All Chapters of 黒の騎士と三原色の少女たち: Chapter 11 - Chapter 20

22 Chapters

第2章 黒の騎士の死 プロローグ 新たなる日常

「さあみんな! 朝御飯だよ!」 四方院本邸の敷地内にある桜夜の私邸に、少女サイカの声が響き渡る。本来この私邸はすぐに任務につけるようにと用意されたものだった。しかし今や桜夜の私邸というよりは、彼の押し掛け妻たちの家と化してしまった。不死身の魔女の討伐に実質成功した段階で彼女たちは自由の身となった。どこでもすきなところにいけるようになり、当初の契約も破棄されるはずだった。 しかし彼女たちには行く宛がなかった。もちろん桜夜を頼れば、寮のある四方院学園に入れるくらいはしてくれたかもしれない。とはいえそんな知識のない3人が思い立ったのは、このまま桜夜のお嫁さんになろうというものだった。そうしてハウスキーパーがやるはずの家事を3人で分担し、甲斐甲斐しく桜夜の世話を焼いた。 桜夜もなれない環境に最初は戸惑ったが、もうなれてしまった。だが、だからこそ思う。このまま彼女たちを自分の懐に入れてよいものかと。どこかで突き放すべきではないのかと。食卓につきながら、数日前に兄と慕う四方院家次期宗主候補の1人である若き天才、四方院 一(しほういんはじめ)との会話を思い出す。◆◆◆「いったいなにを悩んでいるんだい?」「それは……」 紅茶の入ったカップを桜夜の前に置きながら、一は微笑む。「あんなにかわいい子たちなんだ。受け入れてあげればいいじゃないか。それともタイプじゃないのかい?」「兄さんでもそんな下世話なことを言うんですね」「そりゃあ私だって人間だからね。そして君も人間だ」「僕は……」「大丈夫。君は人間だよ。確かに、おばあさまは君の瞳の中には化け物がいるといった。確かに、君は鳳凰と契約して病弱な身体を捨てた。だけどやっぱり人間だ。血も涙もながれ、そして失うことを恐れるちっぽけな人間だ」「兄さん……」 一は笑う。「だからね、桜夜。あの子たちが大切だと思うなら、失いたくないと思うなら、中途半端はやめて自分の心と向き合いなさいな」◆◆◆(自分の心、ねえ) スープを飲みながら難しい顔をしていたのだろう。サイカが不安そうに尋ねてきた。「あのお口に合いませんか? やはり和食の方が……」「ああ、いやいや、おいしいよ。ただ……」「ただ?」「いや、なぜ君たちがここまでするのかなって。君たちを助けるという契約は終わっただろう?」 サイカは少し怯んだが、ホムラとリオ
last updateLast Updated : 2025-04-24
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第1話 コスモスの神託

 その夜、桜夜は夢を見た。夢の中で彼は宇宙にいた。《神殺しの騎士よ。もう1人の神殺しが現れた。秩序の名の下に排除せよ》(……あなたは?)《我が名はコスモス。秩序を守りし者》◆◆◆ 桜夜はそこで目を覚ました。まだ夜明け前だった。ぐっすりと眠る少女たちを起こさないようにしながらスーツに着替えると、公式任務中のバッジを付けた。そして静かに屋敷を出ると、庭にある桜の木が見えた。(……そういえば、あの日もこうして桜を……) ノスタルジックに浸りそうな頭を振ると、桜夜は目的に向かって歩を進めた。彼が向かったのはこの本邸の敷地内でももっとも大きい、玄武邸の宗主の私室だった。公式任務中のバッジがあれば、どこにでも出入りできる。それが相談役の特権だった。私室のふすまが使用人によって開けられるとその部屋の主と目があった。部屋の主たる小柄な老人は優しく笑った。「どうした? こんなに朝早く、なにか任務を与えたかの?」「いえ……」 使用人が立ち去るのを待ってから、老人の前に文机を挟んで座った。そして桜夜は夢の内容を話した。「ふむ……コスモス、秩序、か」「はい」「ふぅむ」 老人は少しだけ考えてから答えた。「しかし、神殺しが1人増えたとて、それがなんの脅威になる? ワシにはそれがわからん」「はあ……」「根本的に人間は神には勝てん。お前のその刃とて神に届くのは稀じゃろて」「それは、そうですが……」 神殺しとは伊達や酔狂ではなく、本当に神と戦うために作られた武器を刺す。それは一見すると強力な武器だが、実はそうでもない。本質的に神と人間は格が違う。神に近づき切ることなどまずできない。それが桜夜のもつ神殺しの刀――桜吹雪――の限界だった。「お主はなんでも気にし過ぎじゃ。今は余計なことを考えず休みなさい。そうそう、嫁取りについてもちゃんと考えるのじゃぞ。お主の血とあの魔女の血が混ざったらどんな子どもになるのか今から楽しみなのじゃからな」 にっと笑った老人の言葉は、少しだけ桜夜の心を軽くしてくれた。◆◆◆ 自分の屋敷に戻った桜夜だったが、もう一度眠る気にもなれず、縁側に腰かけて桜を眺めていた。しばらくそうしてぼんやりしているとパジャマ姿のサイカが姿を見せた。「ここにいたんだ。姿が見えないから心配しちゃった」 息を切らすサイカに桜夜は困ったように笑った。「
last updateLast Updated : 2025-04-25
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第2話 焔の日常

