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153 Chapters

それぞれの道へ…… また逢える日まで

 |全 思風《チュアン スーファン》は微笑みながら首を左右にふった。 隣には|牡丹《ボタン》をはじめとした、|神獣《しんじゅう》たちがいる。|牡丹《ボタン》と|椿《つばき》は動物のように鳴きながら、|麒麟《きりん》に|慰《なぐさ》められていた。けれど、決して子供の元へ駆けよることはしない。 そんな|神獣《しんじゅう》たちを横目に、彼は苦く笑んだ。愛する子である|華 閻李《ホゥア イェンリー》を見、穏やかに微笑む。「|小猫《シャオマオ》、君の部屋に行って一緒に眠ったとき、私は|焦《あせ》ったんだよ。だって、好きな子と一緒の|床《ベッド》で寝る事になるんだから」「……|思《スー》」 |黒 虎明《ヘイ ハゥミン》に横抱きにされたまま、子供は声を絞りだす。「君の服を買って、一緒に野宿もして。ご飯をいっぱい食べた事には驚いたけど、それでも全て可愛いなって思ったんだ」「す……」 体力の消耗が激しいようで、少年は彼の名を呼ぶことができなかった。それでも両目だけは開けておかなきゃと、苦しさを堪えて彼を見つめる。 彼は子供の素直さに、ふふっと笑んだ。天を見上げれば、|硝子《がらす》のようにひび割れが起きている。ときおり、パラパラと粉末のようなものが落ちてくるが、視線を子供へと戻した。「……扉の中は間もなく、元へと戻るだろう。だけどそうなったら君たち人間は、ここにはいられないんだ。私や|麒麟《きりん》たちのように、人ではない者だけが住める。それが扉の中……|桃源郷《とうげんきょう》の正体だ」 一連の事件は全て、|桃源郷《とうげんきょう》を求める者が起こしていた。けれどその者ですら、この扉の中全てが|桃源郷《とうげんきょう》にあたるとは知らなかったよう。 闇に|蝕《むしば》まれていた|四不象《スープーシャン》は両目を大きく見開き、小首を傾げていた。「──|黄 沐阳《コウ ムーヤン》、私はあんたを認めるよ。あんたが頑張って変わろうとしている姿を、しっかりと見てきたからね」 ふと、彼は|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を凝視しする。 黄色の|漢服《かんふく》を着た青年は、突然|誉《ほ》められたことに慌てふためいた。けれどすぐに姿勢をただし、両手を|漢服《かんふく》の|袖《そで》の中で組んで頭を下げる。「ありがとうございます。|冥界《めいかい》の王よ。あなたの|助力
last updateLast Updated : 2025-06-16
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緑溢れる地

