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All Chapters of 鳥籠の帝王: Chapter 131 - Chapter 140

153 Chapters

処刑場

 人の姿をした化け物。そう云われても否定できない何かが、今の魏 宇然にはあった。  勇ましく剣をふり、敵とみなした者たちを薙ぎ払う。持ち前の脚力や腕力を生かし、鳥の紋様を持つ者たちを斬り刻んでいった。 剣を下から上へと走らせ、相手の体を朱く染める。片足で鳥の紋様部分を蹴り、横転させた。 槍が眼前に迫れば剣の柄で弾く。矢が飛来すると、視線だけを動かして軽々と避けていった。  美くしいけれど、どこか冷めた視線の男。それがこの禿王朝始まりの皇帝、魏 宇然である。 「──なぜ貴殿たちは、あのような男の元に下った!?」  低く、覇気すらある鬼人のごとき強さを発揮した彼は、声をはり上げて問いかけた。  一瞬だけ、鳥の紋様の兵たちは怯む。けれど、数秒後には何事もなかったかのように武器を構えていた。 「……何だ、こいつらは?」  ──おかしい。明確なことはわからんが、違和感がある。  普通の人間。けれど何かが、普通ではない。そんな気がしてならなかった。そのとき── 「……っ!?」  体を剣で斬られた兵が、ゆらりと立ち上がる。 土気色になった肌に血管が浮かび上がっていた。 血走った眼球に黒目はなく、どこを見ているのかすらわからない。 口からはだらしなくよだれが垂れているが、それすらも気づいていないようだった。  さらには、一体や二体ではない。鳥の|紋様
last updateLast Updated : 2025-05-31
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真実は夔山《ぎざん》に

「…………」  魏 宇然はふっと、目を覚ました。体のあちこちから悲鳴があがるほどの激痛が伴う。 それでも起きなければと、無理やり体を動かした。 「……? ここは、どこだ?」  朦朧とする意識のなか、周囲を見渡す。 天井、壁、そして地。それらは全て土のようなものでできていた。声を出せば響き、木霊する。肌を打つほどの寒さがあり、吐く息は白煙のようだ。 自身が寝ていたところは、木製の箱で作られた簡易な床のよう。その上に布を敷いていた。 「──魏醒、目が覚めたんですね!?」  ふと、聞き慣れた声が届く。 声の方を見れば、そこには美しい男がいた。けれど自慢の銀髪は肩ほどまでに切られてしまっている。それも、きれいな切り方ではない。無理やり切られてしまったような……バラバラで揃っていなかった。 「華贄!? お前、その髪……っ!?」  ズキッと、全身に激痛が走る。痛みに耐えられなくなり、床の上でうつ伏せになった。 「怪我、治ってないんですから動かないでください」 「……華贄、ここは? それに、お前のそれ……」  ──ああ。あんなにきれいだった髪が、すごいボサボサだ。 「…………逃げる途中、魏 固嫌様の一派に髪を掴まれ
last updateLast Updated : 2025-06-01
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奪われた友

 陰の気が強く、人はおろか、動物ですら滅多に近よることはない。近づいたとしても黒き渦に歠まれ、生気を失い死に至る。生き残ったとしても体中に呪いがかけられ、その日のうちに命がなくなる。 皮膚は溶け、骨すらも闇に喰われてしまう。 それが誰も場所、そして名すら知らぬ山であった。 「私たち一族は、当主だけがこの山を受け継ぎます。本来なら、両親に山の秘密などを教えてもわねばならなかったのですが……」  両親は流行り病にかかり、華 李偉が物心ついた頃に他界。結局、山の場所と名前のみしか教えてもらえなかったと云う。  音の違う壁に華 李偉は細長い人差し指を、すっと滑らせていった。 「……本当に、この壁の中には何が埋まっているんでしょう?」  小首を傾げる様は実に美しい。  後ろに控えている一族の老若男女たち、そして魏 宇然。この場にいる誰もが、華 李偉の神秘的な儚さに息を飲んだ。 「あ、そうだ。いっその事、掘ってみます?」 「……できるわけなかろう?」 「そんな事はありません! 皆で協力すれば、いつかはきっと!」 「いつかって、いつの事だ?」 「……百年後とか?」 「死んどるわ!」 「えー? 大丈夫ですよー。私は無理ですが、あなたなら根性で生きて……」 「根性で
last updateLast Updated : 2025-06-01
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過ぎ去りし過去

