Semua Bab 君が目覚めるまではそばにいさせて: Bab 111 - Bab 120

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ヤマトの章 19 覚悟を決めた日 2

 夕食も千尋が作ってくれると言うので、ありがたくソファで休ませてもらうことにした。すると何故か突然急な眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった……。ほんの一瞬の眠気だと思ったのに、何故か気が付くと千尋は僕の側に座り込み、右手をしっかり握りしめていた。「え? な、何? どうしたの? 千尋」 「あ……な、何でもない……」嘘だ、千尋の顔は真っ青だった。一体何があったんだろう?「だ、大丈夫だから。ちょっと渚君が一瞬消えて見えたような気がして……。アハハ……そ、そんな訳無いのにね」千尋のその言葉を聞いて全身の血の気が引いていくような感覚を覚える。「え? ごめんね! 渚君。別に傷つけようと思って言った訳じゃ……」千尋は慌てたように弁明するので、千尋の手をしっかり握りしめた。「大丈夫、僕はそう簡単には消えたりなんかしないよ」千尋を安心させるために笑顔で返事をした。そうだ……まだ消える訳にはいかないんだ。だって、僕はまだ千尋の気持ちを聞いていないから――**** 今日は仕事が休みだったのでアクセサリーショップへ足を運んだ。もうすぐホワイトデーだから千尋に何かプレゼントをあげたい。若い女性が喜ぶプレゼントはアクセサリーだとネットの検索であったので、早速買いに来た。店内に入ると平日だと言うのに若い女性が結構来ている。そして僕を見ると何故かヒソヒソささやきあっていた。やっぱり男が一人でこんな店に来るのは変なのかな?だけど、こんなに沢山アクセサリーが売ってるとは思わなかった。どんな物なら喜んでくれるのだろう?そこで若い女性店員に声をかけた。「あの……今人気のあるアクセサリーってどういう品物がありますか?」「贈り物ですね?」「はい、そうです」「それならこちらのお品物等は如何でしょうか?」店員さんが見せてくれたのはとてもきれいなピアスだった。そう言えば千尋もピアスをしていたっけ。喜んでくれるといいな。「ではこれを下さい」僕は品物を買うと店を出た。そして決めた。このピアスをホワイトデーにプレゼントする。そして千尋に僕のことをどう思っているのか尋ねてみようと――**** ホワイトデーがやってきた。朝食の席で僕は千尋にピアスのプレゼントをした。「渚君……これを私に?」「うん、千尋に似合うかなって思って選んだんだ。気に入って貰えたかな?」「勿
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-12
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ヤマトの章 20 覚悟を決めた日 4

「くっ……!」右手がズキズキと痛み、渚の右手がピクリと動いた。ああ……やっぱり君は目覚めようとしているんだね……。逃げるように病室を出ると、何処をどう歩いてきたのか気が付けばベンチの上に座っていた。右手は元通りになっている。「はぁ〜……」深いため息をついていると、突然誰かに声をかけられた。「おい」驚いて顔を上げた。「お前、一体どういうことだよ……?」祐樹が目の前に立っている。「え? 何のこと?」何が何だかさっぱり分からない。「だから、何で一度も俺に連絡をよこさないんだ! 何度も連絡入れてるのに一度も返事を寄こさないじゃないか!」祐樹はかなり怒っている。でも、それは無理ないかもな……。だって僕はずっと祐樹からの連絡を無視してしまっていたのだから。これ以祐樹に関わりたくは無かったから。でも、もう駄目だ。これ以上は隠しておけないだろう。僕は覚悟を決めた。「祐樹……あそこに病院があるよね」渚が入院している病院を指さした。「あ? ああ?」祐樹は不思議そうに頷いた。「あの病院の502号室に行ってみてくれる? 僕は訳あって行くことは出来ないけど、そこに行けば全てが分かるよ」「どういうことだ?」「詳しい事情は後で話すから。僕は駅前のファミレスで待ってる。逃げも隠れもしないから」いつになく真剣な僕に押されたのか祐樹は頷いた。「分かった。502号室だな? その後は全て話してもらうからな?」祐樹が病院に向かった後、僕は文房具店に行き、そこで便箋と封筒を買った。そしてファミレスに着くと千尋宛に手紙を書いた。****千尋へ今、この手紙を読んでいるって事は、もう僕は千尋の前から消えているんだろうね。この身体は病院で眠り続けている本来の「間宮渚」と言う人物のものなんだ。どうしても千尋の側にいたくて、この人の身体を勝手に借りちゃったけど、もう限界みたい。きっと、彼が目覚める時僕は消えてしまうと思う。短い時間だったけど、千尋と過ごした日々は僕にとっては毎日が幸せだったよ。さようなら、本当に大好きだったよ。ヤマト最後の名前は文字が震えてしまう。僕はこの手紙を祐樹に託す。恐らく僕はこの世から消えると同時に皆の記憶からも消えてしまうのだろうと思う。だって元々は存在してはいけない人間なのだから。きっと彼なら僕が消えてしまっても昔から渚の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-13
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ヤマトの章 21 またいつか出会う日まで 2

