夜の八時。慕美は思慕の荷物を、すべてリビングに並べていた。思慕がずっと欲しがっていたおもちゃ、好きな文具箱やペン、そして衣服まで。春から冬へ――一年を通して、思慕が十歳になるまでのものを、彼女は買いそろえていた。十歳を過ぎた頃、もし自分がもうこの世にいなければ、思慕はきっと自分のことを忘れてしまうのだろう。そんな思いが胸を刺す。荷物の小山の前で、思慕はぽつんと立ち、涙をぼろぼろ零していた。慕美は最後に服を整え、丁寧にファスナーを閉め、ランドセルを背負わせてから顔を上げる。「これからは、パパとおじいちゃん、おばあちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ。学校で誰かにいじめられたら、すぐにパパに言うんだよ。いいね?」思慕は泣き続けていて、声も弱々しかった。「わかった……」慕美はその柔らかい頬にそっと口づけし、強く抱きしめた。――どれほどの時間、抱きしめていたのだろう。やがて、かすれた声で言う。「思慕……パパと行こうね」傍らで使用人が荷物を持ち、次々と階下へ運んでいく。すべてが運び終わる頃、慕美は思慕を澪安に渡そうと抱き上げた。だが、思慕は激しく抵抗し、張り裂けそうな声で泣き叫ぶ。「いやだ……いやだよ、ママ!ママがいい、思慕はママがいい!」慕美は心を鬼にして、彼を澪安に渡した。思慕は絶叫する。「行かない!ママと一緒がいい!思慕は行きたくない!」小さな顔は涙でぐしゃぐしゃだ。ただ抱いてほしいだけなのだ。生まれてからずっと慕美と暮らし、親子で寄り添い、支え合い、笑い合ってきた。なのに突然、「ママはいなくなる。これからはパパと暮らす」と言われても、受け入れられるはずがない。たとえパパがどんなに優しくても――ママにかなう人なんて、この世界にいるはずがない。思慕の泣き声は、胸をえぐるように激しかった。その一声一声が、慕美の心に鋭く突き刺さる。澪安は何度も宥めようとしたが、思慕は暴れ続けた。ついに慕美が、震える声でしかし強く言い放つ。「思慕、言うことを聞きなさい」その一言に、思慕はぴたりと動きを止めた。涙が頬に貼りついたまま、ゆっくりと滑り落ちる。そして、小さく、小さく呟いた。「ママ……」慕美はそっと近づき、頬に触れる。「パパの言うこと、ちゃん
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