慕美は、ベルリンでの療養生活を半年ほど送っていた。本来なら澪安がそのままここに残り、ずっと寄り添うつもりでいた。だが、慕美は首を振った。ここには佳代がいて、梨衣もいる。それで十分だ。澪安は納得し、十日に一度の割合で飛んできては二日ほど滞在する。時には思慕を連れてくることもある。梨衣は思慕より四歳年上だが、二人は不思議なほど仲がよい。慕美はベルリンで穏やかに暮らしていた。最新の医療体制が整い、楓人の細やかなサポートもある。佳代はいつも「何か作らせて」と腕をふるい、梨衣は学校帰りに小さな葉っぱを一枚持ってきたり、美術の時間に描いた水彩のカードを届けたりする。慕美はそれらを大事にアルバムへ収め、表紙に【梨衣】と記した。それを見た梨衣は、くいっと唇を引き結び、ぱたぱたと階段を駆け下りていったが、すぐに佳代に捕まる。「走り回ったらだめでしょう」と顔の汗を拭かれ、梨衣は甘く笑った。そんな娘の様子に、佳代は胸の奥が重くなるのを感じた。――今からお願いすること、奥さんは聞き入れてくれるだろうか。不安はあった。けれど、今日の夕食前には周防さんが来る。奥さんから話していただいたほうが、きっとうまくいく可能性が高い。奥さんからお願いすれば、きっと話が通りやすい。佳代は白いエプロンで手を拭き、切った果物の皿を持って階段を上がった。ノックして主寝室の扉を開けると、慕美は文庫本をめくっていた。今回の件で無理をしないと決め、会社に戻っても澪安から仕事を渡される程度にして、普段の運営は詩に任せるつもりでいる。「春原さん、どうぞ」促されて腰を下ろす。果物の皿を差し出すと、慕美はふた口ほど食べて微笑む。「何か言いたそうなの、気づいてたわよ。言っていいわ。黙っていたら、あなたが苦しくなっちゃうもの」佳代は深く息を吸った。「私、家族がみんな国内にいるので、夫も亡くなったし、やはり向こうに戻るのがいいと思うようになった。生活も慣れているし……それで、周防さんに梨衣の学籍のことでお願いしたくて。でも、ご迷惑ではと……梨衣にも聞いたら、帰りたいと。それに……あなたと一緒がいい、と」慕美は迷いもせず頷いた。「もちろんいいわ。立都市の別邸は広いもの。あなたと梨衣、これからも一緒に暮らしましょう。それと――春原さんのジンジャークッキー、す
อ่านเพิ่มเติม