一葉は眉をひそめた。「昨日のことで怒ってるんじゃないの。私は……」言葉を最後まで紡ぐ間もなかった。言吾は会社に急用があるという口実で、そそくさとその場を立ち去ってしまった。いつものパターンだった。議論で分が悪くなり、動かしがたい事実を突きつけられると、彼は逃げるように去っていく。一葉を一人残し、怒りも悲しみもすべて自分で処理させる。時間の経過とともに感情の波が引くのを待ち、やがて彼への愛しさが勝って、すべてを呑み込んでしまうのを知っているからだった。しかし、一葉はもう以前の一葉ではなかった。彼のこうした冷たい仕打ちに慣れ親しんでしまい、愛おしさのあまりに屈服していた頃の一葉とは違う。彼への執着に縛られ続けるつもりはもうなかった。言吾が去った後、一葉は彼が持参した品々をすべてゴミ箱に叩き込んだ。袋に詰めて玄関先に出し、部屋を消毒して隅々まで片づけてから、ようやく弁護士に電話をかけた。離婚訴訟を起こした場合の勝算について相談するためだった。……言吾は数日前から胃の調子が悪く、酒を口にするべきではなかった。飲みたい気持ちも起こらない。だが一葉のもとを去った後、行き場を失った彼は、何をすればいいのかわからずにいた。結局、いつものクラブへと車を走らせるしかなかった。これまでずっと、一葉の揺るぎない愛が彼の日常を隙間なく満たしてくれていた。虚無感や迷いを抱いたことなど一度もなかった。何をしようと、どこへ行こうと、振り返れば必ず彼女がそこにいて、結果を恐れる必要もなければ、後先を考える必要もなかった。ところが今、その愛は消え失せていた。彼の生活のあらゆる隙間を埋め尽くしていた、あの溢れんばかりの情熱的な愛が跡形もなく消えてしまい、言吾は急に人生の意味を見失ったような空虚感に襲われた。あれほど彼を愛していたのに……!いつだって、彼の姿を目にした瞬間、一葉の瞳には彼への想いが満ち溢れていた。純粋な愛情が輝いていた。なぜ……突然消えてしまったのか。愛が憎しみに変わってしまったのか。確かにあの病院での出来事で彼女は深く傷ついていたが、それでもまだ彼への愛は残っていたはずだった。なのに今は……彼女の眼差しに愛のかけらも見つけることができない。三か月もの間、彼女が感情をぶつけ続けているのに、自分が歩み寄る機会を与えなかっ
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