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Todos los capítulos de 私が去った後のクズ男の末路: Capítulo 1401 - Capítulo 1410

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第1401話

主寝室には、濃密な余韻が静かに満ちていた。結安は決して応えようとはしなかった。けれど、あまりにも恋愛に不慣れな彼女が、章真に敵うはずもない。何度も心を乱され、そのたびに理性は崩れ落ちていく。耳に届くのは、細かな雨が窓ガラスを優しく打つ音だけ。まるで玉が静かに転がり落ちるように、あるいは小鳥がか細くさえずるように、その音だけが夜の静寂へ溶け込んでいた。深夜――疲れ果てた結安は、そのまま眠りへ落ちた。艶やかな黒髪が枕に広がり、白い頬はほのかな灯りを受けて淡く輝いている。思わず見惚れてしまうほど、艶やかで美しかった。章真は名残惜しそうに彼女の頬をそっと撫でる。この瞬間だけは――まるで結安が昔のまま、自分のもとから一度もいなくならず、ずっと隣にいてくれたかのような錯覚に包まれていた。しばらくして彼はスマートフォンへ目を落とし、静かに起き上がる。シャツとスラックスを身につけ、その上から濃紺の薄いコートを羽織ると、ゆっくりと階下へ降りていった。リビングでは蝶野がまだ眠らず、ソファに腰掛けていた。章真の姿を見ると、どこか複雑そうな表情を浮かべる。章真は軽く顎をしゃくった。「まだ外にいるのか?」蝶野は思わずため息をつく。「葉山様……もうおやめになってください。相手はただの中年の女性教師なんですよ。どうか放っておいてあげてください」章真はごく薄く笑った。放っておかなかった、などということはない。最初から最後まで、彼は三浦先生へ想いを告げたことなど一度もなかった。すべて彼女自身が望んだことだった。曖昧な言葉を都合よく受け取り、そのために結安を傷つけた。本当に道を踏み外したのは、彼女自身なのだ。章真は傘を差し、静かな庭へ歩いていく。彼女はまだそこに立っていた。頬を伝う雫が雨なのか涙なのか、もう見分けはつかない。章真の姿を見つけると、三浦先生の顔には喜びが浮かぶ。だが口を開こうとしたその瞬間、彼の首筋に残る細い痕が目に入った。大人である彼女には、それが何を意味するのか痛いほど分かっていた。その場に立ち尽くしたまま、小さく呟く。「あなたは、一度も私に口づけをしてくれなかった。抱きたいと思ったこともなかったよね。葉山さん……あなたは、一度でも私を好きになったこ
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第1402話

物音に気づいた章真がゆっくりと顔を上げた。結安を見つめる。視線が重なる。2人の間には、ただ静寂だけが流れていた。そのとき――大きな稲妻が落地窓の向こうを駆け抜け、夜空を白く切り裂く。一瞬の閃光が、互いの顔を鮮やかに照らし出した。こんなにもはっきりと彼の表情を見つめたことはなかった。そして結安はようやく知る。少女だった頃には理解できなかった、あまりにも冷酷な真実が――彼の瞳の奥に宿っていることを。章真は、生まれつき情に流されるような男ではない。たとえ愛を口にするとしても、それは誰かを手に入れたいという欲望にすぎない。欲しい。だから手に入れる。それだけだ。そこに相手の想いなど、最初から必要ではなかった。机の上に置かれたスマートフォンが、再び静かに画面を灯した。それでも着信音は鳴らない。結安は、きっと海外からの連絡なのだろうと思った。だが、何も尋ねなかった。胸の奥には言葉にできない重苦しさだけが残っている。まるで、この雷雨の夜に取り返しのつかない何かが起きてしまったような、不吉な胸騒ぎが消えなかった。……翌朝早く。事務所の送迎車が迎えにやって来た。午前中はボディソープのCM撮影。台本は一夜のうちに全面的に書き換えられていた。バスタブのシーンはなくなり、男性共演者もいない。浴衣姿の結安が、自分の腕を優しく撫でながら商品を紹介するだけの、これ以上ないほど健全な内容だった。しかも、一発OK。監督は結安に余計な注文をつけることさえしなかった。彼女の後ろ盾が誰なのか、誰もが知っていたからだ。CM撮影を終え、少し休憩を挟むと、そのまま映画「蒼穹の花」の撮影現場へ向かう準備を始める。そのときだった。紫苑がスマートフォンを握り締め、慌ただしく駆け寄ってきた。このことだけは、どうしても結安へ伝えなければならなかった。その頃、結安は朱夏と楽しそうに笑い合っていた。紫苑は彼女の耳元へ顔を寄せ、小声で告げる。「三浦先生が亡くなったの。自宅で自ら命を絶ったそうよ。Xにあなたへの謝罪を綴った最後の投稿を残していたんだけど、おそらく耀石グループが莫大な資金を投じて完全に情報を抑え込んだみたい。投稿は10分ほどで本人以外には非表示になったけれど、スク
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第1403話