 桜夜からキスをしてもらったサイカはご機嫌で朝食を作っていた。「ふっふふ、ふふふーん♪」 鼻歌混じりに料理をするサイカの姿を、ホムラはいぶかしげに見ていた。「なあ、リオねえ。さーねえの奴なんであんなにご機嫌なんだ?」 リオは顎に人差し指を置いて考えるポーズを取る。「そうねえ……きっとサイカちゃんは「大人」になったのよ」「はあ?」 意味わかんねえと言わんばかりのホムラを尻目に、リオは新聞を読んでいる“ふり”をしている桜夜を見た。「次はわたくしもお願いいたしますね?」「だめだぞリオねえ! 今日の桜夜はオレのトレーニングに付き合うんだ!」「ふふ、もちろん。あなたの大切な時間を奪ったりしないわ」「た、大切なんかじゃねえよ!」 いつの間にか新聞を読むふりを止めた桜夜は、賑やかな姉妹を見て、これが家族ってやつなのかな、と少しだけ寂しげな顔をした。◆◆◆ 朝食のあと、桜夜とホムラは外に庭にいた。桜夜は白い着物に紺の袴という剣士なのか神主なのかわからない服装で、両手を後ろで組んでいた。対するホムラは赤いシャツに赤いハーフパンツ、手に赤いグローブをしている。「今日こそぶん殴ってやる」「お手柔らかに頼むよ。ホムラちゃん」「ちゃん付けで、呼ぶなあ!」 それが試合開始のゴングとなった。ホムラは桜夜の顔面目掛けて拳を振るう。しかし桜夜はそれを絶妙にギリギリのタイミングで回避してみせる。それからも殴るホムラ、かわす桜夜という構図が続いた。先に膠着を崩したのは桜夜だった。「ねーねー、ホムラちゃん」「うっせえなんだよ!」 攻撃をかわしながら、桜夜はニコニコ笑って言う。「乳首透けてるよ」「え? なっ」 ホムラの注意が一瞬自分の胸元に移る。その隙を逃さず、桜夜はホムラの頭を手刀でぽこりと叩いた。「はい、僕の勝ち」「はあ?! 今のは卑怯だろ!」「戦いに卑怯なんてありませーん」「うるっせえ! ふざけんな!」 ホムラが炎を放ちながら、桜夜を追いかけ回す。彼は彼で楽しげに逃げ出した。おいかけっこの始まりである。この過激なじゃれあい、もといトレーニングはホムラから言い出し、習慣化したものだった。もしホムラが桜夜に一発いれることができれば、遊びに連れていってもらえるという約束付きで。 そう、これはホムラなりのアプローチだったのだが、桜夜は知ってか知らず
last updateLast Updated : 2025-04-26
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第3話 日常の歪み

