All Chapters of 私が去った後のクズ男の末路: Chapter 1451 - Chapter 1460

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第1451話

章真は事を穏便に処理したつもりだった。それでも、結安と別れたという噂は、いつの間にか世間へ広まっていた。芸能誌には連日のように彼のゴシップが載った。今日は人気女優から告白されたという記事。明日は有名モデルと食事をしたという記事。とにかく、1日たりとも静かな日はなかった。夕暮れ時。章真のもとへ、陽白から電話がかかってきた。電話の向こうで、陽白は笑いを含んだ声を響かせる。「章真、すっかり芸能人の仲間入りだな。毎日ゴシップ誌の一面を飾ってるじゃないか。そんなに相手をしていて、身体がいくつあっても足りないだろう?」「全部でたらめだ」章真は携帯電話を握り、低い声で答えた。結安と別れてからというもの、想乃は毎日のようにママを求めて泣いている。章真は連日まっすぐ帰宅し、娘を宥めるだけで精一杯だった。ほかの女を探す気力など、あるはずもない。結安から連絡がない日が1日増えるたびに、彼女への恨みも一つずつ積み重なっていった。本当に、娘まで捨てたつもりなのだろうか。電話の向こうで、陽白が静かに笑った。「章真、久しぶりに一杯どうだ?今夜は空いてるか?」……章真は少し考え、誘いを受けることにした。酒を1杯飲むだけだ。9時には切り上げれば、帰って想乃を寝かしつけるのにも間に合う。電話を切ったあとも、章真はしばらく大きな窓の前に立ち尽くしていた。風に雲が激しく流れ、夕焼けに染まった雲が空の彼方で揺れている。頭に浮かぶのは、あの女のことばかりだった。もう3日も、何の連絡もない。本気で、すべてを断ち切ったつもりなのだろう。自分を気にかけないのは構わない。だが、想乃のことまで気にならないのか。……午後7時半。立都市でも名の知れたバー、「縁」その名に違わず、客の八割ほどは独り身だった。もちろん、陽白は例外だ。彼が章真を酒に誘ったのには、きちんとした目的があった。あの二人は別れてしまった。だが、互いに想い合っていることは、誰の目にも明らかだった。章真のやり方が、普段からいささか強引なのは事実だ。結安が受け入れられなかったのも無理はない。ここまで拗れてしまった以上、先に頭を下げるべきなのは章真だろう。そもそも、悪いのは彼なのだから。やがて
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第1452話

章真は、もともと人目を惹く容姿の持ち主だった。涼しげな目元に、すっと通った鼻筋。知的で上品な雰囲気をまとっている一方で、全身から支配者特有の圧倒的な威圧感が漂っている。たった一言発しただけで、安奈は身体の力が抜けそうになり、今すぐホテルへ連れ込まれたいとさえ思ってしまう。それなのに、当の本人はここで時間を無駄にしている。安奈はグラスを手に取った。赤い唇をわずかに開き、章真を見つめながら挑発するように酒を飲み干す。空になったグラスをカウンターへ置いた。章真が顎をわずかに上げる。察しのいいバーテンダーは、すぐに店で最も高価なボトルを2本運んできた。栓を抜き、安奈の前へ2杯注ぐ。安奈はすでにほろ酔いだった。この酒がどれほど強いかも知っている。酔い潰れれば何も覚えていられないだろう。それでも彼女は上へ這い上がりたかった。どうしても章真を手に入れたかった。男も、その莫大な財産も、すべて欲しかった。今はただ、彼と一夜を共にしたかった。人は欲望を抱けば、すべてを賭けるようになる。章真の気を引くためなら、何でもする。章真は一言も発しなかった。ただ視線を向けただけだった。それだけで安奈は48度の洋酒を一本、一気に飲み干した。命こそ落とさないにしても、身体には相当こたえる量だ。飲み終えた彼女は、そのままテーブルへ突っ伏し、泥のように動かなくなった。薄暗い照明の下。胸元は大きくはだけ、肌があらわになる。章真は静かにその姿を見つめると、自分の前のグラスを手に取り、一気に飲み干した。口元には冷たい笑みが浮かんでいる。そのまま何の未練もなく立ち上がり、ジャケットを手にバーを後にした。安奈ほど魅力的な女なら、喜んで世話を焼いてくれる男など、いくらでもいるだろう。運転手はすでに外で待機していた。章真の姿を見ると、恭しく頭を下げる。「葉山様、お屋敷へお戻りになりますか」章真は後部座席へ腰を下ろし、頭を後ろへ預けて目を閉じた。酒を飲んだせいで全身が熱い。首筋にはほんのりと赤みが差している。安奈が妖艶な目で彼を狙うのも無理はない。確かに、人を惹きつけるだけの魅力はある。そうでなければ、結安が若い頃に恋をすることもなかっただろう。しばらくして、章真
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第1453話

