離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた のすべてのチャプター: チャプター 1711 - チャプター 1720

1738 チャプター

第1711話

大輔は軽い調子で冗談めかして言った。「社長の身の回りが落ち着いて、将来ご自身で会社を興されることがあって、アシスタントが必要になったら、ぜひ僕に声をかけてくださいね。なんだかんだ言って、僕も長年お仕えしてきましたから。使い勝手はいいはずですよ」蓮司の返事は短かった。「ああ」大輔は勝のことについてもう少し話したかった。だが、蓮司をつらい気持ちにさせるのではないかと思い、口をつぐんだ。信頼していた部下に後ろから刺されたのだ、誰もが簡単に水に流せるわけではない。大輔は言った。「どうかお体に気をつけてください。今日は家に帰って荷物を片づけて、明日、病院へお爺様のお見舞いに伺います」二人はさらに二言三言交わし、それから電話を切った。大輔はため息をついた。自分は不本意な形で辞めることになったが、それよりも蓮司のほうがずっと苦しいはずだった。勝のあの顔つきを思い出す。かつての上司を踏み台にしてのし上がるような真似をしておきながら、いかにも大義を背負い、公正無私であるかのように振る舞っていた。体面を繕うだけでなく、大輔の目には、勝が本当に取り繕うのがうまい男に見えた。まるで自分は完全に「潔白」であり、卑劣な小物などではないとでも言いたげだった。内心でそう毒づき、呆れ返っていると、大輔のスマホが震えた。通知音だった。画面を見た途端、大輔は目を見開いた。なんと、蓮司からの送金通知だったのだ!金額は、なんと160万円。備考には【旅行で気晴らしでもしてこい】と記されていた。だが大輔には分かっていた。これは蓮司が個人的に出してくれた「退職金」代わりだった。大輔はそれだけで十分に満たされた気持ちになった。たしかに普段、蓮司の下では死ぬほど忙しく、馬車馬のように働かされてきた。けれど金銭面では、蓮司が大輔を冷遇したことは一度もない。業務外の頼み事には、その都度きちんと特別手当を出してくれていた。大輔は蓮司へ感謝のメッセージを送った。返信はなかったが、大輔には、蓮司が目を通したことは分かっていた。もしかすると、蓮司は今、勝からの電話に出ているところなのだろうか。何しろ最上階の社長室へ入るには、蓮司にアクセス権限を付与してもらう必要があるからだ。だが、社長室の内装はすべて蓮司が私費を投じて整えたもので、会社の経費で賄ったものではなかった
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第1712話

啓人が電話をかけた「新井社長」は、もちろん蓮司ではなく悠斗だった。啓人は最初から悠斗の人間だったのだ。スマホの向こうで啓人の言葉を聞いた悠斗は、焦る様子もなく、淡々と答えた。「勝がそうしたいなら、その通りにさせておけ。いずれあいつは、自分でどうにかして最上階へ行く方法を考える」誰もが羨む地位まで上り詰めたというのに、それを誇示する場所がないのでは、身分を証明できないのと同じだった。玉座を持たない皇帝が威厳を示せないように、いずれ勝は、権力の象徴であるあの場所へ自ら這い上がろうとするに決まっている。廊下で悠斗の言葉を聞いた啓人は、従うしかなかった。どのみち、勝など所詮は傀儡にすぎない。用済みになればいつでも蹴り捨てられる。将来、新井グループの最高経営責任者になるのは、やはり悠斗なのだから。その頃、遠く離れた海外では。勝裕と石橋輝(いしばし あきら)たちが、瑞相グループとの提携プロジェクトを自ら現地で追っていた。これも蓮司の指示であり、また誰かに意図的な横槍を入れられるのを警戒してのことだった。ところが彼らは思いもしなかった。海外のプロジェクトは順調で何の問題も起きていないというのに、国内のほうが大騒ぎになっていたのだ。なんということか。まるで自分たちが前線で血みどろの戦いをしている間に、後方の本拠地を丸ごと乗っ取られたようなものだった。しかも反旗を翻したのは、かつて肩を並べて戦った仲間――坂本勝だった。時差のせいで、彼らが会社の「体制一新」を告げる一斉メールを見た時、国内はすでに夜になっていた。勝裕たちは即座に身内だけのグループチャットでビデオ通話を繋ぎ、勝を呼び出して吊るし上げようとした。その頃、まだ残業していた勝は、ビデオ通話の招待を見た瞬間、相手のただならぬ気配を察した。勝裕たちから個別に送られてきていた非難のメッセージにも、彼は一切返信していなかったからだ。だが、この件には結局、どこかで決着をつけなければならない。そう考え、勝は通話に参加した。案の定、繋がった瞬間、怒号と罵声が耳に飛び込んできた。勝は恩知らずの裏切り者であり、蓮司の窮地に付け込んでのし上がった卑怯者だ、と。そして罵られる対象が通話に入ってきたのを見るなり、全員の非難は一斉に勝へ向かった。「お前がそんな人間だったとは
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第1713話

