All Chapters of 黒の騎士と三原色の少女たち: Chapter 51 - Chapter 60

72 Chapters

第4話 スカウト

 僕が意識を再び取り戻したとき、病院のベッドで寝ていた。僕があずさの身体を万力の力で抱いていたからか、僕とあずさは同じベッドに寝かされていた。 処置は終わっているのか、あずさはじっとこちらを見ていた。「……あずさ、大丈夫?」 僕は開口一番にそう尋ねた。あずさは呆れ顔だ。「また呼び捨てにして……ちゃんとお姉ちゃんと……ってもういいか」「?」「ずいぶんあたしのために頑張ったみたいだからね。……暴漢相手に大立ち回りをしたらしいじゃないか。……あたしのために?」 そこであずさはそっぽを向いてしまった。その顔はどこか赤くなっていたような気がした。「これからはあずさって呼んで良いの?」「ま、ご褒美だからしかたないな」「ありがとう、あずさ! 大好き!」「ええい抱き着くな! この犬っころ!」  それからしばらくは平和な時間が流れた。でも僕が高校生くらいのときかな、あずさの御両親が亡くなったのは、事故に見せかけた暗殺だったよ。お2人は人から恨まれるような役回りをしていたからね。まあ、相談役も同じだけど。僕がはじめてけいくんと会ったのは、彼らの葬式でのことだった。ご両親の方針でけいくんはお見舞いに来ていなかったし、僕も如月家の敷居を上がらせてもらえなかった。まあ仕方ないんだけどね。四方院家に連なる者なのに病気で役に立てない“出来損ない”と、水希という四方院家の分家の姓をもらったとはいえもとはどこから来たかもわからない野良犬。後継者たる長男とは関わらせたくなかったのだろう。  だから葬式にも行く気はなかったんだけど、あずさが代わりに行ってほしいというから雨の中わざわざ出かけて行った。見様見真似で葬式を終えると、けいくんが僕に話しかけてきた。「あの、お兄ちゃんですか?」「いや違うよ」「え? でもお姉ちゃんがお兄ちゃんになるかもしれない人だって」 そういってけいくんはスマホを取り出すと1つのメールを見せる。差出人はあずさ。そこには「しつこい奴だからいつかあんたのお兄ちゃんになるかもね。だから何かあっ
last updateLast Updated : 2025-08-12
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第5話 P因子

 結局次の日、僕は黒塗りの如何にも怪しげな車に自ら乗り込み、四方院家の本邸を訪れていた。横浜の外れとはいえ、よくもまあこれだけ広大な土地を確保できたものだと最初は驚いたが、制服姿の僕は黒スーツの男に連れられ、当時の四方院家相談役執務室に入った。「やっぱり来たか」 にやりと笑う男の顔が不愉快だった。思い通りに動かされている、利用されている。そのことに不快感を覚えた。野良犬は野良犬であって、飼い犬ではないのだ。その男の手招きに渋々と応え、その隣に腰を下ろした。なるべく距離を取りながら。  しばらくするとスクリーンがおり、そこに白衣の男性が現れた。その若さに驚いた。20歳前後に見えたし、実際そうだった。小学生の時四方院家から奨学金をもらい、アメリカに留学し飛び級を繰り返して医者になった天才中の天才、それが静馬という男だった。「静馬先生。お忙しいところ毎度すまんね」「いえ、四方院家には奨学金を出してもらった恩義がありますから。ですが以前も述べたように私はアメリカで最先端の研究に従事したい。奨学金の返済が必要なら一括でするので、もう私を日本に呼び戻そうとするのはやめていただけませんか」「いや、今回は別の頼みがしたくてな。この坊主の女の診察と治療をお願いしたいんだ」 相談役は、僕の頭に無駄にでかい手を乗せる。「はあ、論外です。僕の診察を希望する人間はいくらでもいます。そんな縁もゆかりもない少年の……」「あの!」 僕は会話に割って入った。「先生は難病の研究をしているんですよね?」「そうだがそれが……」「もし先生が日本に来て、あずさを助けてくれるなら僕の血を研究させてあげます。きっと役に立つと思います」「血? お前の血に何が……」 静馬くん――今ではそう呼べるほど仲良くなったが、このときはかなり怖かった――は訝しそうだったが、相談役が「今データを送りますよ、せんせ」と言ってからしばらくして、静馬くんの目の色が変わった。「これは……一体……」「P因子と、俺たちは呼んでいる」 鳳凰の夢を見てから、僕は一
last updateLast Updated : 2025-08-13
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第6話 最期の旅

