結安はゆっくりと顔を上げる。その瞳の奥には、壊れそうなほど脆い色が宿っていた。章真はこれまで見せたことのない眼差しで彼女を見つめている。それは少女ではなく、一人の女性を見る男の目だった。想乃が生まれる前には、一度として向けられたことのない眼差し。長い沈黙の末、彼は低く囁く。「どうして駄目なんだ。結安……ビジネスの世界はもともと残酷なものなんだ。もしあの結末を知っていたなら、俺はあんなことはしなかった。お前の家の会社なんて、失っても構わなかった。……信じられないだろうけど。過去は変えられない。だからせめて、償わせてくれ。想乃を育てさせてくれ。そして……もう一人、子どもを授かろう。もう一人家族が増えれば、この家はきっと変わる。子どもたちが大きくなったら、俺のすべてを想乃と、その子に託す。……そうしたら駄目か。お前に返せなかったものを、全部子どもたちへ返させてくれ」――償う。章真がそんな言葉を口にしたのは初めてだった。想乃が生まれたからだ。昔の彼は奪うことしか知らなかった。結安には、その変化が痛いほど分かる。胸が苦しく、惨めだった。頷きたくない。けれど逆らえば、彼が何をするか分からない。外には想乃も、使用人たちもいる。こんな場所で騒ぎになることだけは避けたかった。結安は小さく首を横へ振る。乱れた黒髪。涙を滲ませた白い頬。その儚さは胸を締めつけるほどだった。章真は彼女の顎へ手を添え、少しだけ力を込める。「俺を見ろ」視線が重なる。これほど深く見つめ合ったことは一度もなかった。章真はゆっくり身を屈める。唇が軽く触れた。ほんの一瞬で離れる。黒い瞳は真っ直ぐ彼女を捉えたまま、掠れた声で呟く。「……柔らかい」そのまま彼は再び彼女へ顔を寄せる。結安は小さく息を呑み、抗おうとする。けれど章真は離さない。重なった唇の距離は容易にはほどけず、結安の震えも、堪えきれない嗚咽も、そのまま静かに受け止めていた。扉の向こうからは幼い娘の笑い声が微かに聞こえてくる。二人の宝物。その存在がすぐ近くにあるという現実が、結安の胸をさらに締めつけた。乱れた服を整える余裕もなく、力の抜けた身体を章真が支える。その姿
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