「過ぎたことは、もういいわ」風歌は淡々とそう言い、グラスを傾けてまた一口飲んだ。蒼佑は不用意な質問をしたと気づき、慌てて話題を転換した。「そうだな、過去は過去だ。音羽会長から任務を任されたとか?自信はあるのかい?」「もちろん。必ずや成し遂げてみせる」仕事の話になると、風歌の目が輝いた。「最近始めた女性アイドルオーディション番組も好調よ。アングル社の知名度向上に確信を持ってるわ」「それは良かった。実はもう一つ聞きたいことが……」蒼佑は酔いを帯びた目で風歌を見つめ、躊躇いながら、「君は……」と言った。結局、本心は飲み込み、笑顔で言った。「アングル社との提携を考えているんだが、どう思う?」「いいわよ。自ら協力してくれる相手を断る理由なんてないもの」今のアングル社には資源と人材が不可欠だった。蒼佑の申し出は渡りに船だ。「それじゃ決まりね」風歌は狡そうに笑い、自らグラスを差し出した。「約束だ」蒼佑は満面の笑みで杯を応じた。夜更け、三人はそれぞれの部屋に戻った。風歌は酔っておらず、むしろ普段以上に頭が冴えていた。御門グループを倒すには、短期間で実力をつけねばならない。デスクに向かうと、御門グループ潰しの計画を練り始めた。御門の主力は不動産業。対抗するには、この分野での地盤が必要だ。しかし不動産には疎い。考え抜いた末、蒼佑に相談するのが最善と判断した。「まだ起きてる?相談があるの」スマホに素早くメッセージを打つ。「寝てない。廊下にいる」ドアを静かに開けると、蒼佑が廊下の窓辺に立っていた。優しい薄桃色の瞳が風歌を見つめる。「不動産に進出したいんだけど、知識が足りないの。手伝ってくれる?大事なことなのよ」窓の開きを少し調整しながら風歌が言う。蒼佑は眉をひそめたが、理由は尋ねなかった。「確かに多少の知見はある。明日までに資料にまとめよう」約束を得て礼を言い、風歌は満足げに自室に戻った。専門家の助力があれば、計画も順調に進む。やがて深い眠りに落ちた。その頃、志賀市と月见丘市の境目の山岳地帯で、一人の男が不眠の夜を過ごしていた。俊永は車中でタバコを燻らせ、暗い表情で車外を見つめていた。彼は既に二日間、この山で彼女を探し続けていた。まだ何の手がかりもないが、風歌がこ
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