「そうか。お前たちが俺を認めないと言うなら、自分から辞表を出せばいい。今日の午後、佐藤が辞めたばかりだ。あいつと一緒なら寂しくないだろう」それを聞き、勝裕の顔が冷えた。画面の向こうにいる勝を睨みつけて言った。「坂本、お前に佐藤を追い出す資格があるのか?そこまでして俺たちを排除したいのか?」勝は淡々と返した。「俺は追い出していない。むしろ引き留めた。あいつが自分から辞めると言ったんだ。だが、お前たちはどうかな。俺に協力せず、指示にも従わないと言うなら、会社に反抗的な社員は必要ない」「貴様……!」その傲慢な言葉を聞いた輝は、たちまち怒りを抑えきれず、勝を睨みつけた。勝は輝を見て、鼻で笑うように冷たく言った。「石橋。この中で一番、俺を罵る資格がないのはお前だ。お前には最初からそんな資格などない!高山たちは俺よりスタートラインが恵まれている。一流大学を出ている。それは認める。だが、お前はどうなんだ、石橋?お前が俺の上に立つ理由がどこにある?瑞相グループのプロジェクトだってそうだ。どうして新井社長は、お前みたいな役立たずまで現地へ送ったのに、俺だけを国内に残したんだ!?もう本当にうんざりだった。胸に手を当てて考えても、俺が取ってきた契約、俺が出した成果、そのどれがお前に劣っていた?それなのに、どうして新井社長はいつもお前ばかりを贔屓するんだ!?俺の努力が足りなかったのか?俺が優秀じゃなかったのか?俺は自分の仕事以外にも、新井社長のために走り回って、数えきれないほど面倒な用事をこなしてきた。新井社長が栞お嬢様を追いかけると言えば、俺は積極的に知恵を絞った。良心にも道徳にも背いて、あの安田博を遠ざけるためにちょっとした事故を仕組んだことさえある。それなのに、最後に俺が得たものは何だった!?俺が得たのは孤立だ!冷遇だ!中核プロジェクトから外されることだ!結局、華々しい成功を手にするのはお前たちだ。実績を上げ、称賛され、昇進し、昇給していく。俺はただ脇で、お前たちが得意げに笑うのを眺めているだけ。俺自身には何一つ残らないんだ!」グループチャットは一瞬で完全に静まり返った。最後には声を枯らさんばかりになった勝の告発と非難。自分が受けた不公平と憤りを吐き出すその言葉を聞き、全員がしばし沈黙した。勝がそんな考えを抱いていた
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第1714話

