頭にカッと血が上る。俺のことが分からないはずは無いのにとぼけた顔で言うなんて。一縷の望みを託して、再度言葉にした。「俺だよ、渚だ。母さん……」するとあの女は冷たい笑みを浮かべた。「お金が欲しくて来たの?」と。少し待つように言われて俺はその場に留まった。戻って来ると母親は通帳とキャッシュカードを手渡してきた。「毎月この通帳に金を振り込むから二度と私たちの前には現れないで」と言って。別に金が欲しくて会いに行ったわけじゃない。でも……ああ、そうかい。そこまで言うなら貰えるもは貰っておこうじゃないか。もう二度とあんたらの前には現れない。通帳とカードを引っ手繰るように取ると、何も言わず駆けだした。 俺は親に捨てられたんじゃない、自分から親を捨てるのだ。毎月かつて親だった二人から定期的に金は振り込まれるが、手を付けるのは癪だった。それからの俺はアイツらを見返してやるために死に物狂いでバイトと勉強を両立させた。成績はグングン上がり、教師共は大分俺を見直すようになってきた。小学校からの腐れ縁、あのお人よしの祐樹も俺が生まれ変わったと喜んでいるが、生憎お前が考えているような人間では無い。 教師に大学を勧められた。けど、進学する気はさらさら無かった。別にやりたいことが見つかったからだ。俺のバイト先は飲食店だった。そこで料理を作り、客に出す。そこで初めて料理を作るのは、こんなにも楽しいのだと知った。決めた、俺は料理学校に行ってシェフを目指す。**** 調理師専門学校は学費が中々高かった。けどあいつらから金は振り込まれてるし、殆ど手は付けていない。入学金と学費合わせてみても、これなら何とかやっていけそうだった。 高校卒業後、俺は希望通り都内の調理師専門学校へ通い始めた。授業はきつくて大変だったが死に物狂いで頑張った。夜は生活費と料理の腕を上げるために飲食店で働く日々。他の奴らは合コンだの飲み会、デート等で楽しんでるが、生憎俺にはそんな余裕も無いし、一切興味など無かった。それに俺が恋愛事に全く興味が無いのは全てあの両親のせいだった。当然だろう? 毎日のように激しいのの知り合いの喧嘩を見てきただけじゃなく、お互い裏切っていたんだから。 恋愛には全く興味が無かったが、とに角俺はやたらと良くモテた。まあ、俺の両親が二人とも美形だったからだろう。そこだけは感謝
Last Updated : 2025-06-22 Read more