、他のどんな景色も色褪せて見える。そして、あの太陽のような笑顔。彼が笑うだけで、世界が瞬く間に輝き出すような錯覚に陥る。だが今、その輝きは跡形もなく消え去っていた。まるで、世界から一斉に色が失われたかのようだ。見る者の胸に、思わず痛みが走るほどの光景だった。ネットでよく言うではないか。美しすぎる相手と恋に落ちてはいけない、と。どんな過ちも、その顔を見れば許してしまうから。催眠のせいか、それとも連夜見ていた甘い夢があまりに鮮明だったからか。目の前で彼の笑顔が砕け散った瞬間、一葉は、自分の意思とは裏腹に、胸に鋭い痛みを感じていた。言吾は花束を一葉に手渡すと、力なく笑った。「……全部、知ってしまったんだね」「ええ」一葉は感情を押し殺した声で応えると、続けた。「言吾、二度とこんな真似はしないで。もし次も、催眠だか何だか知らないけれど、同じようなことをしたら……その時は、二つの会社の株を全部売り払って、あなたとの関係を完全に断ち切るわ。離婚協議書には、私が株を売ってはいけないなんて条項はなかったはずよ」かつての離婚協議書には、彼が会社に利益をもたらし続ける限り、一葉は彼を解雇できないという縛りこそあれ、会社そのものの売却を禁じる文言はなかった。そのあまりに決然とした言葉に、言吾の目がみるみるうちに赤く染まった。「一葉、そんなことは言わないでくれ。俺が……俺が死ぬほど悪かったのは分かってる。君に許される資格なんてないことも。でも、自分の首を絞めるような真似だけはしないでくれ。この半年、俺が死に物狂いで働いてきた結果を君も見てるはずだ。会社の時価総額は、もう倍近くになっているんだよ」「……」一葉は言葉に詰まった。彼の言う通りだった。元より商才に長けた言吾は、会社の利益で一葉を繋ぎ止めようと決意してからは、鬼気迫るほどの辣腕を振るっていた。当初は、お荷物だった旧・深水グループを切り捨て、新会社に注力する計画だったはずが、より大きな利益を生み出すために方針を転換。旧会社の経営にも乗り出
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