 ホムラとたっぷりじゃれあった後、桜夜はお昼を兼ねて少女たちと出掛けることにした。「いやあ、お出掛けなんて久しぶりだね! 本当は二人で来たかったな……」 最後の方は小声で桜夜にだけ聞こえるように言ったつもりだったが、リオには聞こえていたらしい。リオは恐ろしい笑顔を浮かべながらサイカにいった。「これ以上抜け駆けは許しませんわよ。サイカちゃん……」「ひいっ」 そんな二人を無視し、ホムラがハンバーガーショップを指差す。「なあオレあれ食いたい!」「身体鍛えてるならジャンクフードは……」「いいだろー、食いたいんだよー」 珍しく甘えた声を出すホムラに、桜夜は折れた。「サイカとリオはハンバーガーでいい?」「はい  桜夜さんさえよければ」「わたくしもです」 にこやかに笑う姉妹だったが、背後でお互いをつねり合っていた。◆◆◆ そんな和気あいあいとする桜夜一行とは裏腹に、四方院家宗主、四方院玄武は重大な脅威を感じていた。気配を読み、未来を占うは四方院家が先祖代々継いできた力だった。その脅威を感じているのは玄武だけらしく、屋敷は不気味なほど静寂に包まれていた。(まさか……) 仕込み杖を掴むと、黒の作務衣に陣羽織という格好のまま、本邸正門に玄武は急いだ。◆◆◆ 玄武が走り出した頃、本邸正門の前に中華服を着た男が槍を片手に立っていた。男の回りには倒された門番たち。男は傷1つ負うどころか汗もかいていないようだった。男が門に向かって槍を振るうと本邸を守る結界もろとも門が崩れおちた。そんな男を、玄武は静かに出迎えた。「お主、いんたーふぉんを知らんのかの?」 玄武はおどけるように言う。しかし男はニコリともしなかった。「不死者を出せ」「出すわけなかろう。貴様こそ門の修理代を出すがよいわ」 金持ちのくせにケチなことを言う玄武にかまわず、男は槍を振るった。玄武はその小さき身体に迫る死の刃を悠々と杖で受け止め、激しい殺陣が始まった……。to be continued
last updateLast Updated : 2025-04-27
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第4話 神殺し

 四方院家の壊された正門前では、玄武と槍をもった中華服の男の戦いが続いていた。四方院家の屋敷は龍穴の上に建てられている。ゆえに玄武はこの星の持つ力を借り受け、背丈に合わせた短い刀に乗せて男を攻撃していたのだが……。(この暖簾に腕押しの感覚、まるで桜吹雪とやり合っているときのようじゃ……) この地球(星)の清らかな力すら切り捨てる男の槍の禍々しい力。2つの力の余波は屋敷の建物を壊し、力なきものたちは2人のそばに近づくことさえできなかった。「その槍、神殺しじゃな?」「そうだ。ゆえに神でもない貴様に勝ち目はない」「それはどうかの? そう決めつけるものでは、ない!」 玄武は小柄な身体と機敏な動きを生かして、槍では戦いにくい超近距離戦に持ち込むと、男を逆袈裟に切った。男の服が破け、肌と肉を切り、出血する。「さすがは四方院家宗主。あの人の直系だけはある」 男は関心したようにそう言うと、後ろに飛びのき、その勢いも活かして槍を突き出した。やりの先端から飛び出す負のフォースは玄武を吹き飛ばした。「ぐ……」 玄武ががれきの中に倒れこむなか、男はどこかに逃げていった。逃げ道には男の血が道しるべのように落ちていた。「追うのじゃ!」 玄武は命じるが、四方院の兵たちは動けなかった。日常は崩れ始める。to be continued
last updateLast Updated : 2025-04-30
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第5話 デート……?

 謎の男と四方院宗主玄武が争っていた頃、桜夜たちはゲームセンターで遊んでいた。ホムラはやはりというかゲームも苦手らしく、UFOキャッチャーに失敗しては筐体を壊さんばかりだった。「あー! もう! なんなんだよ!」 ホムラをどうにか落ち着かせようとするサイカとリオをしり目に、桜夜は球体に近づくと100円を一枚投入した。「あっ、オレのくまさんを奪う気だな!」 暴れだしそうなホムラをサイカが羽交い締めにすると、リオは妹が炎を出してもいいよう鎮火の準備をしていて。そんな騒ぎには目もくれず、桜夜は球体のクレーンを操作する。狙うは1つ、ホムラが欲しがっているテディベアについているタグだった。そのプラスチックでできた糸に、慎重にクレーンの端をひっかけると、テディベアはゆっくり宙に浮いて。「あっあっあっ……」 ホムラは絶望の声を出しながらその光景を見守る。やがてふらふらと揺れながらテディベアは取り出し口に落ちて。それをしゃがんで取り出した桜夜は、にやりと笑ってホムラに見せつけた。当然ホムラは「熊盗ったーーー!!」と大騒ぎを始めて。それがうるさかったからか、桜夜は彼女の口をテディベアの口でふさいで。「あげるよ」「……?」 状況がよくわからないと硬直したホムラをサイカが解放すると、ホムラはゆっくりとテディベアを抱きしめた。「……余計なことしやがって」 悪態をつくホムラだったが、テディベアをしっかりと抱きしめた。これでやっと移動できると内心でため息をついた桜夜は、嫌な気配に冷や汗が背中を伝うのを感じた。「なんか今日の桜夜さん、ホムラに甘くない?」「わたくしもプレゼントがほしいです」 もちろん姉妹の嫉妬心は感じていた。だが桜夜が感じた脅威はそれではない。どこかから――四方院家の屋敷の方から――近づいてくる不吉な予感を感じていたのだ。to be continued
last updateLast Updated : 2025-05-21
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第6話 謎の男の正体