 扉の事件から約三年後、|禿《とく》王朝は変わっていった。 現王である|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》は、事件の真実……|玉 紅明《ユゥ ホンミン》のことを民に黙っていた。そのことに民は怒り、|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》は|失脚《しっきゃく》。現在は皇帝不在という、|國《くに》にあってはならぬ状態となっていた。 それでも民は頼りない王など要らぬと、さして驚きはしない。 そして変化があったのは人だけでなかった。仙人という、人知を越えた能力を持つ者たちも同様である。 白、黄、黒。この三仙は|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》と|黄 沐阳《コウ ムーヤン》を筆頭とし、ひとつの族へと|統合《とうごう》した。 荒事や戦場は、武人でもある|黒 虎明《ヘイ ハゥミン》が担当。 事務や経理などの、頭を使う仕事は|黄 沐阳《コウ ムーヤン》が担っていた。 ふたりはときおり意見の食い違いで衝突することもあるが、口喧嘩だけで終わる。あの戦いをくぐり抜けた者同士、何かを感じるようだ。ふたりは何だかんだいっても、お互いの足りない部分を補って族を引っぱっていく。 すべての元凶を知り、数々の嘘を重ねてきた|爛 春犂《ばく しゅんれい》。彼もまた、先へと進むためにある決断をした。 それは……「……もう、寝たい」 豪華な机に両肘をつけ、深々とため息をつく。天井を見上げれば、非常に高い位置にあった。|國《こく》外から仕入れたという|枝形吊灯《シャンデリア》というものが、明るい光を出している。「押しても押しても現れる仕事……私を殺す気か?」  机の上に山のように積まれた竹筒は、|捌《さば》いても増えていった。 この状況に嫌気がさしてきたのか、|爛 春犂《ばく しゅんれい》は無表情になる。 |爛 春犂《ばく しゅんれい》は、すべての始まりである|殷《いん》王朝時代からの生き証人であった。それを知る者はごく|僅《わず》かである。けれど長きに渡り人々を|騙《だま》し、|國《くに》を|窮地《きゅうち》に追いこんだ人物でもあった。 だからこそ彼の正体を知る|黄 沐阳《コウ ムーヤン》たちは、この任務を与えたのだ。それは皇帝の代わりとして、|印鑑《いんかん》押しという業務をこなす。だった。 彼もそれを|承諾《しょうだく》し、今にいたる。とはいえ、彼は皇帝ではなかった。本当の意味での皇帝業務
last updateLast Updated : 2025-06-17
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最終回 鳥籠の帝王

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は両拳を強く握る。高鳴る鼓動、震える唇、そして熱くて透明な涙。それらが視界を|滲《にじ》ませていった。「──|小猫《シャオマオ》、ただいま。遅くなってしまってごめんね?」 三つ編みの男、|全 思風《チュアン スーファン》は、ゆっくりと|愛《いと》し子の元へと歩いていく。美しい景色になっていた地を見て驚きながらも、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の前で足を止めた。「扉の中からこっちへくる方法がなかなか見つからなくて……|麒麟《きりん》たちの力を借りて、ようやくこっちに戻ってこれた……って、|小猫《シャオマオ》!?」 嬉しそうに語っていたが、目の前にいる|愛《いと》し子の涙に戸惑う。オロオロと、泣かしてしまったことへの罪悪感が、彼本来の冷静さを吹き飛ばした。 動揺しながら愛し子へ、どうしたのかと尋ねる。「し、|小猫《シャオマオ》!? 本当にど……」「|思《スー》ー!」 彼の言葉を|遮《さえぎ》るように、愛し子に抱きつかれた。ぎゅうっと、彼の逞しい腰に手を伸ばし、ひたすら泣く。「ど、して……僕、ずっと、待って……何で……」  伝えたい、|云《い》いたいことを、上手く言葉にできないのだろう。涙でぐちゃぐちゃになった顔を彼の胸に埋め、中性的な声を響かせた。「|小猫《シャオマオ》……」 ──ああ、泣かせてしまった。この子を泣かせちゃいけないって、ずっと思ってたのになあ。 はははとから笑いする。けれどすぐに神妙な面持ちになり、愛し子を優しく抱きしめた。「待たせてしまってごめんね」「|思《スー》なんか嫌い! 大っ嫌い!」 そう|云《い》いながらも、彼から離れようとしない。むしろ引っつき、ぐりぐりと顔を埋めていく。  ──|小猫《シャオマオ》、嬉しいんだけど……三年の間に距離感、おかしくなってないかい? そう思ったが、口にしてしまえば怒られるだろうと、喉の奥にしまう。 ふと、愛し子を見た。が、彼は固まってしまう。 愛し子が、かわいらしい|見目《みめ》で上目遣いをしているからだ。大きな瞳に|艶《つや》のある唇、火照った頬など。そして漂うほどのいい匂い。みずみずしいほどの|鎖骨《さこつ》や、|科《しな》を作る腰など。あらゆる箇所から神秘的で|儚《はかな》く、美しい色香を|伴《ともな》っていた。 そんな愛し子に
last updateLast Updated : 2025-06-17
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