結安は黒い服に身を包んでいた。装いこそ質素だったが、その姿は以前よりもずっと痩せて見える。たった数日で、はっきりわかるほど頬がこけていた。章真は鼻で笑った。――藤堂のため、か。両親が動いたことで、藤堂の件はほぼ収束に向かっている。家もおそらく戻ってくるだろう。あいつは何一つ失わずに済む。失ったのは、自分だけだ。結安を失った。……なら、それでいい。藤堂が好きなら、あいつのところへ行けばいい。夜の闇の中、章真の瞳は氷のように冷え切っていた。結安は静かに想乃を抱き上げ、小さな体を胸に寄せると、そっと頬を寄せた。それから章真へ視線を向け、静かな声で尋ねる。「風邪?それとも、何か怖い思いをしたの?」章真は長いこと答えなかった。ただ高い位置から彼女を見下ろしている。顔を見るだけで腹が立つ。自然と脳裏によみがえるのは、彼女が床にひざまずき、両親に「章真の前からいなくなります」と涙ながらに頼んでいたあの日の姿だった。結安も彼が何を思い出しているのか察したのだろう。静かに口を開く。「章真……子どもの前にまで感情を持ち込まないで。私たちのことを、想乃に影響させないでほしいの」章真は冷たく笑った。「お前はもう出て行っただろ。そんなお前が、今さら『想乃に影響させるな』なんて言うのか?」……結安は彼から酒の匂いを感じ取った。言い争う気にはなれず、そのまま想乃を抱いたまま慣れた足取りで2階へ向かう。細い身体なのに、想乃を抱く姿は驚くほど自然だった。それだけ、この数年間、何度も何度も娘を抱きしめてきたのだろう。その光景に、章真の胸は焼けつく。愛おしい。それなのに、憎らしい。検査の結果、想乃は急性胃腸炎だった。湿度の高い気候に加え、もともと身体が弱かったため症状が出たらしい。2日ほど入院し、点滴を受ければ回復するとのことだった。点滴を終え、小さなベッドに横になった想乃は、結安の手をぎゅっと握る。「ママ……想乃のそばにいて……」結安はベッドに身を寄せ、優しく微笑んだ。「うん。ママはどこにも行かないよ。ずっと想乃のそばにいる」その言葉に想乃は安心したように笑みを浮かべる。手にはふわふわのアヒルのぬいぐるみ。しばらく遊ぶうちに、静かな寝息を立て始
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第1454話

