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All Chapters of 鳥籠の帝王: Chapter 141 - Chapter 150

153 Chapters

鍵の役目

 桃源郷は地獄のような場所だった。けれど女は諦めるどころか、不敵な笑みを浮かべている。笑いがこみ上げてくるのを抑え、くつくつと美しい顔に闇を偲ばせた。 どこまでも続く暗黒ばかりの景色に辟易しながらも、ずんずんと進む。まるで道が、行く場所がわかっているかのように、迷いのない足取りだ。 そのことに気づいた爛 春犂は、彼女へ問う。「そうね。知っているわ。でもそれは私ではない、違う私よ」「……?」 意味がわからなかったのだろう。彼は怪訝に眉根を曲げ、彼女を見つめた。「あら? 忘れたの? 私は死んだのよ? あなたは私の葬儀に参列したじゃない」「……確かに私は貴殿、玉 紅明皇后妃の葬儀に出た。そのときに貴殿が亡くなったという事を確認していた。けれど黒 虎明殿に貴殿が生きているという事を聞いたとき、私にはわけがわからなくなった」 彼が前に全 思風たちへと伝えていた内容は本当のことである。 逆に黒 虎明が口にしたことは、彼の知る事実を嘘としてしまう。そのことがずっと引っかかっていたようで、ため息混じりに彼女を凝視した。「ふふ。あなたが見届けたのも事実。そして私が、こうして生きているのも真実なのよ」 妖艶としか思えぬ出で立ちで、彼に挑発のようなものをかける。 爛 春犂は眉をひそめた。淡々とした眼差しをやめ、ただ動くだけの人形のようになった男を注視する。 自身よりも高い身長の男、黒 虎明。この男は誰かを裏切り、何かを企むという裏工作などできはしなかった。考えるよりも体が先に動く。猪突猛進を地で行く、素直としか云えない男である。 そんな男が言葉すら発せず、ただ、云われるがままに動く。瞳には光など宿してはおらず、本当の意味での操り人形と化していた。「なぜこの男は、このようになってしまったのか……」 豪快に笑い、喜怒哀楽が激しい男。それが黒 虎明である。個性ともいえるそれが何ひとつとして働
last updateLast Updated : 2025-06-06
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四神(しじん)の役割

「──四神?」 「そう。ここにいる白虎、そして青龍。彼らが扉の中から開ける事で、私たちも入れるという仕組みだ」  冥界の王である全 思風は、夔山で残された子供たちと別れた。直後、辛うじて開いていた扉の中へと入り、冥界へと出向く。そこで冥界の王になり、力を得てから再び地上へと戻ってきた。 「冥現の扉はね、内側からしか開かない。それも四神や私のような、地位や力のある者でなければ開かないようになっていた」 「……へえ。あれ? でも、こっちからでも開くぞ?」  華 閻李という少年の力を介して扉は開く。そのことに矛盾を覚えて、彼へと問うた。  彼は苦く笑む。 「扉の中と外じゃ、仕組みが違うんだ。この扉は中からはある程度力を有する者であれば、開ける事が可能。けれど人間たちの住む世界からでは、力があったとしても意味を成さないんだ」  そのために冥現の扉の鍵というものが存在した。 華の能力を持ち、銀の髪を携えている。その者だけか、現実世界側からの扉を開くことができた。そして内側からも開けることがでる。 どの國や世界を巡っても、両側から開けることができるのは一族の者だけ。さらには、特定の条件を満たした者のみが可能とする力であった。 「私もその事を知ったのは、つい最近なんだけどね」  一族の始まりの者がいた殷王朝時代。その時代に出会った狐に教えられたと告げた。 「よ、よくわかんねーけど……話をまとめると、四神がいれば、内側から扉を開ける事が可能って話か?」
last updateLast Updated : 2025-06-07
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たどり着く世界

