All Chapters of 黒の騎士と三原色の少女たち: Chapter 31 - Chapter 40

72 Chapters

第6話 リチャードの依頼

 リチャードが案内したのは広い庭がよく見えるサンルームだった。すでにもてなしの準備は出来ていたらしく、テーブルにはサンドイッチやスコーンなどの軽食と紅茶、人数分の食器が並べられていた。そして紫のロングヘアをまとめた美しいメイドがリチャードたちにお辞儀をした。「陛下。準備は整っております」「ご苦労。紹介しよう。彼女はマリー、余の妻になる女だ」「!」 三姉妹がびっくりしている横で桜夜は左手で自身の額を押さえた。メイドのマリーも不服そうだ。「陛下。お戯れはお辞めくださいとあれほど……」「何を言う。余は本気だ」 桜夜がため息をついてから口を開く。「リチャード。友人としていうが、君の立場でそれは……」「わかっておる。政敵や国教会のジジイどもが黙っていないと言いたいのだろう。だから“最初”にお前に紹介した」 そこでリチャードは桜夜の耳に顔を近づけた。「余の邪魔をしそうな連中の弱味を探ってくれ。そうすればあとは余がなんとかする……」「はあ……なにかくれるんでしょうね?」「もちろん。ロイヤル・ヴィクトリア勲章を与えよう。おまえは未だに、自分を野良犬だと思っているようだからな」 リチャードが桜夜の胸をつつく。「いっそ余の飼い犬になるか?」「慎んでお断りいたします」 2人の密談に三姉妹がハラハラしていると、マリーが椅子を引き、三姉妹に座るよう促した。「さあ、どうぞ。お嬢様方」 その言葉にサイカとリオは椅子に座ったが、ホムラだけどうしていいかわからずおろおろしてしまう。見かねた桜夜が彼女の耳元に口を近づけ、ふーっと息を吹き掛けた。「~~~~!」 場所が場所だけにどなったり叩いたりはしなかったが、顔を真っ赤にして桜夜を見た。「ホムラちゃん。早く座って。女性が全員座らないと陛下も座れない」「う……わか、た……」 ホムラはぎこちなく動き、席についた。それを見てマリーに引かれた椅子にリチャードが腰かけ、最後に桜夜が席についた。マリーが全員のカップにミルクティを注ぐ中、リチャードは喋りだした。「それで君たちは、余と桜夜の関係をどこまで知っているのだ?」「えっと、桜夜様が陛下を暗殺しようとした方を捕らえたのに、犯人の仲間と間違えられて一緒に捕まってしまったというところまで……」「そうそう。桜夜のおかげで2発目の弾丸を食らわないで済んだというのに父
last updateLast Updated : 2025-06-14
Read more

第7話 学校へ潜入せよ!

ウィンチェスター聖マリアンナ女子大学付属女子高等学校 この学校に桜夜は臨時の日本語教師として、サイカ、リオ、ホムラは留学生として潜入していた。潜入してからもう3日になる。なぜこんなことをしているかと言えば、リチャードの命令がそこにはあった。「今イギリスで悪魔憑きの噂が広まっている。人間には不可能としかいえないような事件が頻発しているのだ。そしてこの噂の震源地が聖マリアンナ大学付属女子高等学校であることがわかった。お前たちにはそこに潜入し、本当に悪魔がいるなら討伐してほしい」 そんなこんなで学園に潜入した4人だったが、それぞれ目立っていて潜入としては失敗だった気もしていた。まずサイカは持ち前のかわいさからかわいがりの対象となり、礼儀正しく振るまい頭もよいリオはすっかり“お姉さま”だ。そしてホムラはそのボーイッシュなかっこよさとスポーツ万能な身体能力から学生たちを百合の道に落としていった。  彼女らに対して桜夜はそこまで学生たちの気を引く点はなかったが、なんだかんだと面倒見のよい性格が災いし、色々な相談に乗るはめになっていた。今日も桜夜は教室で学生の相談に乗っていた。その姿を、百合化した女の子たちに囲まれているホムラに見られているとも知らずに……。◆◆◆学校内とある空き教室「ふう……」 学生たちの人生相談を捌ききった桜夜は壁に背中を預けて一息ついた。すると、突然教室のドアが開いた。「今日の桜夜先生の相談室は終わったよー。ってホムラちゃんか。どうしたの?」 ホムラは無言でつかつかと歩いてくると、桜夜のネクタイをつかんで乱暴に引っ張り、無理矢理唇を奪った。また歯をぶつける痛いキスだった。「……ずいぶんと女に囲まれていて楽しそうだったな」「ホムラちゃんほどではないよ」「オレは楽しくねえ」 ホムラは終始困り顔で女の子たちに対応していたのに対し、桜夜はにこやかに相談に乗っていた。もちろんホムラだって、嫌そうに相談に乗るわけにはいかないことも、そんな桜夜は桜夜じゃないこともわかっていた。それでも嫌だった。他の女が桜夜に近づくことが許せなかった。「桜夜。オレのものになれよ」「うーん……」 少しだけ考えるそぶりを見せた桜夜は、すぐににかっと笑い、ホムラの上半身を机に押し倒した。「なっ……」「そんなことをいうなら、まずはキスくらい上手にならない
last updateLast Updated : 2025-07-31
Read more