 親戚の家にいるけいくんは呼び戻せなかったので、結局あずさの転地療養には僕が同行することになった。向かったのは鷹司相談役が所有する伊豆の別荘だった。因みに相談役名義の別荘は複数あるらしく、万が一に備えて静馬くんが別の別荘で控えるというVIP待遇だった。その手配をしたのはすべて鷹司相談役。今だからわかるが同情ではない。相談役がそれだけ僕を支配下に置きたいがゆえの戦略だったのだろう。確かに鷹司相談役は僕よりも遥かに義理人情に厚い人だが、相談役という仕事はそれだけでやっていけるようなものではない。別荘まで静馬くんの車――高そうなスポーツカーだった――で送られた僕とあずさ。僕は少しあずさを休ませたあと、伝えたいことがあって、彼女を近くの浜辺に誘った。  誰もいない夕暮れの砂浜。2人の足跡が続いては、波で消えていった。僕らは無言だった。嫌な無言ではないけれど、僕は先を歩くあずさにいつ想いを伝えようか思案していた。だから、彼女が足を止め、僕の方を振り返っていることに気づくのが遅れた。「おっと。どうしたの?」 あずさの顔を見る。儚げに笑っていた。「……ねえ、知ってる?」「……何を?」「あたしたち、もうすぐお別れなんだよ」 僕は苦笑しながら、言った。「知ってるよ」「知っててこんなとこまで来ちゃうなんてばかなわんこだなあ。青春を無駄遣いしているよ?」「……なら、あずさは知ってる? 僕があずさを大好きなこと」「うん、知ってるよ」「あずさの時間が残り少ないのはわかっている。だけど、その時間を僕にくれないかな」「なにそれ」 あずさは僕に背を向けた。「僕と、付き合ってほしい」「……後悔するかもよ」「後悔しないために、言ってる」 僕はあずさの前に出る。あずさは泣いていた。夕陽に照らされた泣き顔を美しいと思った。「キス、してもいい?」 あずさは何も言わず、目を閉じた。だから僕は彼女の唇に自身の唇を押し当てた。 ――ファーストキスは、苦い涙の味だった。
last updateLast Updated : 2025-08-14
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第7話 永遠の約束

 それから1週間あずさは死の淵をさまよったが、どうにか持ち直してくれた。病室に横になった彼女の手を優しく握りながら、たわいもない話をしていると、不意にあずさは作り物っぽい笑顔を浮かべていった。「もし、あたしが死んだら、あたしのことなんてすっぱり忘れて、恋人作って、いつか結婚しなね。前にも言ったけど、あたし、あんたの子どもを見てみたいんだから」 僕は困ったように笑う。「あずさはうそをつくのが下手だね」 あずさはそっぽを向いてしまう。「しょうがないじゃん。嘘をつく相手があんまいないんだから……」「僕はいつも本音でぶつかってくる、あずさが好きだよ。だから、君の本音を聴かせてよ」 あずさはしばらく肩を震わせ、不意に僕の方に向き直ると、僕の胸に飛び込んできた。「死にたくない! 死にたくないよ……。もっと一緒にいたい。桜夜と、あたしの子どもにも会いたい。どうして、どうして、もう時間切れなの?」 しばらく僕の胸で泣いた彼女は、泣きつかれてベッドに戻っていった。それからしばらく沈黙が流れ……。「…ねえ」「うん?」「ひどいお願い、していい?」「なんでもいいよ」「あたしを、忘れないで。ずっとずっと、忘れないで。いつか生まれ変わるから、またあたしを見つけて」「もちろん。僕のお姫様」「……ありがとう。あたしのナイトわんこ」 最後までわんこなんだな、と思っていると彼女は安心したように眠りについていた。そして夕焼けが病室を照らし、夜の漆黒が訪れた頃、彼女はそのまま息を引き取った。僕は彼女の手をずっと握っていた。to be continued
last updateLast Updated : 2025-08-15
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エピローグ 君に逢いたい