夜になると、結安は想乃に付き添った。章真は隣の個室にいたが、それ以上彼女と顔を合わせることはなかった。その後の2日間も、二人が言葉を交わすことはほとんどなかった。結安が章真を避けていたのか、それとも章真が結安を避けていたのか――その答えは誰にも分からない。想乃が退院する日でさえ、久しぶりに顔を合わせた二人の間には、驚くほどよそよそしい空気だけが流れていた。まるで、一度も愛し合ったことなどなかったかのように。あの幸せだった日々も、幾度もの別れも、涙も――すべては幻想だったように。章真が彼女に執着したことなどなく。結安もまた、密かに彼を想い続けたことなどなかった。二人が共に歩んだ証は、想乃という存在と、世間を騒がせたあの報道だけだった。翌朝。結安は想乃の退院手続きを済ませると、小さな頭をそっと撫でた。子どもは、大人が思う以上に敏感だ。想乃はしょんぼりとうつむき、アヒルのぬいぐるみを抱きしめたまま尋ねる。「ママ……もう一緒に帰らないの?」その一言が、結安の胸を鋭く締めつけた。彼女はしゃがみ込み、想乃を優しく抱き寄せる。頬をそっと擦り寄せながら、穏やかに微笑んだ。「ママに会いたくなったら、いつでもビデオ通話してね。ママもちゃんと新しい生活が落ち着いたら、今度は想乃と一緒に暮らせるように頑張るから」――章真も、いつかは新しい家庭を築く。新しい奥さんができたら、その時こそ想乃は自分のもとへ帰って来られる。そんな淡い期待を抱いた、その瞬間だった。ふと顔を上げると、そこには章真の深い瞳があり、視線が重なった。まるで彼女の考えを見透かしたかのように、その目にはかすかな嘲りが宿っていた。だが、想乃の前だったからか、何も言わなかった。章真は歩み寄り、想乃を抱き上げると、小さな頭を優しく撫でる。「帰ろう、パパと」想乃は父親の首にぎゅっと抱きつきながら、子猫のような瞳で何度も結安を振り返る。少しずつ遠ざかっていく小さな背中。その大きな瞳には、今にもこぼれそうな涙が浮かんでいた。結安はその場に立ち尽くし、そっと顔を上へ向ける。そうしなければ、涙がこぼれてしまうから。泣いてしまうから。想乃は、自分がお腹を痛めて産んだ娘だ。愛しくないはずがない。そして、結
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第1455話

章真は主寝室のドアを開けた。リビングスペースには、結安が残していった痕跡があふれていた。彼女が寄りかかっていたクッション。彼女が使っていたクリスタルグラス。窓辺のカーテンでさえ、彼女の好みに合わせて掛け替えられたものだった。この部屋のすべてが、彼女のために整えられていた。それなのに、彼女は何のためらいもなく去っていった。身体はもう別の女に触れた。それでも――章真は、どうしても結安を忘れられなかった。彼女が残した物のせいなのか。それとも、彼女が残していった想乃の存在のせいなのか。章真は一つひとつに静かに手を触れていく。明日、結安が荷物を取りに来たら、この部屋をきれいに片づけよう。彼女の痕跡を、何もかも消してしまおう。これから先、結安という存在は、自分の人生にはもういない。最初から出会わなかったことにすればいい。想乃も――まるで石の間から突然生まれてきた子どもだったとでも思えばいい。しばらくして、章真はバスルームへ入った。シャツのボタンを一つずつ外し、そのまま脱ぎ捨てる。すると、襟元には鮮やかな口紅の跡が残っていた。章真は外の女とキスをするのは好まない。あれは、琴葉がわざとシャツに残したものだった。少しだけ躊躇したあと、彼はそのままシャツをランドリーバスケットへ放り込む。――明日、結安はここへ来る。このシャツを目にするかもしれない。それでも、隠そうとは思わなかった。いや、隠すことさえ面倒だった。もう、その必要はない。彼女は自分を選ばなかった。そして、自分ももう彼女を選ばない。シャツが床へ落ちる。スラックスも。最後に、黒いボクサーパンツも足元へ滑り落ちた。章真は裸足のままシャワールームへ入り、熱い湯を全身に浴びる。顔を上げ、目を閉じる。もう終わりにすると決めたはずなのに。どうして、ふとした瞬間に彼女のことを考えてしまうのだろう。彼女が、自分に別の女ができたと知ったら。どんな反応をするのだろう、と。――章真。彼女は、そんなこと気にも留めない。彼女の心にいるのは、藤堂だけなのだから。章真は静かに目を閉じた。――藤堂が回復したら。二人は、本当に一緒になるのだろうか。シャワーを終え、黒いシルクのパジ
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第1456話