 華 李偉を取りこんだ透明な化け物は、みるみるうちに大きくなっていった。 『オ、オオオ! みなぎ、る……み、なぎ、る、ぞ! ごいづは、いい! ざ、いこうの、れいりょぐが、ふえ、るぅぅーー!』  耳をつんざくほどの雄叫びを交え、巨大な何かは地響きを促す。舌足らずな言葉に上乗せするように、次々と言を吐き出していった。 『おい、じぃーー!』  ギョロリと目玉を動かす。瞳に映すのは魏 宇然だ。彼の姿を捉えるなり、両目を血走らせる。 血の臭いすら混じる息を吐き、げへへと下品な笑いを見せた。 『魏 宇然! ころじ、て、王のいずを、てにい、れるぅー!』 「……っ!?」  名指しされた彼は戸惑う。見たこともない生物に敵意を向けられているということに、疑問の表情しか浮かべられなかった。  ──さっきからこいつは、俺の名を呼んでいる。しかし、こんな化け物に知り合いなどいないぞ? だけどこの顔、どこかで……  水の塊のような透明な物体の顔を見、誰だったかと悩む。 『ご、ろす……』  くぐもった声とともに、蛇の頭のような尻尾が彼へと振り下ろされた──  † † † † 「──蛇のような尻尾に、甲羅を背負った何か。そして。人間のような顔をもつ物体」&
last updateLast Updated : 2025-06-01
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覚醒

 顔がぐしゃぐしゃになってしまう。それでも華 李偉は泣くことをやめなかった。漢服の袖で涙を拭いながら必死に笑顔を作る。 「本当に、ごめんなさい。これからあなたにする事で、魏醒という存在が人間ではいられなくなってしまうんです。でも……」  これしか方法がない。 震える声で云った。  頬に流れるしょっぱい水を何度も拭く。それでも溢れてしまう涙を止めることなど、華 李偉はできなかった。 「あの化け物……この世のものならざる存在を滅するには、あちら側の力が必要なんです。だけど私は絶対にそうなってはならない。いいえ、できないんです」 「……?」  魏 宇然は華 李偉の作った結果に阻まれ、子供たちと一緒に外へと放り出されてしまっている。中に入ろうとしても、術によって体ごと弾かれてしまうのだ。 そのうえ、先ほどから華 李偉の言葉の意味も理解できずにいる。  置いてきぼりのようなものを食らい、彼は眉間にシワをよせた。 「ふっ……ざけるな! 何、わけのわからぬ事を……」 「──ひとつだけ。ひとつだけ、あなたに嘘をついていました」  明かりが美しい友の顔を照らす。 顔は煤汚れていた。涙に埋もれた瞳、ボロボロになった服。それらが友を彩り、よりいっそう儚く見える。 そんな美しい友は、弱々しく微笑んだ。 
last updateLast Updated : 2025-06-01
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冥王誕生

 魏 宇然の姿は変わり果てていた。鋭い目つきはそのままだが彼を取り囲む空気が、闇へと沈んだかのような……そんな、暗くて深い宵闇を纏っている。 濡羽色の髪は波打つようにうねり、先っぽは黒い焔を生んでいた。  ボロボロだった漢服は全身を漆黒へと染めあげていく。そして少しずつ崩れては、水滴となって地へと落ちていった。 瞬間、地面は音をたてることなく、一瞬で溶けていく。  彼はそれに気づく様子もなく、つむじを曲げて、凍てつくほどの朱き瞳を林の方へと向けた。  そこには透明な塊となった魏 固嫌がいる。かろうじて、人としての形を保っていられるのは顔だけ。それ以外は人はおろか、動物ですらなかった。  そんな何かになった男を、彼は凝望する。  ──こいつのせいだ。こいつが、俺から全てを奪っていった。  仕事で苦しかったけれど、平穏な日々。そんななかで愛しい友といる時間が、一番幸せを感じていた。けれどそれは魏 固嫌という、欲にまみれた男の手によって、あっという間に崩れてしまう。 最終的に、美しい友が命を落としたからだ。  ──誰よりも愛していた。結婚したと知ったとき、俺は心の奥にある気持ちを隠したまま過ごしていた。それで平穏が保てるならと思っていたからだ。それなのに……  眼前にいるこの男が全てを奪い、自身さえも人とは違う何かになってしまった。  ──華贄が云った意味、ようやく理解したよ。そうだ。俺はもう、人ではない。人には戻れないんだ。だけど…&helli
last updateLast Updated : 2025-06-01
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最終章 未来(明日)へ 正体

