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All Chapters of 鳥籠の帝王: Chapter 101 - Chapter 110

153 Chapters

再会~記憶と想い~

 黒の横縞模様の猫は、その場にちょこんと座った。前肢をペロペロと舐め、長い尻尾をふりふりとしている。  全 思風はそれを見下ろしながら、向こう側にいる大切な子供へ想いを馳せた。  ──この白虎、何がしたいのか。まったくわからない。言葉が通じないのも困りものだ。それよりも小猫だ。あの子の無事な姿を確認しなきゃ。  白虎を持ち上げ、ふさふさな毛を堪能する。数秒後に猫を下ろし、ひんやりとする壁に手を当てた。 「小猫。もしも近くにいたのなら下がっててくれないかい?」 「え? 何、するの?」  幼い声が響く。壁の向こう側からする子供の声に怯えが混じっているようで、震えているように聞こえた。 それでも彼は「大丈夫だから」と、ひたすらに口述し続ける。耳を済ませば微かだが、服が擦れるような音がした。 「……下がったかい?」 「う、うん」  優しく諭しながら腰にある剣を抜く。  ──こういう場所で大きな音を立てれば、下手をすると天井ごと崩れるだろう。だけど壁を壊す以外の方法がない。だったら…… 「そこに蝙蝠がいるよね? 小猫は、そいつに従ってくれればいいよ」  そう言うと、向こう側から「キュッ!」というかん高い鳴き声がした。  ──きっと今、小猫は怯えているだろうな。それに
last updateLast Updated : 2025-05-20
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浄化

 全 思風が腕に抱える愛しい子は、疲れたように眠っていた。すうすうと、待ち望んだ子の寝息、細い髪、そして美しい顔。そのどれもが彼を、彼として繋ぎとめる材料となっている。  ──全て解決とは言えない。むしろ、謎が追加されちゃったぐらいだ。それでもこの手にある温もりは、絶対に夢ではない。  心の底から、愛しい子供を取り戻したのだと実感した。己の腕の中で眠る子供の額、右の手のひらへと甘い吐息を落とす。 独占欲の塊であるかのように、子供の全てを目に入れた。 けれど彼の表情は晴れず、むしろ雲っている。 「どんなに君を愛したとしても、私が小猫の両親を殺してしまった事に変わりはない。例え故意じゃなかったとしても、そんなの言い訳でしかない」  ごめんねと、一度は引っこんだはずの雫が、頬を濡らした。 それでも今すべきことは何か。優先しなくてはならないのは自分の感情ではなく、愛しい少年の幸せなのだと、心の中で言い聞かせた。  無理やりこじ開けた蘆笛巌から外へと一歩踏みこむ。淡々とした瞳で黒き階段を造り、空高く登っていった。 空を見れば来たときはまだ太陽が昇っていたのだが、今は月に変わっている。 「──ああ。いつの間にか、夜になってしまったね」  どれだけの時間、再会の喜びに浸っていたのだろうか。気の遠くなるような……けれどあっという間の、嬉しくて哀しい時間だった。  自ら造成した道をゆっくりと進む。やがて近くにある町の上空へと差しかかった。 見下ろした先には死者だけが這いつくばっている。体力や力が自慢であろ黒 虎明は、ふらつきながらも
last updateLast Updated : 2025-05-20
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冥現の扉の鍵

 瑛 劉偉と黒 虎明がふたりへと近づいてくる。大丈夫なのかと問いかけては、子供の寝顔を見て胸を撫で下ろしているようだ。 そんな彼らに応えるように、全 思風は軽く頷く。 「……体力を使い果たして、今は眠ってるだけだよ」   腕の中ですやすやと寝息をたてる少年に、優しい笑みを送った。汗のせいで額に貼りついた子供の前髪をそっと横に退かし、周囲を見渡す。  戦闘の跡が地面、建物などに残っていた。主に黒 虎明が暴れたのか……彼の持つ大剣で削った跡が多く見られる。  ──何でこいつ、こんなに猪突猛進なんだ。  殭屍になっていた町の住人たちに哀れみすら覚えるような惨状となっていた。  肝心の住人たちは皆、人間の姿へと戻っている。なかには目覚めている者もおり、徐々に騒がしくなっていった。 このままここに留まれば、要らぬ質問攻めに合うのだろう。そう考え、彼は瑛 劉偉たちに場所を移そうと提案した。彼らも同じ考えだったようで、賛同している。 「……とりあえず、林の中に行こう」  彼の提案に、ふたりは頷いた。  瞬刻、瑛 劉偉が腰にぶら下げている八卦鏡(パーコーチン)に変化が現れる。鳴ることはないはずのそれからは、鈴の音のようなものが聞こえてきた。次第に大きくなり、八卦鏡(パーコーチン)の紐はブツッと切れてしまう。 「……これはっ!?」 
last updateLast Updated : 2025-05-20
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久々にのんびりと