 麒麟いわく、人間たちの世界にいる四神は魂という、物体がない状態とのこと。本体は扉の向こう側にあるため、器さえあれば自由に出入りできると説明した。 「──いいかい王様。拙たちは、神獣界から向かう。いつ合流できるかはわからないけど、絶対にあの子の元に行くからさ」  小さな女の子の姿のままに、扉へと向く。その手には玄武の魂が入った小瓶があった。足元には白虎の牡丹、その仔猫の背には青龍である椿が乗っている。 彼女たちは扉の前に並び、眼を閉じた。瞬間、ひとりと二匹の体が淡く光だす。やがて動物たちの姿は消え、女の子はその場に倒れてしまった。  彼は、女の子が地面にぶつかる寸前で腕を捕まえる。口や鼻に手をあててみるが、息遣いが聞こえてこなかった。 「……この子供の中に入ってた麒麟の魂が、扉の先へと向かったようだね」  女の子を横抱きにし、近くにある床へと寝かせる。 「し、死んだのか?」 「いや。元々この子供は、枌洋(へきよう)の村の事件で死んでいた。そこに麒麟が入りこみ、この子供の体を動かしていたにすぎない」  現状、唯一の味方だとハッキリしている黄 沐阳へ頷いた。  ふと、夔山に集まっていた他仙たちが、扉が開いたことに驚く。けれど黄 沐阳が一言行ってくるとだけ告げれば、彼らは漢服の袖内で両手を組んで軽く頭を下げる。  「さあ、行こうか──」   黄 沐阳という男が最初の頃と比べると
last updateLast Updated : 2025-06-08
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時の旅人

 二つ目の扉を潜ると、そこは秋の景色だった。朱い紅葉が連なり、どこまでも続いている。空は茜色で、いつまでたっても暗くはならなかった。 ──不思議な場所だ。秋でありながら、それ以降も以前もない。何も代わり映えしない景色だ。 それが悪いというわけではない。ただたんに、つまらないだけなのだと、遠くの空を眺める。 ザクザクと、色素をなくした落ち葉の上を歩いた。ときどきトンボが飛んでくるものの、それ以外は、これといった景色の変化はない。 ふと、トンボの一羽が、彼の前で力尽きてしまった。飛んでいたはずのトンボは地面に落ち、羽を痙攣させる。やがて動かなくなり、蛍火となって天へと登っていった。「……本当に、不思議な場所だな」 歩くたびに、足元の落ち葉がかさつく。それ以外の音はなく、静寂だけの空間が延々と広がっていた。 どこをどう歩けばいいかなど、彼にはわからない。それでも大切な子供の気配を頼りに足を進ませた。 しばらくすると、第三の扉が見えてくる。藤紫色の、落ち着いた感じの扉だ。けれど……「──やあ爛 春犂、裏切るって気分はどうだい?」 白氏と同じ漢服を着、手に指揮棒のような物を持っている男が立っていた。男は笑うことなく、ただ、じっと彼を見つめている。 「……あまり、気持ちのいいものではないな」「ふうーん……そう思ってるなら、何で裏切ったりするわけ?」 彼の質問に、爛 春犂は答えることはなかった。指揮棒のようなものを強く握り、深いため息をついている。「小猫はさ。あんたの事、ずっと信じてるんだよ? こうなった今でもあんたが悪い人じゃないって、ずっと言い続けてるんだ!」 怒りにも似た感情を剥き出しにしながら、黒い焔を巻いた剣を空高く投げた。瞬間、男の元に、無数の漆黒の槍が落とされる。  爛 春犂はハッと顔をあげた。指揮棒のようなもので槍を弾いていく。それでも数が多いため、全てを返すことは叶わなかった。 取りこぼした槍が頬や腕、体と肌を血の色に染めていく。 「……っ!」 猛攻に近いものを受け、男は片膝を折ってしまった。額から滲み出る|鉄錆《てつさび
last updateLast Updated : 2025-06-09
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最後の扉へ 闇に落ちし者