夕風がひと筋、庭を吹き抜けた。身を切るような冷たさだった。結安は、三浦先生のことには触れなかった。章真が、その話を誰よりも口にしたくないことを知っていたからだ。彼にとって、自分のしたことなど取るに足りない。目的さえ果たせれば、それで十分。他人がどうなろうと、生きようと死のうと、彼には関係ない。その冷酷さを――結安は18歳の頃から骨身に染みて知っていた。大人になった彼女は、もう逆らわない。ただ、彼が自分に飽きる日を静かに待っているだけだった。海外へ行く――そう聞いたとき、結安は20歳そこそこの若い女性のもとへ向かうのだと思った。新しい恋人に会いに行くのだと。だが彼女は知らなかった。章真にも、自分ではどうにもできないことがあるということを。彼ですら解決できない問題が、この世には存在するということを。結安は薄く微笑んだ。その笑みは、どこまでも上辺だけを取り繕ったものだった。争わず、問い詰めず。そのほうが、自分は楽に生きていける。そして彼女はもう、この男の性格を誰よりも理解していた。夕風が頬を撫でる。章真はチョコを抱いたまま結安を見つめる。何か言いたげだった。だが最後まで、その言葉を口にすることはなかった。ただ一人、何の憂いもなく幸せそうだったのはチョコだけだった。父親の首へ腕を回し、甘えた声で言う。「今日のご飯はパパが食べさせて」結安は止めようとしたが、その前に章真は娘を抱いたまま玄関へ向かいていた。「もちろんだ。今日はパパが想乃に食べさせてあげよう」チョコは得意満面に章真へしがみつく。愛らしく、人形のように可愛いその姿に、屋敷の使用人たちは皆目を細めていた。蝶野は早くから子ども用の食事を用意し、食器も一つひとつ自ら選んで揃えていた。エプロンを着けてもらったチョコの前へ章真は腰を下ろし、上着を脱ぐと、自らスプーンを手に取る。「あれも食べたい」小さな指で皿の上を示しながら甘える娘に、章真は終始、驚くほど優しく、辛抱強かった。結安は甘やかしすぎではないかと心配になり、思わず口を挟む。「これからは、なるべく自分で食べさせたほうがいいと思うわ」章真は柔らかく微笑んだ。「うちは1人娘なんだ。可愛がらなくて、誰を可愛がる?」結安も
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第1404話