 るるるっと、かわいらしい鳴き声を喉から出すのは青い蛇だ。後ろには、白い毛並みに横縞模様の仔猫がいる。 仔猫はぐったりとしており、鳴き声はとても弱々しかった。 『……るるるっ!』  青い蛇は口を開き、長い舌を見せる。獣らしい瞳孔で真正面を凝視した。ギロリと、鋭い眼差しが向かうのは二匹の獣である。   一匹は亀のような甲羅を背中にしょっている、尻尾が蛇になっている生き物だ。 その隣にいるのは深紅の翼をはためかせた、美しい鳥である。 『るる!』  そんな二匹に、青い蛇が怒っているかのように舌を伸ばした。瞬間、鳥が亀の甲羅を足で掴み、どこかへと飛び差ってしまう。   取り残された仔猫と青い蛇は、無言で二匹が消えていった先を見つめた。 仔猫が傷を負いながらも必死に起き上がろうとすると、青い蛇は慌てて止めようとする。そんな彼らの目には大粒の涙が溜まっていた。次第に仔猫の方が我慢できなくなり、にゃあにゃあ鳴いてしまう。 青い蛇はおろおろと、子供をあやそうと必死だ。けれど仔猫は鳴き止むことはない。  青い蛇は自慢の身体の色が霞むほどに、顔色を悪くしていった──  † † † †  ホーホーと、どこからか梟の鳴き声がする。鳴き声に反応するかのように、華 閻李の瞼がピクリと動いた。  その動きにいち早く気づいた全 思風は、そっと子供の顔をのぞく。 
last updateLast Updated : 2025-05-21
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城章 幽霊城~殷王朝時代~  旅をする

 夜になると全 思風たちは焚き火を囲んで、これからについて話し合っていた。 彼の膝の上には華 閻李がおり、逞しい腕に包まれながら食事をしている。 そんな子供の横には、大量の食材が山のように積まれていた。焼き魚はもちろん、町で仕入れたごま団子や包子など。どう考えてもひとりでは食べきれないであろう量の食材たちだ。けれど少年はそれらをもろともせず、次々と平らげていく。「……い、閻李、それは私たち四人ぶんの、一日の食品だぞ?」 町に情報収集へ赴いていた瑛 劉偉は、ついでにと一日ぶんの食品を買いこんでいた。 最初はそれらを少しだけ置き、皆で食べていた。けれど子供のお腹の虫が収まることはなく……さしもの彼ですら、子供の純粋な眼差しには勝てなかったよう。諦めのため息とともに、全ての食品を差し出すことになったのだった。 そんな経緯のある食品は、あっという間に半分以下になってしまう。「……うん、あいかわずの食べっぷりだね?」 子供の、無限の胃袋に慣れている全 思風ですら苦笑いをするしかなかった。旅の途中でそれを知った瑛 劉偉と顔を見合せ、肩をすくませる。 黒 虎明だけは子供の胃袋事情を知らないため、絶句していた。 数分たつと、山盛りだった食品がきれいさっぱり消えていた。全てを食べ終えた子供はお腹をさすりながら、椅子代わりにしている彼を軽くつつく。「ん? どうしたの小猫?」「おやつ、ない?」「まだ食べるつもりなのかい!?」 底なし胃袋を撫でながらおやつをねだる子供は、とてもかわいらしかった。 けれど彼も、食品を買ってきた瑛 劉偉ですら首を強くふって何も残ってないと口々に伝える。 「……そっか。じゃあ、我慢する」 口を尖らせた。 聞き分けのよい子供に、誰もがホッとする。 ふと、子供が小さなあくびをした。両目をこすり、頭が振子のようにグラグラ揺れている。「小猫、眠たいのかい?」「……う、ん」 両目がとろんとし、芳しくない受け答えだ。 彼は子
last updateLast Updated : 2025-05-22
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殭屍《キョンシー》なる者たち