「だが、ひいきされているお前たちは、俺がどんな境遇にいたかなんて一度も考えたことがないだろう。さっきも言った通りだ。既得権益者のお前たちに、どうして俺の気持ちが分かる?」そこまで言ったところで、勝が今日どうしても言いたかったこと、口に出したかった不公平と不満は、すべて吐き出された。勝は深く息を吸い、姿勢を正した。表情は平静に戻り、画面の中にいる、かつて同じチームに属していた幹部たちを見つめた。だが今、立場は完全に逆転した。自分はもう冷遇される側ではない。彼らの上に立ち、これからは彼らが自分の下で顔色をうかがいながら働くのだ。勝の胸には、快意と大きな爽快感がこみ上げた。権力だ。これが権力だ!やはり権力こそ、男にとって最高の強壮剤だった!勝は言った。「今後お前たちがきちんと働き、俺に逆らわないなら、昔のよしみだ、わざと難癖をつけるような真似はしない。だが、自分から痛い目に遭いに来るつもりなら、自ら墓穴を掘るつもりなら、俺が情け容赦なくても恨むなよ。会社は全体として前に進まなければならない。お前たちがプロジェクトの進行を妨げるなら、それは職務上の重大な問題になる。その時は、俺でもお前たちを庇いきれないからな」忠告めいた警告を言い終えると、勝はそのままグループチャットから退出した。残された数人は、怒りを抱えたままチャットで彼を罵り続けた。勝裕はもう加わらず、グループチャットをミュートにした。それからスマホを手に取り、蓮司へ電話をかけ、勝の一連の言葉を報告した。スマホの向こうで。それを聞き終えた蓮司は、何も返さなかった。長い沈黙が続いたため、勝裕はしばらく待ってから、再び口を開いた。「新井社長、こちらでもう一度、坂本と話をしてみましょうか?あいつは一時的に視野が狭くなっているだけです。社長が私たちを贔屓し、あいつを国内に残したのは意図的に遠ざけるためだったと思い込んでいるんです。そのあたりをきちんと説明すれば、分かってくれるはずです。坂本は今、社長代理という立場にありますから、社内の動向を監視し、近藤たちの一派が裏で何を企んでいるか、リアルタイムで把握するための駒としても使えるはずです」勝裕がそこまで言い終えると、ようやく向こうから蓮司の返事が聞こえた。冷淡な、短い一言だけだった。「必要ない」勝裕は一瞬止
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第1715話

「坂本は、俺があいつを国内に残したのは排除し、押さえつけるためだと思っている。だが、お前たちは誰もそうは考えない。本当に心から俺についてくる者は、自分から道を踏み外したりはしない。もちろん、あいつはこれまでよくやっていた。大きな失敗もなかった。だが、選択を迫られた時はどうだ?もっと誘惑の強い条件を目の前に差し出された時は?人間の本性ほど、試されることに弱いものはない。選択肢がない時は何もかも穏やかだ。不満も表面化することはない」蓮司の畳みかけるような反問に、勝裕は完全に沈黙した。一時、言葉を失って呆然とした。勝裕は、グループチャットで勝が言い放った時の口調を思い出した。勝はすでに、彼らを見下すような態度をとっていた。表情は高慢で、目には蔑みの色があった。だから、蓮司の言葉には確かに理があった。これは勝自身の選択だったのだ。勝は自分で権力を選び、「人は上を目指すものだ」と豪語した。いわゆる不公平だ、ひいきだという不満は、自分がやむを得なかったのだと正当化するための口実にすぎない。勝裕が黙り込んだのを聞き、蓮司はまたゆっくりと口を開いた。「実際のところ、今回、お前たちの誰が向こう側についたとしても、俺は責めもしないし罵りもしない」今の蓮司は、一種の選別を行っている段階だったからだ。管理層であれ取締役会であれ、彼はもう機嫌をとる必要も、誰かを無理に引き留める必要もなかった。変えない。説得しない。ただ選ばせる。上に立つ器を持つ人材は貴重であり、手放すのは確かに惜しい。だが、この世に有能な人間は後から後から現れる。代わりになる者はいくらでも出てくる。勝がすでに道を選んだ以上、蓮司はもう引き留めない。これで、勝との縁も完全に切れた。今後、勝の身に何が起きようと、蓮司には関係のないことだった。電話の向こうで勝裕は蓮司の言葉を聞き、その真意を探ろうとした。だが、どうにもはっきりと読み取れなかった。蓮司はこの先また戻ってきて、大規模な粛清を行うつもりなのか?それとも、完全に戻る気がないからこそ、彼らの去就に口出ししないのか?勝裕は数秒ためらったが、やはりこらえきれず、蓮司の意向を探るように尋ねた。「新井社長、本当にもう戻られないのですか?」蓮司は答えた。「俺が戻るか戻らないかは、お前たちの処遇には関係ない。佐藤は
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第1716話