 全 思風と爛 春犂の間に入ってきたのは、探してやまない少年だった。けれど子供は残像のようで、手を伸ばしても触れることができない。 そんな子供の姿は悲惨なものだった。 美しく輝いていた銀色の髪は黒や青、黄色など。あらゆる色に染まっている。虹のような色になっており、儚さをより強く見せていた。 端麗な顔の右半分は、黒炭のようなものに塗りつぶされている。 瞳にいたっては右目が深紅、左目は金色になってしまっていた。 美しさをなくさないままの姿だったが、全身に無数の鎖が巻きついてしまっている。その鎖のせいか、宙に浮いた状態となっていた。「…………ス、ぅ……」 子供の声はほとんど出ていない。彼の名を呼ぶ声も、息をすることすら難しいのだろう。朦朧とする意識を無理やり保っているようだった。「小猫……」 自身の唇を強く噛む。伸ばしていた手を引っこめ、両頬をたたいた。 顔をあげて笑みを作る。愛し子を見つめ、形のよい唇を動かした。「待ってて小猫、すぐに助けてあげるら」 優しく語りかける。けれど子供が首を左右にふり、拒否されてしまった。 納得のいかない彼だったが怒らずに、穏やかなまま首を傾げて、なぜと問う。『…………ぼ、くの……』「小猫?」 彼の眉根が歪に曲がった。少しだけ前に体をだし、子供へと手を伸ばそうとする。 瞬間、少年の両頬に涙がたくさん流れてしまった。『ど、して?』 大粒の雫を頬に伝わせながら、華 閻李が苦しそうに告げていく。『ど……して、僕の爸爸と妈妈を殺した、の?』「──っ!?」 ドクンッと、彼の心臓がはね上がった。鼓動すら早くなり、呼吸がしにくくなっていく。けれど子供にそれを見せまいと、必死に笑顔と冷静さを表情に乗せた。『ねえ……教え、て、よ。どう……して、爸爸と妈妈を、ころ、し、たの? そんな、に、僕たちが、嫌い……なの?』 彼の心の内など知るよしもない子供は、いつになく攻めたてていく。次第に語気が強くなり、捕まっているというのが嘘のように言葉の刃を放っていった。『返、し、て……よ。僕の、爸爸と
last updateLast Updated : 2025-06-10
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集いし精鋭たち

 いくつかの扉を抜け、全 思風は最後の場所とされる地へと到着した。そこは上下左右、前後など。全てが純白だけの味気ない世界になっている。「……何だ、ここは?」 腰にかけてある剣の柄に手を置き、警戒しながら先へと進んだ。 けれどどれだけ進んでも、歩ませても、景色は決して変わることはない。そのせいか前を進んでいるのか、下がっているのか。東西南北がわからなくなってしまう。 ──本当に進んでいるのだろうか? いや。そもそも、歩いているのかすら怪しい。 頭がおかしくなりそう。 そう呟いた。瞬間、ここから少し離れた場所に何かを発見する。それは何かと目を細めた。 そこには金色の刺繍が施された朱の外套を着た者がうつ伏せで倒れている。七色に輝く長い髪、顔の右半分が黒い墨で塗りつぶされたような……端麗な顔立ちではあったが、お世辞にもきれいとは云えない姿だった。「……っ小猫!?」 求めてやまない子供だと知り、急いで駆けよる。倒れている小さな体を抱き起こし、口に手を近づけて呼吸を確かめた。弱くはあるが、呼吸の音は聞こえる。そのことに安堵し、ホッと胸を撫で下ろした。 よかったと口にしたとき、子供のまつ毛が震える。「小猫!? しっかりして、小猫!」 大切な者を失う恐怖から焦りが生まれた。それでも名を呼ばずにはいられないと、話し続ける。 ふと、子供の瞼が開かれた。左右が違う色になってしまっている瞳で彼を見る。「よかった。小猫、もう大丈夫だからね?」「…………」  彼は涙をこらえ、ギュッと少年を抱きしめた。 子供は無言で頷き、彼の背中に両腕を回す。会いたかったと連呼する全 思風の声を耳にしながら、感情のない瞳で彼とは違うどこかを見ていた。「怖い思いをさせてしまってごめんね!」 さあ、帰ろうと優しく伝える。そのとき── ドスッ。 奇妙な音とがした。その音に合わせるように、彼の両目が大きく見開かれる。 子供を強く抱きしめる彼は微笑み続けてはいた。けれど口元からは、鉄錆色の液を垂らしている。 ごふっと、それを一度だけ吐き出した。 子供から手を離し、よろ
last updateLast Updated : 2025-06-11
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決戦