 華 李偉の命をかけた行動は、魏 宇然という男を人間ではない何かへと変えた。 それでも彼は前へ進むことを選ぶ。 友の散りゆく姿、そして子供たちの未来。それらを胸にしまい、彼は人ではない生涯を、全 思風として歩むことを選択した。「──それから私は、ひっそりと小猫の先祖たちを見守ってきた。ときには旅人として彼らに近づき、一族の力を誰かに悪用されないようにね」 心の奥底にしまわれた、楽しさと哀しみが詰まった遠い過去。それを忘れぬよう、今も華 閻李のそばにいるのだと告げた。 「……思」 彼の膝の上に座る子供は、足をぶらぶらとさせる。心なしか元気をなくしているようだ。 どうしたのかと子供に尋ねながら、ギュッと抱きしめる。「……ごめん、なさ、い」 下を向く少年の両手に雫が落ちた。見れば子供は涙を流している。 彼は驚いて「え!?」と、すっとんきょうな声をだす。「ご先祖様が、あなたを人間でなくしてしまった。人として生きる道を消してしまった!」  理由がどうであれ、魏 宇然という存在を抹消してしまったのだ。結果として、人の寿命をなくし、永遠に近い時間を過ごす羽目になってしまう。 それが苦しくて、とても悔しいのだと、子供は涙ながらに謝っていた。「……小猫」 ──本当にこの子は優しいな。自分のことよりも、他人の気持ちを優先してしまう。いいことでもあるかもだけど、自己犠牲がすぎるって感じもするんだよね。 子供の両脇に手を入れて、方向を変えさせた。向かい合うようになった子供は、大きな瞳から溢れる涙を拭う。「ありがとう小猫、その気持ちだけで私は嬉しいんだ。それにね……」 泣く子供の銀の髪に触れる。子供の前髪を退かし、額に軽く口づけを落とした。「彼がくれた命のおかげで、私は小猫に出逢えたんだ」 華 閻李の祖父、そのまた祖父かもしれない。何世代にも渡って、大切な友の子孫を見守ることができた。 それだけでも、永遠の命をもらった価値がある。 優しく、慈悲すらある瞳で、子供
last updateLast Updated : 2025-06-02
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暴かれていく真実

 爛 春犂の正体はかつて、妲己を封印した仙人──姜子牙──だった。 その事実に、全 思風ですら驚きを隠せない。 彼の隣にいる子供は青い顔をしながら爛 春犂を見つめ、目尻に涙をいっぱい溜めていた。「……驚いたな。あんた、あのときの仙人様だったんだ?」   へえーと、皮肉めいた笑みを男へと向ける。泣いてしまった子供の肩を抱きよせ、優しく頭を撫でた。けれど視線は子供ではなく、問題の中心人物となる爛 春犂へ注ぐ。 「でもさ。姜子牙……太公望は、正義のために動いてるって話じゃなかった?」 男の正体を見破った狐へと語りかける。 狐が入っている鏡は子供の手を離れ、ひとりでに浮遊していた。くるくると回りながら彼の隣を陣取り、ふさふさな尻尾を縦横無尽に動かしていた。『……妾も落ちぶれたものよ。過去にそなたらが来たときに、気づいておればよかった』 全 思風は子供、そして爛 春犂とともに、一度だけ殷王朝へと飛んだことがある。 そのときに姜子牙に出会った。男は仙人界の命令で妲己を封印する役目を担っていた。その最中、華 閻李の一族について知ることとなる。「しょうがないんじゃない? あのときはそばに過去の姜子牙がいたんだ。そっちの匂いの方が強くて、現在を生きるあの男の香りは消されちゃったんでしょ」  それよりも重要なことは何かと、爛 春犂を見やった。 白氏たちの先頭に立ち、険しい顔で彼らを凝望する男がいる。手には指揮棒のようなものを持ち、それを軽く一振した。 すると、男の周囲から暖かな風が立ちこめる。それは全 思風たちの元までやってきた。「正義の味方であるはずの仙人様が、なぜこんな事を?」 緩やかだった風は徐々に力を強めた。「正義などではない。これは私に課せられた使命なのだ。白氏たちとは利害の一致でここにいる。それがなけ
last updateLast Updated : 2025-06-03
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鳥籠