グループチャットでは、全員がビデオ通話から抜けたあとも、メッセージは流れ続けていた。勝を罵っていた激しい空気は落ち着き、今は皆が今後の身の振り方――残るべきか去るべきか、そして新しい権力者に目をつけられないか――について話し合っていた。誰も勝の言葉など信じていなかった。少しでも先が見えている者なら、勝のように役員たちから担ぎ上げられた雇われの『代理社長』など、外部から雇われた経営者と大差ないと分かっていたからだ。勝も結局のところ、近藤取締役たちの一派が表向きに据えた駒にすぎない。彼らの命令通りに動く操り人形でしかないのだ。皆の不安や、先の見えない迷いを察し、勝裕は一行のメッセージを打ち込んだ。【新井社長は、俺たちに元の持ち場でしっかり留まれと言っている。会社に俺たちを追い出す理由はない。だから皆、自分の立場でやるべきことを考えて、自分の仕事をきちんとこなせばいい。上司が変わっただけで、ほかは今まで通りだ】勝裕のこの言葉を見て、皆は少し落ち着きを取り戻した。それが蓮司自身の考えだと知ったからなおさらだ。続いて皆は、先ほど勝裕が蓮司に尋ねていたあの問題を口にした。蓮司は結局、戻ってくるのか、と。勝裕は返信した。【分からない。ただ、新井社長の考えは、戻るにせよ戻らないにせよ、俺たちは今まで通り自分の仕事をすればいい、ということだ】皆はそのメッセージを見て、それぞれに考えた。確かに、蓮司が表向きの最高経営責任者の座に戻らなくても、新井グループの株式はまだ彼の手にある。自分たちは実質、今も彼のために働いているようなものだ。そう考えると、皆の焦りは薄れた。今後の去就に思い悩むのはやめ、今の持ち場にしっかり残って働こうと思えた。【では、佐藤チーフはどうなるんだ?もう辞めてしまったけど、また戻ってこられるのか?】ふいに誰かがそう書き込み、チャットは再び沈黙した。勝裕は返信した。【佐藤のことは俺が聞いてみる。たぶん本人も、もう戻りたくないと思っているはずだ。坂本と顔を合わせたくないだろうからな。皆も、普段つながりのある社長の中で、アシスタントを探している人がいないか見てくれ。佐藤に紹介できるかもしれない】それが、かつての同僚として彼らが大輔にできるせめてもの手助けだった。よその会社では、新井グループほどの待遇は望
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第1717話

「橘社長ご本人が面接してくださるなら、確かに光栄の至りです。でも、あなたとなると……そこまでではありませんね」それを聞き、電話の向こうでスティーブは「ふん」と鼻を鳴らして返した。「それは残念でしたね。ご期待に沿えず申し訳ありません。社長は日々お忙しいので、アシスタント一人の面接に時間を割くほど暇ではありませんよ」大輔も当然分かっていた。本気で雅人に面接してほしいわけではないし、自分にそこまでの価値があるとも思っていない。今の言葉は、ただスティーブへ言い返しただけだった。スティーブがまた言った。急かすような口調だった。「それで、結局来るんですか、来ないんですか?私が直々に電話しているんですよ。この誠意だけで十分でしょう?私は社長の筆頭アシスタントです。普通の人員の面接や入社に、私がわざわざ関わる必要なんてありませんからね」大輔は返した。「お気持ちはありがたいですが、しばらくは休むつもりです」スティーブは言った。「それなら構いません。気が向いたら連絡してください。ただし、先に言っておきますよ。主要幹部のアシスタント枠が埋まってしまったら、下のポジションに回るか、私の下で働いてもらうことになりますからね」スティーブの下で働くこと自体に、大輔はそこまで抵抗があるわけではなかった。以前より立場が一段下がるのは確かだが、あの啓人の下でこき使われて屈辱を味わうよりはずっとましだ。ただ、大輔は本当に気になっていた。スティーブはどうしてこんなにも早く、自分が新井グループを辞めたことを知ったのだろうか?こちらでは社内手続きすらまだ承認されていないはずなのに、外部の情報網はそこまで早いのか?それに、スティーブが電話してきた口調は、からかい半分、面白がり半分ではあった。だが、瑞相グループへの入社を自分から持ちかけてきたのも事実だ。しかも、ほぼ確実に通るような言い方だった。そのうえ、自分がしばらく休むと言っても、この誘いは有効だと言い、最悪でも彼の下へ置くとまで言ってくれた。これはさすがに……自分への配慮が手厚すぎる。これはコネ入社どころではない。正面玄関を全開にして、中へどうぞと手招きしているようなものだった。大輔がその二つの疑問を口にすると、スティーブは答えた。「京田市の上流社会のつながりなんて、しょせん狭い世界です。少しでも動きが
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第1718話