ロンドン。高級マンション。章真が到着したのは、出発から20時間後だった。ドアベルを鳴らすと、扉はすぐに開く。次の瞬間、小柄で華奢な身体がそのまま彼の胸へ飛び込んできた。「……来てくれるって、信じてました」涙混じりの声だった。少女は章真の胸へ頬を寄せる。細い身体。その腹部だけが、わずかにふくらんでいた。――妊娠していた。章真は最初、その話を信じていなかった。だが、目の前の小さく膨らんだ腹部を見た瞬間、それが紛れもない現実なのだと思い知らされる。数か月前。結安がまだ戻る前、彼は哲乃の誕生日を祝うため、一度ロンドンを訪れていた。あの夜、酒を飲み過ぎた。夢だと思っていた春の一夜は、夢ではなかった。現実だったのだ。彼は哲乃を抱き、その結果、彼女は身ごもっていた。章真は善人ではない。すぐに悟った。あの夜の赤ワインには、何かが混ぜられていたのだと。だからこそ理性を失った。そうでなければ、自分から哲乃を抱くことなど決してなかった。彼はそっと膨らんだ腹部へ手を添え、静かに問いかける。「……どうして、こんなことをした。どうして、もっと早く言わなかった。お前も分かっていただろう。俺はお前と結婚することはない」……哲乃は必死に首を横へ振る。大粒の涙が次々と頬を伝った。男なら誰もが心を動かされるような姿だった。だが、章真だけは違った。最初から最後まで、彼女は結安の面影を重ねるためだけの存在だった。子どもができたからといって、その考えが変わることはない。彼は結安に約束していた。自分の子どもを授かる相手は、結安だけだと。だから、この子は産ませるわけにはいかなかった。章真は振り返り、この屋敷の執事へ声を掛ける。「リンダ、車を用意してくれ。今すぐ哲乃を病院へ連れて行く。この子は……中絶する」リンダはイギリス人の執事だった。その言葉に顔色を変える。だが、給料を支払っているのは章真だ。命令に逆らうことなどできない。結局、黙って従うしかなかった。章真は自ら哲乃を車へ乗せる。彼は昔から、何事も自分の目で確認しなければ気が済まない男だった。病院へ向かう車の中。道路工事のため、車は何度も揺れた。哲乃は18歳になった
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第1405話

三日が過ぎても――章真は哲乃の行方を突き止められずにいた。まるで、彼女はロンドンの街から忽然と姿を消してしまったかのようだった。宇佐美が自ら調査に当たり、ようやく一つの情報を持ち帰る。哲乃は2日前に出国していた。到着先はH市。つまり、誰にも知られないよう戻っていたのだ。その報告を受けたとき、章真はチョコと電話をしていた。幼い娘の甘く愛らしい声が受話器越しに響く。「パパ、いつ帰ってくるの?チョコも、ママも、パパに会いたいよ」チョコが父親を恋しがっているのは本当だ。だが、「ママも」という一言は、完全に彼女の付け足しだった。そんなことくらい、章真にはお見通しである。結安は、むしろ彼がずっと家に帰ってこなければいいと思っているはずなのだから。それでも娘の声を聞くと、張り詰めていた胸はふっと和らぐ。しかし宇佐美へ向ける眼差しは、たちまち鋭さを取り戻した。電話を切るなり、低く問いかける。「居場所は掴めたのか」宇佐美は少し考え込んでから口を開いた。「……H市へ向かったようです。出国前に、葉山様から贈られたダイヤモンドのブレスレットを売却しています」……高価なブレスレットは、彼女に帰国するための旅費を与えたのだった。「H市か……」章真はスマートフォンを握り締め、静かに目を細める。「すぐ戻る。手段は問わない。必ず彼女を見つけ出せ。居場所が判明したら真っ先に俺へ報告しろ……その後は俺が処理する」この件だけは、自分の手で終わらせなければならない。そうでなければ安心できなかった。自分と結安の間に、いかなる狂いも許されない。たとえ相手が哲乃であっても――だ。章真はロンドンに留まることなく、そのまま立都市行きの便へ乗り込んだ。楓ヶ丘邸へ戻ったのは夕暮れ時だった。結安はまだ撮影中で帰宅していない。チョコは庭で小さなゴムボールを弾ませて遊んでいた。ぽん、ぽん、と軽やかな音が庭に響く。厚手のニットワンピースに身を包み、艶やかな黒髪を揺らしながら、小さな体でぴょんぴょん跳ね回る。夕暮れの中で雪のように白い頬はいっそう愛らしく見え、ただ眺めているだけで頬が緩んでしまうほどだった。章真はベントレーの傍らで、しばらくその姿を静かに見つめる。やがて車のドアを閉め、
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第1406話