 絶望の色を見せ始めていた全 思風へ、華 閻李のハッキリとした声が届いた。 護られる存在であったはずの子供は強い瞳をしている。彼の腕にふれ、背中から腰に手を回す。彼を後ろから抱きしめ、全 思風ができない……することが許されないであろう涙を、代わりに溢した。「──思のせいじゃないよ」 見た目と同じ、中性的な声音を彼の背中越しに放つ。「誰だって、守りたいものはあるもん。だからといって、全てを守れるなんて思えない。神様だって全人類、動物ですら、守りきる。なんてのは、無理なんじゃないかな?」 そんなことをできる人などいない。そう、口にした。 彼の背中に顔をよせる。優しい微笑みをし、大丈夫だよと穏やかに語った。「例え、世界中の誰もが思を悪く言ったとしても、僕だけは味方でいるから。思が挫けそうになったら、僕がそばにいてあげる。見えない壁があったら、一緒に乗り越えよう? そうしたらきっと思は、もっと強くなれるから」 小さな手で彼の腕に触れる。子供らしい暖かい体温が、彼の全てを包んでいった。 そして全 思風の背から顔を出す。敵対してしまった爛 春犂を見、涙を拭いた。男が怪訝そうな表情をすれば、子供は腫れぼったい目で微笑む。「先生だって、本当はわかってるんでしょ?」 彼の隣に並び、震える体で必死に立った。冬の寒さと洞窟の気温の低さにくわえ、緊張からくる冷や汗。そのどれもが小柄な体には、じゅうぶんすぎるほどだった。 それでも尊敬する人が、大切な友だちを苦しめる言葉を放つなど耐えられない。そんな気持ちをぶつける。 両手を拡げ、背に全 思風を庇う。少女のように大きな瞳に涙を溜めながら、必死に彼を守っていた。「思は、國が禿になってから一生懸命頑張ってた。自分の命すら省みず、大切な友だちを守ろうとしてたんだ! どんなに辛くても、絶望の淵に立たされても、生きる事を諦めなかった」 少し高めの声が、洞窟の入り口へと向かっていく。そこには|爛 春犂《ば
last updateLast Updated : 2025-06-04
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 鳥籠に捕らわれた華 閻李は、気を失いながらも苦痛に耐えていた。けれど限界を超えた瞬間、花の力が暴走を始めてしまう。 洞窟内、そして夔山全体が、花の蕾に埋めつくされていった。青を中心とした晴れた日の空のような色で、ゆらゆらと揺れる。 「ふ、ふふふ。素晴らしいわ。これが、冥現の扉の贄なのね」 子供を鳥籠の中に捕らえた女性は、美しくも妖しい笑みで事態を楽しんでいた。隣に立つ中年男性──爛 春犂──を見、同意を求めるかのように瞳を細める。 しかし男はそっぽを向き、彼女には応えようとはしなかった。「……つれない男ね。まあ、いいわ」 踵を返し、土壁を凝望する。浮遊する鳥籠を土壁へと向けた。瞬間、土壁はあっという間に崩れていく。 そこから現れたのは全身が黒い、巨大な扉だ。禍々しい障気を放っており、女の手の甲に火傷を負わせてしまう。 彼女は一瞬だけ、痛みに眉根をよせた。けれど企みのある笑みだけを残し、足元にある蕾をむしり取る。それを頭から喰した。すると手の甲の傷は、みるみるうちに消えていく。「ああ……凄いわね。この一族の力は、本当に凄いわ」 傷すら治してしまう能力に、歓喜の高笑いをした。けれど隣にいる男があきれたようにため息をつくと、ひと睨みする。 扉へと向き直り、鳥籠を掲げた。「さあ。扉を開けてちょうだい」 女性の声にあわせるように、鳥籠は目映い光を放つ。すると…… 扉が大きく左右に開いていった。「開いたわ! ついに、桃源郷への道が始まるのね!?」  狂い咲くように笑う。癇に触るほどに耳障りな高笑いをやめることなく、彼女は扉へと足を踏み入れていった。 そのときである。「──小猫は返してもらうよ!」 瞳を朱に染めた全 思風が、子供を捕えている鳥籠へと手を伸ばした。 冥界の黒き焔を髪に絡みつかせた彼は、素早く剣を女へと振り下ろす。 瞬刻、彼の剣は、思いもよらぬ者によって弾かれてしまったのだった。 それをしたのは女の隣にいる|爛 
last updateLast Updated : 2025-06-05
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