「ネイヴァンさん、あの白い花……さっきまでなかったですよね?」 咲き誇る小さな白い花たちを指差して尋ねた。花びらは真っ白で、中央が薄青い。儚くも鮮明な存在感を放っている。確かにさっきまで、あそこには土の地面しかなかったはずだ。あんなに目立つ白が、記憶に残らないはずがない。 視線を移したネイヴァンが、怪訝そうに目を細める。ちょうどその瞬間、向かい風がふわりと吹いた。 淡く甘い香りが漂ってくる。その嗅覚への刺激が、僕の記憶をくすぐった。 この香りは一度嗅いだ。 そうだ。森に入って最初の分かれ道を過ぎたあと、道沿いに広がっていた小花たち―― 「ッ……!」 突如、背後から鼻と口が塞がれた。指の長い大きな手。驚いて目だけをぐるりと動かして見上げると、ネイヴァンが怖い顔をしている。 「吸うな。この香りが幻覚の発生源かもしれない。できる限り浅く呼吸しろ」 囁くような声が耳元に落ちる。僕は言われるがまま、できるだけ胸を膨らませないよう呼吸を抑えた。 次の瞬間。 近くの茂みが不穏に揺れたかと思うと、漆黒の毛並みを持つ巨大な熊型の魔物が飛び出してきた。金色の目と白い牙が光り、全身の毛は鋭い針のように逆立っている。普通の熊と大きく異なるのは、その額に槍のような一角が突き出していること。刺されればひとたまりもない。 「ちょ、ちょっと、嘘つきっ! 全然弱くなさそうです! 一撃必殺されちゃいますよ!」 僕が叫ぶと、ネイヴァンも口元を歪めて舌打ちをした。 「おかしいな。読みが外れたか……?」 僕たちは互いに距離を取り、戦闘
Huling Na-update : 2025-05-21 Magbasa pa