 行き先が決まって一時間ほどたつと、京杭大運河の頭が見えてきた。 そこで獅夕趙こと黒 虎明と別れを告げ、全 思風たちは再び荷馬車を走らせる。    ガラガラと、荷馬車は砂利道を進んだ。京杭大運河を横に見下ろしながら、川沿いをゆっくりと前進する。 ひと気はなく、あるのは山や草木といった大自然ばかりだ。ときどき鳥の鳴き声が轟くが、平和を絵に描いたような静けさがある。  「──ここ最近の忙しさに比べたら、だいぶのんびりと出来そうだね」  ねえ小猫と、子供へ声をかけた。けれど少年は白い仔猫たちに夢中になっているようで、彼の声など届いていないよう。ひたすら動物たちと戯れ、きゃっきゃっと、楽しげだ。 「ね、ねえ小猫? ほら、私の膝の上に……」 「やだ」 「そ、そんな事、言わないでほら……」  空しいまでに両腕を広げる。けれど子供の興味は、完全に彼から離れてしまっていた。 「…………」   彼は微笑みを絶やさないまま、腕を引っこめる。さらには落ちこんでしまい、部屋の隅で膝を抱えて【の】の字を書いていた。グスッと鼻をすすり、口を尖らせる様には強者の面影は微塵もない。  ──動物どもめ! 私の小猫を一人占めしおって! 憎い。あいつらが憎い!  華 閻李へ向けている愛
last updateLast Updated : 2025-05-22
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階級

 殭屍が走る。  そんな状況を見て、全 思風は眉を曲げた。腰を上げて腰にかけてある剣の柄へと触れる。 「……あいつらが走るなんて、前代未聞だな」  ほくそ笑みながら荷台から飛び降りた。馬をひくために前にいる瑛 劉偉に目配せし、互いに頷く。  瑛 劉偉は馬を落ち着かせると、急いで彼の隣に立った。袖の中から札を取りだし、走ってくる殭屍たちへと投げつける。 札は、次々と殭屍たちの額に貼りついていった。 「これで安心……っ何!?」  ホッとしたのも束の間、額に貼られた札は次々と落とされていく。それも化け物自らが手を伸ばし、剥がしていたのだ。 なぜそんなことができるのか。ふたりは驚き、眉間にシワをよせた。それでも経験豊富な彼らは怯むことなく、それぞれが行動を開始する。 「……嫌な予感しかしないけど。排除はさせてもらうよ」  全 思風の声がその場を駆け巡った。 地を蹴りながら腰にある剣を抜く。磨かれた鏡のように彼の姿を映す鋼は容赦なく、眼前の者たちを斬り刻んでいった。 手首を軽くひねり、剣で下から上へ。空を裂いていった。そのときに出た風圧が後方にいる殭屍たちにまで及び、化け物たちを吹き飛ばす。  咄嗟に黒い焔で階段を作った。宙へと放置した殭屍たち目がけ、剣を振り下ろしては、|血
last updateLast Updated : 2025-05-22
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狙われた子供

 死者の魂を蹂躙し、従える。それが冥界の王である、全 思風がなさねばならぬことであった。けれど彼はそれを選ぶどころか、放棄しているもよう。 人間たちの暮らす世界とは真逆で、光すら当たらぬ暗き國。じめじめとした空気を常に纏い、そこに住まう何かしらが、彼へ媚を売る。 冥界とは、そんな場所だった。  ──あそこにいる者たちは私自身などではなく、王としての地位しか見ていない。欲しいのならくれてやる。そう謂っても、誰も私を倒そうとしない。挑戦すらしてこないんだ。  そんな場所に未練などありはしない。あるのは、つまらない日々だけだった。けれど…… 「──私のそんな日々を変えてくれのは、あの子だ。だから私は、あの子を護るためなら……」  悪魔にでもなろう。  低く、凪がざわつくような響きで、目の前にいる者たちへと忠告する。剣の切っ先を彼らへと向け、美しくも残酷な笑みを浮かべた。 軽く地を蹴り、一番近いところにいる第三級らしき殭屍の首を跳ねる。 「私の小猫を狙うというのならば、容赦はしない」   後悔しろと、片足で地を踏んだ。  □ □ □ ■ ■ ■ 「──思さんたち、大丈夫かな?」  荷車の中で待つのは儚い見目の少年、華 閻李である。 子供は頭に蝙蝠、襟の中に青い蛇こと青龍を。仔猫のような姿をした白虎を抱きしめ、荷車の隅に身をよせて
last updateLast Updated : 2025-05-22
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清龍覚醒

