夕梨は寒真をじっと見つめた。彼女もまた驚いていた。まさかここでまた会うなんて思ってもみなかったのだ。仕事が終わった頃、母に頼まれて澄佳のオフィスへ荷物を取りに来ただけだった。久しぶりに顔を合わせた姉妹分だ、少し話し込むのも当然だろう。夕梨は昔から林檎が好きで、齧りながら雑談していた。澄佳はすでに名実ともに成功者で、この仕事に執着はない。それよりも、従妹が林檎をかじりながら笑う姿を見るほうがよほど楽しい。二人が和やかに談笑していたちょうどそのとき、寒真が現れた。澄佳の第一印象は、「翔雅と同じ系」――つまり、熊のようにガタイがいい。このシャツ、破けば胸毛もりもりなんじゃない?と、本気で疑ったほどだ。寒真が澄佳に向ける視線は、ややガラの悪い光を帯びていた。だがすぐに、彼の視線は夕梨と正面からぶつかる。二人とも言葉を失った。彼はなおも動揺していた。夕梨の本当の身分を知った驚きと、そこに混じる奇妙な喜び――だが、その喜びは何なのか?彼女が澪安の愛人などではなく、従妹だと知って安堵した……?いや、どこか違う。微妙な沈黙が流れたのち、寒真はゆっくりと夕梨の側へ歩み寄った。彼は高い位置から夕梨を見下ろし、夕梨は仰ぎ見るように彼を見返した。隣の一面ガラス窓には青空と白い雲――どこか絵画のような光景。澄佳は革張りの椅子に寄りかかり、心の中で舌を巻いた。――見てよ、この脚の筋肉……まったく、すごい代物だわ。そのとき、寒真が手を差し出す。まるで初対面のように。「岸本さん、お会いできて光栄です」夕梨は静かに彼を見つめ、そして、手に残っていた半分だけの林檎の芯を、彼の掌にぽんと乗せた。「こちらこそ、お会いできて光栄です」それだけ言うと、夕梨は机から軽やかに降り、ダウンとバッグを手に取って澄佳へ声を掛けた。「姉さん、先に帰るね。またね」「ちょっと待って。物、忘れてるわよ」呼び止められ、夕梨は戻ってくる。その横を通った瞬間、寒真は彼女の香りに気づいた。フリージアの香気――ずっと前にどこかで嗅いだ、懐かしい香り。喉仏がわずかに上下し、視線が熱を帯びた。夕梨が去り、ドアが閉まる。澄佳は椅子をくるりと回し、内線ボタンを押した。「ジェニー、コーヒーお願い。それと久賀朔音(くが さくね
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