「僕は、彼女と一緒にいて泣いたことは一度もない。だけど、彼女と再会できたら、僕は泣くと思う。それまで泣くのはお預けにして、僕は前相談役である鷹司様の推薦で彼の補佐官になった。四方院家の情報網と未来予知の占術の力を欲したからだ。相談役の地位を引き継いだ今も僕の目的は変わらない。すべては生まれ変わった彼女と再会するために。鳳凰は転生の力を持っているから、彼女に逢うまで何度でもやり直せる。すべては1人の少女のために……それが僕という人間の秘密だよ」 リオは言葉を選びながら尋ねる。「つらく、ないのですか。その生き方で」「そりゃあ……」 桜夜は満面の笑みを浮かべる。 ――つらいさ「でも幸い相談役の仕事は忙しいし、宗主やリチャード陛下はむちゃぶりをするし、君たちと交わした様に、約束も増えた。だから相対的に彼女のことを考える時間は減っていく。本当は一日千秋の思いで彼女を待つだけの日々を過ごしたいんだけどね」「……1人に、ならないでください。あなたが楽しく過ごすことを、きっと、あずさ様だって……」「そうだね」 桜夜は笑顔のまま天井を見上げる。その目はここではないどこかを見ているようだった。(この心にぽっかりと空いた穴は、君と再会したら埋まるのだろうか? それともいつか他の誰かが埋めてしまうのだろうか。それでも、もう一度……) ――君に逢いたい。 to be continued
last updateLast Updated : 2025-08-15
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第8章 終わりのはじまり プロローグ

 偽りなる神が「地獄」というその場所で、サタンは玉座に座り、地上の様子を鏡に映して見ていた。地上は世界中で大地震が起こり、それによる津波、火山の噴火と自然災害に見舞われていた。人々が混乱する中、疫病が流行り、あろうことか天空からは隕石が迫っていた。まさにそれはノアの大洪水の再現であり、ソドムとゴモラと同じ運命に地球があることを示していた。  サタンはキリストの血たる赤いワインをグラスに注ぎ、優雅に楽しみながら言った。「時は来た。神殺しの時だ。なあ、我が最愛の模造品」 その時、サタンの玉座につながる扉が開かれた。 ◆◆◆ 四方院本家 水希桜夜の屋敷 亡き師の墓参りを終え、自宅に帰宅した桜夜たちは、それぞれ新たな日常を過ごすようになった。彼らはだいたい6時には起きる。仕事のあるときはその限りではないが、基本的にはこの時間だ。桜夜は簡単な身支度を終えると寝ぼけているホムラを無理矢理起こして、剣の修行をつける。新たに諸刃の剣を使うようになったからだ。専用の訓練が必要となったホムラのため、最近は諸刃の木剣を使って桜夜は稽古をつけていた。「ほらほら、そんな使い方だと自分を切っちゃうよ」「うるせえ!」 桜夜の指摘に罵声を浴びせながら、ホムラは剣を振り回す。「だからそんな振り回すだけの剣技じゃ、素人はともかく玄人には勝てないよ」「わあってる、よ!」 桜夜の木刀に剣を叩きつけるホムラ。イライラが剣ごしに桜夜に伝わった。「いっそ剣舞でも教えてあげようか? そうしたら少しは淑やかに……」「やかましい!」 ホムラは桜夜に剣を投げつける。桜夜はそれを片手でいとも簡単に受け止めた。ホムラはそれにすら苛立ちながら部屋に帰っていく。「やめだやめだ!」 そういってシャワーでも浴びるのだろうか。ホムラは浴室の方へと歩いていった。「やれやれ、困った弟子だね。……まあ、僕ほどではないですかね、先生」 ふう、とため息をつきながらも、彼は桜の木の枝葉の隙間か
last updateLast Updated : 2025-08-16
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第1話 先代相談役の忠告

