All Chapters of 黒の騎士と三原色の少女たち: Chapter 41 - Chapter 50

72 Chapters

第1話 桜夜の過去

宮森家の墓地にて、桜夜は弟分の司と対峙していた。司と着物姿の女性が場所を譲ると、桜夜は「宮森明人之命」と書かれた墓石の前にしゃがみこんだ。墓石を拝むでもなく、ただぼんやり見つめる「えっと……」 そんな桜夜の姿に、サイカたちはただただ困惑するだけだった。そんな彼女たちに、着物姿の女性が声をかけた。「少し、彼を1人にさせてあげてくださいませんか?」「……うん」 サイカたちは曖昧に頷くと、司に連れられて屋敷の縁側に案内された。勧められるままに縁側に座ったサイカは、困り顔でリオを見た。そこでリオが代表して少年に尋ねた。「あの……わたくしたちは桜夜様に、その、お世話になっておりますサイカと、ホムラと、リオと申します。桜夜さんからは、育ての親の墓参りにいくとしか聞いていないのですが……」「あー、ごめんね。兄さん、あれでじいちゃんに似て口下手だから。えっと、まずは自己紹介から。僕は宮森司。この家で兄さんを育てた宮森明人の孫です」「ここが、桜夜さんの育った場所……」 そう聞くととても感慨深く、サイカたちは庭や屋敷を見渡した。自分たちの知らない桜夜の過去を少しでも知ろうとするように。「それでこちらが桜さん」 続いて、司は桜色の髪に、桜柄の着物を着た女性を見た。「桜と申します。司様の前世からの妻です」「ぜ、前世?」「ふふふ」 思わず聞き返すホムラだったが、桜は口許に手を当ていたずらっぽく笑うだけだった。その仕草は見た目より幼い。「では私はお茶を煎れてきますね。司様は桜夜様の昔話でもしてさしあげたらいかがですか?」「そうだねえ。どうせ兄さんは話さないだろうし」 よいしょっと少年は縁側に座り、下駄を脱いだ桜はしずしずと台所に向かっていった。「あの、勝手に聴いてもよろしいのでしょうか? 桜夜様に申し訳ないような……」
last updateLast Updated : 2025-08-07
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第2話 桜の秘密 前編

 サイカたちが墓参りを終えて縁側のある庭に戻るとそこには、竹刀をもった桜夜と、庭につっぷす司がいた。「な、なにごと!?」 サイカが叫ぶと、桜夜が笑顔で振り返った。「やあ、おかえり。ちょっと弟弟子をしごいただけだよ。それにしても司くん。剣道部のわりに腕鈍ってない?」「に、兄さんが腹いせに本気を出すから……」「本気も何も剣道のルール通りだろうが」 桜夜は持っていた竹刀を屍と化した司の方に放ると、少女たちの方に歩み寄る。思わず三人は、びくっと反応したが、桜夜は三人の頭を撫でるだけだった。「悪いね。今日は付き合わせて」 そんなことをしていると桜が縁側に顔を出し、下駄を引っかけると司に歩み寄った。「大丈夫ですか? 司様」「……うん」 司は起き上がって地面に座り込む、彼の汚れた顔を桜は手拭いで拭いていった。「そうだ、兄さんたち、今日は泊まっていってよ。兄さんの好きなすき焼きとお酒も準備してあるから」「あー……」 桜夜はサイカたちに目線を送る。サイカたちもお互いに目配せすると頷いた。「じゃあ、お邪魔させていただこうかな」「そんな他人行儀な。元々兄さんの家なんだから」  ◆◆◆  広い和室に少し大きめのちゃぶ台。その上にはカセットコンロがあり、コンロの上の鍋を使い、桜がせっせとすき焼きを作っていく。因みにちゃぶ台の席は桜夜が上座に座り、その両側をがっちりリオとホムラが押さえていた。対面には司と桜が仲睦まじく座り、桜の手伝いで台所にいたサイカは桜夜の隣を奪われたことにガックリしながら、桜の右手側に座った。「はい、兄さん。お酒」「ありがとう」 司が桜夜の盃にお酒を注ぐ。桜夜以外の前には、オレンジジュースが注がれたグラスがあった。静かに乾杯が行われると、桜夜は一気に盃を干した。 
last updateLast Updated : 2025-08-08
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第3話 桜の秘密 後編

