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All Chapters of 鳥籠の帝王: Chapter 111 - Chapter 120

153 Chapters

木漏れ日の一族

 銀の髪がさらりと揺れる。 日に焼けてすらいない肌はとても白く、きめ細かい。目鼻立ちが整った人物は男か、それとも女か。どちらともとれる中性的な美しさをもっていた。 にこりと笑めば花が舞うかのように華やかで、とても儚げである。  白を中心とした薄紫の漢服は、袖が少しだけ長かった。襟、袖、腰には濃いめの紫の花が刺繍されている。 女性が着るような色合いの漢服ではあったが、着こなし方は男性そのもの。  それがより一層、この人物の性別をわからなくさせていく。 けれど身長は、百八十センチあろう爛 春犂よりも低い。 「──どうしたんですか?」  声は意外と低く、少しばかり嗄れている。ただ、声質は華 閻李に似ていた。 「……いや。何でもないよ」  眼前に立たれ、彼は少し戸惑う。  ──小猫が成長したら、こんな感じになるのかな? 優しくて、慈愛に満ちていて……それでいて、美しさを失わない。だけど何だろう。何かがひっかかる。  それを口にすることなく、愛する子供に似ている者へ笑顔を送った。 「それよりも、君は誰かな? あ、私は全 思風。で、こっちの目つきが悪い人が爛 春犂」  ともにいる男の紹介は雑そのもの。当然、そんな紹介を受けた彼は怒り、無言で全 思風の足を踏んだ。 「いってぇー! ちょっとあんた、何するのさ!?」
last updateLast Updated : 2025-05-23
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動く歴史と交わる疑惑

 おずおずと。逃げ腰の男は顔をあげる。瞬間、老人が放つ空気が変わった。  姿勢は伸び、毅然とした出で立ち。 口を覆い隠すほどに長い髭は、風によって揺らされた。 「──某の名は、姜子牙、しがない仙人だ」  さざ波のような声が空を駆ける。  「姜子牙? ……どこかで聞いたような気がするけど」  全 思風は基本、物覚えはよかった。けれどそれは、愛する子に関することだけに限定されている。それ以外のことには基本、無頓着なほどに興味を示さなかった。  本人はそれでいいと思っているらしい。その証拠に、姜子牙という名前を耳にしてもすぐに興味を捨て去った。 「で? その姜子牙という偉い仙人様が、私たちに何の用なのさ?」  ひらひらと、鬱陶しそうに片手で空を払う。  けれど隣にいる男、爛 春犂は違った。彼は瞳に真剣さを乗せている。物言いたげな表情にもなっていた。 「……? 何、あんた。言いたい事あるなら言ってみれば?」  沈黙する爛 春犂を見、退屈そうにあくびをかく。それでも彼は口を開こうとはせずに、姜子牙と名乗る者を見据えていた。  姜子牙は、爛 春犂の視線に苦く笑む。鋭く射抜く瞳に肩でため息をつき、軽めの咳払いをした。 「某は仙人
last updateLast Updated : 2025-05-23
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大食い

 相席になった華 茗沢を見れば、とてつもない量のご飯を胃へと入れていた。美しい顔に似合わずな豪快な食べっぷりに、全 思風と爛 春犂は絶句してしまう。 丸くて赤い机は二段構えになっており、上段が回る仕組みだ。その上段をくるくると回し、乗っている食べ物を次々と食していく。  青椒と肉を絡めた青椒肉絲、鶉の卵と白菜を庵で絡めた八宝菜。白いご飯に卵を混ぜ、炒めた炒飯や、鶏の唐揚げに甘辛タレをかけた油淋鶏など。 数々の定番料理などが、全てひとりの美しい人物によって、あっという間に消えていったのだ。 下段にある包子や小籠包、ごま団子など。それも全て瞬く間に、銀髪の者のお腹に吸収されてしまった。 「あ、すみません! 胡麻そばと、麻婆豆腐、それから回鍋肉に餃子。棒々鶏もお願いしまーす!」  店員が来ては空になった皿を片づけていく。そして、できたての料理を置いていった。  華 茗沢は笑顔に華を咲かせ、箸を左手で持って食べていく。   当然、それを見ている彼らは言葉すら失っていた。全 思風はそっぽを向き、ううっと唸る。爛 春犂は口を押えながら青ざめた顔で、うぷっとなっていた。  そんな彼らの様子に気づき、華 茗沢はきょとんとする。 「あれ? おふたりは食べないんですか?」  せっかく来たのだから食べなきゃ損するよと、無邪気にも似た笑顔を浮かべた。 その微笑み
last updateLast Updated : 2025-05-23
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殷の実情

