言吾がこれ以上、本港市に留まるのは危険だった。拠点を移す必要がある。身体の完全な回復が確認されたその夜、言吾は船で本港市を発った。船着き場で見送る一葉は、遠ざかっていく彼の背中を見つめながら、思わず声を張り上げた。「言吾、絶対に勝って!そして……必ず、生きて戻ってきて!」彼には、何としても生き抜いてほしかった。一葉は心の底からそう願っていた。その声に、言吾が振り返る。彼は一葉をまっすぐに見つめ、ふっと笑みを浮かべた。その笑みは、まるで十七歳の頃の彼を彷彿とさせた。陽だまりのように明るく、自信に満ち溢れ、人の心を眩ませるほどに輝かしい笑顔だった。「心配するな。俺は必ず勝つ。そして、必ず無事でいる」以前と同じように、一葉の幸せを願い、身を引くという選択に変わりはなかった。だが、彼の心境は以前とは全く異なっていた。もはや、彼女と結ばれない絶望から死を望むような、かつての彼ではない。生きたい、と彼は願っていた。生まれてくる我が子に会うために。そして、いつか訪れるかもしれない、僅かな好機を待ちながら、生きたいと。その可能性がどれほど小さなものであろうとも、ゼロではない限り。たとえ一筋の光であろうとも、彼は全力で勝利を掴み、必死に生き抜くつもりだった。その輝くような自信に満ちた笑顔を見て、一葉の心は不思議と安らいだ。長く言吾と付き合ってきたが、彼がこれほどの自信を見せる時は、決まって物事はうまくいくのだ。一葉は、彼に向かってそっと手を振った。次に会う時には、互いにそれぞれの輝かしい道を歩んでいられるようにと、そう願いながら。隣に立つ慎也もまた、同じ思いでいた。彼も言吾の成功を願っている。そうすれば、一葉が言吾への想いを完全に断ち切り、過去の呪縛から解放されるはずだ。空っぽになった彼女の心に、いつか自分のための場所が生まれるかもしれないと、そう願わずにはいられなかった。……烈が、言吾が本港市を離れたという知らせを受けたのは、それから間もなくだった。さらに、その行き先が本土であると確信するや、彼はフンと鼻で笑った。わざわざ死に場所を求めて戻ってきたか、と。言吾が仕掛けた内通者は、すでに烈の手によって洗い出されている。奴が何を企んでいたかなどお見通しだ。言吾を侮れないと警戒を強め、内通者たちを
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