桐山には、どうしても理解できなかった。嵐がこんな凶行に及んだ動機が、皆目見当もつかないのだ。金が目当てだったのか? いや、それも違う。この研究成果はチーム名義で特許を申請している。世界市場で製品化されれば、研究室のメンバーは、誰もが億万長者になれるはずだった。彼が金に困るはずがない。百歩譲って、彼がどうしても金が必要だったとしよう。だとしても、一葉がいる。この研究室を自分の家のように大切にし、湯水のように資金を注ぎ込んできた彼女がいるのだ。メンバーの誰かが金のことで困っていると知れば、彼女は決して助力を惜しまないだろう。桐山教授は、考えれば考えるほど、分からなくなった。一体何が、嵐をここまで駆り立てたのか。自らの命さえも道具にして、一葉を破滅させようとするほどの、その憎悪の根源は何なのか。そして、師である自分自身をも。考え抜いた末に、答えは見つからなかった。最も信頼していた弟子からの裏切りと汚名を着せられたという事実に耐えきれず、桐山教授の身体は、糸が切れたように崩れ落ちた。病室のベッドに横たわる師を見下ろしながら、一葉は唇を噛んだ。まるで全身の精気を一瞬で抜き取られたかのように、恩師は数歳も老け込んで見えた。身体の脇で、彼女は拳を強く、強く握りしめる。――誰であろうと、私を破滅させたいならすればいい。でも、先生の名誉まで汚すことだけは、絶対に許さない!桐山教授は、その生涯の全てを研究に捧げてきた。研究のために寝る間も惜しみ、家庭を持つことさえしなかった。教育者となってからは、持てる知識と情熱の全てを、学生たちに注ぎ込んできた。利益のために学生の将来を摘むどころか、彼らが困難に陥れば、どんなことであれ力を貸してきた、そんな人だ。こんな清廉な人が、誰かの悪意によって汚されていいはずがない。断じて、許されることではないのだ。研究室に残った先輩たちに桐山教授の世話を頼むと、一葉はその足で木原嵐が入院している病院へと向かった。芝居を真に迫ったものにするためか、あるいは別の理由があったのか。嵐が自身に突き立てた刃は深く、彼は今もなお昏睡状態に陥っていた。医師から命に別状はないと聞き、ひとまず安堵した一葉は、そのまま病院の屋上へと続く階段を上った。神堂市の空は、晩秋の冷気に満ちている。吹き付ける風に薄いブラ
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