 その日「宮森家」の食卓ではお通夜のようにさめざめとしていた。桜夜が少女たちに対して、妙に上手いしゃべり方で桜と司の過去を話していたからだ。サイカはえぐえぐと人目も憚らずに泣き、リオは涙をハンカチで拭きながら聴いていた。ホムラはなんとかこらえようとしているようだが目じりには涙が溜まっていた。そんな様子に司は顔を赤くし、桜は口元を隠しながら微笑んでいた。「つまり桜の精霊である桜さんと、人間である“宮森司“の寿命には大きく差があったわけだ。そして当時の桜さんにはどうすることもできず、生まれ変わり、また出逢うのを待つしかなかった。そして……」 桜夜は顔を赤くしている司に目を向ける。「その生まれ変わりが彼ってことだよ。ね、司君」 桜夜の言葉を司が引き継ぐ。「小さい頃、初めてこの屋敷を訪れたときに出逢ったんだ。神となって宮森家を護っていた桜さんに。まあその頃は桜さんの力も弱くて、見えるのは僕だけ。僕の話を信じてくれるのはじいちゃんと兄さんくらいだった」 そこでサイカが首をかしげる。「でも、今は桜さん見えてるよね。わたしたちにも」「司君が桜さんのことを思い出したからね。それで桜さんの力が強まり、誰でも見れるようになったわけだ。……まあ、司君は自分だけのものとして見えない方がよかったかもしれないけどね?」 桜夜はニヤリと嗤う。「いや、そんなヤンデレだかメンヘラだかわからない嗜好してないんで」「どうだか」 2人のやり取りに、食卓に笑いが戻った。◆◆◆ 夜、皆が眠りについたころ、桜夜は寝間着浴衣に羽織を肩にかけた姿で縁側に胡坐をかいて座り、夜桜と月を見ていた。(初めて先生に出会ったのも、こんな夜だった) 桜夜は赤い盃に一升瓶からお酒を注ぐ。そして乾杯をするように軽く月に向けて突き出してから口元に近づけようとする。すると不意に風が吹いた。一片の桜の花びらが、盃の中に入り込む。 それを見て桜夜は微笑むと、桜の花びらごと酒を飲みほした。to be continued
last updateLast Updated : 2025-08-08
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第4話 サイカの挑戦

 翌朝、早朝から台所に立ち、朝食の準備をしようとする割烹着姿の桜の背中で引き戸が開けられる音がした。桜が振り返ると、そこにはサイカがいた。「おはようございます。よく眠れましたか?」「は、はい。とっても。それでその、桜さんに聴きたいことがあって……」「はい? なんでしょうか」「あの、ひょっとして桜夜さんって和食の方が好きなのかな?」「うーん、どうでしょう? このお屋敷にいた頃は明人様が和食しか召し上がらなかったので、桜夜様も和食を召し上がっていましたが」「わたし洋食しか作れないけど、和食も作れた方がいいのかなあ」 うーん、とサイカが悩んでいると、桜が微笑みながら言った。「ではお教えしましょうか? これから朝餉の仕度をしますので」「お願いします!」 サイカは元気よく返事をするのだった……。◆◆◆ その後食卓には、アジの干物とシジミのお味噌汁、肉じゃが、ほうれん草の白和えが所狭しと置かれていた。  隣り合って座ったサイカと桜の間にはおひつが置かれ、炊きたての白米がぎっしりと詰まっていた。  最初に食卓に顔を出したのは桜夜だった。昨夜遅くまで起きていたとは思わせない涼しい顔をしていた。次にリオが眠そうなホムラを連れて姿を見せた。しかしいつまで待っても司が現れない。桜がにこやかに微笑みながら立ち上がる。「仕方ないですね。様子を見て参ります」 優雅な立ち居振る舞いで桜が部屋を出てから数分後、彼女に伴われて姿を見せた司は赤い顔をしていた。その姿に桜夜はやれやれといった顔をし、少女たちは首をかしげていた。 ◆◆◆  いただきますの声が木霊する食卓。サイカはじっと桜夜の様子を盗み見ていた。あまりの視線に桜夜が「ん?」と言わんばかりにサイカを見たが、サイカは慌てて目を背けた。  桜夜は首を傾げながらお椀を手に取り、中に入っている味噌汁を口にした。  「……あれ? 桜様、味付け変えましたか?」「ふふふ、変えていませんよ
last updateLast Updated : 2025-08-09
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第5話 ホムラの剣