 黒 虎明、そして爛 春犂。このふたりは率先して朱雀へと向かっていった。 黒 虎明は大剣をふるい、その衝撃波で朱雀の翼を消そうとする。 霊力を剣にこめ、少しだけ肘を後ろへ退いた。片足を前に出し、体重を乗せる。そのまま突きの姿勢で、ふっと息を吐いた。空を斬る音とともに地を蹴り、朱雀の背中へと斬りこむ。 けれど深紅の焔が邪魔をし、大剣の先を溶かしてしまった。「……っ何!?」 男は急いで朱雀から離れる。溶けた剣の先端を見ては舌打ちし、爛 春犂に視線で答えを求めた。 すると爛 春犂は一歩前に出て、指揮棒のようなものを朱雀へと向ける。「気をつけなされよ。あれの焔は、魂すらも犯す。触れた瞬間、魂そのものが蝕まれるぞ!」「……恐ろしいな……いや、まて! そうなると、あの少年はどうなる!?」 ふたりは朱雀の器になっている華 閻李を見た。子供はふふっと妖艶に笑っている。「……わからん。だが閻李はもともと、術師として非凡な才能を見せていた。術を使うのに必要な霊力はたんまりとあるのだろうな」 朱雀の焔によって霊力を消費することはあっても、倒れることはないのだろう。倒れるとすれば精神を歠まれるか、体力に限界が訪れるか。それのどちらかだろうと推測した。「……とはいえ、このままでは我々が先に殺られてしまうだろうな」 指揮棒のようなものを一振し、向かってくる深紅の焔を弾く。そのまま札を投げ、朱雀を囲った。瞬間、札から細い線が現れる。線は札と札を橋渡り、楕円形の結果を作り上げた。 それでも朱雀にはあまり効果がないようで、結界は内側から少しずつ焔によって溶かされ始める。「ふふ。無駄よ。この体の霊力は無尽蔵。いわば、底無しなのよ。どれだけ使っても倒れはしないわ!」 そう口にした直後、硝子が割れるように、結界が砕けてしまった。 結界を施した爛 春犂は指
last updateLast Updated : 2025-06-12
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心の扉を開いて

 落ちてきた鳥は朱雀だった。ボロボロな身体に、呼吸をするのも苦しそうだ。「鳥さん、大丈夫?」 華 閻李はひとりぼっちの寂しさもあり、鳥へと手を伸ばす。 触ってみれば日差しのように暖かい身体だが、艶はなかった。安物とまではいかないが、お世辞にも毛並みがいいとはいえない。 それでも子供はひとりぼっちの寂しさから逃れようと、鳥を抱きしめた。ほわほわとした、ほどよい暖かさが子供の頬を緩める。「……ねえ鳥さん。僕ね、大切な人に裏切られてたんだ。信じてた人だった。だけど……」 親を殺した事実を知り、全 思風という男を信用できなくなっていた。今までの笑顔や優しさ、温もりすらも嘘だったのだと、涙を交えて語る。 鳥をギュッと抱きしめ、その場で膝を抱えた。首にかけてある汚れた勾玉を握り、視界が見えなくなるまで泣く。 勾玉を首から外し、唇を噛みしめた。「こんな物──」 必要ない。嘘つきがくれた物なんか持っていたくない。そんな思いをぶつけるように、勾玉を投げようとした。 瞬間、鳥が慌てた様子で子供をとめる。バタバタと翼を前後に動かし、首を勢いよく左右にふった。「……何で、とめるの?」 子供の両目から滝のように流れる涙を、鳥は自らの翼で拭く。ふわふわとした羽が心地よいのか、子供は涙を止めた。「どうして? だってこれ……っ!?」 そのとき、少年は突然、強烈な頭痛に襲われる。頭を押さえ、その場に倒れた。心配するかのように近よる鳥に、弱々しく大丈夫だからと伝える。やがて子供は不可解な頭痛に襲われた── † † † † えーんえーんと、賑やかな町中で、ひとりの幼子が泣いている。銀の髪に美しい見目をした子供だ。幼子の足元には猫のぬいぐみが転がっている。 行き交う人々は幼子を一瞬だけ見た。それでも気にすることなく、次々と人々は流れていく。「爸爸、妈妈ぁ、どこぉー?」 どうやら迷子のようだ。泣きながらぬいぐみを抱きしめ、大きな瞳を涙でいっぱいにしている。人形のように精巧な外見を持つ幼子は小さな体に似合わず、声を大きくして両親を呼んだ。「──ねえ、何をしているんだい?」「……っ!?」 泣き崩れる幼子へ影が落ち
last updateLast Updated : 2025-06-13
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真相

