久美子の顔が一瞬こわばり、すぐにさらに明るい笑みを浮かべた。彼女はわざと風歌を脇に引き寄せ、耳元で小さく囁いた。「三人の理事はビューイングでも顔が利く人たちですよ。うちの芸能人が主役級を取れるかどうかなんて、あの人たちの一言で決まるの。ディレクター、くれぐれも変なこと言って機嫌を損ねないようにね」風歌はうなずいたが、表情は変わらなかった。二人のささやきが終わると、礼儀正しく向き直った。三人の理事は風歌から目を離さず、瞳に貪欲な光を浮かべて見つめ続けた。それを見て風歌は内心で吐き気を覚えた。「さすがは風歌ディレクター、噂に違わずお綺麗で、スタイルも抜群ですね」小林理事が口火を切った。「とんでもない、三人の理事こそ選ばれし人たちです」風歌は笑って社交辞令を返した。久美子は明るく皆を席へと促した。そしてワイングラスを掲げ、さっそく風歌に乾杯を持ちかけた。「ディレクターが就任して以来、初めて自ら商談に出る機会です。この一杯を捧げます、ご成功を祈って」赤ワインのグラスが強引に風歌の手へと押しつけられた。風歌は優雅にグラスを揺らし、鼻先で香りを確かめた。「82年もののラフィットね、これはいいお酒」彼女は笑顔を浮かべながら久美子と軽くグラスを合わせ、そのまま仰いで一気に飲み干した。村上理事がお世辞を言った。「ディレクターがワインにまで精通しているとは驚きです。その飲みっぷりもまた素敵で、ぜひこの私の一杯もお受け取りください」風歌は尋ねた。「今日はビューイングの脚本とキャスティングの件でお話しするんじゃなかったんですか?どうしてその話題が一向に出ないんでしょう?」理事たちは落ち着いた様子で答えた。「もちろんその話もしましょう。ただ、酒席ではまず飲んでから話すのが礼儀です。まさかディレクターがそれをわきまえないような方じゃありませんよね?」三人の理事はにこにこと笑いながら次々と酒を勧めてきた。風歌は一度も断らず、杯を重ね続けた。……御門グループ、社長室。朝日がドアをノックして入り、風歌の身元に関する資料を恭しく差し出した。「ボス、うちの者たちが念入りに三度も調査しました。これが最終的にまとめた資料です。ご確認ください」俊永はそれを受け取り、何度も目を通すと、端正な眉をわずかにひそめた。彼女の経
Read more