「謝謝。また来てねー」  店員が、店を出ていく全 思風たちに手をふっていた。  全 思風は華 茗沢という美しい者ともに、町の中を歩く。その後ろには爛 春犂がおり、食い殺すような目で銀髪の者を見つめていた。  それを看過できるはずもない全 思風は、大きくため息をついて彼を睨む。 「あんた、何なのさ? そんなにこの人の事嫌いかい?」  話の中心になっている華 茗沢は、近くにある階段へ腰かけていた。蝙蝠の躑躅たちと戯れながら、無邪気ともいえる笑顔をふり撒いている。 牡丹が銀の髪を口に咥えると、痛いよと口にした。けれど言葉とは裏腹に頬は緩んでおり、とても楽しそうだ。頭の上に乗る躑躅の顎を撫で、ふふっと美しく笑む。 周囲を飛ぶ青龍の鱗に手を伸ばし、ひんやりとした冷たさを堪能した。   そんな美しい者を凝望しながら、全 思風は愛し子を重ねていく。  ──先祖だけあって、本当にそっくりだ。大食いなところも、動物が好きなところだって。それに…… 「……ねえ華 茗沢、君は半妖って事でいいのかな?」  それが本当ならば、華 閻李も妖怪の血をひくことになる。それ自体は目くじらを立てるほどではないのだろう。  答を待つかのように、動物と戯れる者を見つめた。
last updateLast Updated : 2025-05-23
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王都の外

 華 茗沢の脆く、それでいて蠱惑な見目は、性別すらも超越するかのよう。 全 思風のように肩幅が広くはない。むしろ線の細さが目立ち、儚げな印象を与えた。それに拍車をかけるのは容貌で、男性ないし女性。云われなければどちらなのかさえわからない。 そんな中性的な麗しさがあった。  「……君が、妲己と紂王の子だというのはわかった。もしかしてだけど、その髪色も出自に関係してるのかな?」    門番など目に入らないようで、彼は華 茗沢だけを直視した。ふむっと考えこみながら腕を組む。  ──ずっと、不思議に思ってた。小猫やあの人の髪は、なぜこんな色なのかと。異国の人間なのかもと思った事はある。だけど……異国人であっても銀髪なんて、そうそういないはずだ。 「無理にとは言わない。だけど普通に考えたら銀の髪なんて……」 「気持ち悪い、ですよね?」 「え? いや、違……」  ──しまった。そんなつもりじゃなかったのに。今の言い方では、髪色が気持ち悪い。そう云っているように捉えられても無理はない。  失言したなと、苦虫を噛み潰したように眉をよせた。  眼前にいる者を見れば、長い銀の髪を指にくるくると巻きつけている。少しすねたかのように口を尖らせ、頬を膨らませていた。 「うっ、ぐぅ!」  意外と子供っぽい仕草をする華 茗沢
last updateLast Updated : 2025-05-24
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血晶石《けっしょうせき》の秘密、花の誕生