 闇に飲みこまれ、全てを閉ざした華 閻李は、山よりも高い彼岸花の中に隠れてしまった。 開花すらしない花は力の暴走を始め、扉の中にある世界に異変を催す。 彼らがいる真っ白だったこの場所は、地獄のようにドロドロとした空間になっていった。地、空、空気。それらが全て、漆黒へと変貌してしまう。 けれどそれは、扉の中だけに留まることはなかった。『──王様、人間界の様子がおかしい!』  いち早くそれを察知した麒麟は、急いで白虎と青龍を集める。 白虎の牡丹は地面に大きな円を描いた。青龍の椿はそこに青い焔を吐く。そして麒麟が一声鳴いた。 瞬間、円は鏡のようになる。そこに映るのは人間たちの住む世界の光景だった。 水の都である蘇錫市(そしゃくし)を始め、黄家のある町など。今まで全 思風が、子供とともに訪れた町や関所などが映しだされていた。それらの地域は数々の災厄に合いながらも、何とか立て直すことに成功している。 しかしその成功が、脆くも崩れていく瞬間が映っていた。 地をはじめ、建物や木々など。あらゆる箇所に蒼い彼岸花が現れていた。あるだけで、それ以上のことはない。 けれど、なかには開花しているものもあった。そしてそれに触れた瞬間、人も動物も、生きている者は全て、殭屍へと成り果てていく。当然彼らに噛まれた者は感染し、増殖していった。「……な、何だこれは!?」 爛 春犂たちは驚愕する。黄 沐阳は両目を丸くし、黒 虎明に至っては悔しげに地面をたたいていた。『わからない。わからないけど……拙が体を借りてた女の子を育ててくれてる人たちが、叫んでたんだ』 少女に恩がある麒麟は、彼女の家族となった者たちを密かに守っていた。麒麟の霊力をその人たちに与え、何かあれば気づくように細工をする。 たったそれだけのことだったが、今回は役にたったようだと説明した。 『でもさ。どうなっ
last updateLast Updated : 2025-06-14
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明日へ

 彼岸花から生まれたそれは、華 閻李が得意とする武器であった。それが無数に連なり、弾が発射される。  黒 虎明は大剣を盾にして、それらを弾く。しかし彼の持ち味は力強さにある。細かな動きは不得意なため、すべてを弾き返すことは無理であった。打ち洩らしたそれは先のない空間へと飛んでいく。  爛 春犂はそんな彼とは違い、素早さを生かした攻防を繰り広げていた。目に見えぬほどの速さで剣を抜き、居合いで弾を切り刻む。それでも次々と向かってくる弾に、札を用いて応戦した。  黄 沐阳は札で結界を張り、後ろにいる少年を守っていた。眠り続ける子供、そして朱雀と四不象。ひとりと二匹が微動だにしない状況で、結界を作り守護することが精一杯のよう。 額から汗を流し、くっと眉を曲げた。  麒麟たち神獣はそんら彼を助けるため、弾の的になりながら避けている。  ──数では、圧倒的にこちらが有利だ。でも相手は小猫の霊力と能力を使っている。前に爛 春犂が、【霊力や術でなら小猫の右に出る者はいない】って云ってたけど。まさかそれが、こんなかたちで現れるなんて……  どんなに屈強な仙人であっても、戦闘経験豊富であっても、神に近い存在の獣たちであっても、華 李偉というひとりの子供には勝てない。 純粋に闘った場合、勝てはしない。  非凡な才能を持つ子供のことを、この瞬間に誰もが恐ろしいと考えていたようだ。少年への評価が、守られるだけの子供から強者へと変わっていく。 「……小猫、皆、君の
last updateLast Updated : 2025-06-15
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