 リオが桜夜とあずさの苦い想い出を聞かされてから数日が経過した。今日も今日とて桜夜はリオのサポートの下、執務をこなしていた。最近は彼自身が現場に出ることも少なく、電話や対面で指示を出すことがほとんどだった。  彼はその都度笑みを浮かべ、どこか楽しげに執務をこなしていく。しかし彼の過去を知り、彼が今のこの仕事をしている理由を知ってしまったリオには、その笑顔がどこか作り物のように見えた。  彼と出逢ってから色々な笑顔を見てきた。見てきたけれど、それは本物だったのだろうか。彼は心の底から笑えていたのだろうか。それがリオには気がかりだった。「……おーい?」「は、はい!?」「どうしたの最近。執務中にぼーとして」「ご、ごめんなさい。特に何がというわけじゃ……」 そこで桜夜はにやあといやらしい笑みを浮かべる。「さては僕が元カノとどこまでいったかしりたいんでしょ? だめだよ執務中にそんなこと考えちゃあ」 そんなからかいにリオは首を左右に振る。「ち、違います!」「あはは、むきになっちゃってかわいいね」 桜夜は楽しそうに笑う。リオはやはり考えてしまうのだった。(その笑顔は本物ですか? わたくしたちは、信じて良いのですか?) リオの不安が顔に出ていたため、桜夜が何かを言おうとしたとき、執務室の扉が無造作に開けられた。「邪魔するぞ」 そういって部屋に入って来た男は黒い紋付袴姿で筋骨隆々、強面の老人だった。すべてにおいて「柔」である桜夜に対して「剛」を感じさせる男だった。そんな男の姿を見ると桜夜は即座に立ち上がり、勝手にソファに座った男に頭を下げた。「お久しぶりです。先代様。今日はどのような御用件で?」「どうも胸騒ぎがしてな。何か変わったことはないか」「特に先代様のお耳に入れるようなことは……」 そう言いながら桜夜が先代と呼ぶ男とテーブルを挟んで対面のソファに座ると、気を利かせたリオがお茶を入れて来ており、先代の前に置いた。「粗茶ですが……」「ああ、先
last updateLast Updated : 2025-08-16
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第2話 神の裁き

 桜夜が外に出ると、土砂降りの雨が降っていた。空には暗雲がたれこみ、雷がいくつも落ちていった。とにかく宗主様のところにいかねば、と桜夜が走り出そうとすると、今度は世界が壊れんばかりの地震が起きた。桜夜は立っていることができず、思わずしゃがみこんでしまう。しかしいくら待っても地震が収まらないため、彼は意を決して揺れる世界の中、宗主の執務室がある建物を目指して走った。◆◆◆宗主の執務室 大地震によって灯篭などが倒れ、散らかった部屋の中央に宗主である四方院玄武は座っていた。扉を開いた桜夜は玄武に声をかける。「宗主様!」「……桜夜か」「いったい何が起こっているんですか?」「うむ……」 重たくうなずいた玄武は、1つの巻物を桜夜に向けて広げた。「これは四方院家初代の『予言』が書いておる。読んでやろう。『秩序を司る者打ち倒されし時、偽りの神怒り、天地を破壊し尽くさん』。桜夜、お前さんは秩序を司る者コスモスを討伐した。恐らく今起こっているのは、『神の裁き』じゃ」「神の裁き……」 部屋に重い空気が漂った。その空気を壊すように、2人とは別の声が発せられた。「偽神デミウルゴスは蘇った。今こそ神殺しの時だ」 空間をゆがませて姿を現したのはサタンだった。この世の物とは思えない純白の衣と威厳のある声、それは魔王というより大天使を彷彿とさせた。「サタン……」「契約を果たしてもらうぞ、桜夜。どの道このままでは地球はおしまいだ」「……わかった。いこう、サタン」 桜夜はそう決意し、玄武を見た。玄武も許可を出すように重々しくうなずいた。それを受けて桜夜は自分より長身のサタンに向き直り、その顔を見上げる。「では……」「待って!」 その時宗主執務室の扉が乱暴に開かれ、サイカ、ホムラ、リオが駆け込んできた。「わたしたちも連れてって!」「そうだ! 桜夜のバカはオレが守るって決めてんだ!」「わたくしたちは桜夜様の親衛隊です! どこまでもついていき
last updateLast Updated : 2025-08-16
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第3話 デミウルゴスを討て! 前編

