その夜、誠士はすぐに帰国し、A市に戻ってきた。そしてナビを頼りに車を走らせ、今のすみれがいる療養院を訪れた。 着いた瞬間、誠士の第一印象は――「古くて、汚くて、うるさい」。 高級ブランドのスーツを身にまとった誠士が足を踏み入れた瞬間、周囲の視線が一斉に彼に注がれた。 無理もない。ここにいる誰よりも、彼はあまりに場違いだった。 この療養院に来るような人は、たいていお金もなく、家族に面倒を見てもらえず、自分の生活すらままならない。だからこそ、こうした場所に送られてくるのだ。 でも彼は、見た目からしてまるで別世界の人間だった。 彼が札を数枚ひらりと差し出すだけで、看護師たちは途端に媚びへつらい始める。「どなたに会いに来たんですか?」と訊かれ、「中は汚いから、面会なら呼び出しますよ」と勝手に提案された。 「藤崎すみれに会わせてくれ」 冷たくそう告げ、彼は彼女らの申し出をばっさり断って、無言のまま中へ進んでいく。 その名前を聞いた瞬間、担当の看護師が小走りで前に出てきた。彼女は鋭い目で誠士の表情をじっと見つめ、その態度から彼がすみれにどんな感情を抱いているのかを探ろうとしていた。 なにせ、すみれという女もただ者ではなかった。かつては金持ちの愛人で、妊娠をきっかけに本妻を追い出そうとしたが、結局その男の怒りを買い、ここに押し込まれたらしい。 目の前の男――その顔立ちと雰囲気は、まさにその「金主」に見えた。 でも、もし本当にただ彼女の落ちぶれた姿を見たいだけなら、こんなところまでわざわざ来る必要なんてないはずだ。 看護師は前を歩きながら、こっそり口元をゆがめた。 ――やっぱり、金持ちの考えることなんて、私たちには理解できない。 彼もきっと、ろくでもない奴なんだろう。 もし本当にすみれを愛していたのなら、なぜあれほどまでに追い詰められるのか。 だが愛していないと言うには、妊娠させ、正妻まで家を出させた現実がある。 矛盾だらけの行動。 それでも、彼は何ひとつ間違っていないような顔をしている。 その男の心なんてどうせ理解できるはずがない――そう割り切った看護師は、もう何も考えず、すぐに彼をすみれの病室前まで案内した。 「藤崎さんはこちらです。窓際のベッドですよ」 そう言いながら、彼女はお世辞たっぷり
Read More