第8話 悪魔の正体

 ホムラとの宿題から2日後、唐突に事件は起きた。学園の中庭から叫び声が上がったのだ。すぐに駆け付けた桜夜たちの目の前には、倒れている生徒とその隣にいる通常のライオンの3倍近くある大きさの漆黒の獅子と、それを見て腰を抜かす女性教師の姿だった。桜夜はすぐに教師の前に出ると、三姉妹に指示を出した。「ホムラ! 先生をすぐに安全な場所に! そのあと僕のロッカーから桜吹雪を!」「わ、わかった!」 もちろん指示を出している間、獅子が黙って見ているはずもなく、その巨大な口で桜夜に嚙みつこうとしてくる。対して桜夜はジャケットの内ポケットから聖句と聖水で清めた折りたたみのコンバットナイフを取り出し、獅子の左目に突き刺した。「サイカ、リオ! 今だ!」 桜夜がナイフを引き抜き、横に飛びのきながら叫ぶ。それに応えるようにリオは鉄砲水を獅子に浴びせ、そこにサイカがイカズチを食らわせる。獅子はぐおおおっと叫んだが、彼女たちの攻撃をものともせずに突進してくる。桜夜は、2人を助けるために再び獅子に接近し、その脇腹にナイフを突き立てる。獅子は苦しみの声すら上げずに桜夜の方を向き、前足を振り上げた。それを咄嗟にナイフで受け止めたまではよかったが、ナイフはあっけなく折れてしまう。「聖なる武器の効かない悪魔。黒い獅子……まさか」 桜夜が獅子を睨んだまま何度か後ろにジャンプして距離を取ると、獅子は口から黒色のエネルギー波を放った。まさに黒色破壊光線である。咄嗟にリオが水のカーテンを桜夜と光線の間に展開し、サイカはイカズチで獅子を攻撃するが、獅子は構わず光線を放ち続けた。リオの水のカーテンが破れそうになったそのとき!「まてまてえ!」 桜吹雪を片手に駆け付けたホムラが、巨大なファイアボールを獅子の脇腹に叩き込み、その巨体を吹き飛ばした。いや、それはもはやファイアボールなんていう生やさしいものではなかった。火山の噴火、イルプションだった。その炎の中に桜夜は自分の霊力が混ざっていることに気が付いた。“宿題”の影響で一時的に火力が上がっているようだ。そんなことを考えている間に近づいて来たホムラが、彼に桜吹雪を差し出す。「桜夜、とどめはてめえが刺せ」「はいはい、ホムラ様」 桜夜は居合切りの構えを取る。それにも関わらず獅子は恐れるに足らずとばかりに彼を目掛けて突進してきた。桜夜は一瞬目を閉じ、呼吸
last updateLast Updated : 2025-07-31
Read more