 朝食の途中、不意にホムラが桜に尋ねた。「なあ、お前、本当に神ってやつなのか?」「ええ、そうですよ。悪いことをしたら桜夜様に退治されちゃいます」「でもなあ……」 ホムラは桜をじっくりと眺める。「どっからどう見ても人間じゃん」「日本の神様の多くは人間みたいな姿をしているものだよ。西洋だってイエス・キリストは人間の姿をしていただろ?」「そうだけどさあ……」 桜夜の言葉にも納得しないホムラはむむむとうなる。「しょうがない。ホムラちゃんの修業も兼ねて、桜様のお力を見せていただいてもよろしいですか?」「わたくしでよろしければ」 桜は柔らかく微笑み、ホムラに「よろしくお願いいたしますね」と告げるのだった。◆◆◆ 朝食の後片付けをしたあと、一同は敷地内にある道場に移動した。道場の床の間には鞘に入った両刃の剣が置かれており、ホムラはそれが気になってしかたなかったが、声に出すまではしなかった。「さて、桜様は戦闘向けの神様ではないから、式神を使われる。その式神を倒せたらホムラちゃんの勝ち。いいね?」「おうよ。神かどうか見極めてやるぜ」 ホムラが左手に作った拳で自分右手のひらを叩いて気合を入れた。「では参りましょうか」 ホムラの対面に立つ桜が袂の中から3枚の桜の花びらを取り出す。それを右の手のひらに乗せるとふぅっと息吹を注ぎ込み、飛ばす。すると花びらは姿を体長2メートルは越す木偶人形3体に化け、ホムラから桜を護るように立つのだった。「そんな木偶、オレの炎で!」 ホムラは木偶人形を余裕で包み込めるサイズのファイアボールを3つ作り出し、思いっきり木偶人形に投げつけた。瞬時、ホムラは木偶人形が燃えカスになる姿をイメージした。しかし……。「なん、だよ……」 ホムラの予想に反し、木偶人形は炎に包まれても関係ないとばかりに悠然と立ち続けて
last updateLast Updated : 2025-08-09
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エピローグ またはあるかもしれない未来

 桜夜は、しゃがみこんで師である明人の墓を見つめていた。服装は師の残した着流しの黒い着物を着ていた。その後ろに立つのは彼の弟分の司だった。しかし桜夜がまるで20代のような若々しさを保っているのに対し、司はずいぶんと年老いていた。「兄さん、本当に逝くんですか」「ああ、模造品の僕が“やがて来る未来“に備えるために、僕は一度死んで、転生する」「兄さん……」「司君。君は桜様との夫婦神として、僕の後継者たちを見守ってくれ」 司は何も言えずにうなずいた。桜夜はその気配を感じると立ち上がり、師に別れを告げた。「さようなら、先生。我が永遠の師よ」 それだけ言い残すと、桜夜は庭の方に向かって歩き始めた。司がその後ろに続く。しばらくゆっくりと歩いて、庭の真ん中にまで歩を進めた桜夜は、首から下げている赤、青、黄の勾玉を軽く左手で握りながら、フェニックスを召喚した。そして司に振り返る。「さようなら、司君。君の兄代わりができて、楽しかったよ」「兄さん…!」 司が何も言えないでいるとフェニックスは主である桜夜に神聖な炎を放った。炎に包まれながら司に笑みを見せた桜夜はその日消滅した。そして聖なる残り火にフェニックスも身を投じ、消滅した。 それが、誰よりも地球のいのちを愛した、不死身の化け物の最期だった。to be continued
last updateLast Updated : 2025-08-09
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第7章 君に逢いたい プロローグ