 僕は憔悴しきっていた。祐樹にこれまでの全てを話し終えた頃にはもう夕方になっていた。祐樹は最後まで黙って話を聞いてくれた。「それでお前は本当にいいのか?」「いいんだ。それより今迄本当のことを言わないでごめん」でもまだ祐樹には内緒にしていることがある。もうすぐ渚の目が覚めることを。「別に……もういいさ。それにしてもあの病室で眠っている渚を見なければ、未だに到底信じられる話じゃないよな」祐樹はコーヒーを飲んで僕を見た。「でも、ありがとう。信じてくれて」「まあ……俺は今のお前嫌いじゃないしな? あ、勘違いするなよ!? 別に変な意味で言ってるんじゃないからな!」「大丈夫、分かっているよ」「それじゃ、お前の言う通り渚の身元確認の手続きをしてきても大丈夫なんだな?」祐樹は身を乗り出して尋ねてきた。「うん、お願いするよ。いつまでも身元不明扱いだったら病院側に迷惑がかかるし、彼自身も気の毒だからね。と言っても間宮渚の身体を借りてる僕が言うセリフじゃないね」「そっか……。お前がそこまで言うなら、もう覚悟は決めたってことだもんな。それにしてもあいつ、いつ目を覚ますんだろうなー。あ、ところで渚の目が覚めたらお前は一体どうなるんだ? まさか消えてなくなったりしないよな?」「う~ん、それはどうなんだろうね? 消えるかもしれないし、消えないかもしれない。自分でも良く分からないんだよね」また一つ、祐樹に嘘をついてしまった。「それで……もう一つだけお願いしてもいいかな?」「何だ?お願いって」先ほど書いた手紙を祐樹に渡した。「この手紙、預かって欲しいんだ」「手紙? 誰に書いた手紙なんだ?」「僕の大切な人に宛てたものだよ」曖昧に答える。「何だよ、それじゃ分からないじゃないかよ」「大丈夫、その時がくればきっと分かるから」「お前な……その意味深な言い方やめろよ。気になって仕方ないじゃないか」それでも祐樹は手紙を預かってくれた。 そして僕と祐樹は店を出た。帰り際祐樹は僕に言った。「なぁ、今度里中……だっけ? あいつを連れて二人で俺の店に飲みに来いよ!  いいか? 必ずだぞ!」僕はそれには答えず、笑って手を振った。ごめん、祐樹。きっとその時はもう二度と来ないよ―― **** この短かった数か月、本当に千尋と一緒にいられて幸せだった。それに僕は罪
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
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ヤマトの章 22 またいつか出会う日まで 2