耀石グループ最上階――社長室。床まで届くほどの大きな窓には、ブラインドが下ろされていた。室内は薄暗い。章真は円形ソファに腰掛け、目の前の液晶モニターを無言で見つめていた。そこに映し出されているのは、楓ヶ丘邸の2階だった。画面は自由に切り替えられ、あらゆる角度から室内の様子を確認できる。結安は知らない。楓ヶ丘邸の2階には、至る所に隠しカメラが設置されていることを。浴室、寝室、ウォークインクローゼット――人に見られるはずのない、あらゆる場所に。結安が邸に足を踏み入れた瞬間から、章真はずっと見ていた。彼女が中へ入る姿も。荷物をまとめる姿も。あのシャツを見つめ、ぼんやりと立ち尽くす姿も。彼女は気づいていた。それなのに、まるで気に留めていないかのように、あっさりと受け入れた。自分に他の女がいるという事実を。――そうだ。彼女自身だって、藤堂駿がいるのだから。結安は長居しなかった。去るのも早かった。最初から最後まで、一度たりとも後悔する様子はなかった。それでいい。後悔などしなくていい。そもそも自分だって、もう彼女など必要としていない。そう思っているはずなのに。章真が握るワイングラスの指先は、白くなるほど強く力が込められていた。次の瞬間――彼は突然グラスを投げつけた。赤ワインの入ったグラスは、正面の壁へ激しく叩きつけられる。ガシャン……乾いた破砕音が響いた。グラスは粉々に砕け散り、濃い色の液体が壁や床へ飛び散る。それでも、章真の顔には一切の表情が浮かばなかった。その音を聞きつけ、桐生が扉を開けて入ってきた。目の前の惨状を見た瞬間、何があったのか大体察したのだろう。何も言わずに近づき、しゃがみ込んで破片を拾い始める。そして静かに報告した。「立花様がお越しです。いえ……結安さんの叔父様である立花拓凡様です。立花安奈さんもご一緒です」章真は最初、会うつもりなどなかった。一人は意気地のない男。もう一人は、ただ派手な女。そう思っていた。だが、ふと考え直す。――一度、顔を見ておくのも悪くない。しかし、部屋に入ってきたのは拓凡と安奈だけではなかった。結安の叔母、立花夫人も一緒だった。その女は一筋縄ではいかない人物だ
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第1457話

拓凡一家を警備員に引き渡し、外へ送り出した。――これで、ようやく静かになった。章真はソファに深くもたれ、目を閉じて休んでいた。拓凡から貸し付けた16億円。もともとは、その金を使って結安を縛るつもりだった。だが、今はもう結安はいない。ならば、立花一家を支える人間も存在しない。章真が長い指を軽く伸ばすと、宇佐美がすぐに近づいた。「社長?」章真はゆっくりと問いかける。「立花拓凡の債務は、もう下請けの会社に譲渡したんだな?」宇佐美は頷いた。「はい。現在、あの16億円はもう耀石グループとは無関係です」実際には、手元に戻ったのは12億円程度。残りの4億円、あるいはそれ以上は、下の会社の利益になる。だが、章真は気にした様子もなく、薄く笑った。立花一家がこれからどれほど惨めな生活を送ることになるか――容易に想像できた。だが、それが何だというのか。自分たちから勝手に近づいてきたのだ。何を考えている。自分の子供を宿せると思っていたなんて……――身の程を知れ。隣で宇佐美が心配そうに尋ねる。「社長……立花拓凡が結安さんのところへ行く可能性はありませんか?」章真は顔を上げ、ゆっくりと煙を吐き出した。「彼女はカードを返してきた。俺の金を、1円も使おうとしなかった。自分の力で数億円を稼ぐくらい、あいつならできる。だから、こんな面倒事に首を突っ込むことはない。昔からそういう女だ。自分の考えをしっかり持っている……宇佐美、お前も忘れたわけじゃないだろう?」……ただの何気ない言葉だった。けれど、章真が口にすると、胸を締め付けるような痛みが滲んだ。そうだ。結安は昔から、自分の意思を持っていた。章真が望んでいたのはもっと早く大人にならない彼女だった。少し鈍くて。少し世間知らずで。ずっと自分のそばにいてくれる、そんな結安だった。けれど、もし本当にそんな彼女だったなら、それはもう立花結安ではない。1分でも違えば。1歩でも違えば。それはもう、彼が愛した結安ではなかった。章真は、愛しながら憎んでいた。午後。章真は予定より早く仕事を切り上げ、楓ヶ丘邸へ戻った。蝶野は彼の姿を見るなり、思わず驚いた。まだ午後2時だというのに、葉山様が
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第1458話

