鷹司が誘拐した(正確には家出を幇助し匿った)少女の名はリン・イグドラシル。現イグドラシル家の当主の1人娘で、ウイルスによる大粛清に反対していた人物だった。また作戦実行において重要となる鍵を持っているという。さらに鷹司が計画的に誘拐した訳でもない故、こうして連携に齟齬が出ているようだった。そんな中、目をつむって椅子に腰かけているだけに見える桜夜が目を開いた。「見つけた」 ついに鷹司とリンの存在を見つけた桜夜は立ち上がる。「リオ! 認識疎外の魔法を。鳳凰で突っ込む!」「はい!」 ◆◆◆ ローマ市街の路地裏で鷹司は肩を押さえて蹲る。それをかばうのはまだ幼い少女だった。「退いてください。お嬢様」 男は平たんな声でそう言うが、少女は決意を宿した目で動かなかった。「仕方ありませんね」 男は肉弾戦で鷹司を黙らせようと動く。鷹司もまた残る腕で対抗する。かつて桜夜と引き分けた実力は老いとケガで衰えることもなく。やすやすと迫って来た男の顔面を殴り飛ばす。「!?」 だがその腕は男の顔面を貫通しただけだった。殴った感触はまるで泥のようだ。その驚きに鷹司は一瞬だけ隙を生んでしまった。その隙を逃さず、男は銃弾を鷹司にありったけ打ち込んだ。「ぐはっ」「おじさま!」 口から、体中から血を流しながら、鷹司は片膝をつく。それでも意識を保っていたのはさすがの一言だった。だが男の仲間も追いつき、絶体絶命の危機に瀕しているのは変わらなかった。血がつくのもかまわず、リンは鷹司に抱き着いた。鷹司は少女の背中に手を回し、つぶやく。「大丈夫だ。あとはあいつが……」 薄れゆく意識の中、鷹司は男たちの前に立ちふさがる誰かを夢想した。 to be continued
Last Updated : 2025-08-25 Read more