 家に帰り、千尋に自分の作ったとっておきのディナーをお披露目した。千尋は目を丸くして驚き、喜んでくれた。僕は無理に笑顔を作って千尋と会話する。でも時々無性に悲しい気持ちがこみ上げてきてしまう。最後の瞬間まで僕の瞳に千尋の姿を焼き付けておきたい……。 二人きりのディナーはもうすぐ終わる。恐らくこれが二人で食事をする最後のディナーになるだろう。いつ気持ちを告げる話を切り出そうかと考えつつも、中々言い出せずにタイミングを失ってしまった。そうだ、片付けが終了して落ち着いたら千尋に言うんだ。僕は千尋が大好きだ、千尋は僕のことをどう思ってくれている? って。  やがて幸せなひと時のディナーが終了し、二人で一緒に後片付けをすることにした。千尋は食器を洗い、僕は洗った食器の後片付けの担当。食器を持って棚にしまおうとしたその時。僕の両腕に激しい激痛が起こり、両方の腕がみるみる消えていく。「!」行き場の無くなった食器は床に落ち、派手な音を立てて粉々に砕け散った。「渚君!?」食器を洗っていた千尋が音に驚き、慌手た様子で僕に駆け寄ってきた。「大丈夫!? 渚君、怪我してない?」千尋は心配そうに僕を覗き込む。「あ、ああ……千尋。ごめん……食器割っちゃって。ちょっと手が滑って」咄嗟に僕は腕を後ろに隠して消えてしまった腕を千尋に見せないようにした。「何言ってるの、食器なんかどうだっていいよ。それより顔色が悪いけど本当に大丈夫なの?」「大丈夫だよ、割れた食器片づけてくるから千尋は洗い物の続きしてて」よし、僕の両腕の痛みは消えたし感覚も戻ってきている。「うん……。分かった」何とか千尋をごまかせたみたいだ。割れた食器をほうきで掃いて新聞紙で包んでビニール袋に入れて玄関の外へ置きに行こうとしたその時、視界がグルリと反転した。<え?>今迄に一度も経験したことの無い感覚に僕は焦った。もしかして……これでもう最後になってしまうのか……? ここで僕の意識は一旦途絶えた―― 次に目を覚ましたのは、あの見覚えのある病室。病室のベッドから起き上がり、自分に言い聞かせる。大丈夫、まだ僕の意識は残っている。でもこの先、どうすればいいのか? 病室を抜け出すか? いや、そんなことをしたら大騒ぎになってしまうし、もう僕の身元は明かされている。その証拠にベッドのネーム札には
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
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※ヤマトの章 23 またいつか出会う日まで 3

 甘い唇にキスをしながら、千尋を抱え上げた。千尋はまるで羽のように軽い。抱き上げてキスをしたまま、自室へ運ぶとそのままベッドに寝かせて覆いかぶさった。「千尋……愛している。今すぐ千尋が欲しい……駄目かな?」尋ねる声が震えてしまう。千尋の気持ちは確認したけど、無理に抱くような真似はしたくなかった。「駄目じゃ……ない、よ……」顔を赤めて返事をする千尋。その声は今にも消え入りそうにか細かったけど、僕の耳にははっきり聞こえた。「千尋……」その言葉がどれだけ嬉しかったか計り知れない。再び唇を重ねると千尋の口をこじ開け、舌を絡めて吸い上げる。「んんっんんん……」重ねられた唇から千尋の甘い声が漏れ出し、身体が熱を持ったように火照り始めてきた。キスだけで千尋が感じてきている。キスをしながら千尋の服を脱がせていき……全ての服を脱がせると、じっと見つめる。薄暗い部屋に、月明かりで照らされた千尋の身体は……本当に奇麗だった。「とても奇麗だよ………千尋」「渚くん……はぁぁんっ……」千尋の柔らかな胸に顔をうずめ、淡く色づく先端を口に含んで吸い上げると、千尋は増々肌を染めて身体を震わせる。一番感じる部分に指で触れると、そこは僕を十分受け入れられるほどに潤い、シーツまで濡らしている。「千尋……こんなにも感じてくれているなんて嬉しいよ……」言葉にしながら、千尋の細い足を広げた。「いやぁあ……こ、こんな格好恥ずかし……あぁあっ!」今までで一番一際高く千尋が甘い声を上げる。千尋の一番感じる部分に口づけたから。そのまま舌で内壁を優しくなであげ、淡く色づく二つの先端を掌で撫でまわしていくと、快感を逃がすためか千尋が首を振っている。「いやぁぁ……そ、そこだめぇ……か、感じちゃうからぁ……はぁっ……んんっ……」「いいよ……もっと感じて。僕だけにその姿を見せて……」「だ、だめぇ! そ、そこでしゃべらないで……ああああぁん!千尋の細体が弓なりにしなる。一度達したんだ。荒い息を吐きながら、ベッドに沈み込んでいる千尋を見つめながら、僕は自分の着ている服を脱ぎ捨てると再び千尋に覆いかぶさる。「千尋……好きだよ、大好きだ……」唇を重ねながら、愛を囁き……そのまま一気に千尋の中に押し入った。「んんんんーっ!」僕の唇で声を塞がれた千尋の身体が震え、強く締め付けられる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-16
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ヤマトの章 24 またいつか出会う日まで 5