「桜夜さん、きいてるの?」「桜夜様?」 サイカが桜夜に迫っている間に、勘の良いリオは桜夜の焦ったような表情に気づいたらしい。なにをそんなに焦っているのか尋ねるように小さく首をかしげた。「なにか来る。……人間の欲望を煮詰めたような気配だ」 その言葉に三姉妹も神経を研ぎ澄ます。確かになにか歪んだ気配が近づいてくるのを感じて。「君たちはここにいて」 桜夜は急いでゲームセンターを出る。そこには雑踏の中でフードを目深にかびり、禍々しい力を放つ槍をもった男がいた。(認識阻害か) 槍を持った男がいても誰も騒がない様子から桜夜はそう判断する。そして桜夜だけ男を探知できるのは、男が桜夜の客であることを示していた。 日本では四方院の人間でも任務以外での帯刀は許されない。桜夜は生身で男と戦うのは危険だと判断し、逃げようかと思ったが……。「無駄だ」 男は槍で闇の嵐を作り出し、周囲の人々に害をなし始めた。「ちっ」 桜夜は舌打ちする。無手で戦う覚悟を決めたところで、少女たちが駆けつける。「大丈夫!? 桜夜さん!」 サイカとリオが桜夜の両隣に立つ。そしてホムラ。「こんにゃろー!」 謎の男に炎をまとった拳を叩き込もうとしていた。しかし男は闇をまとった槍でその拳を易々と受け止める。衝撃が突風となって分散され、男のフードを揺らす。ちらりと見えた顔に、ホムラはつぶやく。「親父……?」to be continued
last updateLast Updated : 2025-05-24
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第7話 黒の騎士の死

「親父……?」 その言葉に全員が反応する中、男だけは無感動に槍を振るい、ホムラをその力で吹き飛ばす。「ホムラちゃん!」 サイカとリオが駆けつける。ホムラは打ち所が悪かったのか、頭から血を流していた。 その姿に静かな怒りを燃やす桜夜は、静かに自分の手に炎を灯す。 それはホムラの炎が魔力と精霊の力でなるのに対して、聖なる霊力を燃やしてなされる神聖なる炎だった。 桜夜が男に手をかざすと、男は燃え盛る炎に包まれた。しかし男はすぐに槍で炎を穢していく。穢された炎は倍になって桜夜を襲った。「ぐっ……」 桜夜は苦悶の表情を浮かべて膝をつく。炎が熱いせいではない。その穢れた炎が彼を彼たらしめる聖獣、鳳凰の力を奪っていくからだ。鳳凰の力を失った先にあるのは、死、だ。それは桜夜と鳳凰があの日結んだ契約である。 静かに男は桜夜にとどめを刺そうと近づく。その間に入ったのはサイカだった。リオもホムラの治療をしながら男を睨む。「あなた本当にお父さん!? どうしてお母さんを解放してくれた桜夜さんを傷つけるの!?」 男は答えない。ただ槍を横凪ぎにふるい、サイカを吹き飛ばした。「きゃあ!」「サイカちゃん!」 桜夜に歩み寄った男は静かに……。「む」 そこで気配を感じた。かつて男の盟友が扱っていた四神と称えられる聖獣の気配。今の状況で四神とやり合うのは面倒だった。男は桜夜たちの誰にもとどめを刺すことなく、その場を去った。 力を失い、倒れる桜夜。サイカとホムラを抱きしめて泣くリオ。 駆けつけた玄武たちが見たのはそんな風景だった。to be continued
last updateLast Updated : 2025-05-25
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エピローグ