沈黙――それは、まるで二人の間に残された最後の繋がりのようだった。長い沈黙の後、ようやく結安が小さな声で言った。「……何はともあれ、ありがとう。章真」男の返事はなかった。ただ、通話が切れる音だけが響いた。章真の結安への想いは、最初から最後まで一途だった。愛すると決めたら全てを懸ける。憎む時も、決して曖昧にはならない。その間に、中途半端な境界線など存在しなかった。彼女が自分から去った。彼女が藤堂駿を選んだ。だから章真は、ただ彼女の選択を受け入れただけだった。たった一人の藤堂駿のために――彼女がどれほど彼を憎んだのか。両親の前で、何時間も膝をつき続けるほどに。その事実が、今でも章真の胸に深く刺さっていた。一方、結安は電話を切った。そしてマンションの大きな窓辺へ歩いていく。窓の外では、赤く染まった雲がゆっくりと流れていた。この部屋は、彼女が新しく購入したものだった。立都市でも屈指の一等地にある、192平方メートルの高級マンション。購入価格は8億円。ここを買った理由は、時々想乃を泊まらせるためだった。もし章真に新しい妻ができれば――想乃は、再び自分の元へ戻ってくる。そう信じていた。……半月後。駿は肝臓移植手術を受けた。手術の準備から連絡まで、すべて宇佐美が手配した。章真本人は、最後まで姿を見せなかった。手術は無事成功した。そして8月末。駿は退院し、自宅療養へ移ることになった。その日、結安は彼の荷物をまとめ、ソファの上に置いていた。そして、すぐ目の前に立つ駿を見つめ、優しく微笑む。「藤堂さん、退院おめでとう」体が完全に回復したら。彼は新しい人生へ進んでいく。――そして、彼女も。駿は両腕を広げ、結安をそっと抱きしめた。耳元で、静かに尋ねる。「本当に……俺と一緒になることは考えてくれないのか、結安?」結安はゆっくり首を横に振った。彼女の恋心は、18歳のあの日に置き去りになった。今もまだ、取り戻せてはいない。もし想乃がいなければ。きっと、もっと早く新しい人生を始められたかもしれない。けれど、彼女には想乃がいる。考えなければならないことが、あまりにも多かった。章真の前に、決まった相手を作るこ
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第1459話