四方院家 相談役執務室 その日、そこには見慣れない客人がいた。着慣れていないスーツから新卒といった感じだろうか? この部屋の主より少し若そうだ。 テーブルを挟んで2人は黒いソファーに座っていた。上座にこの部屋の主水希桜夜、下座にスーツの青年がいた。青年が口を開く。「水希様、その……」「そんなに固くならなくていいよ。そう、昔のように、兄と呼んでくれないか?」「……ありがとう。お兄ちゃん」 微笑む桜夜に対して、青年ははにかむように笑った。その表情は呼び方と相まって幼く見えた。「電話でも話したけど、けいくん。君の家族は僕と四方院家が責任を持って守るよ。君のご両親は四方院を支えた功臣だし、なにより君と僕は……」 そこで2人の間に寂しそうな空気が流れる。秘書官として同席していたリオは少し困惑する。なぜならこの来客について秘書官であるリオには「来客がある」としか伝えられておらず、一切の詮索を許されなかったからだ。「しかしけいくん。君が僕を頼ってくれて嬉しいよ。張り切って指示を出しておいたから、安心してくれ」桜夜はおどけて見せるが、リオにはそれさえもどこか痛々しかった。「お姉ちゃんはいつも言っていました。『あいつは誰よりも強い。この世界で一番頼りになる男よ。だから何か困ったらあいつを頼りなさい』って。ただ……」 そこでけいくんは寂しそうな顔をする。「でもこうも言っていました。『あいつの強さの核には弱さがある。いつか折れてしまいそうな、繊細な奴。あたしが支えてあげられればいいんだけど……』って。だから悩みました。お兄ちゃんを頼るかどうか。……ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、今『支え』を手に入れた?」 そこでけいくんはちらりとリオを見た。彼女がそうなの? と言わんばかりに。  対して桜夜は笑みを作ろうと口元を歪めるも、悲しそうな瞳でいった。「……どうだろうね?」to be continued
last updateLast Updated : 2025-08-09
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第1話 初恋

 けいくんが帰ったあと、桜夜はしばらくぼんやりとしていた。その姿がリオには、泣くのを我慢しているように見えた。だから一歩踏み込んだ。「あの、先程の方はどなたなんですか……?」「え? 僕のかわいいかわいい弟分のひとりだよ」「彼の、お姉様というのは……」「あー、それ聞いちゃう?」 桜夜はくはっと笑う。そしてようやくリオを見る。「聞いて楽しい話じゃないぞ。僕の……昔の女の話だ」 いたずらっぽく桜夜は嗤う。嗤おうとする。自分自身を嘲るように。  リオに驚きはなかった。いや、まったくなかったといえば嘘になる。ただ彼の公私ともに女性慣れした仕草から、そういう人がいたのだろうとはぼんやり思っていた。  今彼女が気がかりなのは桜夜の、静かだがどこか取り乱したような様子だ。彼が前に紹介してくれた弟分ーー司ーーとは、同じ人を悼む仲間といった感じで、こんなに取り乱しはしなかった。だからリオは行動する。……後悔しないために。桜夜は3人がけのソファーの真ん中で呆けていた。リオはその隣に座り、彼の手に自身の手を重ねた。「どうか、話してくれませんか? わたくし、そんなに弱く、無いですよ」 彼が隠す過去の姿、それに触れたいと思った。それで彼の背負った荷物が少しでも減るなら、と。「はあ……」 桜夜は息を吐く。そして前置きもなく話し始めた。◆◆◆ 昔、そうまだ明人先生がご存命の頃の話だ。先生に拾われたばかりの頃の僕は病弱で、ひ弱だった。先生は身体を強くするための訓練をしてくれたが、僕はたびたび四方院家が運営する総合病院に入院していた。  もはや先生の家より住み慣れた病院の個室で、僕は外を眺めていた。そこで1人の少女が目についた。長い黒髪を耳に流しながら、静かにベンチで文庫本を読む少女。見惚れてしまった。胸がはねた。トクントクンと。不意に風が吹き、彼女はこちらを見た。そして見つめる僕に微笑んだ。  その頃の僕は今みたいに捻くれていなかったから、その笑みを近くに行っていいという意味だと理解した。そして僕は病室を抜け出し、彼女のもとに急いだ。急がなければどこかに消えてしまいそうな少女、如月あずさと出逢ったのは、そんな僕の勘違いからだった。to be continued
last updateLast Updated : 2025-08-10
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第2話 盟約