  桜夜が次に目を覚ますと、霊体となってサタンの玉座にいた。そして自分の首に、黄、赤、青の勾玉がぶら下がっていること。そして自らの魂に別の魂が混ざっていることに気づいた。『あれ? わたし桜夜さんになってる!?』『なんだコレ! 気持ちわるっ』『ふふふ、これで一心同体ですね』「お前たちが煩いから一体化させてやったのだ。不死鳥の契約者の中に入っていればデミウルゴスに殺されることもないだろう」「サタン、なんだかんだいってサービスいいよね」「うるさい」 こいつツンデレか? と桜夜は思いつつ、歩き出したサタンに続いて進んでいく。やがて鎖で封印された扉が見えてきた。扉は中から攻撃されているのかドンドンと音が鳴り、そのたびに鎖にひびが入っていった。「この先にデミウルゴスがいる。準備はいいな」 桜夜はいつの間にか腰にある桜吹雪に軽く触れる。サタンはそんな桜夜には目もくれず、壊れかけの封印を解き、扉を広げた。その瞬間腐臭と邪気が漂ってきたが、サタンと桜夜はその闇の中に入っていった。暗闇の中ぼんやりと黒いローブを着た男が見えた。その肌はボロボロで、背中は曲がり、杖のようなものを持っていた。とても「神」とは思えない姿だったが、サタンはその男に話しかけた。「久しいなデミウルゴス。あいつの封印でずいぶん弱ったようだな。殺される前に何か言いたいことは……」 男は呻くような声を出すと杖を手放し、両手の指をこちらに向けた。そこから大量の触手が現れ、凄まじい速度でサタンと桜夜に迫った。「いくよ! ホムラ!」『お、おう?』 桜夜はホムラにそういうと、右手に神剣火之迦具土を顕現した。彼はそのまま火之迦具土に鳳凰の神聖な炎とホムラの魔力を流し込む。「焔払い!」 横一線に火之迦具土を振ると、触手を炎の津波が飲み込み、燃やし尽くしていく。『桜夜! なんでオレの名前が技名なんだよ!』「えー? かっこよくない?」『うるせえ! そもそもお前技名なんて普段言わな
last updateLast Updated : 2025-08-17
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第4話 デミウルゴスを討て! 後編

 サタンがデミウルゴスの身体を切り裂いたことで決着はついたかに見えた。しかし桜夜もサタンも嫌な感覚にかられ、飛び退くようにデミウルゴスから離れた。デミウルゴスの身体から大量のウジやハエが現れ、それらが集まって黒い巨人をかたどっていく。顔のない巨人は桜夜とサタンに拳を振り下ろす。2人は左右に飛び退くことで回避し、サタンは白い翼で空に飛び上がって巨人を見下ろす。桜夜は「魔王第2形態ってか」とつぶやくと、鳳凰を召喚しその上に乗った。「サタン! 怪獣大決戦といこう!」 楽しむかのような桜夜の態度にやれやれと呆れながらもサタンは姿を変えていく。知恵(グノーシス)の象徴である巨大な白い蛇の姿に。サタンは光に包まれながらデミウルゴスに巻き付き、その身体を締め付ける。苦悶の声を上げたデミウルゴスはまた大量のハエに姿を変え、サタンの拘束から解き放たれた。その時桜夜が動いた。「燃やし尽くせ鳳凰!」 鳳凰は口から邪悪なものだけを焼き尽くす炎を放つ。その炎はサタンを焼くことなく大量のハエをことごとく燃やし尽くしていく。炎に包まれ、ハエたちはぼとぼとと闇の大地に落ちていく。しかし倒せたか? と思う間もなく、闇の大地から再び巨人が生えて来た。巨人は口を引き裂くように開き、大きな咆哮を上げる。その衝撃でサタンも鳳凰に乗った桜夜も吹き飛ばされてしまう。  桜夜は舌打ちをすると再び鳳凰を自分の体内に収め、変わって自身の背中から大きな鳳凰の翼を生やした。そのまま一気にデミウルゴスに接近すると、神殺しに自身の霊力と少女たちの魔力をまとわせ全力でデミウルゴスを袈裟懸けに切った。しかしデミウルゴスは消滅することはなく、苦悶の声を上げながらも右腕で払いのけた。その威力はすさまじく、桜夜は激しく地面に叩きつけられた。その衝撃で動けない桜夜にとどめを刺そうとデミウルゴスは闇の光線を放った。回避は、不可能だった。  しかし桜夜とデミウルゴスの間にサタンが割り込んだことで、すぐに死が桜夜に訪れることはなかった。しかし大蛇と化したサタンの身体は闇の光線に蝕まれ、ついには砕け散ってしまう。桜夜は必死に態勢を立て直そうとするが、光線の速さには叶わなかった。だから彼は死ぬ。そのはずだった。だがその死の光線が桜夜を飲み込む寸前、デミウ
last updateLast Updated : 2025-08-17
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