「蒼穹の花」の撮影現場は郊外にあった。深夜1時。章真の車が現場へ到着する。結安はちょうど主演俳優と芝居を合わせている最中だった。身にまとっているのは時代劇の衣装。白い上衣に青竹をあしらった繊細な刺繍が施され、流れるような黒髪を下ろした姿は、息をのむほど美しい。相手役と向き合う横顔は柔らかく穏やかで、芝居に深く没頭していた。章真は気づく。主演俳優が何度も結安へ視線を送っていることに。どう見ても、好意を抱いている目だった。男は鼻で笑う。好意を持ったところで何になる。結安はとっくに自分のものだ。しかも、自分との間には想乃という娘までいる。結安を手に入れたいのなら、来世まで待つことだ。そう確信していても、彼女が芸能界に身を置くことを章真は快く思えなかった。誘惑が多すぎる。時にはキスシーンや恋愛描写もある。考えるだけで面白くなかった。章真はあえて姿を見せなかった。撮影現場の隅に立ち、コートのポケットから煙草を取り出す。火を点け、煙をくゆらせながら、ただ静かに結安を見つめ続けた。結安はまだ彼に気づかない。だが、林が先に彼を見つけ、小走りで近寄ってきた。「結安に会いに?出張中だって聞いてましたよ」細い煙が夜空へ溶け、闇をいっそう深く染めていく。章真は淡く笑った。「今日の午後、戻ったばかりだ」林も笑みを返す。彼は芽衣とは親しい仲だった。だが、この男だけは滅多に敵に回そうとは思わない。あまりにも腹の底が読めず、目的のためなら手段を選ばない。同じ兄妹とは思えないほど、芽衣とは正反対だった。芽衣はあれほど真っ直ぐな人間なのに。しかもこの男は、少女だった結安を堂々と手元で育て、そのまま幸せまで掴んでしまった。林は内心複雑だったが、それを口にする勇気はなかった。そのときだった。結安が章真に気づく。夜の闇の中で、彼女はそっと顔を上げた。周囲の照明が柔らかな光を落とし、その頬は玉のような艶を帯びる。一方の章真は薄手のチェスターコートをまとい、静かに立っていた。2人は言葉もなく見つめ合う。その時間は、30秒ほどだっただろうか。章真は煙草をもみ消すと、大股で彼女のもとへ歩いていった。結安はなおも彼を見上げている。夜空の下。
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第1407話

結安の鼓動が早まる。彼のそばにいることは構わない。けれど、あまりにも人目につく場所で肌を重ねることだけは、どうしても受け入れられなかった。自分たちは、ごく普通の恋人同士ではない。もし彼が欲望を満たしたいのなら、寝室で十分なはずだ。地下ガレージなど、とても耐えられない。何より、屋敷で働く使用人たちの目が気になった。年配の女性ばかりだ。何があったのかくらい、一目見れば察してしまうだろう。結安はそっと顔を背け、小さな声で言った。「……今日は、早く寝たいの」車はすでに地下ガレージへ入っていた。静かに停車すると、結安はすぐドアを開けようとする。しかし。カチッ――と小さな音がした。何度レバーを引いても、ドアは開かない。章真がロックを掛けていたのだ。結安は振り返り、暗がりの中で潤んだ瞳を向ける。「……章真?」章真はゆっくりとシートベルトを外した。そして横目で彼女を見つめる。「ここは嫌か?」好きなはずがない。そう答える間もなく、章真は彼女のシートベルトを外し、そのまま抱き寄せた。幼い頃と同じように腕の中へ抱き上げ、自分の膝へそっと座らせる。手の甲で柔らかな頬を撫でながら、胸の奥で不思議な感慨が込み上げていた。あの頃、小さなアヒルのようだった少女は、いつしか1人の女性へと成長し、自分との間に想乃まで授けてくれた。胸に込み上げる激しい想いと、拭えない焦燥。その夜、章真はどうしても結安の温もりを求めずにはいられなかった。かつてのように自分本位ではない。乱暴さの中にも、彼なりの優しさだけは残されていた。地下ガレージで過ごした長い時間が終わったころには、時計の針は間もなく午前3時を指そうとしていた。午前1時半に帰宅し、ようやく章真は結安を抱き上げて2階の主寝室へ運ぶ。夜勤中の使用人は2人の姿を見るなり、何も言わず静かに頭を下げ、その場を離れていった。長年仕えてきた者らしい、見事な気配りだった。結安は羞恥を覚えながらも、それ以上に疲れ切っていた。何かを気にする余裕など、もう残っていない。初冬の夜。楓ヶ丘邸の室内は春のような暖かさに包まれていた。ベッドでは、小さな想乃がうつ伏せ気味に眠っている。丸みを帯びた愛らしい後ろ姿。大切に育てら
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第1408話