電話を切ろうとしたその時、大輔は慌ててスティーブを呼び止め、厚かましくも笑って尋ねた。「あの、栞お嬢様の下でアシスタントとして働くことはできますか?お嬢様も今後は瑞相グループで仕事をなさるのでしょう?」少し前、透子は一部のプロジェクトを担当していた。だから大輔は、これからの透子もただのお飾りのお嬢様として収まるのではなく、本格的に仕事に関わっていくはずだと思っていた。スティーブは言った。「栞お嬢様の具体的な役職や異動は、まだ調整中です。うちの社長としては急がせず、しばらくはゆっくり休ませたいようです」大輔はすぐに言った。「僕も急いでいません。しばらくは休むつもりですから」スティーブはそれを聞き、考えた。大輔は以前、蓮司についていた。能力は当然、申し分ないはずだ。栞お嬢様を補佐させれば、お嬢様も短期間でぐっと実務に慣れるだろう。ただ、一つだけ気がかりがあった……スティーブは警戒したように尋ねた。「君、立場を利用して私的な便宜を図ったりしませんよね?」大輔はぽかんとして聞き返した。「え?何の私的な便宜?僕が会社の金を横領したり、賄賂を受け取ったりするとでも思っているんですか?僕がそんな人間なわけないでしょう!」大輔は本気で腹が立った。これでも前新井グループ最高経営責任者の特別アシスタントだったのだ。人柄も信用も、それなりに保証されているはずだった。それなのに、スティーブは彼が横領すると言い出した!なんという濡れ衣だ!スティーブは大輔が誤解していると分かり、慌てて説明した。「いえ、お金のことではありません。私が言った裏工作というのは、君が前の上司のために立場を悪用することです。例えば、栞お嬢様をわざと前の上司がいるレストランへ連れて行き、偶然を装って相手にお嬢様へ話しかける機会を作るとか。言っておきますが、それは横領よりずっと深刻な大罪ですよ。本当にそんなことをしたら、うちの社長に北極海へ放り込まれて、サメの餌にされますからね」スティーブの説明を聞き、大輔の怒りは収まった。彼は誓うような口調で言った。「そんなことはしませんよ。仕える主君が変われば、忠誠を誓う相手も変わります。今後、僕が栞お嬢様のアシスタントになるのなら、当然、何事もお嬢様を最優先にします」スティーブは言った。「前の上司への情に引きずられて、あちらと裏で結
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第1719話

