深雪の胸の奥が一瞬沈んだ。陽翔がここに?まさか、鈴木先生と何か話し合いをするつもり?嫌な予感が背筋を這い上がった。彼の突然の出現によって、綿密に立てていた計画が一気に危うくなった。ちょうどそのとき、奥の部屋から助手が戻ってきた。申し訳なさそうに眉を下げながら言った。「大変申し訳ありません。先生の今日の予約はすでにいっぱいでして......どうしても時間が取れません。他の先生をご検討いただけませんか?」深雪は肩を落とし、わざと落胆したような表情を作った。「そうですか......残念です。今日は主人を診てもらえるかと思ったんですけど」「焦らないでください」助手はやわらかい口調で言葉を続けた。「うちの先生方はみな優秀です。とりあえず一般診療で診てもらい、必要であれば改めて鈴木先生の予約を取ることもできますよ」「そうですね......」深雪は一瞬ためらうように言葉を濁した。その時、扉が開いて陽翔が出てきた。顔には不機嫌さが濃くにじんでいる。どうやら鈴木先生との話し合いはうまくいかなかったらしい。彼の視線がふと深雪の方へ流れた。目が合った。一瞬、時間が止まったようだった。深雪の心臓がどくんと跳ね、咄嗟に俯いて髪を顔に落とした。手で頬を押さえ、まるで体調の悪い患者を装っている。陽翔はわずかに足を止めたものの、特に気に留める様子もなく、眉をひそめたまま診療所を出ていった。深雪は小さく息を吐いた。危なかった。今度こそ、動くなら今しかない。顔を上げ、再び笑顔を作って助手に向き直った。「わかりました。では、診察の受付をお願いできますか?」「かしこまりました」助手がうなずき、手続きを始めた。深雪は受け取った書類を抱えながら、頭の中で次の段取りを組み立てていた。鈴木先生の病歴ファイルを手に入れなければ、すべてが無駄になる。手続きを終えると、彼女は待合室の隅に腰を下ろした。そこからは廊下の奥、病歴档案室の扉がよく見える。病院全体は静かで、病人も少ない。看護師の足音と機器の電子音だけが響いていた。彼女の視線は、天井の隅に取り付けられた監視カメラへと移った。角度が浅い。映る範囲が中途半端で、档案室の入口までは死角になっている。小さく頷くと、深雪は病歴ファ
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