本当によく似ていた。若い頃の結安に。もっとも、結安自身もまだ24歳に過ぎない。目の前の少女は20歳そこそこだろう。まだあどけなさの残る顔立ち。その瞳には、消えない悔しさが宿っていた。彼女は鏡越しに結安をじっと見つめ続ける。あまりにも長い沈黙。結安が何も尋ねないと分かると、少女は自ら口を開いた。「私、王城哲乃(おうじょう てつの)っていいます。『哲乃』って呼んでくれるのは、葉山さんだけです。……私たち、似てるでしょう?葉山さんが私をロンドンへ連れて行ってくれたとき、人生が変わったって思ったんです。あんなに高い場所にいる人が、私を選んでくれました。ロンドンに住まわせてくれて、毎月会いに来てくれて、お小遣いもたくさんくれて、執事まで付けてくれました。何不自由なく大切にされて……そんな環境で暮らしていたら、好きにならないほうがおかしいじゃないですか」哲乃は腹部へそっと手を添えた。「この子は葉山さんの子どもです。成人したあの日の夜、私は彼のお酒に少しだけ薬を入れました。それで私たちは関係を持ったんです。2か月前にロンドンへ来たのも、この子のことを片付けるためでした。章真さんは、この子を産ませたくないんです。どうして私じゃ駄目なんですか?寂しかった葉山さんのそばにいたのは私です。あなたは逃げることしか考えていなかったんです。葉山さんを本気で愛そうともしなかったんです。なのに、どうして私の子は認めてもらえないのですか?どうして選ばれるのは、あなたなんですか?」……言い終えると、哲乃は大きく膨らんだお腹を静かに撫でた。その眼差しは母親らしい優しさを宿していたが、瞳の奥にある反骨心だけは消えていない。身なりもどこか疲れ切っていて、とても大切に囲われて育てられている女性には見えなかった。結安は一つの答えにたどり着く。――章真は、この子を望んでいない。哲乃の唇が震える。かすれた声で呟いた。「ずっと私を探してるんです……捕まえて、お腹の子を堕ろさせるために。産ませたくないんです。でも、この子は葉山さんの子なんです。どんなに否定したって、その事実だけは消せない……」結安は静かに目を伏せた。その痛みは、言葉では語れない。哲乃は恋に溺れ、そこから抜け出せなくなっている。では
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第1409話