大輔の言い分には、確かに筋が通っていた。実際、あの時船に乗ったのは大輔だったため、スティーブもそれ以上しつこく追及はしなかった。大輔はさらに、逆に相手をやり込めるように言った。「それに、僕が黙っていて正解だったでしょう?もし言っていて社長が追い払われていたら、その後、栞お嬢様が危険な目に遭った時、本当に危なかったんですから」スティーブはそれを聞き、不服そうに鼻を鳴らした。「たとえ新井社長があの時出てこなかったとしても、こちらの警備チームが栞お嬢様を救い出していました。本当に危険な目には遭わせませんよ」大輔はすかさず聞き返した。「では、銃撃の時はどうです?あなたたちの警備チームが本当に間に合っていたなら、社長が身を挺して銃弾を受ける必要がありましたか?」その言葉に、スティーブは沈黙した。確かに、あの時、蓮司がいなければ、透子は間違いなく撃たれていた可能性が高い。命に別状はなかったとしても、相当な重傷を負うことになっていただろう。大輔は相手が言い返せなくなったのを見て、軽い口調で言った。「ああ、誤解しないでくださいね。別に新井社長を庇っているわけではありません。僕はもう辞めましたし、彼の部下でもありませんから。今の例を出したのは、あの時、僕が新井社長と裏で結託してはいなかったと証明したかっただけです。僕は彼の部下だったので、まず彼本人の身の安全を最優先しなければならなかったんです」スティーブは、大輔があの時に銃撃を予知できたはずがないと言い返したかった。だが、今さらその話をしても仕方がなかった。確かに、あの時蓮司が身を挺してくれたことには、感謝すべきなのだ。彼が命を投げ出さなければ、傷ついていたのは透子だった。スティーブは言った。「君の希望は、こちらから社長へ伝えておきます。栞お嬢様のアシスタントにするかは、うちの社長の承認が必要ですからね。特に君の場合は、ええ、前科がありますから。あ、これは犯罪歴という意味ではありませんよ。以前、新井社長のアシスタントだったという点です。それだけで、うちの社長が慎重に見極める理由としては十分です。何しろ、うちの社長は新井社長のことをひどく嫌っていますから」大輔はそれには深く頷いた。だが内心ではため息をつき、透子の下でアシスタントになる話は八割方望みがないだろうと思った。雅人は
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第1720話

同時に、ほかの幹部たちからも個別メッセージが届いていた。大輔は一つずつ目を通し、胸が温かくなった。そして同じ文面をコピーして、それぞれに返信した。【みんな、心配してくれてありがとう。行き先はもう決まったよ。瑞相グループで引き続きアシスタントをする予定だ。さっきスティーブさんと話して、今は面接の連絡待ち】皆はもともと大輔の次の行き先を心配し、あちこち奔走していた。ところがこのメッセージを見て、安堵すると同時に少し羨ましくもなった。これは一つの足場から、さらに大きな足場へ飛び移ったようなものだ。どこが失業か?どう見てもステップアップの転職ではないか!しかも午後に辞表を出し、夜にはもう行き先が決まっている。なんというスピードと効率の良さだ。そのうえ、直接やり取りした相手は雅人の首席アシスタントであるスティーブなのだ。大げさに言えば、「トップ直々のヘッドハンティング」と何ら変わりない。そこで皆は次々とメッセージを送り、これからは雅人の直属アシスタントになるのかと尋ね、さらに上の舞台へ進むことを祝った。瑞相グループは国際事業を幅広く展開している。今後、大輔が雅人について世界中を飛び回るなら、間違いなくさらに実力をつけられるだろう。皆からの過大評価に対し、大輔は正直に答えた。今のところ、雅人に直接つくことはまずない。せいぜい先にスティーブの下で手伝う形になるだろう、と。ただ、大輔としては透子のアシスタントになるほうに気持ちが傾いていた。業務のプレッシャーもそこまで重くないだろうし、透子は人柄も性格も穏やかで付き合いやすく、気負わずに働けるからだ。勝裕たちは大輔の返信を見て、透子につくほうがさらにいいと言った。彼女の仕事を立ち上げからサポートするなら、実績も作りやすいからだ。大輔は苦笑しながら打った。【まだ何も確定してないよ。決まったらまた知らせる。とにかく、その二つのどちらかのポジションになると思う】勝裕から届いた。【どちらのポジションもいい。昇進の余地も将来性もはっきりしている。頑張れ、大輔!】光佑からも届いた。【出世しても俺たちを忘れるなよ、親友!瑞相グループでしっかりやれ!】周防浩司(すおう こうじ)からもメッセージが届いた。【橘社長のそばにはすでに筆頭アシスタントがいるとはいえ、お前が二番手になる日も近いだろう。未
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