主寝室には、濃密な余韻が静かに満ちていた。結安は決して応えようとはしなかった。けれど、あまりにも恋愛に不慣れな彼女が、章真に敵うはずもない。何度も心を乱され、そのたびに理性は崩れ落ちていく。耳に届くのは、細かな雨が窓ガラスを優しく打つ音だけ。まるで玉が静かに転がり落ちるように、あるいは小鳥がか細くさえずるように、その音だけが夜の静寂へ溶け込んでいた。深夜――疲れ果てた結安は、そのまま眠りへ落ちた。艶やかな黒髪が枕に広がり、白い頬はほのかな灯りを受けて淡く輝いている。思わず見惚れてしまうほど、艶やかで美しかった。章真は名残惜しそうに彼女の頬をそっと撫でる。この瞬間だけは――まるで結安が昔のまま、自分のもとから一度もいなくならず、ずっと隣にいてくれたかのような錯覚に包まれていた。しばらくして彼はスマートフォンへ目を落とし、静かに起き上がる。シャツとスラックスを身につけ、その上から濃紺の薄いコートを羽織ると、ゆっくりと階下へ降りていった。リビングでは蝶野がまだ眠らず、ソファに腰掛けていた。章真の姿を見ると、どこか複雑そうな表情を浮かべる。章真は軽く顎をしゃくった。「まだ外にいるのか?」蝶野は思わずため息をつく。「葉山様……もうおやめになってください。相手はただの中年の女性教師なんですよ。どうか放っておいてあげてください」章真はごく薄く笑った。放っておかなかった、などということはない。最初から最後まで、彼は三浦先生へ想いを告げたことなど一度もなかった。すべて彼女自身が望んだことだった。曖昧な言葉を都合よく受け取り、そのために結安を傷つけた。本当に道を踏み外したのは、彼女自身なのだ。章真は傘を差し、静かな庭へ歩いていく。彼女はまだそこに立っていた。頬を伝う雫が雨なのか涙なのか、もう見分けはつかない。章真の姿を見つけると、三浦先生の顔には喜びが浮かぶ。だが口を開こうとしたその瞬間、彼の首筋に残る細い痕が目に入った。大人である彼女には、それが何を意味するのか痛いほど分かっていた。その場に立ち尽くしたまま、小さく呟く。「あなたは、一度も私に口づけをしてくれなかった。抱きたいと思ったこともなかったよね。葉山さん……あなたは、一度でも私を好きになったこ
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