 華 茗沢の手のひらに乗るのは、朱い宝石のように美しい石だ。しかしその石を、あろうことか血晶石と呼んでいた。 そのことに全 思風と爛 春犂は驚愕し、互いの顔を見合せる。「──ちょっと待って。血晶石って……それは本当なのかい?」 彼は華 茗沢の持つ石を凝視し、それを指差した。石は淡く光っている。 誰もがその石を見、続いて銀髪の美しい者へと視線を移した。「……はい。そう、呼んでいます。これはわたしの血液から作られた石です」「君の?」 どういう意味かと、尋ねる。「えっと……わたしが小さかった頃、母がこれを作ったんです。この石に願いをこめれば、一度だけ力を発揮する。そう教えられました」 たた一度だけ。願いを叶え、それが後々に己の能力として固定される。これが石の力だと、顏に影を落とした。 全 思風は目を細め、深く考えてみる。 ──もしも、本当にこれが血晶石というならば、殭屍化の元を作り出したのは他でもない……小猫の先祖って事になる。ただそうなると、現代でも血晶石が動いているというのはおかしな話になる。 この華 茗沢が作りだしたと仮定するならば、時間の流れ的に今もそれが作成可能とは言いがたい。なぜならこの者は殷の時代の人間であり、全 思風たちが生きる禿とは重なるはずがなかったからだ。 殷から禿になるまで、凡そ千二百年。 妖怪の血が混ざっているぶん、華 茗沢の寿命が人間よりも多少長い可能性はあった。それでも、そこまで長く生きられるという保証すらない。 ──何よりも私は知っている。禿王朝が設立されたとき、この人の子孫がいたから。本人は、もうとっくの昔に亡くなっていたからね。 隣でともに困惑する男に視線をやり、ふうーとわざとらしいため息をついた。爛 春犂ではなく、眼前にいる美しい者を見張る。「ねえ、
last updateLast Updated : 2025-05-24
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咲きゆく彼岸花、そして散りゆく華

 花や植物を操る力の原理がここにあった。  全 思風はひとつの謎を解き明かし、ほっと胸を撫で下ろす。体力を使い切ってしまったであろう華 茗沢を片腕に抱き、眼前に広がる美しい光景に目をやった。  何もなかった、ただ、枯れた大地。それが数秒前までのこの場所だった。 けれど今や、それすら眉唾物のよう。 カラカラに乾いていたはずの大地には緑が溢れ、木陰や木漏れ日すら産まれていた。風に遊ばれる草木の囁く音、蝶や蜂などの虫の姿すら当たり前のように横切っていく。 何よりも、地を覆いつくさんとする花たち。山茶花、桂花、薔薇など。美しく揺らめく花びらを携えながら、そわそわと、そよ風にあてられていた。 「……すごいね」  ふと、彩とりどりな花たちの中に一本だけ、まっすぐ天へと伸びた蕾がある。それは何かと指で軽くつついた。 瞬間、山茶花の幹《みき》がピンとはる。桂花は橙色の花びらを、ハラリと落としていった。薔薇は開いていた花を閉じてしまう。 「これは、いったい……え!?」  驚く彼の目の前で、全ての花は彩を失っていった。枯れたわけではない。花びらや幹も、萎れているようには見えなかった。  華 茗沢を抱く腕に力が入る。瞬きすら忘れたかのように、不思議な瞬間に魅入っていった。しかし…… 「…………っ!
last updateLast Updated : 2025-05-24
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「お帰り」「ただいま」

 息をひき取った華 茗沢を前に、妲己が庇いたてをする。悪女と呼ばれていた彼女の思わぬ行動に、全 思風たちは驚愕を隠せなかった。 けれど刻は彼らを待ってくれるはずもなく……  再び、あの頭痛といった症状とともに、世界や景色がぐにゃりと曲がった。 前回同様、立っていられないほどの不快感を覚えた彼は片膝をつく。華 茗沢をしっかりと抱えながら両目を瞑り、そのときが終わるのを待った──  □ □ □ ■ ■ ■  ホーホーと、夜を現す野鳥の鳴き声がする。 全 思風は頭痛が治まったのを確認し、ホッと胸を撫で下ろした。彼の腕の中で眠る銀髪の美しい少年、華 閻李を見、ふふっと微笑する。 「……やっぱり、小猫だったね」  夜なのに煌めき続ける銀の髪に触れた。少女と見間違うほどに整った顔立ちの子供の額に、優しく口づけを落とす。 すると子供の長いまつ毛が動き、ゆっくりと目を開けた。 「……ふみゅう? ……思?」 「うん、思だよ」  彼の膝を枕にして眠っていた子供は、寝ぼけ眼で上半身を起こす。目をこすりながら小さなあくびをし、彼をじっと見つめた。 「ふふ小猫、大冒険の感想は?」  優しく、絶対的な笑みで尋ねる。 子供は顎に手をあて、うーんと考えこんだ。やがて全 思風と目線を合わせ、儚げに
last updateLast Updated : 2025-05-24
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冥現の扉の鍵の秘密  墓

