|全 思風《チュアン スーファン》は微笑みながら首を左右にふった。 隣には|牡丹《ボタン》をはじめとした、|神獣《しんじゅう》たちがいる。|牡丹《ボタン》と|椿《つばき》は動物のように鳴きながら、|麒麟《きりん》に|慰《なぐさ》められていた。けれど、決して子供の元へ駆けよることはしない。 そんな|神獣《しんじゅう》たちを横目に、彼は苦く笑んだ。愛する子である|華 閻李《ホゥア イェンリー》を見、穏やかに微笑む。「|小猫《シャオマオ》、君の部屋に行って一緒に眠ったとき、私は|焦《あせ》ったんだよ。だって、好きな子と一緒の|床《ベッド》で寝る事になるんだから」「……|思《スー》」 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》に横抱きにされたまま、子供は声を絞りだす。「君の服を買って、一緒に野宿もして。ご飯をいっぱい食べた事には驚いたけど、それでも全て可愛いなって思ったんだ」「す……」 体力の消耗が激しいようで、少年は彼の名を呼ぶことができなかった。それでも両目だけは開けておかなきゃと、苦しさを堪えて彼を見つめる。 彼は子供の素直さに、ふふっと笑んだ。天を見上げれば、|硝子《がらす》のようにひび割れが起きている。ときおり、パラパラと粉末のようなものが落ちてくるが、視線を子供へと戻した。「……扉の中は間もなく、元へと戻るだろう。だけどそうなったら君たち人間は、ここにはいられないんだ。私や|麒麟《きりん》たちのように、人ではない者だけが住める。それが扉の中……|桃源郷《とうげんきょう》の正体だ」 一連の事件は全て、|桃源郷《とうげんきょう》を求める者が起こしていた。けれどその者ですら、この扉の中全てが|桃源郷《とうげんきょう》にあたるとは知らなかったよう。 闇に|蝕《むしば》まれていた|四不象《スープーシャン》は両目を大きく見開き、小首を傾げていた。「──|黄 沐阳《コウ ムーヤン》、私はあんたを認めるよ。あんたが頑張って変わろうとしている姿を、しっかりと見てきたからね」 ふと、彼は|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を凝視しする。 黄色の|漢服《かんふく》を着た青年は、突然|誉《ほ》められたことに慌てふためいた。けれどすぐに姿勢をただし、両手を|漢服《かんふく》の|袖《そで》の中で組んで頭を下げる。「ありがとうございます。|冥界《めいかい》の王よ。あなたの|助力
Last Updated : 2025-06-16 Read more