翔雅と澄佳が屋敷を後にしたのは、夜もだいぶ更けてからだった。想乃はようやく眠りについた。結安は娘が心配で、その夜は一緒に眠ることにした。想乃を主寝室の大きなベッドへ寝かせ、自分はその傍らに腰掛ける。眠る娘を見つめる眼差しは優しい。だが、その奥には拭いきれない憂いが宿っていた。やがて翔雅たちを見送った章真が部屋へ戻ってくる。ベッド脇のソファへ腰を下ろすと、ただ真っ直ぐに結安を見つめ続けた。結安は、彼が何を言おうとしているのか分かっていた。娘の布団をそっと掛け直し、声を潜めて告げる。「私は……あなたとは結婚しない。もし許してくれるなら、想乃を連れて外で暮らすわ。海外へは行かない。立都市に残る。章真……私たちは、一緒になるべきじゃない」カチリ――静かな部屋に、ライターを弄ぶ乾いた音が響く。章真はなおも彼女を見つめたまま、静かに口を開いた。「……怖くなったのか?俺が冷酷だから?残酷だから?結安。お前は分かっているはずだ。俺はお前と想乃にだけは、絶対にそんなことはしない」結安は小さく首を横へ振る。それ以上は何も言わなかった。言い争えば、想乃を起こしてしまう。もう彼女は、進むことも退くこともできない場所に閉じ込められていた。章真が、それを理解していないはずがない。深夜――彼のスマートフォンが鳴った。宇佐美からだった。哲乃の件は、ほぼすべて処理を終えたという報告だった。死因は自殺。妊娠していた事実は完全に伏せられ、世間では章真を「人格者」と称える声ばかりが広がっていた。哲乃は思い込みの激しい女性だった。そんな評価で世論はほぼ固まりつつある。半分以上は事実だったとしても――宇佐美だけは、その裏側を知っていた。哲乃は、結安が戻ってくるまでの4年間、章真が囲っていた愛玩の存在だったのだから。すべてが終わった、その真夜中。章真は1人、ある場所へ向かった。斎場だった。結安は言っていた。――哲乃を、お腹の子と一緒に眠らせてあげて、と。だが、そんな願いを、章真が聞き入れるはずもなかった。あの一夜は、彼の本意ではない。結安が去ってからの4年間、彼は一度も他の女性に心を向けなかった。哲乃は卑劣な手段で彼を陥れ、望まれもしない子ど
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