 この日の夜のことは、一生忘れないだろう。僕の存在が完全にこの世から消え、千尋の記憶から忘れられたとしても。僕と過ごした時間のほんの少しの記憶だけでも心のどこかに残しておいて欲しい……。だから僕は千尋の身体に、心に、僕のことを刻み付ける。 月明りに照らされ、涙を浮かべて快感に震える千尋はとても綺麗だった。千尋を抱きしめ、唇を重ね、全身にキスを落とす。そのたびに甘い声を上げる千尋が愛しくてたまらない。僕たちは互いの名前を呼びあい、何度も何度も身体を重ねて愛を交わした――**** あれからどれ程の時が過ぎただろう。窓の外はうっすらと明るくなってきている。抱きしめている千尋を見つめた。「千尋……」千尋は僕の腕の中で静かに寝息を立てている。そんな千尋が愛しくてたまらない。だけど……。「もう……ここまでかな……」千尋を抱きしめている腕が徐々に透けていってる。腕だけじゃない、身体もだ。徐々に身体だけじゃなく、魂が消えていくのを感じる。 千尋が目を覚ます頃には僕の身体は完全に消え去っているのだろうな。けれど僕の心は嘘のように穏やかだ。あれ程この世から消えてしまうのを恐れていたはずなのに。それはきっと千尋と思いが通じ合ったからなんだと思う。もうこの世で思い残すことは何もない。だけど、欲を言えば本当は千尋が目覚めるまでは側にいさせて欲しかった。でもどちらが千尋にとって幸せなんだろう? 千尋が目覚めた時、僕が消えていたら君はどんな反応をする? でもそんなこと考えるのも無意味なんだろうね。だって僕には分かってる。僕の身体は無に帰る。千尋の知っている間宮渚は永遠にこの世から消え去るのだ。当然千尋が僕と過ごした時間も全て消えてしまうだろう。 だから、このまま消え去るのが一番千尋を傷つけなくて済むのだと思うんだ。 さよなら千尋。 愛してるよ。 だからどうか僕がいなくなっても幸せに暮らしてね。 でも大丈夫、きっとまた未来で会える。 それは近い将来かもしれないし、ずっと遠い未来かもしれない。 だって何百年も前に同じ時間を生きていた千尋と、この時代で出会えたのだから。 姿や形が変わっても、魂は決して変わらない。 君がどんな姿になっていたとしても必ず僕は君をみつけて見せるよ。だからその時まで、待っていてね。「千尋……愛してる」最後に千尋の唇
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-17
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間宮渚 1 前夜 1

 千尋は手紙を読み終えた。10行にも満たない短い手紙。頭痛がますます酷くなってきた。「う……」頭を押さえる千尋。「お、おい。大丈夫か?」祐樹は心配になって声をかけてきた。「はい。大丈夫です。……この人のことを思い出そうとすると、頭が痛くなって……」「それなら無理に思い出そうとすることはないさ。その内思い出せるかもしれないし」祐樹は肩をすくめた。「でも、どうして私は渚という人のことを忘れてしまったのに、橘さんは彼のことを覚えているんでしょう?」それが千尋には謎だった。「う~ん……。恐らく俺が昔からの本当の渚を知ってたからなんじゃないかって思うんだよな」「そうかもしれませんね」「で、これからどうする? 俺は明日渚が退院するから午前中に病院へ身元引受人として迎えに行くんだけど……。実はアイツさ、アパートを解約して今住む場所も無いみたいだから当面俺が面倒みてやるつもりなんだ」祐樹はため息をついた。「あの、渚さんにはご家族はいないんですか?」「ああ……そうか。渚のこと知らなくて当然だよな? アイツ、親に捨てられてんだよ」「え?」「渚の両親はアイツが小学生の時に離婚してるんだ。父親も母親も浮気相手がいたんだぜ? 笑っちゃうよな? 結局渚は父親に引き取られたんだけど再婚相手の母親ってのがまだすごく若くて、渚が中学の時に弟が産まれたのさ。父親も義理の母親も当然の如く弟ばかり可愛がるようになって、アイツ段々荒れていったんだよ……」なんて気の毒な話なのだろう。千尋は胸が痛んだ。「渚が高校生になる頃は、もう何回も警察に補導されるようになっていて、とうとう渚は父親がアパートを借りて、家から追い出したんだよ。それで渚の奴、一度母親の住んでいる住所を訪ねて行ったことがあるらしいんだ。けれど再会した母親になんて言われたと思う?」「え……? 何て言われたんですか?」「『あなた誰?』って言われたらしいよ。母親の再婚相手はどこかの会社の社長らしくて馬鹿でかい屋敷に住んでいたんだとさ。再婚相手には連れ子がいたらしくて、皆で仲良さげに暮らしていたって、あいつ自嘲気味に言ってたよ」「……」もう千尋には何も返す言葉が無かった。「だから渚には身内の身元引受人はいない。病院側が渚の身元が分かったからって両親の家に連絡入れたらしいけど、もう赤の他人だから関わりたく
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-18
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間宮渚 2 前夜 2