 それは、青龍としての神聖なる姿だった──  るるると、謳うかのような声で、青い蛇が舌を出す。蒼く輝く光を纏いながら、少しずつ、目に見えるかたちで身体を大きくさせていった。 やがて手のひらには収まりきらぬほどに大きくなる。鋭い眼光で、殭屍をねめつける。 『──るるるぅー!』  長い胴体を宙に浮かせながら、口元にある二本の髭をゆらゆらと。額の左右にある白く輝く角が、ときおり蒼く発光していた。 青く、美しい鱗を見せびらかすように、堂々たる姿勢で殭屍へと近づく。  子供を捕らえている化け物の顔に息を吹きかけ、これまでかというほどに瞳孔を見開いた。  瞬間、殭屍は土の中でもがき始める。手を離し、耳をつんざくほどの雄叫びをあげながら『い、だぁ、いぃーー!』と、悲痛を訴えていた。 目、鼻、口、そして耳。穴という穴から煙のようなものを出し、両目から血の涙を流す。 「るるるーー!」  それでも青龍は容赦なく、土の中にまで息を吐きちらした。  すると土が大きく盛り上がり、殭屍が外へと這い上がっていく。けれど皮膚は爛れ、溶けてしまっていた。身体の一部の骨が見えてしまってもいる。 殭屍はふらりと身体を前のめりさせ、見えているのかさえわからかい目を向けた。  青龍は子供を化け物の視界から隠すように、子供の前で浮く。鈴虫のようにゆったりとした鳴き声を放ち、|殭屍《キョンシ
last updateLast Updated : 2025-05-22
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 パチパチと、焚き火の焔が周囲を照らす。 全 思風は焔の形を瞳に映し、膝の上で横になる少年を見つめた。 殭屍の攻撃を受けた子供は足に怪我をしてしまう。感染は免れたものの、傷口は化膿が始まっていた。それを防ぐために彼は焔で子供の傷口を焼き、何とか阻止する。 青龍の冷たい息と交互に行うことで火傷は食い止められた。 それでも子供にとっては、地獄のような激痛であっただろう。口に無理やり咥えさせられた布が、悲鳴を封じた。痛みに耐えながら涙を流し、声が嗄れるまで泣き続ける。 ──どんなにつらかっただろうか。苦しかっただろうか。ごめんね小猫、私が君を護るって決めたのに。それなのに…… 彼の脳裏には、そのときの子供が見せた涙が焼きついて離れなかった。 瞳を細め、唇を強く噛みしめる。「君の側を離れなければよかったな」  後悔だけが押しよせた。 宵闇に溶けこんだ子供の銀の髪は、いっそう美しく輝いて見える。長いまつ毛を伏せて眠る子供の額に手をやれば、怪我による熱が出てしまっていた。 「……私が代わってあげられたら、どれだけいいか」 そんなことは到底不可能だなと、笑みごと望みを消す。膝の上に頭を乗せて眠る美しい子供の頬を撫で、ふっと哀しみの表情を浮かべた。「──そのような事、冥界の王である貴殿でも無理ではないか?」 焚き火の向こう側から声がする。 彼は声に応えるように顔を上げた。 視線の先には片腕の袖部分がない、青い漢服を着た男がいる。男は普段は爛 春犂と名乗っていた。けれど責務など、地位が必要や場面では瑛 劉偉という名前で通っている。 彼はそんなややこしい男を凝望し、チッと舌打ちをした。爛 春犂という男を邪魔者扱いし、子供のように威嚇をする。「……いや、貴殿は子供か?」 はあーと、男の肩から大きなため息が洩れた
last updateLast Updated : 2025-05-23
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