検査結果を待つ間、一葉は思わず恩師のことを口にしてしまった。あの日、大学院進学を諦めてビジネスの世界に飛び込むと決めた時の、先生の落胆した眼差しが彼女の記憶から離れることはなかった。それ以来、一葉は年末年始の挨拶メールを送る程度しかできず、ずっと顔を合わせる勇気が持てないでいた。先生は本当に一葉のことを心にかけてくださった方だった。おばあちゃんの次に、この世で一葉に良くしてくれた人だった。そのような大家が、既に大学院生の指導から身を引いていたにもかかわらず、一葉のためだけに特別に指導教官を引き受けてくださったのだ。それなのに一葉は、大学院に合格したというのに、進学を諦めてしまった。当時、起業したばかりの言吾が忙しすぎて自分の体も顧みず、しょっちゅう胃を痛めていたから、一葉はそばで面倒を見てあげたいと思ったのだった。この数日間、一葉の記憶は少しずつ戻ってきていた。あの時の先生の切実な忠告が、今も彼女の耳に残っている。「男である私には分かるんだ。本当に愛している男なら、君の学業を犠牲にさせたりはしない。それを強いるような男は、君のことを十分に愛していないということだよ」「愛が足りない相手のために全てを投げ出せば、深く傷つくことになる」「そして最後には何も残らない」一葉がその時どう答えたのか、もう思い出すことができずにいた。言吾への激しい想いも、関連する記憶も、どうしても蘇ってこない。おそらく、これは一葉の心が自分を守るために作り出した防衛反応なのだろう。彼への愛を忘れることでしか、生きていけなかったのかもしれなかった。結果は先生の予言通りだった。だからこそ、一葉が言吾のために学業を投げ出すと言い張った時、先生はあれほど失望し、「もう会いたくない」とまで言われたのだ。その言葉があったから、これまで一葉は先生に連絡を取る勇気が持てなかった。でも、先生の事が本当に恋しくて、お元気かどうか知りたくて、一葉は思わず知樹に尋ねてしまったのだった。すると、先生は一週間以上も入院されているとのことだった。先生は一葉に会いたくないとおっしゃっているのに、それでも一葉は密かにお見舞いに行きたい気持ちを抑えられなかった。知樹と今日、お見舞いに行く約束をしたのだが。ところが病院に着いてみると、先生は既に退院されていた。お体の具
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