結安は、説明しようなどとは一度も思わなかった。そもそも、説明する術などなかった。二人はもう別れたのだ。別れた男女の心も身体も自由。章真はずっと、その自由という言葉を貫いてきた。ならば、自分に何を思い悩む資格があるというのか。けれど、復讐のために誰かと付き合うようなことはしない。そんなものは、あまりにもくだらない。立花結安は、あくまで立花結安の道を歩けばいい。章真と別れてから。芸能界での生活は、決して順風満帆ではなかった。幸いにも、「蒼穹の花」が大ヒットし、彼女に再び立ち上がる時間を与えてくれた。結安は、誰もが羨むほどの人気や名声に執着しているわけではない。けれど、この収入だけは彼女が生きていくための根本だった。どれだけ落ちぶれたとしても、毎年の手取りは1億円ほどある。いつか想乃が自分の元で暮らすことになっても、十分に幸せな生活を与えられる。人の顔色を見て態度を変える世界など、もうとっくに慣れていた。その夜。ある動画配信プラットフォーム主催の授賞式が開催された。巨石エンターテインメント所属の多くの芸能人が参加していた。結安もトップクラスの女優として壇上へ上がり、賞を受け取った後、すぐに控室へ戻った。メイクを落として帰るつもりだった。しかし――専用控室の扉を開けた瞬間。彼女の足が止まった。ソファの上には、二つの人影が重なっていた。深く口づけを交わす男女。どちらも、彼女がよく知る人物だった。章真と琴葉。琴葉が章真と関係を持っていることを、結安は知らなかったわけではない。最近、琴葉は限定品のバッグを何種類も手に入れていた。身につけるジュエリーも高価なものばかり。送り迎えに使う車さえ、かつて結安が乗っていたものだった。今では、それらすべてが琴葉のものになっている。そして琴葉は、いつも結安の前でそれを見せつけていた。時にはわざと、首元を見せることもあった。そこに残る口づけの跡を指でなぞりながら。「章真さん、少し乱暴なんですよ」そう言って、笑っていた。聞くことと。自分の目で見ることは、まったく違った。結安は、男の腕の中に座る琴葉を見つめた。彼女は初めて知った。琴葉の腰が、こんなにも柔らかくしなやかであることを。
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第1460話

控室の扉が閉まった。中に残されたのは、章真と琴葉だけだった。琴葉は、自分が寵愛されているという自信があった。すぐに男へ近づき、腕を絡めて口づけようとする。そのまま関係を持とうとさえした。だが、薄い唇に触れた瞬間――髪を強く掴まれた。次の瞬間、思いきり投げ飛ばされ、彼女の身体はソファへ叩きつけられる。目の前が一瞬白くなった。何が起きたのか理解できない。琴葉は顔を上げる。「……章真?」甘く、少し掠れた声で呼んだ。章真はゆっくりとしゃがみ込む。その顔に浮かんでいた表情は、琴葉が一度も見たことのないほど冷酷で陰湿なものだった。そして彼は、まるで屈辱を与えるように彼女の頬を軽く叩く。「お前は何様だ?結安と同じ場所に立てると思っているのか?さっき、彼女のどちら側の頬を叩いた?」琴葉は完全に固まった。彼は……結安のためなの?なぜ?さっきは彼女を守るようなことをしたのに。結安が出て行った途端、今度は自分へ怒りを向ける。理解できなかった。章真は、もう結安を嫌っているのではなかったのか。なぜ、まるで手放せないような顔をするのか。次の瞬間――鋭い平手打ちが琴葉の頬を打った。章真には「女には手を上げない」という信条などなかった。以前なら、そんなことは一度もなかった。だが今は違う。彼は容赦なく琴葉の顔を叩いた。彼女が結安にした痛みの、少なくとも10倍の力で。耳鳴りがするほどの衝撃。琴葉が状況を理解する前に、もう一度。頬は瞬く間に腫れ上がった。彼女は顔を押さえ、泣きながら悟った。自分が章真の中でどんな存在なのか。ただの玩具。そして結安はどれだけ憎まれていても、永遠に彼の心の中に残る特別な存在だった。何度も平手を受けた後。琴葉の顔は、もう見る影もなかった。彼女はソファに伏せたまま、控室の扉が開き、そして静かに閉じる音を聞いた。この瞬間。彼女は章真の寵愛を失った。……一方、別の控室。里奈は慎重に結安の頬を冷やしていた。紫苑もそこにいた。部屋の中を何度も行き来しながら、琴葉には必ず仕返しをすると息巻いている。しかし、しばらくしてスタッフが近づき、耳元で何かを伝えた。紫苑は一瞬固まる。「……腫らさ
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