 千尋がうなずくのを見て、祐樹は笑顔になった。「よし、それじゃまずは腹ごしらえだ! 飯食って帰ろうぜ? ほら、メニューだ」千尋は祐樹からメニューを受け取り、中を開いた。「え……と、何にするかな……よし、俺は焼肉定食だ。青山さんは決まったか?」「それじゃ、私はシーフードグラタンにします」祐樹は店員を呼ぶと、二人分のメニューを注文し、店員が去ると千尋を見つめた。「あのな、ちょっといいか?」「はい?」「そう、その口調だよ。敬語なんか俺に使うなよ。そういう話し方正直苦手だからさ。頼むから普通にしゃべってくれると助かる」「え?」千尋はポカンと口を開けた。「うん、分かった。それじゃそうするね」「それがいい」笑う祐樹。「?」「ずっと暗い顔してただろ? やっと笑ったな。青山さんは笑ってる顔の方が似合ってるぜ」「あ、ありがとう」やがて二人の前に料理が運ばれてきた。「うは~美味そう! それじゃ早速いっただき~」祐樹は焼肉を箸で摘まむと口に運んだ。「くー! この肉、味付け、最高だ」ガツガツと食べる祐樹を見て千尋はグラタンを食べながらクスリと笑った。「ん? 何だ? どうかしたか?」「本当に美味しそうに食べるんだなって思っただけ」「そりゃそうだ、人間食べてる時が一番幸せ。食わなきゃ考えもまとまらない。だから俺は日頃から自分の生徒たちに言ってるんだ。朝昼晩、好き嫌い言わずにちゃんと食えよって。そうじゃなきゃ頭も回らないからなって」「え? 生徒? もしかして学校の先生?」「それはちょっと違うな。俺は塾の講師をやってるんだ。まあ、バイト的な感じなんだけどな。週に3回小学生から中学生までを見てるよ。あ、ちなみに科目は算数・数学だな」「へえ~」「あ、今意外だと思っただろ?」千尋の考えを見透かしたかのように祐樹は言った。「べ、別にそんなんじゃ」「んで、本業はこっち」祐樹は名刺を渡した。「あ……バーの店員さん?」「ああ、俺バーテンなんだ。今は雇われの身だけど、いつかは自分の店を持つのが夢なんだ」「すごい……。実は私今迄一度もバーに行ったことが無くて」「へえ本当か? 何で? 店で飲んだりしないのか?」「お酒は好きなんだけどね、大体いつも家飲み。たまに飲みに行くとしても殆ど居酒屋ばかりかな」「何でショットバーには行かないんだ?」「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-19
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間宮渚 3 前夜 3