想乃はもう眠っていた。子ども部屋で。小さな体を布団へ丸め、ふっくらした頬を枕へ押しつけるようにして眠っている。柔らかな黒髪がさらりと広がり、その寝顔は胸が締めつけられるほど愛らしかった。全身から、何の憂いもない甘く穏やかな空気が漂っている。結安はそっと娘の頬へ触れた。静かに目を伏せる。幼かった頃は、自分自身の気持ちばかりを大切にしていた。でも、今は違う。自分には想乃がいる。章真を愛したこともあった。憎んだこともあった。そして今でも、彼に対する想いはあまりにも複雑だ。けれど、それはもう重要ではない。結安にとって何より大切なのは、これから先の自分と想乃の未来だった。もう昔のように、章真だけを頼って生きることはできない。もし、いつか彼の身に何かあったなら――自分たち母娘には、帰る場所すらなくなってしまう。結安は長いこと娘の寝顔を見つめ続けた。やがて静かに主寝室へ戻る。いつものようにシャワーを浴び、身支度を整える。髪を乾かし終えると、リビングスペースでノートパソコンを開いた。哲乃から渡されたUSBメモリを差し込む。ほどなく映像が再生された。予想どおりだった。そこには、章真と哲乃が一夜を共にした記録が残されていた。酒に何かを盛られていた章真は理性を失い、抑え込んでいた欲望を哲乃へぶつけるように振る舞っている。結安は黙って映像を見つめていた。けれど、不思議なほど心は動かなかった。章真には自分より前から数え切れないほどの女性がいたことを、彼女はずっと知っていたからだ。まだ幼かった頃。彼はいつも香水の匂いをまとって帰宅していた。隣にいたのは、大人びた華やかな女性ばかりだった。欲望の強い男が4年間も誰とも関係を持たずにいたなど、信じられるはずもない。ただ――少しだけ、胸が悪くなった。自分によく似た少女。同じように囲われ。同じような関係を築いていた。結安は最後まで映像を見ることはなかった。再生バーを見ると、全体で180分もあった。……その頃。高級ホテルのスイートルーム。章真は大きな窓の前に立ち、街のネオンを静かに眺めていた。時折、スマートフォンに保存された想乃の写真へ目を落とす。娘の写真を見つめるその瞬間
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第1410話

哲乃の全身が小刻みに震えていた。目の前の男を見つめながら、ようやく思い知る。この男がどれほど冷酷な人間なのかを。自分は決して特別な存在ではなかった。心から愛されたことなど、一度もない。ただの玩具に過ぎなかったのだ。気まぐれに天まで持ち上げ、不要になれば何の躊躇もなく地へ叩き落とす。彼にとって、自分はその程度の存在だった。哲乃は諦めきれなかった。黙っていたのは、彼の気持ちが変わるのを待っていたからだ。けれど、返ってきたのは男の苛立ちだけだった。章真はローテーブルの上に置かれていた請求書を手に取る。そして、何の迷いもなく細かく引き裂いた。それは、もうこれ以上付き合うつもりはないという無言の意思表示だった。哲乃はついに震える声で口を開く。「……分かりました。この子は諦めます。全部、私自身の意思です。葉山さんには何の責任もありません。だから……どうか最後に助けてください。私じゃなくてもいい……せめて両親だけは、助けてください……」章真は静かに彼女を見つめた。ふと脳裏に浮かんだのは、昔の結安だった。頑固で。誰よりも誇り高かった少女。両親が命を絶った日から、彼女は一度も泣き言を口にしなかった。彼に助けを求めたこともない。目の前で涙を流す哲乃とは比べものにならないほど芯が強かった。まだ未成年だった頃から、自分一人で生きていく方法を考え続けていた。決して屈しない、その強さこそが。章真の心を奪った理由だった。若さや美しさだけではない。哲乃は、あまりにも遠く及ばない。結安の指1本にも及ばなかった。本人が同意した以上、話は早い。もともと、この関係を終わらせるつもりだった章真は、淡々と言い渡した。「約束どおり1千万円だ。その金だけで一生不自由なく暮らせる。これ以上の望みは持つな。その子は俺が望んだ子じゃない。俺自身の意思で、お前と関係を持ったわけでもない。お前にとっては十分すぎる結末だ。……それでも結安のところへ行ったことだけは許さない。あれだけは、何度命があっても償えない」それでも。ほんの少しだけ、情は残っていたのかもしれない。結安にどこか似た少女が、このまま壊れてしまう姿だけは見たくなかった。一方で、お腹の子に対しては何の感
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