 それ以来、僕は彼女の病室にいってはかまってもらっていた。まさに野良犬らしい行動だと今でも思うよ。そんなある日、僕は明人先生に言われた。「心身共に強くなれ」と。僕は強くなることを先生に約束した、そんな話を彼女としていた。彼女は微笑みながら言ってくれた。「そう、頑張ってね」「うん、頑張る! それでね、お姉ちゃん。僕が心身共に強くなったら、僕と結婚してくれる……?」 あずさは少しだけ驚いたようだけど、笑みを見せてくれた。「そのとき、あたしが生きていたらね」「大丈夫! 僕はすぐに強くなってお姉ちゃんを迎えにいくよ! それにここの病院には世界でもすごいお医者さんが集まってるんだ。お姉ちゃんの病気だってすぐに治るよ!」「そうね。ありがとう」 あずさは頭を撫でてくれた。その感触を今でも覚えている。◆◆◆ その次の日だった。僕は唐突に倒れ、四方院総合病院に担ぎ込まれた。原因不明のまま意識が戻らない日々が続いた。僕は痛くも苦しくもなかったけど、ずっとふわふわとしていた。「ああ、死ぬんだなあ」とぼんやり思った。  そんなとき、不意にあずさの泣き声を聞いた気がした。だから僕は戻らなきゃと思った。だが戻れない。「死」は僕を絡め取って離さない。でも光が現れて僕に話しかけてきた。《生きたいですか?》(生きたい)《なぜ? あなたの身体は不完全です。今いのちをつないでも、すぐにその時間は尽きるでしょう》(約束があるから、生きなきゃ)《生きることで、あなたはたくさん苦しむでしょう。それでも、ですか?》(それでも、僕は……)《わかりました。あなたに私のいのちをあげましょう。ちょうどここで暇をしていたところです》 そこで僕の意識は途切れてしまったけれど、このとき話しかけてきたのはこの病院の守り神として奉じられていた鳳凰だったらしい。退屈しのぎの宿主を探していて、僕はお眼鏡に叶った。僕が意識を取り戻すと、泣きながらシーツを掴んでいるあずさの顔が見えた。「……お姉ちゃん?」「……! ……ばか。心配させないで」 あずさが僕の顔に胸を埋める。僕は慣れない手付きで彼女の頭を撫でた。「大丈夫。僕は大丈夫。お姉ちゃんをお嫁さんにするんだから」 鳳凰の力が僕を満たしていくにつれて、僕は強健な身体を手に入れた。でも心は今も弱いまま、空っぽの野良犬。to be conti
last updateLast Updated : 2025-08-10
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第3話 襲撃

 それ以来僕が病に倒れることはなくなり、病院に行くのはもっぱらあずさに会うためとなった。ある日遅くまであずさと話していたとき、事件は起きた。不意に病院の電気が消えたのだ。自家発電装置すら破壊されたのか、電気が復旧しなかった。そしてざわざわという騒ぎの中、ドタドタという足音が聞こえてきた。  後にわかったことだが、四方院家に恨みを持つ組織が病院にいる患者を人質にしようと起こした事件だった。やがて院内放送で占領宣言があった。  僕はあずさを守るためにどうすればいいかを考えていた。するとあずさは咳をし始めた。その容態はみるみる悪くなり、ぜえぜえと息をしながらベッドに倒れ込んだ。緊張から来る発作だったが、僕はこういう発作を見るのは初めてではなかった。だから主治医の先生を呼べばそれで済むことも理解していた。だからナースコールをしようとして、やめた。明らかに様子がおかしいのにナースコールをしても無駄だろう。ならば……。  僕は永久の桜の花びらが入ったお守りをあずさの手に握らせたあと、訓練用の鉄芯の入った竹刀を竹刀袋から取り出し、それを片手に静かに病室を出た。病室の外は静まり返っていたが、見回りだろうか。拳銃を持った男が巡回していた。僕は男が後ろを向いている間に、その後頭部に思いっきり竹刀を叩きこんだ。これでしばらくは動かないだろうと思いながら、急いで階段を駆け上がった。巡回中の男をつぶしたのはすぐにバレるだろう。だから急いで主治医の先生を探さなければならない。あずさが入院しているのは3階。この時間主治医の先生は6階の部屋にいるはずだ。長い入院生活で培った知識をフル活用しながら足音を消し、6階まで駆け上る。非常扉を開けると見回りなのかマシンガンを持った男が2人いた。「こ、子ども!?」「こいつどこから……」 そんなことで動揺している時点でそいつらは戦場では生き延びられない。明人先生の訓練を受けた僕には理解できた。だからこちらは何も考えずにただ男の指がトリガーにかけられていないことだけを見つめながら、瞬時に飛び掛かり、その頭を竹刀でぶん殴った。背中で人間が倒れる音を聞きながら、主治医の先生の部屋へと急いだ。誰にも見つかることなく部屋にたどり着くとノックもせずに部屋を開ける。そこには頭を撃ち抜かれ血を流
last updateLast Updated : 2025-08-11
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