「まあ、そっちの方が俺に向いてると自分でも思ってるけどな。あ、でも自分の教え子たちだって気にかけてるぞ? 生意気な生徒も中にはいるけど、皆俺の可愛い生徒たちだからな」「きっとすごくいい先生なんだろうね」祐樹の話を真剣に聞く千尋。「うん? ま、まあな?」祐樹は少し照れたように笑った。「ところで話は変わるけど……まあ渚のこと忘れてる人間に言っても無意味かもしれないけど、万一の為にに話しておく。いつ青山さんが渚のこと思い出すか分からないしな」「何? どんな話?」「俺は昔の渚も、最近までの渚のことも知っている。だが問題なのは、本来の渚の方だ。アイツは心に闇を持っている。だからあまり近づかない方がいい。これは青山さんの為を思って言ってることだ。俺はただ単に青山さんの記憶を取り戻すためだけに渚の元へ連れて行ってやるつもりだ。仮に青山さんが知ってる渚を思い出したからと言って、姿だけ一緒で中身は全くの別人てことは理解しておいてほしい。過度に今の渚に期待を持ったりしたら駄目だからな?」「う、うん……」千尋はごくりと息を飲んだ。「そういや……里中は渚のこと覚えてるんだろうか?」「え? それは……?」言われてみれば、一度もそのような考えが頭に浮かんだことは無かった。「まあ、今度聞いてみればいいか?」祐樹は笑った――**** 結局、最初から話したとおり、2人分の会計は祐樹が支払った。店を出る時に千尋は礼を述べた。「どうもご馳走様でした」「いや、気にするなって。ところで家、どっちの方向なんだ」「私、向こうから来たの」千尋は後方を指さした。「送ろうか?」「一人で帰れるから大丈夫」「分かった、じゃあな」「うん。またね」 店の前で祐樹と別れると、千尋は夜空を見上げながら家路についた。鍵を開けて家に入ると真っ暗でシーンと静まり返った部屋が現れる。やっぱり違和感を抱かずにはいられなかった。いつも誰かがこの家に一緒にいたような気がする。思い出そうとしても頭が痛んで思い出すことを拒んでいる。「……どうしてなの? どうして私、何も思い出せないの……?」胸にはぽっかりとした穴が空き、空虚感が漂っている。千尋はもう一度祖父の部屋へ入り、ベッドに座る。「ここで……渚と言う人が寝起きしてた……?」あの手紙、はっきりとは書いていなかったがどう考えてみても自分
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-20
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間宮渚 4 独白 1

 俺の人生は順風満帆とはおよそ言い難いものだった。 幼い頃から喧嘩の絶えない両親を見て育ってきた。だったら何で夫婦になったんだと言ってやりたい。二人はろくに俺の事も顧みず揃って浮気してやがった。笑っちまうよな。離婚するにあたっては。どちらが俺を引き取るかで酷く揉めていた。 俺に丸聞こえだってのもあの二人は気が付いていなかったとのだろう。それだけ俺には関心がなかったということだ。ただ面倒な存在の俺を引き取りたくないだけだったのだ。結局俺は親父に引き取られることになった。 その際に、こう言われた。――くれぐれも新しいお母さんに迷惑をかけるんじゃない、と。 迷惑? 迷惑って何だよ? あんた達のせいで一番迷惑被ってるのは俺だって言うのがアイツらにはまるで分かっちゃいないんだ。多分、親父と新しく母親になったあの女は俺の事が邪魔で仕方が無かったんだと思う。何故なら俺は聞いてしまったからだ。あの女が親父に向かって、子供を引き取るなんて聞いてないってヒステリックに喚いていたのを。 ああ、そうかい。そこまで俺が邪魔ならこの家に置いておきたくない理由を作ってやろうじゃないか。そしたら世間も同情してくれて堂々と俺を追い出すことが出来るよな? だから俺は何でもやった。万引きは小学6年の時に初めてやった。幼馴染でおせっかい、優等生気取りの祐樹は俺に何度も警告した。馬鹿な真似はやめるんだと。お前なんかに俺の気持ちが分かってたまるか。恐喝は中学になってから。高校になんか行く気は無かった。中卒でこの家を出てどんな仕事でもいいから働いて自立することだけを考えていた。なのに親父がそれを許さなかった。世間体というものを気にしていたらしい。そんな気持ちがあるなら浮気なんかするなよと言ってやりたくなる。 高校に上がると俺はますます荒れていった。犯罪すれすれのこともやったし、暴力事件で何度警察の世話になったか分かりはしない。ただ、これだけは自信を持ってはっきり言える。俺は自分より力の弱い者には決して手を出さなかったってことだけは―― 案の定、親父は俺を持て余し、安アパートを当てがわれた。学費、毎月の家賃に生活費、それらは全て援助してやると。ただし、条件を突き付けられた。 二度と自分たちとは関わるなと。金の代わりに親子の縁を切ると言われたようなものだ。未成年の子供に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-21
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