黒の|横縞《よこじま》模様の猫は、その場にちょこんと座った。前肢をペロペロと|舐《な》め、長い|尻尾《しっぽ》をふりふりとしている。 |全 思風《チュアン スーファン》はそれを見下ろしながら、向こう側にいる大切な子供へ想いを|馳《は》せた。 ──この|白虎《びゃっこ》、何がしたいのか。まったくわからない。言葉が通じないのも困りものだ。それよりも|小猫《シャオマオ》だ。あの子の無事な姿を確認しなきゃ。 |白虎《びゃっこ》を持ち上げ、ふさふさな毛を|堪能《たんのう》する。数秒後に猫を下ろし、ひんやりとする壁に手を当てた。 「|小猫《シャオマオ》。もしも近くにいたのなら下がっててくれないかい?」 「え? 何、するの?」 幼い声が|響《ひび》く。壁の向こう側からする子供の声に|怯《おび》えが混じっているようで、|震《ふる》えているように聞こえた。 それでも彼は「大丈夫だから」と、ひたすらに|口述《こうじゅつ》し続ける。耳を済ませば|微《かす》かだが、服が|擦《こす》れるような音がした。 「……下がったかい?」 「う、うん」 優しく|諭《さと》しながら腰にある剣を抜く。 ──こういう場所で大きな音を立てれば、下手をすると天井ごと|崩《くず》れるだろう。だけど|壁《かべ》を|壊《こわ》す以外の方法がない。だったら…… 「そこに|蝙蝠《こうもり》がいるよね? |小猫《シャオマオ》は、そいつに従ってくれればいいよ」 そう言うと、向こう側から「キュッ!」というかん高い鳴き声がした。 ──きっと今、|小猫《シャオマオ》は|怯《おび》えているだろうな。それに
Last Updated : 2025-05-20 Read more