僕たちはリュネットの捜索を続けた。 一階の書斎の扉を開けたとき、エルドリスが動きを止めた。 「そこにいる。行儀悪く机の上に座って本を読んでいる」 僕は、何もない机上の空間に目を凝らした。姿は見えないけれど、たとえば蜃気楼みたいな空間の歪みだとか、何かが存在する気配を少しでも感じられればと思った。 けれども何も見えなかった。空間をきらきら舞う埃でさえ、清掃の行き届いたこの館には存在しなかった。 「リューナ。本当に、お前なのか?」 エルドリスの声に感情はなかった。故人を懐かしむでもなく、離別を憂うでもなく、ただ淡々と事実確認をするだけの質問。 やがて彼女の目が動き、僕たちの立つ扉の方へと向けられた。 彼女の視線は僕たちを貫通して廊下を見ていた。 「逃げた。追いかけっこでもしているつもりなのか」 僕は廊下に出て、左右を見てみた。何もないまっすぐな通路が伸びているだけで、人が逃げていったような気配はやはりなかった。 踵を返して書斎に戻ると、ちょうどネイヴァンが、「どっこらせ、っと」なんて冗談めかして机に腰かけるところだった。エルドリスが語ったリュネットの再現だろうか。とはいえ細身の女性がやるのとガタイの良い男がやるのとでは趣《おもむき》が異なるだろう。長い脚を組んで堂々と座る様子には、とてもリュネットの姿を重ねられない。 セリカの町のエルドリスの家で見たあの写真。エルドリスと並ぶ、白銀の髪の女性。 ネイヴァンの手が、机のすぐ隣の書棚に伸びた。ピアノの鍵盤を撫でるように、整列した本の背表紙を彼の指先が滑っていく。 「リュネットは、何の本を読んでたんだろうな」 呟きながら、その指先が一
Last Updated : 2025-06-06 Read more