 過去のできごとを体験したことにより、華 茗沢という存在の真実を知った。彼女は華 閻李の先祖であり、一族の始まりの人でもある。 なぜ花や植物の力を使うのか。いったいどこから来たのかなど。その中には出自、そして妖怪の血を受け継いでいること。 それらの疑問が解消されつつも、新たな問題なども生まれてきていた。 「妲己の事にしてもそうだ。あの女は悪女と云われていた。実際、それだけの事をやっていたからね。でも……」 そんな女が、最期に子供を庇う。本当に、そのようなことがあったのだろうか。 そしてもうひとつと、右の人差し指を立てた。「──なぜ小猫が、扉の鍵なのか。これが、どうしてもわからないんだ」 大切な子である華 閻李を膝の上に乗せ、真向かいにいる男へと語る。 真正面にいる男は爛 春犂だ。彼は大きな袋を隣に置いて、全 思風の話に耳を傾けている。「……確かに全 思風殿の言うとおり、閻李が鍵という事は謎のままだ」  ふたりの視線は話題の中心にいる子供へと向けられた。 その子供は美しく儚げな見目のままに、全 思風の膝で小首を傾げている。 さらには会話すら聞いていない様子で、ひたすらごま団子やサンザシ飴を食していた。もっもっと、食べ物を口に運ぶ姿は実に愛らしい。栗鼠のように頬を膨らませていた。仔猫とすら思えるようなつぶらな瞳で、嬉しそうにおやつを満喫している。 全 思風が視線をやれば、子供は無邪気に微笑んだ。「……っ!」 この顔に弱い彼はキュッと、言葉を飲みこむ。嬉しさからくる涙を流し、子供の髪を手にした。すーはーと匂いを嗅ぎ、大切な子供が手元にいる喜びに浸る。 けれど爛 春犂にひと睨みされてしまった。「全 思風殿、真面目に語る気はあるのか?」 額に青筋を浮かべている。 そんな男を前にしても、彼は困った
last updateLast Updated : 2025-05-25
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狐が告げるは血晶石《けっしょうせき》、そして扉の鍵の意味

 鏡の中に映るのは九本の尻尾を持つ狐だ。狐はもふもふとした尻尾をふりながら微笑む。 『──妾とのお話しは嫌かえ?』  一声、かわいらしく鳴いた。  すると華 閻李が、宙に浮く鏡に腕を伸ばす。鏡をそっと抱きよせ、中にいる狐を見つめた。その瞳はキラキラとしていて、期待のようなものがこめられている。 『ふふ、人の子よ。妾とお話し、どうかの?』 「うん、いいよ。狐さんとお話しなんて、滅多にできないもん」  その場に腰をおろした。瞬間、膝の上には白虎の牡丹が乗ってくる。頭の上には蝙蝠の躑躅、左肩は青龍が陣取った。 子供はそんな動物たちをひと撫でし、全 思風に視線をやる。  彼はため息をついた。愛する子には逆らえないなと、その場に座る。行儀がよいとはいえない姿勢で子供の隣に座れば、鏡を凝視した。 『……おお、怖い怖い。冥界の王は、心が狭いのおー』  わざとらしく、よよよと哀しむ。けれどすぐに瞳孔を細め、尻尾をゆらゆらとさせた。 「えっと、それで狐さんの正体は妲己……で、いいんだよね?」 『うむ。そうじゃぞ。妾は殷王朝を滅ぼした、あの妲己じゃ』  潔し。自らを妲己という妖狐であると、胸をはった。けれど一瞬のうちに表情は雲っていく。元気よく泳いでいた尻尾はしょぼんとなってしまった。 子供がどうしたのかと聞けば、妲己は首を左右にふ
last updateLast Updated : 2025-05-25
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