エピローグ

 サタンの眷属を倒してから、イギリスで悪魔によると思われる事件はなくなった。しかしサタンの動機は未だ不明であり、桜夜は3つの仮説を立てていた。1つは、味方に引き入れたい桜夜をおびき出すため。イギリスで事件を起こせば王室と関わりのある自分にお召しがかかると読んでの犯行という説だ。2つ目は創造神の戦力を削ぐ目的があった可能性である。犠牲者は皆敬虔なキリスト教徒であった。将来の敵を少しでも減らそうとしたのかもしれない。最後の説はただの気まぐれというものだ。正直桜夜はこの可能性が一番高い気がしている。リチャードにもそう報告した。 その後桜夜たちは…… 古城ホテルにいた。正直ロンドンの拠点はあるし、城に泊まりたいならリチャードに頼めば客間を使わせてもらえるだろう。合理主義者の桜夜としては無駄な気がしないでもないが、少女たちがどうしても1度ここに泊まりたかったというので折れたのだった。(今回は仕事を手伝ってもらったしね。これは経費で落とそう) けち臭いことを考えながら桜夜は大きなベッドに横になる。スイートルームだけあってベッドの寝心地は彼の拠点とは比べものにならなかった。そんな桜夜の姿に気づいたサイカが部屋の探検を止めて、彼の横に寝転がり、その左腕に抱き着いた。そして耳元でささやく。「ねえ、桜夜さん。今夜は3人一緒に……ね?」 その囁きに桜夜は彼女の顔を見る。いつもと変わらぬ笑顔を浮かべていたが、今日はどこか妖艶で大人びて見えた。(女の子は何歳でも男を惑わす魔性の存在だなあ) そうしみじみ思った桜夜だった。第4章 いざイギリス! 完
last updateLast Updated : 2025-07-31
Read more

第5章 コスモスの復活 プロローグ デートに行こう!

 ハイジョ……ハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョ◆◆◆四方院家 桜夜の私邸 イギリスから帰った桜夜は大量に溜まった書類仕事に終われていた。リオという優秀な秘書と家事全般をやってくれるサイカがいるとは彼が直接を目を通さなければならない書類は多かった。1人やることのなかったホムラも、桜夜の代わりにハンコを押す仕事を見つけてやる気だった。4人の書類との格闘は一週間続いた。そしてついに……。「終わったー!」 桜夜、サイカ、ホムラの三人が一斉に万歳をする。そんな祝福ムードの部屋にリオが戻ってきた。「あら、終わったんですね」「うん、みんなお手伝いありがとう」 照れるサイカとホムラに対し、リオは口元に手を当てて笑った。「ふふふ。いえ、おめでとうございます。今夜は祝杯を挙げられるようお店を予約しておきましたよ」「あ、ありがとう……」 相変わらず恐ろしく頭と気の回る子だ。一体いつ今日仕事が終わることに気づき、いつ店を手配したのやら、と桜夜は思った。「さあ、サイカちゃん、ホムラちゃん、着替えてきましょう。桜夜さんも準備しておいてくださいね」「うん」 部屋を出る三人を見送ると、桜夜はベッドで横になった。◆◆◆「桜……さ……」 声が聞こえる。優しい声だ。彼を癒してくれる声に桜夜は手を伸ばす。温かなぬくもりに触れると、その身体をベッドに引きずりこんで抱き締めた。「お、桜……ん!」 抱き締められた少女……サイカも唇を奪われると、さすがに無理矢理立ち上が
last updateLast Updated : 2025-08-01
Read more

第1話 人類滅亡計画

 それはある日突然起こった。最初はフランスだった。1人の40才の女性が目覚めなくなったのだ。その後その症状は世界中に広まり、桜夜たちのいる日本でも次々と患者を増やしていった。100人、300人、1000人とどんどん患者数が増えるなか、医学的な原因は未だに発見できていない。 そんな中、天皇より勅命を受けた四方院玄武は、四方院家の総力を挙げて、医学と呪術の両面から調査を進めていた。桜夜もまた特別相談役として、三姉妹とともに調査を進めていたが、全く成果はでなかった。それどころか四方院家の人間も1人、また1人と倒れていき、調査の続行すら危ぶまれるようになっていった。 そしてそれは、桜夜たちも例外ではなかった……。 ◆◆◆ 桜夜の寝室 そこには3つの布団が並べられ、右から、リオ、サイカ、ホムラが横たわっていた。 安らかな3人の表情を見て、桜夜は思った。  ……もう二度と目覚めないかもしれないのに。  桜夜は少女たちを座って見つめていたが、不意に額を押さえた。情報を整理するためだ。  (フランスで最初の症例が出て半年、あるゆる病気を疑われたが、未だに医学的な見解は曖昧なまま……。四方院家の調査でも、呪術や魔術、魔法、魔女術等々検討したが、正解には至っていない……。このまま全人類を眠らせて絶滅させようとしている誰かがいるのだろうか。そう例えば……)  そこで桜夜ははたと気づく。 「まさか……ノアの大洪水の時のように神がやっているとでもいうのか?」  サタンの言葉が思い出される。 『今はそうかもな。だがお前は俺の仲間になるしかない。コスモスが蘇れば、お前とお前の大切な人間は殺されるんだからな』 「コスモスが蘇ったのか。はたまた神がやっ
last updateLast Updated : 2025-08-02
Read more

