「どこがいいかな。目玉、鼻、耳、唇、乳頭、臍、性器の先端、手足の指、小腸……」 観客たちが固唾を吞んで見守る。 「目玉にしようか。宝石のような虹彩と、白目のコントラストが美しい」 刃先を下にして、ナイフが垂直に立てられる。それがググとわずかに沈み、エルドリスの手首の返しと共に回転する。 観客席から喘ぐような吐息が聞こえてくる。 「次はそうだな……唇にしよう。もう二度と、私に裏切りの言葉を吐かないように」 エルドリスの台詞が演出なのか何なのか、僕にはわからない。ただ彼女の言葉は観客たちの共感を呼んだ。 白い指先が、唇のあるだろう場所を優しく撫でる。 その同じ場所にナイフの刃先を当てて、魚を三枚に下ろすかのように、見えない唇を切り取っていく。 「さあ、どうするか。次は……この慎ましやかな乳頭にしよう」 男女問わず何割かの観客たちは顔を逸らし、逆にもう何割かの観客たちは前のめりになった。 エルドリスの指先が拘束台の上で小さな何かを摘まみ上げる。そしてその指先の下を、ナイフの刃が滑っていった。 僕には何も見えないはずなのに、その一瞬の光景がパッと脳裏に浮かんで思わず顔を背けてしまう。 人間の乳頭はふたつある。だからエルドリスはもう一度同じ動作を繰り返したが、二度目はまともに見られなかった。 「次は……耳だな。耳の形状は繊細だ。さぞや美しい飾りとなるだろう」 エルドリスは拘束台の上の空間に手を伸ばし、耳介と思われる場所に指を掛けた。その指が、耳介を引っ張るように動く。ナイフを入れる耳の
Last Updated : 2025-06-16 Read more