 その後桜夜たちはすぐに四方院家御抱えの病院に運ばれた。「四方院は死者をも治す」 それだけの技術を持ったスタッフが治療に当たった。しかしそれでも即死を、様々な医療機器で死ぬ寸前まで戻すのが精一杯だった。桜夜の中の鳳凰も穢れの影響で眠ってしまい、桜夜の身体を癒す力はなかった。(またここか) 桜夜は真っ暗な世界にいた。かつて病で死にかけたときもこの世界に来て、そして鳳凰に救われたのだった。しかし今回は鳳凰もいないし、一番会いたいあの子のお迎えもなかった。(死ぬときは1人、野良犬にはちょうどいいか) 桜夜が深い眠りにつこうとしたとき、美しい白い光が彼の瞼を焼いた。桜夜はその暖かい光のところに戻りたいと思った。そこで彼の意識は途切れた。◆◆◆ 桜夜が目覚めたとき、そこは病院のベッドの上だった。てっきり死んだものだと思っていたが、自分にまとわりついている少女たちのぬくもりが「生」を実感させてくれた。 少女たちは目覚めた桜夜を見て、お互いの頬をつねり合う。それから全員大泣きをしながら抱きついてきて、桜夜を布団に押し倒した。さすがに3人分の泣き声はすごかったが、彼は困ったように微笑みながら3人の頭を交互に撫でた。 そして3人が落ち着いたのを見計らって、桜夜は話し出した。「心配をかけたね。僕は死んでいたようだ。死ぬとね。真っ黒な世界にいくんだ」 彼は自分の手のひらを眺める。そこには彼のものではない暖かな魔力が流れていた。手のひらだけでなく、身体中に魔力はあった。「だけど白い光が見えて、僕はそこに戻りたいと思った。そうしたら、今も生きている」 桜夜は手のひらを動かし、拳を握る。「あれは君たちの《思い》だったんだね。ありがとう……」――これからも僕と一緒にいてくれる? その言葉に少女たちは「はいっ」としっかり答えた。第2章 黒の騎士の死 完
last updateLast Updated : 2025-05-26
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第3章 不死を憎むもの プロローグ リオの誘惑

 生死をさ迷って以来、桜夜の日常は一変してしまった。再襲撃を警戒した四方院玄武は本邸の結界を強化し、感覚の鋭い玄武のお膝元、つまり本邸の敷地内からの桜夜の外出を禁止した。 とはいえそれで彼の仕事が無くなるわけではなく、オンラインミーティングや電話、メールで各所と連絡を取り合い、今後の四方院家のために働いていた。つまり出張が多い仕事から在宅の仕事に変えられただけだった。「お茶です」「ありがとう」 これまで通り家事はサイカが中心にやっているが、リオはすっかり秘書になっていた。スケジュール管理がややずさんな桜夜を上手くフォローしていた。「こちら、午後の会議の資料です。それとウィリアム卿からなるべく早く連絡がほしいとのお電話がありました」「すまないな。手伝わせて」「いえ、いいんです。わたくしは桜夜様のお世話ならなんでもしたいです。そう、なんでも……」 桜夜は若干苦笑いする三姉妹の中でも、この子からはたまに狂気を感じるのである。◆◆◆ その頃サイカは洗濯中。「お、桜夜さんの下着……! 」 その頃のホムラは。ゲーム中「くそ! くそ! なんで一面からこんなに難しいんだよ!」 ホムラの腕の中には桜夜からもらったぬいぐるみがあった。◆◆◆「んー!」 ウィリアム卿との電話会談を終えた桜夜は、座ったままうーんと伸びをする。そんな彼の顔をリオが覗きこむ。「お疲れ様でした。今日のお仕事は以上です」「そっか」仰け反ったままこれからなにをしようかと考えていると、リオが笑った。「たまには軽い運動にお散歩はいかがですか?」「散歩、ねえ……」 少しだけ嫌そうにしたのが伝わったのだろう、リオは妖艶に微笑んだ。その顔は不死身の魔女とよく似ていた。「お散歩がおいやでしたら、別の運動にいたしますか?」 リオはブラウスのボタンを第2ボタンまで開け、その谷間を見せてきた。「君は困った子だね」 桜夜は苦笑いする。三姉妹の中で唯一、リオの気持ちがわかりにくいと桜夜は思っていた。サイカの好意はまっすぐでわかりやすく、彼に安心感を与えてくれる。ホムラは恋愛感情かはともかく、兄妹のように接してくれ、彼の孤独を癒してくれた。しかしリオの誘うような表情は少しだけ困ってしまう。大人の駆け引きのようで、からかわれている気さえする。だから腹いせに桜夜は彼女の唇を奪い、深く弄ん
last updateLast Updated : 2025-05-27
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