第2話 魔王との契約

 グノーシス主義で言うところの穢れた身体を脱ぎ捨て、善なる魂のみとなった桜夜は光の世界にいた。それはいわゆる「地獄」のイメージとはかけ離れ、むしろ天国を想起させた。桜夜は魂となっても持ち込むことが出来た桜吹雪を手に、「光の宮殿」とでも言わんばかりのまばゆい光を放つ宮殿を目的地に歩き始めた。時間感覚が狂うなか、気づけば宮殿の門の前に彼は立っていた。 「『叩きなさい。そうすれば、開かれる』、か」 固く閉ざされた門を前に「マタイによる福音書」7章7節の言葉を呟いた桜夜は、門を4回ノックした。すると門は開き、彼を導くようにその先の扉たちまでゆっくりと開いていった。桜夜は、しっかりとした足取りで彼のためにあつらえられた道を歩んだ。◆◆◆ 道の終着点たる玉座に、横になった青年がいた。その青年はクリーム色の髪にシミ1つない真っ白な肌をしていた。手足はすらりと伸び、瞳は知性を感じさせるエメラルドグリーンだった。その姿は魔王というよりも、むしろ天使のようだった。青年は近くに置いている果物かごからリンゴを手にとり、かじった。それを十分咀嚼してから飲み込むと、青年は美しい声で語りだした。「ようこそ、桜夜卿。我が宮殿へ」 その声は半年前に聞いたサタンの声とよくにていた。「あなたがサタン、なのか?」「そうだ。そして愚かなる創造神を滅ぼすものでもある」「今地上で起こっていることをご存知ですか?」 サタンから発せられる威光が強すぎて、桜夜は敬語になっていた。「ああ、人間どもが永久の眠りについていることだろう」「ええ、僕はその原因が……」「言わずともわかる原因はコスモスだ。コスモスプログラムは暴走し、ついに人類を秩序に対する脅威と感じたらしい。まああの創造神が造ったプログラムだ。いつかはそうなるだろうとは思っていたがな」 サタンはどこまでも楽しげだ。だからこそ桜夜には疑念があった。「本当は、あなたがやっているのではないですか? イギリスのときのように」「くくく、ははははは!」 サタンは下らなそうに笑った。
last updateLast Updated : 2025-08-03
Read more

第3話 コスモスを倒せ!

 サタンの開いた扉の先には、コスモスの宇宙が広がっていた。そしてそこにはかつて桜夜とケイオスが付けた傷跡から四方八方にヒビが入った球体があった。「コスモス!」 桜夜が桜吹雪を抜くと、コスモスは自身の周りにヘドロのようなものを集め、人形に変わっていく。その姿は、ケイオスとよく似ていたが、瞳に生気はなく、コスモスが造った模造品であった。「死者を弄ぶか……」 桜夜は奥歯を噛み締める。いかにかつていがみ合った相手とはいえ、三姉妹の亡き父をもう一度切るのは、気分のいいこととはいえなかった。むしろ最悪の気分だった。だがやらなければならない。……愛する人を救うために。「コスモス。僕はあなたを、切る」 それが開戦の合図だった。コスモスは突然桜夜の回り360度に神殺しの槍を数えきれないほど一気に召喚し、すべてを彼に向かって放った。しかし桜夜は桜吹雪とサタンの加護による結界でその攻撃を防ぐ。そのまま彼は自身の背中から鳳凰の翼を生やすと、コスモスに向かって突っ込む。 そのまま桜夜が袈裟懸けにコスモスに切りかかると、コスモスは手に神殺しの槍を出現させ受け止めようとした。しかし一瞬の拮抗もできずに槍ごと桜夜はコスモスの身体を切り裂き、見えたコアに向かって止めのひと突きを放った。しかしコスモスは後ろにワープすることで回避すると、空間を切り裂きゲートを開いた。そこから現れたのは……。「天……使?」 桜夜が呟く。銀色の鎧を全身に纏い、その背中には6対のまるで機械のような翼があった。機械天使は桜夜にせまり、右手の剣を振り下ろす。桜夜は神殺しで切り裂こうと力を込めるが、その剣が持つ邪気が強すぎて上手く切れず、後ろに飛び退いて回避した。そのまま桜夜は鳳凰を顕現させると命じる。「鳳凰! その神聖なる炎で邪悪なる者を焼き払え!」 桜夜の言霊を受けた鳳凰が口から炎を放つ。その炎は天使を燃やし、どろどろと融かしていった。それを見たコスモスはさらに大量の天使たちを召喚し、対抗する。桜夜は天使たちの相手を鳳凰に任せ、自身は桜吹雪を
last updateLast Updated : 2025-08-04
Read more

エピローグ

「はあはあ」 コスモスを撃破し、力を使い果たした桜夜は意識を失う。やがてその魂は肉体へと戻っていったが、その一部始終を水晶玉で見ていたサタンはつぶやく。「かつてのお前には遠く及ばないが、この失敗作の模造品も役には立ちそうだ。明人が神殺しを託したのもわかる」 サタンは美しいほどに冷たい笑みを浮かべながら、かつての盟友を思い出していた。そう、彼が愛した世界一の聖騎士を。「アルファ、お前にまた会いたい……」 ◆◆◆  サタンの予言通り、桜夜がコスモスを切ったことで、世界中で眠りに囚われた人たちが目覚め始めていた。もちろん疑い深い彼は、コスモスが倒れたのと同時にサタンが術を解いた可能性も疑っていたが。しかし桜夜にはそれよりも気がかりなことがあった。サイカたちがなかなか目覚めないのだ。本来なら忙しい時期ではあったが、桜夜は彼女たちの側を離れなかった。「いつになったら目覚めるんだ……」 桜夜がサイカの左手を両手で握る。温かい手に、彼は涙を流しそうになった。彼は泣く代わりにサイカと自分の唇を重ねた。しばらくそうしていると…… サイカが苦しそうにもがき、桜夜をはねのけながら上体を起こした。「ぷはっ、な、何事!?」 状況がわからず、苦しそうに息をするサイカを、桜夜は思いっきり抱き締めた。「お、桜夜さん!?」 しばらく困惑したサイカだったが、やがておずおずと桜夜の背中を抱き締め返した。 ……その後目覚めたホムラとリオに2人がもみくちゃにされたことは言うまでもないことである。第5章 コスモスの復活 完
last updateLast Updated : 2025-08-05
Read more

第6章 永久の桜の恋物語 プロローグ 墓参り

 あるうららかな昼下がり、桜夜は黒いスーツに身を包み、出かける準備をしていた。「あれ? 桜夜さん、お出かけ?」 スーツなんて着てまさかデートか、とサイカが目に怪しい光を宿しながら桜夜に尋ねた。「ああ……少し……墓参りにね」 その言葉にサイカは自分の下種な発想を恥じると、どこかぎこちなく尋ねた。「えっと、だれのとか……聞いてもいい?」「ああ……育ての親、かな?」 桜夜の複雑そうな表情を受けてサイカはしばらく逡巡したあと、再度口を開いた。「……わたしたちも、ご挨拶させてもらってもいい?」「……だめと言っても来そうだ」「……まあね。じゃあ2人に伝えてくるから」 ◆◆◆  スーツ姿の桜夜に合わせて白や黒のおとなしめのワンピースを着たサイカたちは、彼の運転する車で鎌倉方面に向かった。車内には、いつもと違う話しにくい雰囲気が漂い、少女たちを戸惑わせていた。黙って運転する桜夜の横顔や背中があまりにも、寂しげで悲しそうだったからだ。「ついたよ」 桜夜が車を駐車したのは、純和風の平屋建ての古そうな屋敷だった。どことなく桜夜の私邸と似ていた。その庭には桜の大木がそびえ立ち、はらはらと散る桜の花びらが小さな池の上で舞踊っていた。「お墓は屋敷の裏だよ」 そう言う桜夜について屋敷の裏に回ると、そこには小さな墓地があった。そこには「宮森家先祖代々之霊位」と書かれた墓標と、「宮森明人之命」と記された墓標があった。その墓標の前には、高校生くらいだろか、少しだけ茶色い髪に白い学生服が目立つ少年と、美しい桜色の髪に着物姿をした女性がいて、手を合わせていた。やがて2人は桜夜たちの気配に気づいて振り返った。少年は桜夜の顔を見ると、人懐っこそうに笑った。「やっぱり来てくれたんだ。&ldquo
last updateLast Updated : 2025-08-06
Read more
PREV
1234568
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status